FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第126話 世界最古の海賊船1

 何はともあれ黒髭海賊団は打倒された。黒髭は聖杯を持っていなかったから、おそらくヘクトールが持ち逃げして行ったのだろう。

 ヘクトールがアルゴー号に帰ってイアソンに顛末を報告したら、彼はエウリュアレを奪うためにこちらに来るはずだ。これが最後の戦いになるだろう。

 こちらは負傷者は何人かいるが死者はいないので、ワルキューレと玉藻の前が治療すれば彼らとの戦いに支障はない。

 一方ドレイクは部下たちを呼び戻して航行の準備をしている。戦闘が始まったらまた引っ込む予定だが。

 その最中光己は角と翼と尻尾を引っ込めて一休みしていたが、ドレイクの仕事がひと段落ついたところで彼女に声をかけた。

 

「それでドレイクさん、この槍持っていきますか? 要らないなら俺が欲しいんですが」

 

 彼女は「アンタの愛なんか要るもんかっ!!」と言っていたから、こちらが望めばくれるのではないかと思ったのだ。

 

「……? それはヘクトールをボコったら消えちゃうんだろ? それまでに何か役に立てられることでもあるのかい?」

「いや黒髭はああ言ってたけど、俺がいったん完全に自分の物にしちゃえば元の持ち主が退去しても現世に残しておけるんだ」

 

 なおその後元の持ち主に奪回されたらその特性は消えてしまうが、別の者に譲渡した場合は残る。

 

「だからどうしてもドレイクさんがこの槍欲しいんだったら、いったん俺の物にしてから改めて譲るって形なら事件解決した後も持っておけるけど」

 

 光己は善意というか誠意のつもりだったが、それを聞くとドレイクは何か気持ち悪いモノでも見たかのようにゾッとした顔をした。

 

「いやいや、そんなめんどくさいことしてまでして貰いたくないよ。黒髭だってそんなこと期待してなかっただろうしね」

 

 さっき黒髭にも言ったがこの槍は売るアテがないし、ドレイク一党には槍使いはいないから英雄の名槍といっても無用の長物である。奪った物を溜め込むタイプではなく江戸っ子のごとく散財するのが好きなドレイクとしては、役に立たず換金性もないくせに重い背景がある「お宝」なんてもらっても扱いに困るのだった。

 

「そっか、じゃあありがたくもらっていくよ。カルデアの本部にはヘクトールの子孫のサーヴァントもいるから」

「なるほど、お土産ってわけかい」

 

 そういうことなら話は分かる。貰って喜ぶ人が貰えば良かろう。

 

「それはそれとして、ドレイクさんたちはこの後どうする? 俺たちはアルゴー号と戦うけど、ドレイクさんたちはアルゴー号とは因縁ないだろ」

 

 ドレイク一党はアルゴー号とは敵対してなかっただろうから、ギリシャ神話最強の戦士や神代の魔術師と戦う理由はあるまい。光己はそう思ったのだが、ドレイクの答えは明快だった。

 

「何言ってんだい、最初の約束はまだ果たしてないじゃないか。

 黒髭が持ってた聖杯をアンタらがブン取ったら、この前アタシがアンタに渡した聖杯を返してもらう。そういう話だったろ?」

「うん、そう言ってくれるとは思ってたけど、相手が相手だから念のためね」

 

 やはりドレイクはヘラクレスやメディアが相手でも恐れ入ったりしなかった。いや、彼女たちはポセイドンにも立ち向かったのだから、むしろ当然か。

 

「それじゃさっそく、イアソンをシバいてお宝を取り返そう! いや元々俺たちの物じゃないけど」

「あははは、やっぱりアンタ海賊のセンスあるよ」

「ないない! それでルーラー、アルゴー号は今どの辺に?」

 

 光己は自分が平和主義者であることを改めて主張しつつ、ルーラーアルトリアに敵の居場所を訊ねた。

 

「はい、そろそろ見えてくる頃かと……あそこです!」

 

 ルーラーが指さした方向に船影が現れる。サイズは黄金の鹿号(ゴールデンハインド)と同じくらいで、見た感じ古代的な帆船のようだ。

 さて、どう戦うべきか。今回は相手が相手だしこちらの陣容もある程度バレているので、光己は軍師に意見を求めることにした。

 

