FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第129話 世界最古の海賊船4

 ヘクトールがディオスクロイを抑えてくれたので、ヘラクレスはようやく友の仇メディアを狙えるようになった。ただ、ヘクトールは確かに強いが2対1では長くはもつまいから、速攻で決着をつけるべきだろう。

 するとメディアは当然ながらというべきか、ヘラクレスと直接やり合うという無謀オブ無謀を避けて空中に逃げた。魔神柱の陰に隠れて、彼の援護に回る。

 

「■■■■……」

 

 ヘラクレスの巨体は、船の甲板という狭い場所でせかせか追いかけっこするのには向いていない。まして相手が空を飛んでいては尚更で、ここは動かない的を先に倒すしかなさそうだ。

 

「■■■■■■■■■ーーーーッッ!!」

 

 並みの戦士では持ち上げることも難しい重厚な斧剣を竹刀のように軽々と振り上げて、人類の滅亡をもくろむ猛悪なる肉の魔物に躍りかかるギリシャの勇者。その威力は素晴らしく、おぞましき黒い肉柱は豆腐のようにざくざくと斬り裂かれていく。

 しかし魔神柱は体内に聖杯を抱えている上に、メディアが後ろから治癒魔術をかけるので、斬っても斬ってもすぐ再生してキリがなかった。むろんその間にも魔神柱は攻撃してくる。

 ただヘラクレスにとって幸運なのは、船の上に魔神柱の味方がいるので、無差別攻撃になる毒煙や毒液を吐き出して来ないことだった。代わりにというか、フォルネウスはレフが浴びたあの白い光を浴びていないのでフルスペックで戦えているが。

 

「―――ん? ってことは、ヘクトールは魔神柱が斃れる前に双子斃しちゃいけないのか?」

 

 その辺りに気づいた光己がちょっと首をかしげた。

 魔神柱が毒液と毒煙を吐かないのは甲板の上に味方が残っているからだろうから、双子がいなくなったら当然吐くと思われる。

 甲板の上に毒煙と毒液が充満してしまったら、いかに優れた武人でも避けようがない。ヘラクレスは「十二の試練(ゴッド・ハンド)」があるからともかく、ヘクトールは成すすべもなく死んでしまうだろう。

 空を飛ぶ、あるいは防壁を作るといったスキルがあれば別だが、多分持っていないだろうし。

 

「いえ、その心配は要らないかと存じまする」

 

 すると段蔵が異論を唱えてきた。むろんヘクトールが勝てないと言うのではない。

 

「ディオスクロイを討つだけでも武勲としては十分ですから、魔神柱が毒煙を吐き始めたらこちらに避難してもらえば宜しいかと」

 

 もともとヘラクレスは1人で4人とも討つつもりでいたのだから、戦場に居残れない状況になったなら避難しても不義理にはならないだろう。まして手柄を挙げた上でのことだし。

 黄金の鹿号(ゴールデンハインド)はアルゴー号と接舷してはいないが、武闘系のサーヴァントなら余裕で飛び移れる程度の距離だ。万が一ヘクトールが重傷を負って自力で退避できなくなったとしても、段蔵は両腕の肘から先を射出できるのでアルゴー号の甲板に乗り込まなくても救出できる。

 

「おお、なるほど! やはり忍者はその手の策には長けてるな」

「い、いえ、それほどでも」

 

 光己が率直に褒め称えると、段蔵は照れくさそうに顔を赤らめた。

 いや無理にヘクトールを助ける必要はないといえばないのだが、味方になってくれたのに簡単に見捨てるのはやはり人道に反するだろう。この先の特異点でまたヘクトールが出て来ないという保証はないし。

 そんなわけで光己はディオスクロイを倒した後のことはまだ話さず、2人を倒すためのヒントだけを教えた。

 

「ヘクトール! その双子は2人で1個のサーヴァントだ。だからどっちか片方を斃せばもう片方も消える」

「……なるほど、そりゃどうも」

 

 ヘクトールはそれを聞くと薄く笑った。

 どうやら黒髭の部下だったアン・ボニー&メアリー・リードと同じ性質のようだ。それなら勝ち目は多少増える。多少程度だが。

 

「…………!!」

「―――っとぉ! オジサン1人に、若者が2人がかりで容赦なく攻めてくれるねえ」

 

 今現在、すでに防戦一方の有様なので。さすがは星座に上げられた戦士だけあって強い。

 まるでペアダンサーのように流麗な、甲板の上を舞い踊るがごとき闘技。しかしその一撃一撃が必殺の速さと重さを備えている。しかも時々魔神柱が炎を飛ばしてくるというオマケ付きだ。

