バーソロミューの宝具攻撃を切り抜けた
「よし、それじゃ予定通りお前らは下がってな!」
「アイ、キャプテン! 頑張って下せえ!」
サーヴァント同士の戦いに普通の人間が加わるのは自殺行為なので、接舷が成功したらドレイクの部下たちはすぐ船内に退避してもらうことになっていた。彼らにもメンツや船長を心配する気持ちはあるが、敵味方合わせて25騎ものサーヴァントが駆け回る戦場に一般人がいても危険かつ邪魔なだけで意味がないのだ。
光己たちはできればドレイクにも下がっていてほしい気持ちはあったが、それは多分聞いてもらえないのと、目が届かない所にいられるのもそれはそれで心配なので、彼女だけは参戦している。代わりに護りと強化のルーンをてんこ盛りにかけていた。
そしてついに黒髭たちと対面となった。ドレイクが雄々しくも前に出て、こちらも前に出た黒髭と海越しに向かい合う。
「昨日はよくもコケにくれたねえ。今日はたっぷりとお礼してやるから地獄の底で美味しく頂きな!」
「うわぉ、BBAのヒステリーは怖いでおじゃるな。更年期障害ってやつでござるか?」
「……」
黒髭の煽り上手っぷりにドレイクはこめかみに青筋を浮かべたが、2度目だからそこまで激昂はしない。
「ハッ、口先と気持ち悪さだけは今日も達者だね。でもその空元気がいつまで続くかねえ?」
「……」
今度は黒髭が黙る番だった。初手の大技を防ぎ切られた以上、劣勢は明らかなのは否めないのだから。
……とドレイクも光己たちも思ったが、黒髭はドレイクに言い負かされたのではなく、人探しをしていただけだった。
「んっほおおおおおおおおおおお! よかった今日もいた、エウリュアレちゅわんやっぱりキャワゆい! 可愛い!! kawaii!!!
そんなBBAや無駄にデカくてむさい奴らの後ろなんかにいないでこっちにカモン! お顔や腋や鼠径部をペロペロしたりされたりしよう! んでもって永遠の愛を誓い合おう!
新婚旅行はどこにする? カリブ海なら拙者詳しいでござるが」
「…………!?!?」
何か急に気持ち悪いとしか言いようがない表情と口調で怪しい放言を始めた大海賊に、光己たちは一瞬息を忘れてしまった。
確か彼は強欲・悪辣・残虐と3点揃った海賊のお手本みたいな人物だったはずなのだが、これではただの変態ではないか。
……いやそういえばエウリュアレが「スキュラの方がまだマシってレベル」とか「史上最低のフナムシ」とか言っていた! あれはこのことだったのか。
しかもその変態の視線がマシュに向く。
「おお、そっちの娘もカワイイ!
マル! ごーかーく! てれれれってれー!」
「ひゃっ!?」
冬木以来それなりに修羅場をくぐってきたマシュもこれには怖気が走ったらしく、普通の少女のようにびくっと身をすくめる。
しかし黒髭はかまわず駄弁を続けた。
「……いやよく見ればそっちは女の子、それも水着の美女美少女ばかりではござらんか!
何という理想郷。みんなBBAの仲間なんかやめてこっちに来ない? オイルレスリングでぬるぬるねとねと絡み合わない!?」
「……」
その上標的をカルデア女性陣全員に広げたため、ヒルドたちはもう全身に鳥肌が立ちそうだった。何なのだろうこのヘンなサーヴァントは。
「ほう、ほほう。これはいいメカクレ……色んな意味で素晴らしい。
まさに理想的なメカクレ系女子じゃないか。宝石のような瞳を奥ゆかしく隠す秘匿性、実にいいね」
「#$%&@!?」
さらには、まともで紳士的に見えたもう1人の男海賊もフェチなことを言い出したので、マシュは戦意どころか意識自体がフリーズして気絶しそうだった。
しかしカルデア一行で唯一のシールダー、つまり最後のマスターを守る盾としてこんなことでへこたれてはいられない。マシュは決死の勇気を奮い起こしてぐっと足を踏ん張ったが、そんな彼女の内心を読んだのか単に素なのか、黒髭がさらなる口撃を放つ。
「ともかくそこの
「さ、さもないと何ですか」
「今日は拙者、眠るときにキミの夢を見ちゃうゾ♪」
「マシュ・キリエライトと言います! デミ・サーヴァントです!」
マシュは反射的に名乗ってしまっていたが、これは仕方ないことだろう……。
「マシュ……マシュ……マシュマロ。マロマロ……なんてIN-美……ボフフフフ……。
さあ、他の子たちも拙者の耳と頭に焼き付けるがごとく、愛をこめて名乗るでござる」
「ひいっ!?」
女性陣の中でこの手のことに耐性が低い何人かが、震え上がってつい名乗ろうとしてしまったが、このような巨悪がはびこる時には正義のヒーローが現れるものだ。さっそうと登場した何者かが、声も高らかに割って入る。
「待て変態! この娘たちはみんな俺のだ。お前なんぞに見せるのも不愉快だから、今日の夢なんて悠長なこと言わずに今すぐ地獄に還りやがれ」
……訂正、ただの独占欲であった。メイドオルタと玉藻の前はこめかみにぴしりと井桁を浮かべたが、黒髭よりはマシらしく今のところ文句をつける様子はない。
「おぉ!? マスターだからって俺の女扱いとかこれがパワハラってやつでござるか?
