FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第140話 騎士王再来2

 セイバーはモルガンの顔を見ると反射的に斬りかかりそうになったが、状況を鑑みて剣を下した。別の自分やマシュが一緒にいる以上、何らかの理由があるに違いないのだ。

 というかよく見たら縛られて転がされているサーヴァントがいるが、あれはもしかして監督役から抹殺依頼が出たキャスターなのではないか?

 

「ええと、説明はしてもらえますよね?」

「もちろん。ですがその前に、キャスターはもう1度隠蔽しておきましょう」

 

 人気(ひとけ)のない場所ではあるが、万が一誰かが通りかかってジルの姿を見られたら通報されてしまう。アルトリアはモルガンに頼んで、彼だけもう1度認識阻害の魔術をかけてもらった。

 ジルを今起こして説得するという選択肢もあるのだが、アインツベルン陣営への説明を済ませてからにした方がいろいろスムーズにいくだろう。

 というか人の容姿をあれこれあげつらうのは上品な行いではないが、ジルは正直不気味な上に体も大きくて目立つので、人前に出る時は常時霊体化してもらうか認識阻害をかける方が無難だと思う。抹殺依頼が出ているから他の陣営に見せるのは好ましくないし。

 

「で、モルガンについてでしたね。私とて好きで一緒に仕事しているわけではなく、マスターは召喚したてのサーヴァントは次の仕事には必ず連れて行くという方針だというだけです」

「なるほど。つまりここにいるサーヴァントはみんなカルデアという組織が召喚したサーヴァントで、貴女もモルガンもその一員というわけですか」

「はい、私はこの第4次聖杯戦争の知識があるので自薦してきたのですが」

「ああ、そういえば昨夜会った時も落ち着いたものでしたね」

 

 セイバーはアルトリアを見た時大変驚いたが、アルトリアはセイバーと会うことを知っていたかのような態度だった。不思議に思っていたが、そういうことなら納得がいく。

 

「しかし、モルガンは信用できるのですか? 貴女も彼女に陰険な手口で苦しめられたのは覚えているでしょう?」

 

 セイバーがそう危惧するのは当然だったが、モルガンがこれに反応するのも当然であった。

 

「ほう、まるで私が悪の権化であるかのごとき言い草だな。貴様とその手下だけが絶対正義で、貴様らに抵抗した者は全員悪だとでもいうのか?」

「え!? い、いや、それは」

 

 セイバーは生前ブリテンを守り切れなかったことを悔やんでいるので、モルガンの言葉にすぐ言い返すことはできなかった。

 

「ああ、それとも騎士道とやらに反するからダメだということか? 生憎だが私は騎士ではないから関係ないな。

 というか騎士道なんてものが持てはやされるのは、実際に騎士道を体現した騎士が少ないからだろう。貴様ご自慢の円卓の騎士ですら、不倫だの謀反だのと」

 

 この発言はモルガン自身にも刺さるのだが、それについてはつつましく沈黙を保った。妖精國女王は心に棚をつくる技術も一流なのだ。

 

「うぐぐ」

 

 モルガンの言葉の魔槍がセイバーの全身にざくざくと突き刺さり、少女騎士は膝をついて身を震わせた。

 

「……フン。そんなザマだからたった10年で国を潰すハメになるのだ。

 情けない。なんと情けな―――」

「ま、まあまあその辺で!」

 

 セイバーがダメージを受けている様子を見てモルガンはさらなる追撃を加えようとしたが、見かねたジャンヌが割って入ったのでいったん停止された。

 

「こ、この毒婦ーーー!」

「まあまあ、貴女も落ち着いて」

 

 一方ぷっつん来たセイバーに対しては、それを予想していたアルトリアが後ろから羽交い絞めして止めている。何しろ自分だから行動を予測するのは容易だった。

 

「それはまあ同盟を組んだのですから諍いは避けたいと思いますが、本当に大丈夫なんですか?」

「今の所、ケガをするような危害を加えてきたことはありませんよ。口論は絶えませんが」

「……」

 

 やはり仲良くはできていないようだ。セイバーは腹に据えかねるものはあったが、実害はないと言われてはあまり強硬には出られない。

 それにモルガンの立場で考えれば、姉なのに妹に国を奪われたのだから隔意を抱くのは当然だ。それを憎まれ口を叩く程度で済ませているのだから寛容とも言えるわけで。

 なので今は棚上げにして、別の疑問点を訊ねることにした。

 

「貴女がたは聖杯が汚染されていたら回収もしくは解体すると言いますが、汚染されていなかったらどうするんです? 仮にも万能の願望機を前にして、何もせずに手を引くというのですか?」

 

 目の前の自分はもちろん、マスターもモルガンも他のサーヴァントたちも望むものはあるだろう。でなければ、聖杯戦争に割り込むなんて危険な仕事は引き受けまい。

 しかしカルデアの自分はまったく執着がないかのような口ぶりだった。

 

「そうですね。勝者がよほど問題のある願望を持っているのでない限り、手出しをするつもりはありません。

 そもそもカルデアのサーヴァントは、私を含めて聖杯目当てで現界したのではありませんから」

「…………!?」

 

 セイバーは一瞬耳を疑った。それでは何のために現世に訪れたというのだろうか?