「Ⅱ世さん、何かいいアイデアありませんか?」

《―――ふむ。その前にまず状況を説明するが、アルゴー号はこちらの探査圏内にも入っている。それによると、船自体に女王アンの復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)に勝るとも劣らない魔力があるから、大砲の類はおそらく効かない。

 ただ魔力反応は船を別にすると6つしかない》

「もとの5人にヘクトールを足して6人ってことですよね。何かおかしなことでも?」

 

 光己が首をかしげると、エルメロイⅡ世は教師らしくきっちり説明してくれた。

 

《黒髭と違って無限湧きする部下はいないということだ。もっともアルゴー号の乗員は、皆名だたる勇者ばかりだったから、当然といえば当然だが。

 しかしこれは漕ぎ手がいないということでもある》

 

 この時代の船は逆風や斜め風でも前進できる「三角帆」を搭載しているから、(かい)がなくても航海できるが、イアソンの時代の船はそうはいかない。大勢の漕ぎ手に櫂を漕がせる必要があるのだが、それがいないということは、おそらくメディアの魔術で何とかしているのだろう。

 

「つまり、メディアを落とせばアルゴー号は立ち往生するということですか?」

《うむ。実際のアルゴー号がどうだったかは分からんが、ここにいるアルゴー号はそうなるはずだ。

 動かすだけなら、ヘラクレスが泳いで押すとか、そういうバーサーカー染みた手もあるが、そんな方法で目指す方角に進めるわけがないからな》

「ほむ」

 

 前衛の戦士より後衛の魔術師や治癒術師を先に倒すというのはよくある戦法だし、それで船の動力も潰せるとなればさらにお得だ。当然先方も護衛をつけるとは思うが、選択肢の1つとして覚えておくべきだろう。

 

「分かりました。また何かありましたらお願いします」

《ああ、そちらは連戦になるがくれぐれも気を抜かぬようにな》

「はい」

 

 光己はそれで通信を切ったが、その一方ではメイドオルタがワルキューレズに声をかけていた。

 

「ヒルドにオルトリンデ。ヘラクレスとやり合うのに、メイドではちと心もとないから元の姿に戻してくれ」

 

 最初にヘラクレスの名を聞いた時は自信満々にしていたが、いざ決戦の時が来たとなるとやはり慎重になるようだ。

 メイドオルタはメイドになる時に個人的な信条で「単独行動:EX」のスキルを取ったが、その代わりに通常のパラメーターが低下しているので、それを元に戻そうというわけだ。

 

「うん、了解」

「分かりました」

 

 ワルキューレズも断る理由はないので、手早くルーンを使ってメイドオルタを元のセイバーオルタに再調整した。

 パラメーターが上昇した上に職業がメイドからキングになったので、威圧感や風格が段違いである。

 

「ああ、戻っちゃったのか……」

 

 ただその変化を悲しんでいる男が1人だけいたりしたが……。

 鎧なんか着て露出が減るのは悪い文明! 文句つける勇気はまったくないけれど。

 

「うむ、魔力はしっかり寄こすのだぞマスター」

「ふぁい……」

 

 しかも催促の仕方に可愛げというものがまったくない。こんなの絶対おかしいよ!

 それはそれとして、いよいよアルゴー号が戦闘域まで近づいて来た。古代の船だけに大砲の類はないのか、今のところ攻撃してくる様子はない。

 

「それじゃルーラー、いつも通り真名看破お願い」

「はい」

 

 恒例の情報ぶっこ抜きスキルである。

 それによると、まずイアソンはセイバー。宝具は「天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)」で、あの船と乗員の一部を呼び出すものだが、さすがに50人全員を呼ぶのは無理のようだ。

 次に、身の丈2メートル50センチほどもあろうかという黒い巨漢が問題のヘラクレス、バーサーカーである。宝具はすでに承知の通り「十二の試練(ゴッド・ハンド)」で、蘇生魔術が11回までかかるというものだ。

 楚々とした感じのお嬢様風の少女がメディア、当然キャスターである。宝具は「修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)」、仲間の傷や不調や呪い等を癒すというものだ。

