FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第121話 群島にて2

 カルデア一行とドレイク海賊団はひとまず「契約の箱(アーク)」がある島に戻ることにしたが、そこでワルキューレ2人が船に「加速」のルーンを刻むとずどーん!と速くなった。

 

「あと『硬化』のルーンというのがありますが、それは修繕が終わってからにしましょう」

「そんなこともできるのかい。ルーンってのはすごいんだねえ!」

「さすがは姐御に勝った連中だ……!」

 

 カルデア一行が次々に見せるマジックショーにドレイクとその部下たちは感嘆しきりであった。

 今までの砲撃戦では敵の大砲は効くのにこちらの大砲は効かないという一方的に不利な状況だったが、船足が速くなった上に装甲が硬くなるならだいぶマシになる。

 といっても攻撃が効かないのではいかんともしがたいが……。

 

「まあ無敵の超人……サーヴァントっていうのかい? それはこっちが多いから、そっちで穴埋めすればいいっていえばいいんだけど」

 

 どうせ効かないのなら砲撃戦は諦めて、俊足を活かしてさっさと接舷して白兵戦にしてしまえば済む。そういう考え方もあるのだが、一方的に不利な項目があるというのは面白くなかった。

 

「藤宮はその辺どう思ってる?」

「そりゃ白兵戦一択でしょ。そうしないと聖杯奪えないから」

「ああ、そういえばそうだったね。忘れてたよ」

 

 このフランシス・ドレイクともあろう者が、髭野郎の気持ち悪さと彼への怒りに気を取られて海賊の本分を忘れてしまっていたとは。

 本来海賊にとって砲撃は脅しや敵戦力を削るためのものに過ぎず、その後接舷して殴り込むのが基本的な戦術である。だって仮に超強力な大砲を手に入れたとして、それで標的が沈没したらお宝が手に入らないではないか!

 

「アンタあの時は『俺たちは海賊じゃない』って言ってたけど、海賊のセンス十分あるじゃないか。

 そうだ、このゴタゴタが終わったら世界一周海賊の旅(アタシのユメ)に付き合わないかい?」

「ふえっ!?」

 

 光己はいろんな意味で当惑した。

 

「いやいや、俺に海賊の素養なんて無いから。愛と平和(ラブ&ピース)がモットーの善良な一般市民だから!

 というかこのゴタゴタが終わっても次のゴタゴタがあるし」

「え、そうなのかい?」

 

 ドレイクは勧誘については半分話のネタだったので、断られたことはさほど気にしなかったが、彼の言葉の後半はちょっと気にかかった。

 

「うん、これの後にあと4つ……それとラスボスとの対決がね」

「星見屋も大変だねえ……」

 

 サーヴァントたちは歴史上の英雄の現身(うつしみ)だというからまだしも―――水着のアーサー王とその別側面とか水着の贋作のジャンヌダルクとかいうのはよく分からないが―――光己とマシュは生身の人間の未成年なのにご苦労な話である。

 

「まあそれなら質問を変えようかね。ゴタゴタが全部終わったらどうしたい? 肴代わりに聞かせとくれよ」

 

 肴代わりとドレイクは言っているが、今現在ドレイクはラム酒をかぱかぱ飲んでいたりする。

 敵船はもう見えないし針路はアタランテが指示しているから船長の仕事は今はないとはいえ、昼間っから豪気なものであった……。

 

「それを俺に聞いてしまうのか? なら仕方ないから答えよう。

 ズバリ! 大奥王に俺はなる!」

 

 光己がズビシと決めポーズを取りながらそう言うと、耳ざとく聞きつけた清姫とカーマが抱きついてきた。

 

「では正室はぜひわたくしを!」

「まさか愛の神を2番以下に回すなんて愚かしいことはしませんよね? いえ私はマスターのお嫁さんになんてなりたくありませんが」

「へえー」

 

 その光景にドレイクはちょっと感心した。現身とはいえ歴史上の英雄たち相手に一夫多妻をかまそうとはなかなかのチャレンジャーズスピリットだと思ったが、すでに立候補者が複数いるとは。

 しかしその候補者が幼女というのはいかがなものかと海賊脳ですら思ってしまうが、それが表情に出たのか光己が反論してきた。

 

「実年齢小学生や見た目小学生を正室にするつもりはないからな!」

「つまり私なら問題ないというわけですね!」

「問題ありまくりです! 先輩は生涯独身を貫くんですから」

 

 するとヒロインXXが光己の背中にしなだれかかったが、なぜかマシュが羅刹のごとき荒々しさで3人を引っぺがしてしまう。

 

「何でだーー!」

「理由などいりません!」

 

 ……などと光己たちがコントをしているのをドレイクはニヤニヤしながら眺めていたが、それが一段落つくと今度はマシュに話しかけた。

 

