FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第120話 黒髭惨状1

 ドレイクを追っていた船「女王アンの復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)」を襲ったクラーケンは体長が目測70メートル、体重は推定130トンにもなるかと見られた。

 普通のタコでもイギリス辺りでは「悪魔の魚(デビルフィッシュ)」と呼ばれて忌み嫌われていたのに、それが超巨大化して襲ってきたとあっては常人が冷静さを保つのは難しいだろう。しかしこの船の乗員はみな歴戦の海賊や戦士であり、一瞬は驚愕したがすぐに気を取り直して迎撃を始めていた。

 

「んっんー、まさか伝説のクラーケンが実在したとは。それともBBAの仲間の誰かの宝具でござるかな?

 しかし惜しむらくは足が太すぎる! あれじゃアン氏やメアリー氏に巻きついても、みんな大好き触手プレイにはならんでござる」

「「死ね!!」」

 

 約1名の男性が、あほなことを言って女性2人に罵倒される場面もあったが……。

 それはそうと乗員たちは銃やカトラス(船乗りが好んで用いた片刃の曲刀)でクラーケンを攻撃したが、その足の筋肉は強剛にして柔靭、しかも表面がぬめっていて弾や刃が滑るので、サーヴァントの腕力をもってしても思うように傷つけられない。

 それどころか反撃とばかりに足が大きく振り回され、その巨大な一撃で、先ほど駄弁を吐いたこの船の船長「黒髭」ことエドワード・ティーチは鞠のように蹴り飛ばされた。

 

「ぐほぁ!」

 

 背中からマストに叩きつけられ、血を吐いてせき込む黒髭。

 

「船長!」

 

 アンやメアリーたちが心配して声をかけるが、その中に1人だけ彼に兇悍な視線を向ける男がいた―――が、それは一瞬のことですぐに目をそらした。

 

「デュフフ、美女美少女に気遣ってもらえるとは、たまにはケガもしてみるものでござるな!

 しかしこいつマジで手強いんじゃ!?」

 

 黒髭は結構なダメージを受けたように見えたが、軽口を叩く元気はあるようだ。

 クラーケンが頭部(足の上の目や口がある部分)を甲板に乗せてくれればどうにでもなるのだが、タコは高い知能を持つと言われる通り、黒髭たちが強敵と見て頭部は船の外に残しておく慎重さを見せており、早急に退治するのは無理そうだった。

 

「ギガガガガガガ!」

 

 その中で1人気を吐いていたのがバーサーカー「エイリーク・ブラッドアクス」である。「狂化B」により腕力が強くなっている上に、得物の斧が重くてゴツいので滑りにくいおかげで他のメンツより攻撃が効きやすいのだ。

 しかもこの斧、敵の体にめり込むと血を吸って副次ダメージを与えるというオマケが付いている。

 

「…………!!」

 

 クラーケンは言葉にならない悲鳴を上げると、エイリークを排除すべく集中攻撃を始めた。彼の位置からは肉眼では見えないが、血を吸われた所のそばにいるのは分かるので。

 しかしエイリークは沖田オルタ戦では後れを取ったが今回は奮戦し、タコの足をかわしつつ的確に傷を与えていく。

 とはいえサイズの差はやはり大きく、傷口はクラーケンにとっては小さなもので、簡単には討ち取れそうになかった。

 それどころかエイリークに攻撃が当たらないことに業を煮やしたのか、足を船のマストに巻きつけると胴体をぶんぶん揺すり始めたではないか。

 

「え、ちょ、やめ……!?」

 

 クラーケンの狙いに気づいた黒髭が制止しようとしたが言葉で止まるはずもなく。彼の船は非常に頑丈なので船体やマストが折れるといったことはなかったが、代わりに派手に揺らされてとうとう横倒しに転覆してしまったのだった。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

「いやあ、クラーケンは強敵でしたね!」

 

 その後いろいろあったが、結局クラーケンは乗員の1人「バーソロミュー・ロバーツ」の宝具「高貴なる海賊準男爵の咆吼(ブラック・ダーティ・バーティ・ハウリング)」で退治した。これは彼が生前に率いた海賊船団が一斉に砲撃するというもので、敵味方の位置が近いと巻き添えになる恐れはあったが、転覆した船の上でクラーケンと殴り合うよりはマシと判断したのである。