 

「私の場合は、この国の言葉でいう『義を見てせざるは勇なきなり』という感じですね。マスターとカルデアはとても重大な使命を背負ってますので、非力ではありますが手を貸しているのです。

 とはいえ、役得も十分ありますが」

「役得?」

 

 首をかしげたセイバーに、アルトリアはいっそ自慢げとさえいえそうな顔を見せた。

 

「ええ。生前の我が国とは比べ物にならぬ美味な食事を三食いただいてますし、前の仕事では勝利の女王の知遇を得て手料理をいただくという栄誉にもあずかりました」

「勝利の女王!? それはまさか、ローマに謀反を起こしたあのブーディカ女王ですか!?」

 

 ブーディカはブリテンでは非常に知名度の高い人物であり、セイバーにとっては先輩でもある。目の色を変えて食いついた。

 

「ええ、そのブーディカ女王です。復讐者(アヴェンジャー)だった時はまさに復讐の権化で悪鬼羅刹のようでしたが、騎兵(ライダー)になった後はブリテンの民はもちろん、敵だったローマの民をも悼む心を持つ快活で慈愛あふれる人物でした。

 しかも女王でありながら権高なところはなく、今言ったようにみずから料理を作って仲間に振る舞うという気さくで家庭的な面もありました。

 カルデアに来て下されば、私もさらにやる気が上がるのですが」

「な、何という!?」

 

 セイバーは羨ましさに体をわなわな震わせた。同じ自分でありながら、1人だけそんないい思いをするなんて。

 いや自分はブリテンを救うという大願を投げ出す気はないが、ないが……!

 

「でも本当にそれだけですか? 聖杯を使ってあの滅びを回避したいとは思わないのですか?」

「思いませんよ。()()()()()()私は死後英霊の座に登録されて、そこから来たサーヴァントですから。

 死者の部分コピーが今を生きる者の世界に過度の影響を与えるべきではないと考えているのです」

「……え」

 

 セイバーは意外さに目をぱちくりさせた。

 しかしそれなら自分ほど故国に執着しないのも分かるし、第4次聖杯戦争の知識があるのも当然だ。

 おそらくこことは少しだけ違う、とても似通った平行世界の生まれなのだろう。

 

「もっとも聖杯を手に入れたら受肉してまた世界征服したいという蛮族もいますが。ええ、こちらの駄姉も同類です」

 

 アルトリアは皮肉をこめまくった目でじろーりとモルガンを睨んでみたが、当然ながら1ミリもたじろがせることはできなかった。

 

「蛮族……ああ、さっき会ったイスカンダルのことか。確かに相当な大物だな。

 平時は気性と才能を持て余していらん騒ぎを起こすだけだろうが」

「ぐ」

 

 むしろ部外者だったエルメロイⅡ世に流れ弾が飛んでいたがそれはさておき。

 

「誤解がないように言っておくが、似てはいても同じではないぞ。私は過去を変える気はないし、聖杯に頼る気もないからな」

 

 聖杯はカルデアに持ち帰ると単なる魔力リソースになってしまうという事情もあるが、聖杯で過去を変えるというのは特異点案件であり光己を含むカルデアと敵対することになるし、受肉してサーヴァントではなくなるとマスターとのつながりが切れてしまうからだ。これまで何度も何度も何度も何度も失敗してきたのに、自分から最強の味方(アルビオン)を袖にするほどモルガンは世の中を甘く見てはいなかった。

 

「……? 貴女は自分が生まれ育った時代には興味がないというのですか?」

「私はブリテン島の仔だから、ブリテン国の王になるのはいわば習性のようなものだ。

 しかし王である時代にこだわりはないからな。民族も気にしない。城もまた建てれば済むことだ」

 

 モルガンは生前は国の名が示すように妖精たちの王だったが、彼らは氏族ごとに別の生物ではないかと思うほど差異があったのだ。まして人間の民族間の違いなどささいなことである。

 

「ああ、だからといって住人がどうなってもいいということではないぞ。()()()()()()()()()()()、秩序を与え公正に守護するのは当然のことだ」

「うーん……それならあまり突っ込む余地がないような」

 

 強いて挙げるならアルトリアが言った「死者の部分コピーが~~」の件くらいだが、今まで考えたこともなかった理屈で他人を責めるのは正当とはいえまい。

 なのでセイバーがいったん沈黙すると、モルガンはアルトリアに顔を向けた。

 

「しかしああいう者がいるのなら、我が国も有為の人材を集める必要があるな。

 おいアルトリア、貴様私に従う気はないか? もし前非を悔いて我が軍門に降るなら、元帥とか大将とかそういう地位をくれてやるぞ」

 

 それは案外本気の勧誘かも知れなかったが、アルトリアの返事はこれ以上ないほど単純明快なものだった。

 

「ノゥ!!」

「イエスと言え!!」

「絶対にノゥ!!!