 ヘクトールは得物の長さ=間合いの広さという唯一の利点を生かして、2人を懐に入らせない的確な槍捌きで見た目やや不利程度に戦っているが、正直かなりキツかった。忙しくて宝具を開帳するための魔力を溜める暇もない。

 

「こんなに気力体力が削られる戦いは久しぶりだねえ……。

 こういう時は相打ち覚悟で一矢報いるってのが王道なんだろうけど、今回はやりたくないんだよな」

 

 カルデアの現地組は本部のサポート要員と会話くらいはしているはずだ。さっきは戦闘中だから控えたが、戦いが終わってから特異点修正が始まるまでには多少の猶予があるから、その間に子孫と一言二言話すくらいはできるだろう。

 

「とはいえ……どうしたものかねぇッ!!」

 

 チラリと横目で相方の様子を見るに、ヘラクレスも攻めあぐねているようだ。相手が相手だから仕方ないことだが、彼が先にメディアを斃してくれるという期待はしない方が良さそうだ。

 いやそれだとこちらの武勲がだいぶ目減りしてしまうのだけれど。

 

「やっぱり自分で、それもなるべく急ぎでどうにかしなきゃならんみたいだな!」

 

 ヘクトールがキッと気合を入れ直すと、その戦意を感じたのか双子も表情を改めた。

 片腕を組んで、コマのように回転して遠心力をつけながら斬り込んでくる。

 

「力技で決めに来たか? だが甘いな」

 

 ヘクトールはポルクスの横薙ぎの剣撃を受け止め切れず横に跳ばされたが、その先には船のフェンスがあった。ちょうどそちらに跳ぶように、受ける位置を調整したのだ。

 フェンスを蹴って元の位置に跳び戻る。

 

「……!?」

「狂化がなけりゃ、もっと細かい配慮ができたんだろうがな。喰らいな!」

 

 ヘクトールがまさに乾坤一擲の勢いで愛槍を繰り出す。

 しかしディオスクロイもさる者、普通ならポルクスが背中を刺されていただろうそれを、一瞬早く床を蹴って加速することで回避する。ついでカストルが槍を払った。

 さらに半回転して、ポルクスが剣で斬りつけにいく。しかしヘクトールはこの展開も読んでいた。

 槍を払われた勢いに逆らわず、むしろ自分の力も加えて高速回転しながら槍の石突きを後ろに繰り出したのだ。

 

「……ッ!」

 

 先手を取られて腰を打たれたポルクスがよろめくが、すかさずカストルが助け起こす。相変わらずの連携ぶりとはいえ隙は確かにあったが、ヘクトールはそこを襲わず逆に後ろに跳んだ。

 

「……?」

 

 双子は彼の意図を読めず一瞬訝しげな顔をしたが、すぐに気づくと左右に分かれて挟み撃ちを仕掛けた。だがヘクトールの方が一瞬早い。

 

「もらったぜ。『不毀の極槍(ドゥリンダナ)』!!」

 

 本来なら遠くに投げて爆発を起こして対軍攻撃するそれを、対人用に威力をセーブする代わりに、というか逆用してチャージタイムを短縮して放ったのだ。

 突き出した槍はポルクスの剣に払われたが、その瞬間に爆発が起こる!

 

「!!!!!」

 

 穂先が刺さりはしなかったが、この至近距離では頭部はカケラも残らないだろう。

 なおポルクスを狙ったのにはちゃんと理由がある。カストルの武器は円盤の側面に刃物がついたような形状、つまり盾としても使えるので、払うのではなく受けられたら殺し切れない恐れがあると踏んだのだ。その点ポルクスの剣では―――素人相手ならともかく、ヘクトールの槍に対しては―――そんな器用な真似はできないだろう。

 ところで宝具を開帳すると、程度の差はあれ力が抜けて隙ができるものだが、今回はその辺も考えてある。爆圧はほとんどを前方に向けたが、少しだけ横と後ろにも向けるようにしたのだ。

 これでヘクトール自身とカストルが別方向に吹き飛ばされることになるので、すぐ彼に襲われることにはなるまい。その代わりに背中からフェンスに叩きつけられたが、まあささいなことだ。

 

「いや、ささいじゃなかったねえ……これは」

 

 ふと右太腿に鋭い痛みを感じて目をやると、ポルクスの剣が深く刺さって腿の裏まで貫通していた。まさかあの刹那に剣を投げていたとは。

 

「こちらが一矢報いられる側になるなんてね……いや本当にこれは相打ちか!?」

 