ここは拙者が虐げられた女子たちに代わって訴えてやるでござる。そして女子たちは頼れる男黒髭の雄姿にメロメロになって以下略」
「~~~~!?」
光己はいろいろとブチ切れて声も出ない。
ただこの時点で黒髭が戦国時代で会った黒髭ビンクスではない、もしくは同一人物であってもその時の記憶はないことがほぼ確定になったが、そんなことに気を回す余裕もないようだ。
しかも黒髭が駄弁をこねている間にもこっそり銃に手を伸ばしていることに気づいていなかった―――が、黒髭の方も光己をただの一般人マスターと思って見くびっていた。
素早く銃を抜いて発砲するが、短刀の加護により外れてしまう。光己は気づきすらしない。
「そう言うてめえは強盗殺人犯だろーがっ!!!
判決、死刑! 即執行!!」
光己の右手の上にテニスボール大の白く輝く火球が出現する。遠目にもヤバい魔力がこもっていると一目で分かるそれを見て、黒髭はようやくこの少年が見た目通りの存在ではないことに気づいた。
サーヴァント基準でBランクの筋力で投げられた超豪速球が黒髭の顔面に迫る。
「んっひゃぁぁぁおぅ!?」
正面からとはいえ予想外のスピードだったそれを、紙一重だがかわせただけでも、黒髭は単なる変態ではなく一級の戦闘者だといっていいだろう。
「あ、あっちちちちち!?」
完全には避け切れず、トレードマークの立派な髭に引火して消すのに四苦八苦していたが……。
「避けやがったか異常者め!
だいたいお前ら1度でも襲われる人たちのこと考えたことあるのか!? わざわざ命張って遠くの国まで強盗の標的探しに行かなくても、日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう」
この台詞はドレイクたちにも刺さるのだがそれはさておき。光己の周囲に火球がぽこぽこ浮かび上がり、黒髭めがけてスズメバチのごとく飛んで行く。
しかし黒髭は気持ち悪いぬるぬるした動きながらも、うまいこと火球を避けていた。外れた火球は海に落ちるか、あるいは甲板やマストに当たって焦がしているが火事になるほどではない。
「うわあこっわい。おこなの? 激おこなの? ムカ着火ファイヤーなの?」
「こ、この!」
頭に血が昇った光己がなおも火球を飛ばすが、怒りで制御が甘くなった攻撃が当たるはずがない。
しかしそんな光己の後ろから誰かが肩をぽんと叩いた。
「ヒルド?」
「マスター落ち着いて。怒るのは分かるけど、挑発に乗っちゃダメだよ。
ほら、向こうで銃持った女の人が狙ってる」
「え」
光己がヒルドが指さした方に顔を向けると、確かにアンがこちらに銃口を向けてチャンスを狙っていた。
どうやら黒髭の策に乗せられていたようである。光己はちょっと頭を冷やして、彼女の銃の射線から隠れた。
「こういう時は逆に煽り返すくらいでないと。こんな風に」
ヒルドがそう言いながら光己にしなだれかかると、反対側からオルトリンデも寄ってきてバストを押しつけた。彼を落ち着かせつつ未来のエインヘリヤルに戦いの心得を教えながら好感度も稼ぐ、一石三鳥の策である。
当然ながら2人は盾を付けた左腕はフリーにしているし、矢避けの加護も使っている。スキはなかった。
「たとえばこうやって、いちゃついてる所を見せつけたりするわけです」
「なるほど! さすがはワルキューレ、駆け引きってやつを理解してるな」
完全に普段の調子に戻った光己がヒルドのお尻など撫でながら、黒髭に人生の勝者の余裕を誇示してみせる。
「どうだ髭オヤジ、これがモテる男ってやつだ!