 ヘクトールはランサーのままだが、槍を失ったので宝具開帳はできない。サーヴァントは(自分が生前常用していた)矢弾やお札のような消耗品なら、魔力さえあればいくらでも生成できるが、宝具あるいは一品物のアイテムはそんな都合よくいかないのだ。

 そしてアタランテも見ていない新顔「ディオスクロイ」がいる。アン・ボニー&メアリー・リードと同様の2人1組のサーヴァントで、その名をカストロとポルクスという。宝具は「双神賛歌(ディオスクレス・テュンダリダイ)」で、これもアン&メアリーと同様のコンビネーションアタックだ。

 

「あの双子か……確かにアルゴー号に乗っていたな。なかなかの強者だった。

 しかし特に兄の方はプライドが高かったからな。本当に王になれるならともかく、あんなうさんくさい話に協力するとは思えないが」

 

 アタランテが軽く首をかしげたが、しかし現に居るものは仕方がない。戦うしかないだろう。

 あるいはポルクスは神霊だから「契約の箱(アーク)」に捧げるために召喚したのかもしれない。いやさすがにアルゴー号の仲間を生贄にはしないか? いやイアソンがやらなくてもメディアならやるか。何しろ実の弟を殺した実績がある。

 もっとも「箱」は破壊済みだからもう関係ないのだが。

 

「―――よし、見つけたぞ。それじゃヘラクレス。

 あそこに集っている有象無象のガラクタ共に、一つ挨拶をしてあげようじゃないか」

 

 一方アルゴノーツも黄金の鹿号(ゴールデンハインド)を発見して、まずは小手調べをしようとしていた。

 

「■■■■■■■ーーー!」

 

 バーサーカーのヘラクレスは狂化の度合いが高いので、人語をしゃべることができない。肉食獣の唸り声のような返事をすると、傍らに置いてあった直径30センチほどの岩石を持ち上げる。

 

「■■■■■■■ーーーーッッ!!」

 

 そしてその重さ40キロにもなろうかという重量物を、野球のボールのような手軽さでブン投げた!

 まさにプロ野球の投手が投げたボールのような速さで、黄金の鹿号めがけて飛んで行く。

 

「岩を、投げた……!?」

「ど、け……! ぬ、おおおおお!!」

 

 光己たちはびっくりして一瞬反応が遅れたが、同じ巨体怪力型バーサーカーであるアステリオスは素早かった。ぱっと前に出て、両手でがっちりと岩を受け止める。

 投げ返してやろうと思わないでもなかったが、手の痛みと痺れがひどかったので今回は海に投げ捨てるにとどめておいた。

 

「アステリオス!」

 

 エウリュアレが心配そうにアステリオスのそばに駆け寄る一方、アルゴー号ではイアソンが高笑いを浮かべていた。

 

「あっはっは! ギリギリで受け止めたか! あそこにいる蛮人は……何だ、アレ。獣人か?」

「まあ。あの方、恐らくアステリオスさまですわ。またの名をミノタウロスと申します。神牛と人の、狭間に生まれた悲劇の子です」

「何だ、人間の出来損ないか! 英雄に倒される宿命を背負った、滑稽な生物!

 向こうの人材不足も深刻だなあ! あっはっはっはっは!」

 

 ヘラクレスが岩を投げた後も船は互いに接近しているので、イアソンとメディアの声は光己たちのところまで届いた。

 どうやら人の神経を逆撫でするのが好きな人物のようである。アタランテはイアソンを「自身は弱いが弁舌とカリスマは凄い」と評価していたが、とてもそうは見えない。

 

「…………」

 

 ただイアソンの発言にアステリオスはちょっとひるんでいた。

 父王の命令とはいえ、子供を喰った怪物であることに普段から自責の念を抱いていて、その傷口をえぐられたのだ。

 それを察したアタランテがすっと近づいて声をかける。

 

「気にするなアステリオス。汝は英雄なのだから」

「……??」

 

 何か途方もないことを言われてアステリオスはぽかんとしたが、アタランテもこれだけで通じるとは思っていない。すぐ続きを話した。

 