 ポルクスは上半身が消失しているからカストルもすぐ退去になるはずだが、それは今この瞬間というわけではない。カストルは狂化していても妹を殺されたことは十二分に理解しているようで、全身から憤怒と殺意が濃厚な蒸気のように噴き上がっている。

 一方ヘクトールは槍は手に持っているが、ポルクスの剣は刀身に「*」状の出っ張りがあるので傷口が広い。これでは満足に動けず、怒れる狂戦士が退去になるまで持ちこたえるのは難しそうだ。

 

「やることはやったからブラダマンテ、だっけ? 肩身が狭くなることはないだろうけど、ちょっと残念だねえ……」

 

 まあそれでもあがけるだけはあがいておこう。ヘクトールは立ち上がって槍を構え直した。

 

「■■■■■■■■■ーーーーッッ!!」

 

 今まで比較的冷静だったカストルが、ヘラクレスもかくやという猛獣めいた咆哮をあげて襲いかかってくる。ヘクトールはすくみ上がったりはしなかったが、死を予期させる程度の危険さと凶悪さは感じられた。

 ところがその直前、上空からカストルに光の弾丸らしきものが乱射されたのでヘクトールは一命をとりとめた。

 

「な、何だ!?」

「想定より少し早いですが、救出に来ました。これを掴んで下さい!」

 

 その声と同時に、なんと人間の腕の肘から先が飛んできた。これには海千山千のヘクトールも仰天したが、とにかく言われた通りその手を掴む。

 すると肘に付いていたワイヤーが引き戻され、ヘクトールの体は上空に釣り上げられていった。激怒したカストルが追いすがろうとするが、今度は大きめのビームで足止めされる。

 その間にヘクトールは船から完全に離脱していた。

 

「ヘラクレス殿は手出しするなと言っていたようですが、ヘクトール殿は明確にそう言ったわけではありませんので、僭越ながらお助けしに参ったのでありまする」

「確かに手出し無用とはっきり言ってはいなかったな……いや、助かったよ。

 カルデアのマスターはなかなか気が回る人みたいだねえ」

 

 逆にいざとなったら助けてくれとも言っていないが、やはり子孫がいるから配慮してくれたのだろう。ヘクトールが黄金の鹿号の甲板に降りると、マスターの少年が出迎えてくれた。

 

「おお、無事で良かっ……いや無事じゃないな。誰かこの剣抜いてあげて! それと治療も」

 

 素人が下手に抜くと無駄に傷を広げる恐れがある。光己が自分で抜かず、心得がある人に依頼したのは正しい判断といえるだろう。

 

「では私が」

 

 するとオルトリンデが手を挙げて、ヘクトールの腿からポルクスの剣を引き抜く。ヘクトールにとっては先ほど戦った少女だが、遺恨の類はないらしく手際は良かった。

 ただ抜いた剣を少年に渡して、しかも少年が角と翼と尻尾を出したのはどういう趣旨なのだろう。

 

「マスターはサーヴァントの持ち物を奪うと、元の持ち主が退去してもそれを残しておくことができるのです」

「へえっ!?」

 

 表情で察したのか少女が説明してくれたが、それはまたニッチなスキルを持っているものだ。大勢のサーヴァントと遭遇することが運命づけられたマスターに打ってつけの芸当ではないか。

 

「なるほど、それでオジサンの槍を持ってたわけか」

「はい、貴方が味方になったので返しましたが。

 それと治療をしますので動かないで下さい」

「アンタ治療もできるのか。若いのに多芸だねえ」

 

 しかも空中に浮かび上がったこの文字の形、もしかしてルーン魔術ではないか? それに得物が槍だったり空を飛べたりすることから考えて、この少女はワルキューレだろうか。なら強いのも納得だ。

 

「しかしずいぶん手回しが良かったが、やっぱりオジサン1人じゃディオスクロイには勝てないと思われてたのかい?」

「いえ、私たちが心配していたのは貴方が勝った後のことです。すぐに分かるでしょう」

 

 そう言われてヘクトールがアルゴー号に視線を戻すと、双子は力尽きたのか光の粒子と化して消え始めていた。するとまったく想像だにしていなかったことに、肉柱が露骨に禍々しげな感じの黒い煙と濁った水を吐き出し始めたではないか!

 

「あれは呪詛が煙や水の形を取ったようなもので、ヘラクレスならともかく貴方では対処のしようがないかと思いまして」

「た、確かにあれは槍術がいくら上手くてもどうしようもないねェ……」

 

 アルゴー号の甲板が毒煙と毒液に浸されていくのを見て、さすがのヘクトールもちょっと冷や汗をかいたのだった。

 

 

 

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