FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第128話 世界最古の海賊船3

 ヘラクレスは1対1であれば、魔神柱フォルネウス・メディア・カストル・ポルクスの誰と戦っても勝てるだろう。しかし4対1ではさすがに劣勢だった。

 

「■■■■■■■■■ーーーーッッ!!」

 

 振り回される斧剣の速さと重さはギリシャ神話中最強の名に恥じない凄まじいものだったが、防御に専念しているカストルとポルクスの連携もまた抜群で攻め切れない。その間に攻撃担当の魔神柱が火柱を飛ばし、メディアが魔術で援護する。

 

「■■■■……ッ!」

 

 ヘラクレスの全身に火傷の痕が増えていく。生半可な攻撃では掠り傷1つ付かない頑健無比な肉体を誇る彼だが、魔神柱の炎はやはり効くようだ。

 ただしヘラクレスには「十二の試練(ゴッド・ハンド)」があり、この宝具の効果で蘇生する時は死因になった攻撃に耐性を得ることができる。だから1回や2回くらい殺されても問題はない―――なんてことをヘラクレスは考えてはいない。最強の戦士はメンタルも最強なのだ。

 それにあの肉柱は巨大な上に得体が知れない。死亡してから蘇生するまでの時間に、例えば体内に取り込んで消化吸収するといった対処しがたい攻撃方法を持っている可能性もある。

 狂化によって理性を奪われていても、戦士の本能でそうした計算はできているのだった。

 

「■■■■■■■ーーーーッ!」

 

 ヘラクレスが斧剣を振り回すさまはまるで小さな嵐のようで、風を切る音が黄金の鹿号(ゴールデンハインド)まで届くほどの勢いである。

 それを2人がかりでとはいえ受け切って、魔神柱とメディアに攻撃させないようにしているディオスクロイもまた星座になっているだけのことはある強さだった。

 

「うーん、ほんとに強いな。仲間割れしてくれて助かった」

 

 光己が素直に称賛と、やや不躾ながら安堵の言葉を口にすると、後ろからルーラーアルトリアがぽんと肩に手を置いてきた。

 今回も大きなおっぱいが背中に当たっているのが実に気持ち良くて、巨大な敵を前にしている緊張感を和らげてくれる。さすがは俺のルーラー!と光己は内心でヘラクレスに向けたもの以上の称賛を送った。

 

「そうですね、単純な格闘能力と生存力は私やXXやオルタより上でしょう。

 総合力では負けませんが!」

 

 ルーラーもヘラクレスの武勇は認めつつ、アルトリアズらしい負けず嫌いぶりは健在であった。

 実際ルーラーにはサーヴァント探知と真名看破と船があるし、ヒロインXXは空を飛んだりビームを撃ったり邪神の権能を剥がしたりできる。アルトリアオルタは聖剣ぶっぱの威力がすごいし、全面的に負けているなんて卑下する必要はないだろう。

 あと光己的にはみんな美女美少女である点が超ポイント高い。特にルーラーとXXの水着おっぱいの素晴らしさの前では、ギリシャ最強がどうこうなんて些事である。

 お尻と鼠径部については留守番中のセイバーがワンピース水着を着た時が最上かと個人的には思っているが、XXのヒモ水着も捨てがたい。1度じっくりと見比べてみたいものである。

 リリィはまだ水着姿を披露してくれてないが、やはり清楚なものがいいだろうか。しかし逆を突いて煽情的にエロスを追究するという手もある。実に悩ましい問題だ。

 ―――それはそれとしてヘラクレスだが。

 

「やっぱり飛び道具がないのが痛いみたいだなあ」

「バーサーカーですからね。アーチャーとして現界していたなら、今頃メディアを射落としていたかもしれません」

 

 しかし無いものは仕方がない。

 ヘラクレスが1歩踏み込み、斧剣を思い切り横に振るう。ポルクスはまともに受ける無理を避けて、剣で受けつつ後ろに跳んで力を逃がした。

 おかげでポルクスにダメージはなかったが、代わりにヘラクレスからメディアにまっすぐ続く道ができた。ヘラクレスは即座に前進するが、カストルが斬りつけてその足を止める。ついで魔神柱が炎を放って壁を作り、その間にメディアはポルクスと合流して安全圏に避難した。

 今の攻防では、ヘラクレスが炎を浴びて火傷を増やしただけである。即席ながらなかなかの連携ぶりだった。

 

「■■■■……」

 

 ヘラクレスが残念そうに唸り声を上げる。やはり4対1では厳しいようだ。

 

「しかしヘラクレスには『十二の試練(ゴッド・ハンド)』がありますから簡単には負けませんが、ディオスクロイは一撃喰らったらおしまいです。一概に彼が不利とはいえません」

