FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第115話 第六天魔王4

 光秀は、光己たちのぐだぐだ話を「真の信長」としての自分の新たな門出にケチをつけられたように感じて、たいそう怒っていた。

 ところで、彼の今の肉体である泥の巨人は下半身がないので、歩いたり走ったりといったことはできない。床に手をついて体を持ち上げるとか、海中を泳ぐとかは可能だが、それで彼らの船に乗り込むのは光秀の美的感覚にそぐわなかった。

 しかし巨人には徒手格闘以外にも攻撃方法がある。顔の真ん中の赤い光点に魔力を集めて、必殺の熱線を撃ち放った。

 

「ビーム攻撃!?」

 

 眩い光条がルーラーアルトリアの船の甲板の上を奔り、その全面を薙ぎ払う。難を免れたのは、マシュがすでに展開してあった「誉れ堅き雪花の壁(シールドエフェクト)」の中にいたサーヴァントたちと、船の外にいる光己だけだった。

 

「何て威力……!」

 

 仮にも騎士王の宝具である船の甲板が焦がされるとは。

 焦げている部分は当然熱々ですぐには冷めないだろうから、しばらくはそこに移動することはできない。

 焦げるといえば、信長の船の甲板も光己がさっき吐いた炎で半壊しており、泥の巨人が簡単に突き破って来られたのはそのおかげでもある。またすでに泥が充満しているので、ルーラーの先ほどの言葉が正しいなら、カルデア勢が乗り込んで接近戦を挑むのはNGである。

 

「つまり飛び道具オンリーということか……」

「できれば速攻でお願いします!」

 

 マシュの口調がだいぶ切羽詰まった感じなのを見るに、光秀の攻撃は相当キツいもののようだ。宝具を使うという手はあるが、光秀の今のビームは宝具(もしくは必殺技)ではなく通常攻撃だろうからそれは好ましくない。

 一応マシュ以外のサーヴァントは全員ここから巨人を攻撃できるが、沖田オルタの飛び道具は宝具だけで、またルーラーは探知と操船に専念しており、メイドオルタは船室でランサーオルタとラムレイの監視をしているので、この3騎は今のところは除外である。

 つまりヒルド・清姫・玉藻の前・カーマ・沖田・オリオン(アルテミス)・アタランテの7騎が参戦することになる。

 

「それじゃ責任取って、1番手いきますよ!」

 

 カーマがそう言って、さとうきびの弓に花の矢をつがえる。

 光秀が怒って戦闘になったのは彼女のせいなので当然の話なのだが、カーマがあえて光秀を挑発したのは単に彼の名乗りが不愉快だったからというだけではない。

 

(抑止の守護者ともあろう者が、マスターに必殺技のヒントを見せるだけのために現界するわけありませんからね……)

 

 おそらく光秀を放置すると「この世界の」人理にとって何か致命的な出来事が起こるのだ。本人は分かってなさそうだが、彼女の真の使命は彼を倒すことなのだろう。むろんカルデアも協力するべきである。

 普通にそれを言ってこちらからケンカを売る形にしても良かったのだが、そこはそれ。無断で人の名前を自称したグロい化物をちょっとからかうくらいは許されていいと思う。

 向こうから殴ってきたという形の方が光己は気が楽だろうし。

 

「子供がちょっと騒いだくらいで怒るなんて大人げありませんねえ。でも仕方ないからお詫び代わりに受け取って下さい。『愛もてかれるは恋無きなり(カーマ・サンモーハナ)』!!」

 

 カーマが10体ほどに分身し、一斉に情欲の矢を放つ。

 光秀は巨人の力に絶対的な信頼をおいていたが、今回は相手がマーラを名乗ったのでさすがに胸のガラスケースだけは腕でかばった。その直後、10本の矢が身体各所に突き刺さる。

 

「ふん、本物の第六天魔王を名乗っておいてその程度か!? やはり私こそが本物の神!」

「ええっ!?」

 

 どういうわけか、光秀は情欲をまったく起こさなかったようだ。矢が刺さったことによる身体面の損傷はあるものの、周りの泥が流れ込んですぐに埋まってしまう。

 

「ならこれはどうかしら!? 『月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)』!!」

「私も続きます! 『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!!」

 

 精神干渉は効き目がないと見たアルテミス、そしてアタランテがたたみかけるように宝具を開帳する。狩猟の女神の強烈無比な一矢が光秀の首元を撃ち抜いて風穴を穿ち、ついで上空から降り注いだ無数の矢が全身に突き刺さった。

 通常の生物なら確実に絶命する重傷である。しかし巨人は痛覚がないかのごとく平然と立っていた。

 

「口先だけは立派だが、やはりその程度か愚か者ども。次は貴様たちが神の力を見るがいい!!」

 

