FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第119話 海賊女王との再会

 カルデア一行がルーラーアルトリアの船に乗って、沖田たちの報告で示された場所に向かっていると、その途中でルーラーがまた新たなサーヴァントが現れたことを知らせてきた。

 

「今度は5……いえ6騎? 先ほどの3騎を追っている形ですね。スピードは同じくらいです」

 

 つまり両者とも帆船に乗っていると思われる。どうやらこの特異点にいる海賊はドレイクとアルゴノーツだけではなかったようだ。

 いったいどこの誰だろうか? 光己たちが注意深く前方を注視しながら近づくと、やがて3騎の方の船影がおぼろげに見えてきた。

 

「んー、やっぱり帆船みたいだな」

「ああ、しかしアルゴー号ではなさそうだ」

 

 アタランテは弓兵だけあって目が良かったが、現れた船は彼女が知らないものだった。

 まして光己やマシュは木造帆船自体をあまり見たことがないので、遠目では区別すらできない。

 しかしルーラーの船は少なくともこの時代には他に類例がない特異な形状をしているので、先方の船の乗員はすぐに見分けることができていた。

 

「姐御! 前方にまた船が現れやした」

「チッ、この大変な時に! どんな奴だい」

「カルデアって連中の船です! 真っ白で帆がないので間違いありやせん」

「本当かい!? これはいい風吹いてきたね、急いでそちらに向かいな!」

 

 姐御と呼ばれた女性はこの船のトップらしいが、彼女はカルデア一行が自分たちに味方してくれると思っているようだ。

 とはいえ敵意がない旨の意志表示は必要だろう。それも船乗りでなくてもすぐに分かる、単純明快なものが望ましい。

 

「仕方ないね。ボンベ、シーツか何かで白旗作ってあの船に見せな!」

「アイアイサー!」

 

 初手降参なんてれっきとした軍人ならメンツやら何やらが邪魔してすぐには出来ないことだろうが、彼らはそんなものより今を生き延びることの方が万倍大事である。ボンベと呼ばれた男は急いで白いシーツと棒切れで白旗を作ると、船首に行ってぶんぶんと振り回した。

 

「んん? マスター、いかにも海賊ですという風体の男が白旗を振っているが」

「ほえ!?」

 

 アタランテがすぐさま発見して光己に注進する。光己は一瞬当惑したが、とりあえず自分の目で確かめてみることにして、マシュに頼んで収納袋から双眼鏡を出してもらった。

 

「んー、どれどれ……? おお、あれはドレイクさんの部下の頭目の人じゃないか!」

 

 ドレイクたちもまだこの海域に残っていたのか。好きで残っているのか出たくても出られないのかは分からないが、無事だったのは喜ばしいことだ。

 それにそういうことなら話は分かる。こちらに自分たちの素性と援護依頼を伝えたいと思ったが難しい信号旗とかでは伝わらない恐れがあるので、誰でも分かる方法を選んだのだろう。

 戦況不利で逃げているのなら助けたいとは思うが、ただ彼女たちは海賊である。もし自分から略奪をしかけて撃退されたのであればインガオホーというか、助けるのは悪事に加担するようなものだからちょっと気が進まないけれど……。

 

「ではサーヴァントの顔ぶれで判断すれば良いのでは?

 どういう経緯でドレイクがサーヴァントを仲間にしたかは分かりませんが、善良な者なら海賊行為には反対するでしょうから」

 

 光己が考え込んでいると、ルーラーがアイデアを出してくれた。

 ただルーラーは光己の真後ろにいて、さりげなく肩に手を置き胸を軽く押し当てている。彼女とは海水浴でオイル塗りっこした時から距離がぐっと近づいていて、こうして折に触れてスキンシップしてくれるようになった―――のは大変嬉しいのだが、仕事中におっぱいを当てられては思考力が鈍ってしまうではないか!(綺麗ごと)

 

「そうだな、そうしよう。それじゃこれ使って」

 

 まだ裸眼で顔が見える距離ではないが、双眼鏡を使えばいけるのは光己自身が確かめている。ただルーラーがそうすると必然的におっぱいタイムが終わってしまうことになるが、仕事なので仕方なかった。

 

「はい、ではお借りしますね」

 

 ルーラーは双眼鏡を受け取るとしばらくそれを覗き込んでいたが、やがて見つけたらしく説明を始めた。

 

「……まず1人目はアステリオス、バーサーカーです。宝具は『万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)』、彼が閉じ込められていた迷宮を具現化するものです。

 2人目はエウリュアレ、アーチャーです。宝具は『女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)』、視線と称してはいますが、実際は男性特攻かつ男性を魅了、さらにパワーダウンさせる矢を放つものですね。