「それでアンタはどうなんだい? まさか藤宮に独身を貫かせるのがライフワークってわけじゃないだろ」

「それはそれで意義がありそうですが、それ以外だと……すみません、ちょっと思いつかないです」

 

 マシュがそう答えると、ドレイクは盾兵少女の無垢っぽい澄んだ瞳をぐいっと覗き込んで―――やがて顔を上げると、それこそ上司のような口調でオーダーを宣告した。

 

「じゃあ宿題だ。このゴタゴタが終わるまでに、何でもいいからやりたいことを考えること!」

「ええ!? あの、ドレイクさん、それは一体」

 

 当然ながらマシュは困惑して彼女がどういうつもりなのか尋ねたが、ドレイクは質問は受け付けないとばかりに背中を向けて去ってしまった。

 仕方ないのでマスターに意見を求めてみる。

 

「先輩、ドレイクさんは何を考えているのでしょう」

「んん? そうだな、マシュが箱入りなのを見抜いて人生について考えるよう促してきたとか?」

「分からなくはないですが、なにゆえそのような」

「俺に言われてもなあ」

 

 光己にとってもドレイクは理解しきれないところが多い人物なので、深い理由がありそうな行為の意図を正確に読み取るなんて無理なのだった。

 

「でもせっかくだから、暇な時にでも考えてみれば? 今日はもうさっきの海賊とも会わないだろうし」

「は、はい」

 

 仕方ないので、マシュは言われた通り「やりたいこと」について考えてみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 元の島に帰りつくと、ドレイクたちは船の修繕のための資材調達、つまり林に入って木を伐り始めた。それを木材に加工して、船の破損した部分と入れ替えている。

 船員たちはそれなりに慣れているらしく、作業は順調に進んでいた。素人で部外者の光己たちが手伝うことはあまりなさそうだったので、予定通り「契約の箱」を壊しに行くことにする。

 同行するのはカルデア所属サーヴァントとランサーオルタとダビデだ。先日埋めた場所を掘り返すと、また地下墓地(カタコンベ)の入り口が現れた。

 

「こんな狭い所で聖槍を解放したら墓地自体が崩落しそうだな。多少名残惜しいが、ここでお別れだ」

 

 言葉の内容に反していたってドライな口調でそう言うと、ランサーオルタは感傷を嫌うかのように、光己たちの反応を待たずに1人で地下墓地の中に入って行った。

 態度や雰囲気には非情緒的な所がある彼女だが、光己たちに余計な傷心を負わせまいとしているのだろう。

 

「うん、短い間だったけどありがと。もしまた会えたらよろしくね」

「……ああ」

 

 なので光己もくどくならない程度に別れの言葉を述べると、ランサーオルタはいったん足を止めて頷き、しかし振り向くことなく歩き去って行った。

 そのまま待つことしばし。やがて通路の奥から光己たちの所まで轟音が響いてきた。

 

「うおお……」

 

 さらに土砂崩れのような音とともに、地面が小刻みに揺れる。本当に崩落が起こったようだ。

 入口付近は無事だが、「箱」が置いてあった最奥部は完全に埋まっているだろう。

 

「……ダビデ王」

 

 光己が確認のため「箱」の持ち主に声をかけると、いつもは飄々としている彼もさすがに沈痛な面持ちで頷いた。

 

「……ああ、『箱』は破壊された。これで仮にイアソンが神霊と聖杯を手に入れたとしても、この特異点が消滅することはない。

 その代わり、僕たちは自力だけでアルゴノーツとさっきの海賊を斃さねばならなくなった。それは分かってるね?」

「はい、それは最初から承知してます。ランサーオルタは何も言いませんでしたけど」

 

 自分が犠牲になるのだから必ず勝てとか、こうしたシーンではよく言われることをランサーオルタはまったく口にしなかった。彼女の本心が奈辺にあるかは付き合いが短かったから推測しきれないが、とにかくこの特異点を修正に持ち込めば納得してくれるはずである。

 

「そうか、それなら僕から言うことは何もないよ。

 この入り口はまた埋めるのかい?」

「そうですね、このままじゃ何となくランサーオルタに悪い気がしますので」

 

 その感覚は他のサーヴァントたちも同じだったらしく、一同はしばらく黙祷をささげてから入り口を埋め直してその場を去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 光己たちがドレイクたちの所に戻ると、ドレイクはあえて「箱」の件には触れず、まったく違う話を切り出してきた。

 

「お帰り藤宮。ところでここから北、いや南なのか? そこにワイバーンが大勢いる島があるって話を聞いたんだけど」

 

 つまりワイバーンを狩って、その鱗を加工して装甲板にしようという趣旨である。ただしその分重くなるので、速さと引き換えになってしまうが……。

 ついでに肉は食料になるし、爪や牙や骨などは商材になるかもしれないという計算もあった。

 普通に考えれば良いアイデアだったが、光己は反対せざるを得ない。

 