 ……何を企んでるのか知りませんが、私は貴女に対してはノーとしか言いませんよ」

「相変わらず頑固な奴め、ならば心変わりを誘発しよう。この12門のロンゴミニアドに貴様は勝てるかな?」

「イエ―――」

 

「ま、まあまあ2人ともその辺で! アイリスフィールさんもいるんだし」

「む、確かにそうですね。私としたことが不作法をしました」

「マスターがそう言うのなら」

 

 この程度の口ゲンカはいつものことだったが、人前ではよろしくないと思った光己の仲裁でとりあえずは収まった。

 その次はアイリスフィールに謝罪せねばならない。

 

「あー、見苦しいとこお見せしてすみません。でもアルトリアが言ったように危害とかまでは行かないと思いますので、広い心で見逃していただければと」

「いえ、モルガン王妃とアーサー王の姉妹がこの程度の口ゲンカで済ませてくれるのなら安いものよ。

 あなたの人徳かしらね」

「いえいえ、2人が自制してくれてるからですよ」

 

 幸いにもアイリは寛容で笑って済ませてくれたので、光己は次の話に入ることにした。

 

「それでこれからどうします?」

「そうね、でもその前にさっきのキャスターはどうするの? 抹殺しなかった理由は分かったけど、起こして味方につけるのかしら?」

 

 蓑虫ばりに縛り上げた人間をいつまでも引きずり回して歩くわけにもいくまいから、そろそろ話をつける頃合いなのではないかとアイリは思ったのだが、そこにアルトリアがおずおずと済まなさそうな顔で割り込んできた。

 

「あ、いえ、その……ジャンヌ2人には悪いと思うのですが、できればジルはそのまま眠らせておいてほしいのですが」

「え、何故ですか?」

 

 アイリより先にジャンヌがそう訊ねると、アルトリアは曰く言い難げな顔で理由を話し始めた。

 

「えーと、その……実は今思い出したのですが、私の記憶にある第4次聖杯戦争では、ジルは私をジャンヌと勘違いして執拗につけ回してきたのです。

 その上あの顔と目つきでわけのわからない因縁をつけながら海魔の群れまでけしかけてきたものですから、見た目が似てるだけのはずのタコが苦手になってしまったくらいで。

 いえ私だけならまだしも、同盟相手にまで迷惑をかけるのはさすがに」

「……? 確かに私とアルトリアさんは顔つきは似ているかも知れませんが、親しい者が見間違えるほどではないと思いますが」

 

 ジャンヌはアルトリアが嘘を言ったとは思わなかったが、鵜呑みにもできなかったらしく不思議そうな顔をしたが、すると謎が解けたマシュが話に加わってきた。

 

「あの、ジャンヌさん。フランスの特異点でダメスロットが貴女をアーサー王だと勘違いして襲ってきたことがありましたよね。それと同じことなのでは」

「え……ああ、そういえばそんなことがありましたね」

 

 狂化したランスロットがジャンヌをアルトリアと誤認したなら、(復讐に)狂ったジルがアルトリアをジャンヌと勘違いしてもおかしくはない。容姿ではなく人間性とか魂とか、その辺を見たのだろう。

 

「……うーん。寝かせたままにしておくのは気が引けますが、確かに部外者にまで迷惑をかけるのは心苦しいですね。戦力が不足しているわけでもありませんし、私はそれでかまいません」

「まあ確かに……若い女が晩年のジルに関わるのは問題ありまくりだものねえ」

 

 ジルの晩年の所業を思えば、ジャンヌ2人もアルトリアの希望を無碍にはできない。こうしてジルは聖杯戦争が終わるまですやすやおねむということになったが、お互い部下や仲間が人様にあらぬ迷惑をかけたとあっては一言なしでは済まされない。

 

「それはそうと、今の話によれば我が国の騎士が迷惑をかけたようで。主君として謝罪させていただきます」

「いえ、こちらこそ。食べ物の好き嫌いにまで響いてしまったようで申し訳ありませんでした」

 

 アルトリアもジャンヌもいさぎよい態度だったが、関係者4人の外見年齢を考えると実にシュールな光景であった……。

 またその後改めて互いに自己紹介もしたのだが、Ⅱ世(疑似サーヴァント)やジャンヌオルタ(つくられた存在)はまだいいとして、ヒロインXXがアーサー王の一側面ということにアイリとセイバーはすぐ納得できずにいたが、まあ重大な問題ではないだろう。多分。

 ―――そしてこれで同盟のためにしておく最低限の話は終わったので、一同は今日のところはいつまでも暗い屋外にいるのを避けてアイリたちの根拠地に帰ることにしたのだった。

 

 

 

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