「確かに汝は生前は人喰いの怪物だったが、今の汝は世界と女神を守るために強大な敵に立ち向かおうとする、勇気ある戦士だ。それを英雄と呼ばずして何と呼ぶ?」

「ぼ、ぼくが、えい、ゆう……!?」

 

 正直彼女の言うことはまだ腑に落ちなかったが、しかし理には適っている。

 少なくとも否定はできなかった。

 

「それとも何だ、汝は自分が今していることを間違っていると思っているのか!?」

「そんなことは、ない! えうりゅあれをまもるのは、ただしい、こと!!」

 

 自分は頭の中身は子供だが、それだけははっきり分かる。アステリオスがそう吼えると、アタランテはこっくり頷いた。

 

「そうか、なら顔を上げろ。胸を張れ。あの失礼な男に目に物見せてやるんだ。

 ただし血気に(はや)って無茶はするなよ。汝は1人ではない、仲間が大勢いるのだから」

「う、うん……!」

 

 アステリオスは感動のあまり両目からあふれた涙をぐっとぬぐいながら、言われた通り顔を上げ胸を張った。

 人喰いの怪物が英雄、それも寂しき孤高の戦士ではなく仲間とともにあるとは。この特異点に現界した時はなぜ自分などがと思ったが、今はその運命に感謝できる。

 

「―――あらあら。子供好きで有名な貴女がアステリオスのフォローをするなんてね?」

「それはそうですが、彼も王に捨てられた子供ですので……」

 

 その陰で女神様がちょっとヤキモチなど焼いていたが、多分些細なことであろう……。

 

「……さて、ようやく出会えたんだ。ここで一切合切決着をつけようじゃないか!

 さあ、かかってきなさい! 正義の味方らしく、真っ向から戦って、押し潰してあげよう。まったくもって気分がいいな、正義とは!」

 

 当のイアソンはもはやアステリオスには興味をなくしたらしく、光己やドレイクたち黄金の鹿号のリーダーと思われる者に向かって語っていた。

 

「しかし見ればそちらにはアタランテがいるじゃないか。ならばこちらには誰がいるか知っているだろう。

 彼女は離反したとはいえ元仲間だ、私にも慈悲の心がないわけではない。

 ……そこにいるエウリュアレを引き渡せ。そうすれば、ヘラクレスをけしかけることだけは、止めておいてやってもいい。

 どうかな、そこのマスターらしき者よ」

 

 イアソンはカルデア側の人数を前にしてなお、ヘラクレスの方が圧倒的に強いと信じているようだ。

 光己としては、「箱」をすでに壊しているからエウリュアレを渡しても実害はないのだが、あんな傲慢な人間の言うことに従うどころか、真っ当な返事をしようとすら思えない。

 

「マシュ、答えてやってくれる?」

 

 マスターからマスターへの問いに直接答えず、わざわざサーヴァントに答えさせるだけでも挑発的な行為だが、委任されたマシュの言葉もまたふるっていた。

 

「はい。マシュ・キリエライト、僭越ながら答えさせていただきます!

 

 

 

 ―――来たりて取れ(モーロン・ラベ)!!!」

 

 

 

 マシュがリスペクトしている某ランサーの有名な台詞である。

 アルゴノーツが相手でも1歩も退かぬという決意と、イアソンの侮辱的な言動への怒りを如実に表した一言だった。

 

「こ、このゴミクズ風情が生意気な! お望み通り、取りに行ってやろうじゃないか!」

「おおっと、待ったあ! その前にこっちを見てもらおうか」

 

 当然イアソンは怒り狂って攻撃開始しようとしたが、なぜか光己が手のひらを突き出して制止する。

 イアソンがとりあえず彼が示した方に目をやると、東洋的な風貌をした女がエウリュアレの後ろから組みついて首筋に刃物を添えているではないか!

 

「あんたが言った通りこちらにはアタランテがいるから、あんたの目的も知ってる。

 俺たちはエウリュアレ神が死んでも困らないけど、そっちは困るんだよな。

 さーて、何をしてもらおうかなあ!?」

 

 光己はそう言って、三流悪役のごとく品のない高笑いをかますのだった。

 

 

 

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