 

「船長がタコ足に捕まった上に別の足で尻から串刺しにされそうになった時は、どうしようかと思ったけれどね!」

「思い出させるんじゃないでござる!!」

 

 実際かなりピンチだったようだ。しかし、幸い巻き添えで砲弾を喰らった者はおらず、船も無事だったので一応完勝といえるだろう……。

 ただドレイクの船と正体不明の白い船は完全に見失ってしまったが。

 

「で、これからどうするんだい?」

「もちろんドレイクと、彼女を助けた船を追うのでしょう? そういう約束で貴方の部下になったのですから」

 

 バーソロミューが黒髭に今後の方針を訊ねると、アンが追撃を提案した。まあ海賊的に考えてやられっ放しで済ませられるわけがない。

 

「ん~~、そうですなあ。とりあえずどこかの島でお2人とアバンチュールというのは?」

「よし、殺そう」

 

 黒髭は光己以上に性欲脳だったが、ともかく黒髭海賊団は船を起こしてドレイクたちを追うことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 そのドレイクたちはとりあえず虎口を脱して、落ち着いて話ができる状況になっていた。

 光己たちは全員黄金の鹿号(ゴールデンハインド)に移乗して、そうするとルーラーの船は不要になるのでいったん消してある。

 

「いやあ、アンタたちのおかげで助かったよ! しかもまた面白いモノ見せてもらって、ホント何て礼を言っていいか分からないくらいだねえ」

「どう致しまして。ドレイクさんたちが無事でよかった」

 

 まずはお互い無事に再会できたことをお祝いしてからサーヴァントたちが自己紹介して、それから情報交換となるのだが……。

 

「うむむむむむ……」

 

 アタランテがアステリオスの巨体を見上げて、悩ましげに唸り声を上げていた。

 子供絶対守るウーマンの彼女としては、「子供を食った怪物」であるアステリオスは認めがたいのだが、見れば彼は図体こそ大きいが中身は子供みたいなので、どう接するべきか決めかねているのである。

 困ったアタランテはリーダーに見解を聞いてみることにした。

 

「マスター、ちょっといいか? あのアステリオスをどう思う」

 

 彼の袖を引いて周りに聞こえないよう小声で訊ねると、マスターの少年は言葉少なめの質問を意外とすぐ理解して返事をくれた。

 

「んん? あ、そっか、アタランテは子供にこだわりがあるのか……。

 俺というか、カルデア現地部隊は生前のことはあまり追及しないスタンスだよ。今現在人間食ってるとしたらさすがに組めないけど」

「ふむ……」

 

 人理を修復する使命を帯びた団体としては、生前の罪科にこだわり過ぎて使える戦力が減るのは望ましくないということか。

 考えてみれば、アステリオスが怪物として生まれたこと自体は彼の責任ではないし、人を食ったのも父王の命令によるものだ。それでもなお彼に罪があるとしても、迷宮に幽閉されたあげく「英雄」に殺されたのだから、罰は受けたと考えるべきだろう。

 元はといえば全部ミノス王が悪いのだ。私欲に負けてポセイドンに詐欺を働くとか、頭お花畑にも程がある。

 

「どちらにしても初対面で訊いていいことではないからな。しばらく様子を見ることにしよう」

 

 もっとも海賊たちがアステリオスを恐れたり気味悪がったりしている様子はないから、多分今ここでは食べていないだろうけれど。それならアタランテも事を荒げるつもりはない。

 

「そうだな、そうしよう」

 

 光己とアタランテはそれでアステリオスについての相談を終えると、改めてドレイクの話に耳を傾けた。

 それによると、ドレイクは光己たちと別れた後、彼女たちも島を出て北東の島に行ってみたところ、ダビデがいて面白そうだったので仲間に誘ったらしい。そして次はもう1度北西の島に赴くと、以前あった「目に見えない壁」がなくなっていたので、上陸したらエウリュアレとアステリオスがいたという。

 

「マスターなしであんな大きな結界ずっと張り続けていられないから、いったん解除してしばらく休んでたのよ。そこにドレイクたちが来たってわけね」

「聞けば気持ち悪い海賊に追われてるっていうから、共通の敵がいるのならってことで勧誘したんだよ」

 

