FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第117話 群島にて1

 光己たちは島に帰ると、留守番だった段蔵たちにランサーオルタを紹介して戦いの経過を報告した。信長は人理修復賛成派だったそうだから味方にできなかったのは残念だが、ランサーオルタが仲間になってくれただけでも喜ぶべきだろう。

 その次はランサーオルタの着替えである。

 

「普通の服か水着かどっちにする?」

「むろん、水着だ」

 

 水着は特に女性のサーヴァントにとって一種のステータスになっている上に、今はほとんどのサーヴァントが水着を着ている。まして場所が砂浜がある島となれば、水着にしない理由がなかった。

 

「りょうかーい。それじゃこっち来て」

 

 そんなわけで家の中で着替えさせてもらったランサーオルタの水着は、シンプルな黒一色のモノキニ、つまり前から見るとワンピースだが、後ろから見るとビキニというものだったが、何故か妙に露出が多い。ハイレグのVカットは角度がルーラーアルトリアのと同じくらい鋭いし、胸の下部5分の2くらいからへその下まで楕円形に大きくカットされていてお腹が全部出ている。腋や横乳も大胆に露出しており、バストとヒップは隠れている面積の方が少ない。

 しかし着ている者が非常に凛として貫禄がある人物なので、さほどエロスは感じさせず、カッコいい感じには仕上がっている。

 なお槍はルーラーや玉藻の前と同じく日傘になっており、普通に突く以外にも広げて盾にすることが可能だった。

 

「ふむ、これが水着……何だか開放的な気分になるな」

 

 ランサーオルタは露出自体にはそこまで忌避感はなかったらしく、水着になったことを素直に喜んでいた。まあ布面積自体もヒロインXXや沖田よりは広いのだが。

 

「うんうん、そうだよね! めったに着られないものだから堪能していってね」

「うまくいって良かったです」

 

 着替え担当者のヒルドとオルトリンデも一安心である。

 次はマスター及び他のサーヴァントたちへのお披露目だ。

 

「おお、すげえおっぱい!」

 

 ランサーオルタの容姿と水着の褒めどころはいくつもあるが、1番目を引くのはやはりどぱーんと突き出たバストだろう。ルーラーと同率首位のサイズを誇るが、それでいて垂れたり崩れたりしておらず、綺麗なロケット型で激しく自己主張している。

 

「いきなり何言ってるんですか先輩!」

 

 その美巨乳を光己は言葉を飾らず率直に褒めたつもりだったが、なぜかマシュがぷんすか怒って放り投げられてしまった。最後のマスターの重要性を理解していない乱暴な扱いだと思う。

 

「と、とにかくお似合いだと思いますよ」

「そうか、とりあえず礼を言っておこう」

 

 その時ようやくランサーオルタはマシュの正体、つまりギャラハッドが憑依したデミ・サーヴァントであることに気づいたが、あえて口には出さなかった。彼は能力を与えただけで人格は残さなかったように見えたからである。

 それならギャラハッドではなくマシュとして扱うべきだろうから。

 

「それで、今後はどう動くんだ?」

「はい、今日は先輩はお疲れでしょうから、ご飯食べてお風呂入って寝るだけになると思います。

 明日からも、ジャンヌオルタさんが先輩の短刀を完成させるまでは待機になる予定です」

「先輩の短刀?」

 

 意味不明なフレーズだったが、詳しく聞いてみるとジャンヌオルタがマスターの生国の伝統的な武器を作る技能を持っていたので、彼が自分にも作ってもらうことにしたらしい。

 護身具を作るためだけに時間をつぶすのは、ランサーオルタの気性的にはあまり面白いことではなかったが、その護身具が聖杯から出したレア素材を用いたもので、戦乙女がルーンを刻み、女神と聖女が祝福を授けるという宝具級の逸品であるなら話は別だ。

 光己は無敵アーマーを持ち巨竜に変身することもできる強者だとは聞いたが、それでも戦いに絶対はない。万が一の可能性を減らせる手があるなら打っておくのは当然だと思う。

 

「しかし単なる待機では退屈だな」

「明日からはまた家を建てますし、それがお嫌でしたら島を散策するなり海で泳ぐなりしても構いませんから」

「そうか、大工の真似事もたまには悪くなさそうだ」

 

 ランサーオルタは生前王様だったからといって庶民の仕事を見下すような素振りはなく、むしろ楽しみそうに小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 翌日からはマシュがランサーオルタに言ったように2軒目の家を建てたり、光己はその監督だけでなくジャンヌオルタとオルトリンデの鍛冶場に顔を出したり、カーマや段蔵たちといっしょに島を探索して採取した食料でおやつを作って皆にふるまったり、ヒルドやマシュたちとトレーニングをしたりと忙しい日々を送っていた。