 

 光己にこの解説をしたのはオルトリンデである。いつものエインヘリヤル教育だ。

 さりげなくすり寄って胸を擦りつけるのも忘れない。最近は彼に好意を持つ女性が増えたのでアピールは欠かせないのだ。

 

「ほむ……」

 

 光己は少女のおっぱいの感触を堪能しつつ、一応は真面目に考えてみた。

 確かにこのままの展開なら、ヘラクレスが12回死ぬまでには相当な時間がかかりそうだが、それまでに双子が1発ももらわずに済ませるのはかなり大変そうだ。メディアは相変わらず笑顔のままだが、どこか焦っているようにも見えるし。

 

「ですので、メディア側としてはヘラクレスを殺さずに無力化する、例えば麻痺させるとか眠らせるとかいったことができるなら、12回殺すよりは楽だと思いますが、あの様子では無理そうですね」

「一時的に宝具を使えなくさせるスキルというのもあるそうだけど、死亡時発動の宝具だと簡単には封印されなさそうだよねー」

 

 この台詞は反対側からくっついたヒルドである。お年頃の男子をワルキューレが左右から挟み撃つという容赦ない布陣だった。

 なお自称正妻候補の清姫・XX・カーマの3人は彼とくっついていても使える(真名看破やルーンのような)便利なスキルがないので、こういう時は真面目に警戒態勢を維持していたりする。

 

(おお、何という天国……)

 

 光己は最後のマスターの役得を全身で味わいつつ、ふと目に留まったヘクトールに声をかけた。

 

「おーい、ヘクトール」

「……何だ、坊主」

 

 この決戦の場にそぐわない緊張感のない口調にヘクトールはちょっと面憎そうな様子を見せたが、無視するのも大人げないので返事だけは返した。

 彼が自分の愛槍をまだ持っているとか、平凡そうな顔や雰囲気のくせに戦場で美女美少女を侍らせているのが面白くないとか、そういう至って人並みな感情もある。

 彼を憎むと後でデバフを喰らう恐れがあるので抑えてはいるが。

 

「あんたどっちの味方なんだ? この期に及んで日和見なんてヘタレなムーブされると、あんたの子孫に報告する時に気が重いんだけど」

 

 それを聞くとヘクトールは今度こそ露骨に眉をしかめた。

 

「なかなか煽ってくれるねぇ……。

 確かにオジサンにも子供はいたけど、トロイアが陥ちた時に殺されちゃったんだけどね」

 

 煽るにしても最低限守るべきラインというものがあるだろう、とヘクトールは思ったのだが、光己はそういうつもりではない。

 

「いや、その人が言うにはあんたの子、名前は覚えてないけど替え玉使って逃げ延びたって話だったぞ。

 証拠はないけど、本人はそう信じてる」

「…………!?」

 

 ヘクトールの顔色が別の方向に変わった。

 

「……そいつの名前は?」

「ブラダマンテっていう娘で、生前はシャルルマーニュ大王っていう王様の姪で、十二勇士の1人でもあったって言う話だよ。

 俺でも心配になるくらいまっすぐ過ぎる所はあるけど、いい娘だよ」

「へえ、そりゃ立派に育ったもんだ。鼻が高いねえ。

 しかしその勇士が何故ここにいないんだ?」

「特異点に送り込める人数には限りがあって、交代制にしてるんだよ。

 アーサー王でも留守番になってるくらいだからしょうがないんだ」

「アーサー王が留守番……なるほど、それじゃ仕方ないな」

 

 子孫の顔が見られないのは残念だが、伝説の騎士王ですらベンチになることもあると言われてはケチのつけようがなかった。

 しかしこれだけ細かいプロフィールをよどみなく語れるからには、その場任せのでっち上げではなさそうである。

 まさか息子が生きていて、しかもその子孫に勇士と呼ばれるような者が現れていたとは。

 トロイアと一緒に家族も滅びた、守るべきものはない―――それで世界が終わる時くらい弾けようと思って慣れない悪役をしていたが、それは間違いだった。子孫が生きている世界を壊す手伝いなんて、どこの誰がするというのか。

 

「オッケー、了解した。それじゃ槍を返してもらえるか?」

「……へ!?」

 

 すると何故か少年が「何都合のいいこと言ってんだ」みたいな顔をしたので、ヘクトールは逆にあきれた。

 

「おいおい、アンタは俺を味方に引き入れるために子孫が生きてるって言ったんじゃないのか?

 なら素手じゃ十分な働きはできねえだろ」

「……おお!