 エウリュアレの説明にダビデがそう注釈を加える。

 

「共通の敵って、あの海賊船のことですか?」

「ええ、名前は知らないけどスキュラの方がまだマシってレベルよ」

「……」

 

 いったいどんな海賊なのだろうか。光己は逆に興味が湧いてしまった。

 

「って、そういえばその海賊が聖杯持ってる可能性が高いってのはいったい?」

「ああ、それはね。彼の部下の1人が時々単騎で船長を狙ってきてたんだけど、勝てないと分かると魔法のような瞬間移動で消えるんだ。

 でもそいつはかなり狂化がひどいバーサーカーだから、自己判断で退却してるとは思えない。つまり本拠地から呼び戻してるってわけさ。

 そんなことを何度もできるのは聖杯以外にないだろう?」

「ほむ……」

 

 光己は魔術には詳しくないのでマシュに意見を求めると、盾兵少女はこっくり頷いた。

 

「そうですね、ダビデ王の推測は当たってると思います」

「そっか。ということは、今すぐとって返してそいつの聖杯を分捕れば、アルゴノーツと戦わずに特異点修正できるってわけか?」

「それはどうでしょう。フランスではジルさんを斃すまで修正は始まりませんでしたから」

 

 それはジルが聖杯の元の所有者だったからか、それとも聖杯を入手した時点で修正は始まっていたが感知できなかっただけか。あるいは特異点破壊をもくろむ者を全員討ち果たさないと修正は始まらないのか。事例が少なすぎて結論は出せなかった。

 

「うーん、難しいものだなあ。

 おっと、そうそう。ダビデ王、もし『契約の箱(アーク)』を宝具とかで壊したら、被害はどのくらい広がるんですか?」

 

 今後の方針に関わる重要な問題なので、光己がオブラートに包まず直球で訊ねると、ダビデはさすがにちょっと苦々しげな顔をしたがそれでもきちんと答えてくれた。

 

「その宝具を使った者が神霊でなければ、その当人が消滅するだけだよ。爆発するとか仲間全員死ぬとか、そんな大きな効果はない。

 だからいざとなったら、イアソンに使われる前に誰かが壊すというのはアリだね」

「ほむ」

 

 これはいい話を聞いた。「箱」を壊しても良いのなら、守るために人員を割く必要はなくなる。

 ただそのためには誰か1人を犠牲にしなければならないので、なるべくなら避けたいところだったが、ランサーオルタはいたってさばさばしていた。

 

「私のことなら気にするな。最初からそのつもりだったのだからな。

 どの道特異点が修正されたら座に還るのだ。イアソンやヘラクレスを倒して還るのも『箱』を壊して還るのも大差はない」

「……そっか、ありがと」

 

 当人がそう言ってくれるのなら問題はない。これで(ランサーオルタ以外の)全員で出撃できるようになるわけだ。

 

「しかしカルデアのマスターは強気だね。ヘラクレスがいくら強くても、『箱』に誘導して触れさせれば問答無用で斃せるという手もあるけど、それは要らないっていうんだから。

 まあサーヴァントがこれだけ大勢いるのだからそれも分かるけど」

「あー、なるほど。そんな手もあるんですね」

 

 光己はダビデが述べた策については考えたこともなかったが、それを採用すべきだとは思わなかった。メイドオルタたちはヘラクレスの宝具を知ってなお倒せる気でいるし、「箱」に誘導するのだって簡単ではないだろうから。

 

「しかし、『箱』があると全員で遠くに行くことができなくなりますから」

「ああ、君たちはもう『箱』を見つけているのか。ならその判断もやむを得ないね」

 

 話が前後したが、ダビデは光己が「箱」を壊そうと考えた理由を理解したようだ。

 するとドレイクが話に加わってきた。

 

「それで、『契約の箱』てのは結局何なんだい?」

「ああ、そういえば船長にはまだ話してなかったね」

 

 ダビデはドレイクにこの辺の事情をまだ教えてなかったようだ。改めて、イアソンと「箱」と聖杯と神霊の関係について解説する。

 