 まさに荒ぶる神のごとく尊大な口調でそう言い放つと、また顔の光点、あるいは単眼から赤い熱線を照射した。

 

「くううううっ!」

 

 マシュは巨人の第2撃を何とか耐えたが、エフェクトからは白い煙が上がっている。やはり長期戦は無理そうだった。

 

「すごい回復力だけど、無限じゃないはず。とにかく攻め続けよう!」

「それしかなさそうですね。幸い魔力は十分もらえてますし、いきますよ! 光子ミサイル、斉射三連×10!」

「えーいっ!」

 

 ヒルドたちがビームやミサイル、火炎や呪符などを飛ばして巨人の身体を貫き、爆破し、燃やし、祓っていく。その一撃一撃は確かにダメージを与えていたが、やはりすぐ埋まって元に戻ってしまう。

 

「これは単純に攻撃力が足りないみたいですね。巨人の回復力以上の損傷を喰らわせ続けないと永遠に倒せなさそうです」

 

 玉藻の前がそんな分析をしたが、この場でそれができる者は1人しかいない。

 

「えーと、やっぱ俺?」

 

 ルーラーの船の後ろに隠れている光己である。

 

「はい。もちろん逃げるという選択肢もありますが……」

「うーん」

 

 今はヒルドの認識阻害の魔術により、光秀は光己のことを人間の少年だと思っているはずだ。しかし光己がその認識と矛盾する行動、つまりドラゴンブレスで攻撃すれば魔術は破れて正体が露見する。当然光秀は光己を最大の敵と見て反撃してくるだろう。

 そのリスクを取るかどうかという話だが……。

 

「カーマがわざわざあんなこと言ったのは、多分あいつを倒す必要があるからなんだろうな。

 仕方ないからやってみるか。ダメだったらその時逃げてもいいしな」

 

 カーマは昨日「私たちは一から七くらいまで分かり合ってる」と言っていたが、光己の方も彼女をちゃんと理解しているようだ。

 もちろん自分が太陽属性のドラゴンだから、熱や光には非常に高い耐性があることを勘案しての判断だが、ある意味当然というべきかそれを制止する者がいた。

 

「いや、光秀が熱線以外の攻撃手段を持っている可能性はあるのだから、マスターが矢面に立つのは危ないと思う」

「沖田ちゃん!? いやそれはそうなんだけど」

 

 もちろん光己とて好きで矢面に出るわけではないのだが、ならどうすれば良いのだろう?

 

「あいつの胸のガラスケース、信長の言葉が正しければ聖杯だな。あれを何とかしてくれ。

 後は私がなんとかする」

「…………」

 

 沖田オルタには何らかの成算があるようだ。光己がチラッとカーマに目を向けると幼女神はこっくり頷いたので、時間はかけたくないことだし採用することにした。

 

「あと問題はどうやって聖杯を奪うかだよな」

「それは私にお任せを! 私オルタにばかりいいカッコさせられませんからね」

 

 すると沖田ノーマルが手を挙げた。

 彼女の宝具「ジェット三段突き」は、ジェットパックで高速飛行し、体当たりしながら三段突きをぶちかますというもので、うまくいけば光秀の体から聖杯を弾き飛ばすことはできるかもしれないが……。

 

「でも光秀公、用心深く両腕で胸をかばってるからなあ。突き破るのは難しいんじゃないか?」

 

 光秀は光己たちを見下した発言が多いが、信長を追いつめた実力は認めているようだ。三段突きがいくら強力でも、巨人の腕2本と胸部を1度に貫くのは無理のような気がする。

 

「それは大丈夫です。大回りして後ろから突進しますから」

「ああ、そういえばギルガメッシュの時もそうしてたっけ」

 

 それならばいけそうな気がする―――いや待て。

 

「それでも化物の体の中を通るのは同じ……っていうか、即死させられなかったら捕まるよな」

 

 巨人が聖杯を弾き出された瞬間に即死してくれれば、沖田は多少泥を浴びる程度で済むが、そうでなかったら彼の両腕と体内に捕獲されることになる。ルーラーが言った汚染というのは多分冬木で見たシャドウサーヴァントのようになってしまうということだろうから、最悪光秀の手下にされるかもしれない。

 

「絶対に没!」

「こふっ! み、水着沖田さんの見せ場が」

 

 沖田はショックを受けたらしく「九」の字になって哀しげにうずくまったが、光己の決心は揺るがなかった。仲良しの美少女をあんな気味の悪いものにするわけにはいかないのだ。

 

「というわけでマシュ、あと30秒頑張って」

「さ、30秒ですか。わ、分かりました!」

 