 

「さーて、それじゃ今日も元気に訓練しよう!」

「おー!」

 

 水着姿の美女美少女がスキンシップ付きで、もとい戦乙女や師範役ニンジャという超優秀トレーナーがマンツーマンで稽古をつけてくれるという理想的な環境とあって、元素人のマスターはいつもやる気十分だった。

 基本的なメニューはまず呼吸法による瞑想、次に魔力感知や魔力吸収や火炎操作といったあまり体を動かさないワークをする。それから準備運動をして、型稽古や組手など身体的な訓練をしたら整理運動をしておしまいという流れだ。

 この特異点に来て6日目となるこの日の訓練は魔力吸収までは普通に終わり、火炎操作はマシュの訓練を兼ねて彼女の方に放つことになった。

 

「まさかサーヴァントの訓練の相方するレベルになるとはなあ」

 

 フランスで初めて火を吐いた時からまだ5ヶ月弱しか経っていないのに、よくここまで成長したものである。光己は感慨にひたりつつ、盾を構えた少女に声をかけた。

 

「それじゃマシュ、いい?」

「はい、いつでも大丈夫です!」

 

 こちらは普通の意味でやる気十分な様子だった。

 なおマシュは今までの経験や訓練が実を結んだのか、それとも竜の血で成長したのか、「時に煙る白亜の壁」という新しいスキルを習得している。「誉れ堅き雪花の壁」より守備範囲が狭い分、より堅牢な城壁を展開するというものだ。

 

「じゃあいくぞ。まずは小手調べ、火炎球5連打ァ!」

 

 光己が突き出して広げた右手の指の先にピンポン玉サイズの白い火の玉が5個出現し、それらが猟犬のごとく一斉にマシュに襲いかかる。

 小手調べで5個もいっぺんに作ったものでありながら、その火球は一目でサーヴァントでも火傷する熱量があると分かるほどだった。何しろ今の彼の魔力は人間モードでもアルトリアや玉藻の前(術)と同レベル、サーヴァント基準でAランクなのだ。

 

「はあっ!」

 

 しかしマシュはシールドエフェクトをあえて展開せず、盾自体を振り回して火球を叩き潰した。バシュッ、という水風船が割れるような音とともに多少の余熱が散ったが、それくらいなら盾兵の対魔力で耐えられる。

 

「おお、アグレッシブだなマシュ」

「はい! 私の役目は先輩たちを守ることですが、ただ突っ立っているだけではダメですから。

 スパルタクスさんに投げ飛ばされた時のことは忘れていません」

 

 ……無論それにも限界はあるわけだが。

 光己が次に放った高さ3メートルほどもある炎の波涛は切った張ったでどうにかなる代物ではなく、スキルを使って防御した。

 

時に煙る白亜の壁(ウォールエフェクト)、発揮します!」

 

 美しささえ感じさせる白亜の城壁の幻像が少女を囲み、津波のように覆いかぶさった白い炎を完全に遮断する。相当な防御力があるようだ。

 

「おお、すごいな! 一応加減はしたけど、本気でやってもその壁突破できそうな気がしない」

「ありがとうございます。先輩の炎も強烈でした!」

 

 光己とマシュは、元は常人だったが外部からの影響で超人的な能力を得て、しかもそれを皆のために高めようとしているという共通点がある。それでお互いの進歩を称え合ったのだった。

 

「確かに派手な炎ですね……あれで加減したなんて大したものです」

「うん、さすがはマスターだ」

 

 見学の沖田2人も感心していた。なお2人は時々光己の組手の相手を務めていたりする。

 

「じゃあ続きいくぞ。見栄え重視の、『燃え盛る不死の王鳥(なんちゃらフェニックス)』!!」

 

 こちらも十分美しいと表現できそうな白く輝く鳥が出現して、大きくはばたきながらマシュに向かって体当たりする勢いで飛んで行く。ただし鳥の形を維持するのに制御力の大半を使っているので、熱量はさっきの波涛よりはるかに少なかったが……。

 

「ま、コントロールの練習としてはいいんじゃないかな?」

 

 戦乙女としては見栄えより実用重視が望ましいが、東洋の古典には「これを楽しむ者にしかず」という言葉もあるのでこの度は黙認していた。

 もっとも彼がせっかく作った炎の鳥は、その大仰な名前に反して「城壁」によるシールドチャージの一撃で潰されてしまったけれど。

 

「むう、やっぱりか!」

 

 本人もこの結果を予想してはいたようだ……。

 その後は普通に訓練していると、オルトリンデとジャンヌオルタがやってきた。

 

「マスター、お疲れさまです」

「よくやるわねえ」

「うん、2人もお疲れさま。休憩?」

 

 光己が2人をねぎらいつつそう訊ねると、ジャンヌオルタがついと1歩前に出た。

 

「それもあるけど、ルーンのおかげで思ったよりだいぶ早く進んでるから、そろそろ刀にどんな機能を付けるのか決めてもらおうと思って」

「おお、やはりさすルーンはいい文明だな!