 いやそこまでは高望みかと思って想定から外してたからつい」

「ああ、そういうことか……」

 

 つまり人類の敵になるならなるで、せめて最後まで突き抜けさせようというのが主眼だったわけか。

 しかし納得はしてくれたようで、少年はなぜか一瞬ツノが生えた少女に目をやってから、槍を投げて寄こしてきた。

 ヘクトールは愛槍が戻ってきたことに、何ともいえない喜びと懐かしさのような感情を覚えつつ、それはそれとして彼があっさり武器を返してしまった軽率さは気にかかった。

 

「おう、ありがとさん。

 しかしオジサンが言うのも何だけど、オジサンが嘘ついててこれでヘラクレスに襲いかかる可能性は考えてなかったのかい?」

「ああ、それはこっちに嘘見破るのが得意な娘がいるから大丈夫だよ」

「へえ、それはまた……」

 

 なるほど、さっき彼がツノ少女の方に顔を向けたのはその確認をしていたのか。サーヴァントのスキルにはいろいろあるが、そんな芸当まであるとは恐れ入った。

 もちろん完全に信用されたわけではないことを不快に思ったりはしない。むしろ彼らの使命を考えれば、その慎重さは喜ばしいことである。

 

「よっしゃ。それじゃどう転んでも最後の戦いだから、いっちょ派手にいきますかねえ。

 坊主、オジサンの戦いぶりをしっかり目に焼き付けといてくれよ」

 

 ヘクトールが軽く槍を振り回しながらそう言うと、メディアが声をかけてきた。

 

「あら、ヘクトールさまはそちらに付かれるのですね」

「ああ、話を聞いてたなら分かるだろ? 今のオジサンはさっきまでの倍は強えから、心してかかってきな」

「そうですか、残念です」

 

 実際、ヘクトールは先ほどまでとは別人のような覇気が抑え切れないほどに噴き上がっているが、メディアはやっぱり微笑んだまま、本当はどう思っているのかまったく感じ取れない。

 まあ彼女の内心がどうであろうとやることは同じだ。ヘクトールは槍を構えて戦闘態勢に入ったが、そこに横合いから制止の声というか咆哮が聞こえた。

 

「■■■■■■ーーーッ!」

「おおっ!? えーと、こいつは俺の獲物だって言いたいのかい?

 しかしオジサンにも見栄ってモンがあってね。ここはアンタがメディアと魔神柱、オジサンが双子とやるってのはどうだ」

「■■■■■■ーーー!」

 

 相変わらずヘラクレスは何を言っているのか分からないが、どうやら承知したように見えた。ディオスクロイはメディアに戦わされているだけなので仇度が低いからだろうか。

 ヘラクレスがいったん後ろに跳んで間合いを取り、そこにヘクトールが入り込む。

 

「相手に取って不足はない……というかあり余るくらいだけど、せいぜい粘らせてもらいますかね!」

 

 ヘラクレスを追おうとした双子の前に立ちはだかって、ヘクトールは薄く笑いながらそう(うそぶ)くのだった。

 

 

 

 

 

 

 こうしてアルゴー号での戦いは2対4になったが、依然としてカルデア一行にはやることがない。

 

「う……ぼく……おやす……み?」

「そうね。あんな災害みたいなのと戦わずに済むなんて、イアソンはさすがに可哀そうだと思うけど、ラッキーだったわ」

 

 アステリオスは「今の汝は英雄だ」と言ってもらえたからか、見ているだけなのがもどかしい様子だが、サーヴァントになっても非戦闘員気質のエウリュアレは素直に喜んでいた。

 

「そうだね。ヘラクレスもヘクトールも、今さらここで聖杯にかける願いなんて無いだろうから、このまま2人が勝ってくれれば大団円だ。

 本当に予想外の展開になったけど、結果的にはカルデアのマスターの作戦が大成功ってところかな」

「全くだな、しかし油断はするなよ」

 

 ダビデとアタランテも歓迎派のようだが、出番がないのを残念がる者もいた。

 

「うーん。これが最後だというのに、水着沖田さんの煌めきをマスターに披露できないとは……。

 今メディアの後ろからジェット三段突きをかませば確実に()れるのですが」

 

 これが新選組脳というものだろうか。確かに沖田案を採用すればメディアを落とせる、ついでに双子も退去させられるのだが、それは英雄2人に申し訳なさすぎて光己は採用しがたかった……。

 

「とにかく今は待機ってことで。ヘラクレスとヘクトールが勝つと決まったわけじゃないし」

「そうですね。いざとなったらお姉ちゃんがまた巨大タコ(クラーケン)巨大電気クラゲ(マンノウォー)を呼び出して海獣大決戦にしますから!」

「しなくていいって!」

 

 過激派は他にもいるので。

 

 

 


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