 マシュは全身に脂汗を流していたが、それでも健気に引き受けた。

 この会話の最中も光秀の攻撃は続いていて、熱波を防ぎ切れず、シールドエフェクトの内側は今や蒸し風呂のように暑くなっている。戦闘中の30秒はいささか長いが、それでも期限を切ってくれたことで気力を奮い立たせたのだった。

 

「うん、早めにお願いねマスター……」

 

 北欧出身のヒルドは暑いのは苦手のようだ……。

 光己は念のため彼女にもう1度認識阻害の魔術をかけてもらってから、攻撃の準備を始めた。

 

「…………人、竜、神、魔。四光束ねて星の終わりを現出する」

 

 一撃で巨人の両腕と胴体を撃ち抜いて、聖杯を弾き出すにはあの新必殺技を使うしかない。まだ実用段階に達したとは思っていないが、今はそんなこと言っていられないのだ。

 竜の口の中に、サーヴァントですら直視できないほど眩く輝く白い光球が出現する。

 マシュたちにお披露目したときは直線状のビームだったが、今回は確実に当てるため円錐形に少しずつ広がるような感じで放つことにした。

 

「くらえぇぇぇ! 『蒼穹よりの絶光(ガンマ・レイ)』!!」

 

 直後、純白の閃光が巨人の両腕と胸板を貫通した。その後には何も残らず、大きな風穴がぽっかりと開いている。

 聖杯さえも消え失せていた。

 

「沖田ちゃん!」

「うん、ありがとうマスター。あとは任せてくれ」

 

 大ダメージを受けた巨人はいったんビームを撃つのをやめたが、シールドエフェクトの外はまだ空気がよどんで見えるほどの灼熱地獄だ。しかし沖田オルタはまったく躊躇せず、エフェクトの中から飛び出して船縁まで駆けていった。

 

「ああ、思い出した……そうだ、私はこの時のためにここに来たんだ。

 ただ一度きりの顕現……あの巨人を倒すために」

 

 沖田オルタはその愛刀「煉獄」を抜くと、さっと目の前の虚空に斬りつけた。

 すると空間が裂けたかのように、その内側から「何か」が広がっていく。

 気がついた時には雪のような白い地面と、果ての見えない無色透明の空だけがあった。いるのは光己と沖田オルタ、それに明智光秀の3人だけだ。

 

「な……何だここは!? いったい何が!?」

 

 光己より先に光秀が戸惑った様子で問いかけてくる。それとも単なる独り言だろうか?

 沖田オルタは普段より大人びた、落ち着いた口調でゆっくりと答えを返した。

 

「我は―――抑止の守護者。

 ここは無穹の空。ここより先も、ここより後もない。おまえも同じだ。後も先もない無穹の(はざま)に落ちるがいい」

「抑止力だと……!? ふざけるな!

 信長公だけでなく、世界までも私を否定するのか!?

 何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ! 何故誰も私をおおお!!」

 

 光秀が顔の単眼から黒い泥を涙のように噴き出しながら絶叫する。

 光己がビームをぶつけたので、認識阻害の魔術が破れてドラゴンの姿が見えていたが、それに気を向ける余裕もないようだ。

 オルタが嘘やハッタリを言っているとは思っていなさそうである。

 

「私はおまえと織田信長の間に何があったのかは知らないし、おまえが信長になって何をしたいのかも知らない。

 ただ私には、おまえが『衆生済度の神』だとは思えない。マスターたちが私にくれた、やさしさやあたたかさを感じないから」

 

 そう言いながら、1歩ずつ光秀に近づいていくオルタ。

 

「すまない、マスター。私だけで倒すつもりだったが巻き込んでしまった」

「んー、気にしないで。それより早くあいつを倒そう。また回復されたら面倒だ」

「うん、ありがとう。マスターと出会えて本当に良かった」

 

 オルタがそう言って刀を構える。

 

「いくぞ明智光秀、いや仮初めの偽神よ!

 無量、無碍、無辺。三光束ねて無穹と成す。『絶剱・無穹三段(ぜっけん・むきゅうさんだん)』!!」

 

 それはオルタの霊基、いや存在のすべてを今この一瞬に束ねて放つ、ただ一度きりの必殺の魔剣。この世界に存在してはいけないものをあるべき所に押し返し、消滅させる黒い奔流。

 その「無」の光に飲み込まれた泥の巨人は、文字通り跡形残さず無に還った。

 

 

 




 沖田オルタの宝具が一度きりと書いてますが、これは無穹の空に行くバージョンのことと思っていただければ。


主人公が邪ンヌに作ってもらっている短刀に付与する機能はどれが良いですか?(鞘とは別枠)

  • ガンド
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  • 魔術解除
  • お姉ちゃん
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