悔しかったらお前もそこの2人を抱き寄せてみろ」
「ぬううっ、確かにこれは負けてられんでおじゃるな。アン氏、メアリー氏! 拙者を左右から挟んでご奉仕するでござる」
「絶対にノゥ!」
「死んでもお断わりですわ」
黒髭はむしろ光己の挑発を逆手に取って、アンやメアリーにセクハラしようとしたようだが、当然ながら2人は彼に汚物を見る目を向けただけで、まったく乗ってくれなかった……。
「フッ、かの有名な大海賊黒髭もこの程度だったか……」
「ぐぬぬ」
まだ二十歳前っぽい若造に勝ち誇られて、悔し涙をちょちょ切らせる黒髭。しかし頭の中では冷静に、これ以上の挑発や攪乱は無意味であることをさとって次の作戦を考えていた。
(この人数差……まずはあのガキを落とすしかないか)
彼が何人のサーヴァントと契約しているのかは分からないが、彼を殺せばその連中は退去になるはずである。彼はなかなか強力な魔術を使うが、しょせんは生身の人間だからサーヴァントの動きには対応できまい。護衛の盾兵たちさえ出し抜けば、殺すことは可能だろう。
「それじゃいくでござるよ野郎ども!
まずはあの生意気なガキをしばくでござる。拙者が亡霊どもで援護するから、アン氏は後ろで射撃、他の者は突撃だ」
あくまで感情に任せた行き当たりばったりの指示に見せかけつつ、光己の顔をズビシと指さす黒髭。その周りに何十人もの海賊の亡霊が現れる。
彼自身のスキルか聖杯の力によるものかは不明だが、黒髭は生前の部下を(同時に出撃できる人数には上限があるものの)無数に呼び出すことができるのだ。
その亡霊たちが手に手に銃を構えて、光己に向かって発砲する。しかし矢避けの加護に阻まれて、ことごとくあさっての方向にそらされてしまった。
(チッ、やはり魔術で身を守ってやがるか……)
どうやら直接ぶん殴るしかないようだ。黒髭は改めて侵攻を命じた。
「かかれぇぇぇーーーッ!!」
「うーん、仕方ないねえ」
確かにこの人数差を少しでも埋めるにはあのマスターを斃すのが1番手っ取り早そうだ。メアリーたちは一斉に黄金の鹿号に飛び移ろうとしたが、何とか立ち直っていたマシュの方が早かった。
「そうはさせません!
「チッ、さすがにそこまで甘くないか」
盾兵の手前に防壁が出現したので、メアリーたちは大回りせざるを得なくなった。いやサーヴァントのジャンプ力なら飛び越えることはできそうだが、軌道変更できない空中で狙い撃ちされてはたまらない。
とりあえず二手に分かれて、左右から攻めることにする。左はメアリーとバーソロミュー、右はエイリークとヘクトールだ。
「さーて、そこの平和そうな顔したマスター。海賊の誉れをコケにしたツケは払ってもらうよ!」
「私は別に気にしないけどね」
左の2人は多少温度差があるようだ。その正面にヒロインXXと沖田ノーマルとジャンヌオルタが立ちはだかる。
「おっと、マスターくんに手出しはさせませんよ。ちなみに私、宇宙刑事などやっておりまして」
「私は新選組、一般的にいえば武装警察です」
「「つまり貴方たちのような人を逮捕するのがお仕事というわけです! 今回はデッドオアデッドですが」」
「お役人ってわけかい。いいよ、かかってきな!」
「私は本場日本の刀使いのバトルを間近で見たいだけだけどね」
こうして2対3の剣撃が始まったが、右の2人の前にも邪魔者が現れていた。
まず沖田オルタと清姫がエイリークに向かう。
「やはり生きていたか。責任を取って、今度こそ私が仕留めよう」
「なんて粗暴そうなお方。早く終わりにしてますたぁの所に戻りたいものですわね」
「……ギギギ。ジャマ、ヲ、スルナァァァ!!」
エイリークは沖田オルタのことを覚えているのかいないのか、奇声とともに得物の大斧を振り上げて戦闘態勢に入った。
そしてヘクトールにはオルトリンデとメイドオルタが対峙する。
「恐らく貴方が1番の曲者なのでしょうが、ここは通しません」
「行儀が悪いお客様にはお帰り願おう。英霊の座にな」
「やれやれ、こんなオジサンに強そうなのが2人がかりなんてキツいねえ」
ヘクトールは2人の素性を知らないが、戦乙女と騎士王が組んで来たのだからボヤくのも無理はないといえるだろう。
当然のようにすぐ戦闘が始まったが、それを見さだめたヒルドが光己に声をかける。
「マスター、今だよ!」
それはトラップの発動を促す合図だった。光己が頷いて、角と翼と尻尾を出す自称「神魔モード」に移行する。
ついで天使の翼から白い光を全力で放射すると、黄金の鹿号の甲板の上全体が光に包まれて「
事前にいろいろ挑発したのも、感情任せではなく意図的に彼らの怒りを買おうとしたもの……いや半分は素だったが。
「でもこの広さをカバーするのは大変だから、これ以上のサポートは無理だぞ」
「大丈夫、あとはあたしたちに任せて!」
元々人数と情報量に差がある上に策が決まった以上、ヒルドの自信たっぷりな発言も順当といえるが……。
こうして黒髭海賊団との戦いは次の段階に入ったのだった。