 機能ってたとえばどんな?」

「オルトリンデは、エクスカリバーに倣って鞘に防御的な機能、刀に攻撃的な機能を付けるってのを考えてるみたいね」

 

 ジャンヌオルタは光己の問いにそう答えて、細かい話は担当者に振った。

 

「はい。まず鞘には持ち主への『癒し』と『蘇生』のルーンを刻もうと思っています。『癒し』には毒や呪いの治療も含みますので、搦め手を使う敵が現れても安心です。

 それと鞘に付ける下緒(さげお)に『原初の産毛』を使っていますから、魔除けの効果もあります」

 

 当初は「矢避けの加護」のような回避系のルーンを刻むことも考えたが、光己がそれに依存して修練をサボるようなことがあってはいけないので却下していた。

 機能の数を増やすとその分個々の効果が落ちてしまうし。

 なお後でカーマたちに祝福を授けてもらうことになっているが、上記の理由で新規の効能を付与するのではなく、既存の機能を強化する方向でお願いするつもりである。

 

「刀の方は『ガンド』か『氷作成』か『魔術解除』か『召喚獣』のどれかにしようと考えていますが、マスターに何かご希望があればそれでもかまいません」

「ほむ」

 

 なかなかに豪華な性能だ。光己としては感謝しかない。

 鞘の方には注文は特になかったが、刀の方はもう少し説明が欲しかった。

 

「召喚獣って何?」

「今回の場合ですと、アラビアンナイトに出てくるランプの精を自力で作るようなものと思っていただければ。無論あれほど強力ではありませんが」

 

 要するに使い魔のことである。通常は術者の魔術回路と人間の亡霊と小動物等の死骸をかけ合わせてつくるものだが、今回は刀に宿らせるものなので生身の生物ではなく、念と魔力だけで作る霊体あるいは魔術式だ。

 ただ一から作ると非常に手間がかかるので、今回は癒しと蘇生の関係で鞘を光己に魔術的に紐付けする予定だから、それを利用して、彼の潜在意識から能力や思考回路を形成する計画である。

 もちろん叛逆されたりしないよう、しかるべき措置は施すが。

 

「なるほど、スタ〇ドや斬〇刀みたいなもんか……」

「?」

 

 光己が何かたとえを出したが、オルトリンデには理解できなかったようだ。

 なお召喚獣が傷ついても使役者が同じ傷を受けるといったようなことはないし、刀の中に戻せば傷を癒すこともできる。

 

「面白そうだな、それでいこう」

「いいのですか? 明日でも間に合いますが」

「うん。何かこうピーンと来たから」

「分かりました。ではそうしましょう」

 

 これでオルトリンデとジャンヌオルタの用事は終わったので、光己は自分の用事を切り出した。

 

「ところで今日はカルデアのカレンダーだとクリスマスイブなんだけど、ジャンヌオルタはそっち関係のイベントは嫌だとかそういうのはある?

 俺の故郷の日本式だと宗教色はかなり薄くて、ケーキや七面鳥食べてパーティーしたりプレゼント交換しあったりするだけなんだけど」

「んん? そうねえ。ガチの宗教儀式はちょっとアレだけど、ただのパーティーなら別にいいわよ」

 

 ジャンヌオルタは復讐をやめたので、フランスの頃と違ってこだわりがなくなっているようだ。

 しかし魔女の勘が何かいかがわしいモノを感じ取っていた。

 

「そのパーティーって、ただ食べたり飲んだりして騒ぐだけなの?」

「普通はそうだけど、ジャンヌオルタが魔女だっていうなら、当然エロスなサバトになると俺は信じてる」

「マスター滅ぶべし慈悲はない!」

 

 邪ンヌ怒りの業火によって、今年のクリスマスイベントは中止になった。

 

 

 




 多数のアンケート投票ありがとうございました。
「お姉ちゃん」が圧倒的多数を占めましたので、これでいこうと思います。
「召喚獣」については第110話で邪ンヌが軽く触れていますが、ここからどんな流れでお姉ちゃんになるのかは次回をお待ち下さい!

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