「なるほど、それで藤宮は『箱』ってのを壊したいわけか。人理とか特異点ってのは実感湧かないけど、動かせない爆弾守りながら戦うなんて嫌だってのはよく分かる。

 連中がいつどこから来るか分かってるなら別だけど」

「いや、それが1週間経つのに影も形も」

「ああー、そりゃつらいね」

 

 この海域はそこまで広くないからいつかは来るだろうが、その日時がはっきりしないまま待ち続けるというのは、大変神経が削られるしんどい時間だ。イアソンたちにタイムリミットがないのなら、こちらを疲れさせるためにわざと待たせるという手もあるし。

 

「いやちょっと待った。今聖杯を持ってるのはイアソンじゃなくて、あの髭野郎なんだよね?」

「うん、そうだよ。もちろん推測に過ぎないけどね。

 だから聖杯を奪えば『箱』を壊す必要も守る必要もなくなる……と言いたいところだけど、聖杯と神霊を捧げるのが同時でなければならないというルールがあるかどうかは分からないんだ」

 

 つまりイアソンが聖杯を入手する前に、先に神霊だけ「箱」に捧げてしまう可能性もゼロではないということだ。いや普通に考えれば同時が順当なのだが、「箱」に神霊と聖杯を捧げれば王になれるという話自体がガセなのだから、その「普通」を信じ切れない。

 

「なるほど、やっぱり『箱』がネックなんだねえ」

 

 ドレイクもこの結論に落ち着かざるを得なくなったようだ。

 

「でもそれはそれとして、あの髭野郎はシバくんだろ?」

 

 これは光己への質問である。答えは当然イエスだ。

 

「それはもちろん。アルゴノーツを斃す必要があるかどうかは分からないけど、聖杯は分捕らなきゃいけないから」

「そっか、じゃあアタシたちと組もうじゃないか。さっきアーチャーが言った『共通の敵』ってやつだ」

「……ほむ」

 

 光己は即答はできなかった。

 ドレイクにしてみれば当然の話だと思うが、光己としては以前マシュに話した問題点があるので。

 しかしこういう時こそ軍師の出番だろう。光己はカルデアに連絡を入れてエルメロイⅡ世を呼び出した。

 

「―――かくかくしかじかというわけで、ドレイクさんたちと組むべきかどうか迷ってるんですがⅡ世さんはどう思います?」

《ふむ、確かに難しい問題だな。

 断ったとしても彼女は勝手に戦うだろうから、それなら組んだ方が連携が取れる分有利―――というか、今気づいたのだがドレイクを死なせるのはまずいかもしれん》

「どういうことですか?」

《彼女は歴史に与えた影響が大きいから、ここで死亡したら歴史が変わってしまう恐れがあるということだ。

 特異点が修正されたら死者は全員生き返るのであれば問題ないが、そうなる保証はないからな》

「なるほど、それなら一緒にいた方がいいですね」

《そうだ。マスターの懸念は知っているが、現在の状況なら問題あるまい》

 

 まずドレイクたちが一般市民を襲おうとしたらどうするかという件だが、この海域には一般人はいないようだから気にする必要はない。

 次に清姫が気にしていた夜這い云々の件だが、沖田オルタが何もされなかったのなら大丈夫だろう。

 戦利品の配分については、敵海賊が持っている聖杯をもらう代わりに先日ドレイクにもらった聖杯を返すことにすれば文句は出るまい。金銀財宝の類はせっかくだから半分もらえばよかろう。

 最後に船の速さに差がある件だが、ワルキューレ2人がルーンを刻めば解決する。

 

「おおぉ、さすがはⅡ世先生……」

 

 光己が気にしていた諸問題にことごとく解を出してしまうとは。これが諸葛孔明の知力を得たカリスマ講師の実力なのか……。

 さっそくⅡ世の方針に基づいてドレイクと交渉したところ、すべてその通りの結果になった。

 

「でもドレイクさんの船はかなり被弾してるから、リベンジは修理してからにした方がいいんじゃ?」

「そうだね、アタシの方から行かなくても、あいつの方から追いかけて来るだろうし」

 

 というわけで、カルデア一行はドレイク海賊団と手を結んだのだった。

 

 

 

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