 3人目は……うーん、それらしい人は見当たらないですね」

 

 アステリオスは身長が3メートルほどもある上に頭に水牛のような角が生えていたし、エウリュアレはローマで会ったステンノに容姿がそっくりだったから識別しやすかったが、3人目は発見できなかった。もう少し近づいて肉眼で探せば見つけられると思うが。

 

「エウリュアレは分かるけど、アステリオスというのは聞いたことないなあ」

「ギリシャのミノス王、いえその妻のパシパエの子で、『決して出られぬ迷宮(ラビュリントス)』に閉じ込められた牛頭人身の怪物(ミノタウロス)の本名です」

「ああ、それなら知ってる」

 

 光己はアステリオスという名前は初耳だったが、ミノタウロスの伝説とエウリュアレがローマにいたステンノの妹であることは知っていたようだ。

 そこにカーマが割り込んでくる。

 

「あの愉悦女の妹だったらきっと性悪ですよ。ここはスルーして帰るのが賢明じゃないですかね」

「いやそれは私情挟みすぎじゃないか!?」

 

 光己はカーマにはそう答えたが、エウリュアレとアステリオスの名前では善玉か悪玉か判断できなかった。やはりちゃんと話をするしかないようだ。

 初手降参と見せかけて不意打ちする罠という可能性も極少とはいえ絶無ではないから、警戒は必要だが。

 

「先輩は私の後ろに隠れてて下さいね」

「うん、よろしく頼む」

 

 エウリュアレはステンノの妹だけあって宝具がえぐい。いくら無敵アーマーが硬かろうと、女神の特攻宝具に身をさらすのは避けるべきだろう……。

 あと光己はステンノとは直接対面していないが、戦国時代でメドゥーサをぶっぱで斃してしまっているのでそれはバレないよう注意せねばなるまい。

 

「それじゃ、慎重に接近しよう!」

「はい」

 

 光己の指示で、ルーラーが船をドレイクの船の斜め前から接近させる。近づいてみると、確かにあの島で見た彼女の船「黄金の鹿号(ゴールデンハインド)」だった。

 ドレイクたちは後ろから追って来ている船と砲撃戦をしているようだ。もっともこの時代の艦載砲なんてよほど近づかないと当たらないのだが、黄金の鹿号は何ヶ所も被弾しており無理したら穴が開いて浸水してしまいそうに見える。

 

「話をするしかないとは思ったけど、この距離だとうるさくて声が届かないな」

「ですね……」

 

 光己たちとドレイクはお互い顔が見える所まで近づいていたが、今は大砲の音が大きすぎて会話はできそうになかった。誰かが向こうに乗り込むしかないだろう。

 

「その前に、そろそろ3人目のサーヴァント分かった?」

「―――はい。あそこにいる杖を持った緑色の髪の男性がダビデ、アーチャーです。

 宝具は『五つの石(ハメシュ・アヴァニム)』、投石紐(スリング)で石を投げますが、4つ目までは外れて5つ目が必ず当たるというものです」

「ダビデ」

 

 聖書にも記されている王様で、巨人ゴリアテを投石で倒した逸話が有名である。

 確かアタランテが挙げた仲間が彼だったはずだ。「契約の箱」の持ち主でもある。

 なおダビデが退去しても「箱」は消えないので、ここで彼を不意打ちするのは無意味だ。

 

「それなら大丈夫そうだな。アタランテ、交渉してきてもらえる? XXと沖田さんつけるから」

「分かった、行ってこよう」

 

 アタランテはダビデの仲間で、XXはドレイクと面識がある。これならスムーズに話ができるはずだ。

 時々大砲の弾が近くに飛んできているが、ドレイクのあの時の発言が正しければこちらのサーヴァントにも効かな―――いや追って来ている船が宝具であるなら効くかもしれない。

 そういえば追っ手の船は戦国時代で見た黒髭ビンクスの船に似ているような気がするが、まだ遠目だから断定するのは早計だろう。ぶっちゃけ細部までは覚えていないし。

 

「3人とも、くれぐれも気をつけてね」

「はい、では行ってきます!」

 

 アタランテたちが黄金の鹿号に出向くと、ドレイクとダビデがすぐさま出迎えてくれた。

 

「えーと、XXだっけ? 1週間ぶりだね! そっちの2人は?」

「沖田総司といいます。カルデアの現地雇用職員とでも思っていただければ」

「アタランテだ。そちらのダビデとは知り合い……そう、あくまで知り合い程度の間柄だ」

「久しぶりの再会だというのにアビシャグはつれないなあ」

「アビシャグ?」

 

 ダビデはイスラエル王という肩書に反して、いや羊飼いをしていたからかあまり王様っぽさを感じさせない気さくな若者だった。

 しかしアタランテをアビシャグと呼んでいるのは何か理由でもあるのだろうか。当人は嫌そうにしているが。

 