「いや、あの島にはワイバーンの親のでかいドラゴンがいるからやめた方がいいと思うよ。俺たちも世話になったし、怒らせたらシャレですまない」

「ワイバーンの親のでかいドラゴン!?」

 

 ドレイクは明らかに興味を持ったようだったが、組んだ相手が世話になったという者と争うほど好戦的ではなかった。

 

「そうか、それじゃ仕方ないね。元の案通り速さ重視でいこう。

 でもドラゴンに世話になったってどんなことだい?」

「んん? ああ、『箱』の在処(ありか)を教えてくれたんだよ。これがなかったら、俺たちはまだこの海のどこかをさまよってたかもしれない」

 

 フリージアに世話になったことはもう1つあるのだが、光己はそれは言わなかった。ドレイクのことだから光己の正体を聞いても気にしないどころか面白がると思うが、さすがにこの秘密を明かすのはまだ早い。

 

「なるほど、そりゃ恩人だね」

 

 お宝の在処を教えてくれたというなら、海賊的に考えても恩人だ。いや今回は爆弾だったのだが。

 ―――ドレイクは修繕の監督で忙しいようなので、光己は逆に暇そうにぽつんと1人座って作業を見物しているエウリュアレの所に向かった。

 

「あら、私に何か用?」

「はい。前の仕事場ではエウリュアレ神のお姉さんにお世話になりましたので、改めて挨拶しておこうと思いまして」

「へえ、(ステンノ)に会ったの」

 

 するとエウリュアレは光己たちにちょっと興味を持ったような顔をした。

 光己は彼女が「ステンノ」と言った発音に何となく違和感を感じたが、なにぶん神様のことなので触れずに話を続ける。

 

「いえ、俺自身は会ってないんですが、マシュたちは直接お会いしましたので」

「はい、お姉さまと瓜二つでいらっしゃいますね」

 

 しいて違いを挙げるなら(エウリュアレ)の方がやや善良そうに見えたが、そのような感想を口にするほどマシュは怖いもの知らずではなかった……。

 

「そうね、(エウリュアレ)(ステンノ)だから。

 用件はそれだけ?」

「いえ、せっかくお会いできたのですから神託か何かをいただければありがたいなと」

 

 ステンノは大変役に立つ「知恵」と「力」を奮発してくれたので、エウリュアレも何か下賜してくれないかなと思ったのである。

 捧げ物は光己が作ったスイーツだから、ローマでネロがステンノに捧げた物と比べるとお値段的にはだいぶ落ちるが、未来のレシピで作ったものだから希少品としての価値はあるはずだ。

 エウリュアレは海賊から隠れていたそうだから「力」は持ってなさそうだし。

 

「…………え゛」

 

 エウリュアレの表情筋がピシリと固まった。

 人間が友好的な神霊に出会ったなら、お告げを求めるのはいたって普通のことである。まして巨大な敵と戦っている最中なら尚更だ。

 しかしエウリュアレは「男性の憧れの具現」「理想の少女」というだけの存在で、神託を下すとかそういった権能は持っていない。そんなものがあったら自分に下してもっと賢く立ち回っている。

 困ったエウリュアレは、とりあえず類例を求めてみた。

 

「参考までに聞くけど、(ステンノ)は貴方たちに何をよこしたの?」

「応援のサーヴァントを2騎と、敵の本拠地も教えていただけました」

(何でそんなことできたのよ(ステンノ)!?)

 

 ステンノの権能も似たようなものだから、現界時に他のサーヴァントを引っ張ってくるとか遠く離れた場所の情報を得るなんてことできるわけがない。いったいどんな裏技を使ったのか!

 しかしここで何も出さないと、メンツとかその辺りの問題がいろいろと。こういう時に駄妹(メドゥーサ)がいればぽいっと差し出せるのに、姉のピンチを座して傍観するとは不届きな!

 しかしギリシャの神々は同胞を見捨て給わず。エウリュアレの脳裏に電光のごとく一案が閃く。

 

「そうね、ちょっとここで待ってなさい」

 

 エウリュアレは黄金の鹿号(ゴールデンハインド)の中の自分の部屋に戻ると、しまってあった石ころを持って光己たちの前に戻ってきた。

 

「じゃあこれをあげるわ。アステリオスと会う前に拾ったものだけど、魔力リソースにはなるはずよ」

 

 そしてマシュに手渡すと、盾兵少女ははっと目の色を変えた。

 

「先輩、これは聖晶石です! 3個ありますから1回召喚できますね」

 

 なお特異点で召喚するとカルデア本部に連れ帰れないので、よほどの理由がない限りは帰ってから召喚した方がお得である。

 

「マジか! さすがは名高い女神様、ありがとうございます!」

「どう致しまして。役に立てて良かったわ」

 

 光己も感嘆の声を上げながら深く頭を下げる。

 こうして、エウリュアレは女神の体面を保つのに成功したのだった。

 

 

 

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