「それで、今どんな状況なんですか?」

「なあに、よくある海賊同士のドンパチだよ。アンタたちと別れた後いろいろあって()()()()()たちが仲間になってくれたんだけど、それでもあいつらにはまだ勝てないみたいだから、一時撤退の最中だったのさ」

「あいつらとは?」

 

 ドレイクは追って来ているのが何者なのか知っているようだ。沖田がそれを訊ねると、ドレイクは急に腹立たしげな顔つきになった。

 

「ああ、あのいまいましい髭オヤジめ! 人を何度もBBA呼ばわりしやがって絶対許さねえ」

「……!?」

 

 今のドレイクからは冷静な意見は聞けなさそうだ。XXと沖田はダビデの顔に目をやった。

 

「いやあ、実は僕も大したことは知らないんだ。あの船の船長が聖杯を持ってる可能性が高いとは思ってるけど、証拠はないしね。

 それよりひどいな、せっかく真名を隠してたのにあっさりバラしてしまうなんて」

「そ、そうだ。ダビデってのは本当なのかい!?」

 

 するとドレイクもはっと気づいてダビデに詰め寄った。何しろ文字通り聖書級の大物なのだ。

 

「ああ、本当だよ。でも今はただの羊飼いで船員だからね、かしこまった態度はいらないかな」

「そりゃまあアンタの家来になった覚えはないし……って、何で隠してたんだい? 大仰な扱いされたくないからってだけじゃないだろ」

「ああ、それは……って、今は長話してる場合じゃないと思うな」

 

 そう、今はまだ逃走の最中なのだ。戦闘に直接関係ないことを話している暇はない。

 

「そうですね、ならいったん距離を取りましょう」

 

 追っ手の船長が聖杯を持っている可能性が高いなんて話も出たし、これは共闘する前に腰を据えて情報交換した方が良さそうである。XXは通信機を取り出して、マスターに今のやり取りを報告した。

 

「―――そういうわけで、連中の足止めをお願いしていいですか?」

「分かった、そっちも気をつけてね」

 

 それでXXが通信を切ると、ダビデが訝しげに訊ねてきた。

 

「簡単に言うけど、足止めなんて本当にできるのかい?」

「大丈夫だと思いますよ? ちょっとだけお待ち下さい」

 

 そう言われてダビデとドレイクと船員たちが大人しく待っていると、追っ手の船が突然がくがく揺れ始めた。まるで岩礁地帯に迷い込んだかのようだ。

 あれでは追跡も砲撃もできまい。こちらは安心して離脱できるというものだ。

 

「で、あれはいったい何してるんだい?」

 

 ドレイクのその疑問にはアタランテが答えた。

 

「こちらのサーヴァントが宝具で海獣を召喚して、あの船の船底に体当たりさせているんだ。

 あの船に乗っているサーヴァントがどこの誰かは知らないが、船の下を攻撃するのは難しいだろう」

 

 そういえば、ジャンヌは海に纏わるものなら()()呼び出せるとか言っていて、実際にシロナガスクジラを召喚したが、それならメガロドンやシーサーペントは呼べるのだろうか。本来の彼女には無理だとしても、召喚獣のジャンヌは元の彼女より強いはずだからできるかもしれない。

 確かフランスの特異点にいたジルも、その気になれば大海魔を呼べるという話だったし。

 

「……いや、ジャンヌは魔道書も何も持っていないのだからさすがに無理か」

 

 とアタランテは思ったが、その言葉が終わるか終わらぬかのうちに、海中から巨大なタコの脚が出てきて追っ手の船に組みついた。

 

「ぎゃーっ、あれはもしかしてクラーケンかい!?」

 

 豪胆なドレイクもこれには度肝を抜かれたようである。何しろクラーケンといえば古来より語り継がれた船乗りにとっての脅威であり、部下たちの中には恐慌のあまり失神した者もいるくらいだった。

 今回現れたのは島サイズの怪獣ではなく、体長50~100メートルほどと思われたが、それでも黄金の鹿号より大きいのだ。

 追っ手の船はやたら頑丈で、クラーケンの脚が巻きついても折れる様子はなかったが、クラーケンが体を揺すると大きく傾いて真横にぶっ倒れてしまった。

 

「お、おおぉぅ……すごい光景見た」

 

 伝説の怪物が船を襲って転覆させるシーンをこの目で見られるとは。その犠牲者が怨敵だったことに快哉を上げつつ、ドレイクは部下たちに改めて退避を命じたのだった。

 

 

 




 なおクラーケンの制御に失敗すると触手プレイになります(いつわり)。



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