FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第144話 バーサーカー陣営

 タマモキャットがどういう存在なのかはよく分からないが、玉藻の前=白面金毛九尾の狐の別側面か何かだというのなら、強力なサーヴァントであることだけは確かだろう。エルメロイⅡ世もアルトリアもそこに疑念は持たなかったが、自分の記憶とのあまりのズレっぷりに彼女をしっかり観察して分析しようという気にもなれない。

 するとその態度に不自然なものを感じたのか、キャットがⅡ世に話しかけてきた。

 

「む、もしかして我がオリジナルと知り合いか? いかん、いかんぞオヌシたち!

 あの玉藻オルタは1匹見かけたら30匹はいる腹黒毒舌で邪悪な魂。もし遭遇してしまったら直ちにアタシに通報するのだな。すみやかに駆除して清潔で平和なキッチンを実現してやろう」

「アッハイ」

 

 海千山千のⅡ世もこれにはまともに応対できず、こくこくと首を縦に振るしかなかった……。

 これはやはり頭バーサーカー、実力がどうであれギルガメッシュと一騎打ちさせるのには不安しかない。雁夜が弱気になったのも当然といえよう……。

 Ⅱ世は彼女と長話すると頭がおかしくなりそうな気がしたので、急いでマスターの方に話を振った。

 

「そ、それでミスター間桐。条件を変えたいと聞いたが具体的には?」

「あ、ああ。ええと、遠坂のサーヴァントに勝つ自信がない、と言ったところだったな。そこで俺は改めて考えた。俺が聖杯戦争に参加した目的は何だったのかを」

 

 遠坂時臣のサーヴァントに勝って彼に一泡吹かせるというのは過程というかオマケであって、最終目標は「間桐桜」を間桐家から解放することだ。そのために「間桐臓硯」と交渉して聖杯戦争に勝ったら桜を引き取るという約束をしたが、これもまた手段に過ぎず、結果的に桜を救出できるならこの約束にこだわりはない。

 つまりキャットに間桐家を襲撃させて桜を拉致するという手を思いついたのだが、やはりキャット1騎では不安がある。そこでランサー陣営に手伝ってもらうため、こうして同盟交渉の場に現れたというわけだ。

 聖杯でかなえたい願いがないと言えば嘘になるが、桜解放に比べれば軽い。だから手伝ってもらう見返りに聖杯は譲ってもいいし、何ならキャットへの命令権を提供して聖杯戦争から身を引いてしまってもいい。

 

「……ふむ、間桐臓硯といえば蟲を操る魔術の使い手だったな。それで桜嬢が虐げられているというわけかな?」

「そうだ。そちらのマスターは魔術師に見えないから詳しく語るのは憚られるが……間桐の魔術というのは、大人でもまともな神経では耐えがたい地獄そのもの。まして小さな女の子が正気を保てるはずもない。1日も早く救いたいんだ」

「なるほど。そういうことであれば、我らがマスターはよほどの理由がない限りノーとは言うまいな」

 

 Ⅱ世は魔術師だが一般人の感性を強く持っており、まして今回の特異点出張では「実際には救えないとしても、今この場でできる最善をなしたい」と考えている身だ。人助けをして味方が得られるなら言うことはないし、マスターは一般人の枠内でも善良の部類に入る人間だから尚更だと思われる。

 

「そうですね。それじゃ無事同盟締結ということで、こっちのメンバー公開します。

 モルガン、お願い」

「はい」

 

 光己の要請に応じてモルガンが認識阻害の魔術を解くと、彼の後ろにマスターとサーヴァントがずらずらと7人も現れた。

 雁夜はランサー陣営がこれほど大勢の味方を引き入れていたことに驚いたが、それ以上に心臓が止まりそうなほど仰天し、ついで歓喜したのは。

 

「おおぉ、まさかもう桜ちゃんを助けてくれていたなんて……。

 ずいぶんやさぐれた様子に見えるが、むしろそれで済んでる方が僥倖か……。

 桜ちゃん、もう少し近くで顔を見せてくれ」

 

 まるで夢遊病者のような頼りない足取りで、ふらふらとカーマに近づく雁夜。

 カーマの方は正直言って気味悪く思ったが、とりあえず勘違いを正しておくことにした。

 

「あー、えーと。何げにディスってるのはまあ許すとして、悪いですが人違いですよ。いえまったく違うわけでもありませんが……。

 私は並行世界の間桐桜に憑依した疑似サーヴァント、インドの女神カーマです」

「な……!?」

 

 雁夜はまた驚いて足を止めたが、よく見てみれば確かに彼女はサーヴァントである。ついでに歳も彼が知る桜よりいくつか上だった。

 何てことだ、並行世界でまで他人の依代に使われるほど不幸な身の上だったとは!

 激昂して掴みかかりそうになったが、それを迎え撃つかのようにカーマが次の言葉を紡ぐ。

 

「あー、待って下さい。私は彼女を不幸にしたわけじゃありませんよ?」

「何?」

 

 それなら話は別だ。雁夜はとりあえず聞く姿勢を取った。

 

()()()()()()ですから、当然桜さんも不幸ではありません。心地よくまどろんでるような状態ですね。

 逆に私が桜さんから出ていったら、桜さんは貴方が言う『地獄そのもの』に帰ることになるんですよ?」

「うっ!? う、うーん、そ、それは」

 

 そういう言い方をされると、「桜ちゃんから出て行け」とは言いづらい。どうすればいいのだろうか?

 

「そこまで気にかけなくてもいいんじゃないですか? 私が憑依してる桜さんは並行世界の桜さんであって、貴方の知る桜さんじゃないんですから。

 もしかしたら向こうの貴方とはまったく縁がない育ちなのかも知れませんよ?」

「う、うーん、それはそうかも知れないが」

 

 だからといって放置していいのだろうか? 今も体を蝕む「刻印虫」のせいで満足に働かない頭を必死に回転させて、最善の方策をはじき出そうと悩む雁夜。

 理想を言えばカーマに出て行ったもらった上で、元の世界に帰った桜を間桐家から解放してもらうことだが、それはさすがに非現実的である。あまり高望みをしてランサー陣営との同盟が決裂したらこの世界の桜さえ救えなくなるかも知れないことを思えば、並行世界の桜は並行世界の自分に任せるしかなかった。

 

「分かった。君が桜ちゃんを不幸にしていないと言うなら、俺はそちらには口出ししない」

「分かって下さってありがとうございます」

 

 カーマは普段は皮肉屋なのだが、依代の人間を本気で心配している者に対してはさすがに当たりがやわらかくなるようだった。

 ―――そしてこれで同盟にからむ問題はなくなったと思われたが、今度はモルガンが妙に嫌悪感がこもった顔つきで雁夜に話しかける。

 

「今までの話をまとめると、間桐家の魔術というのは蟲で人を酷い目に遭わせるものらしいな。

 その蟲とやら、おまえの体の中にもいるのではないか?」

「あ、ああ……よく見抜いたな、その通りだ。

 俺の場合は、聖杯戦争に参加できるだけの魔力を得るために『刻印虫』を入れている」

 

 雁夜の返事を聞くと、モルガンはぴしりと頬をひきつらせた。

 

「無理。帰る」

「ちょ!?」

 

 なぜか突然重要な戦力がUターンしてどこかに帰ろうとしたため、光己はあわててその手を掴んで理由を訊ねた。

 

「間桐さんはそこまでわがまま言ってないと思うけど、何が気に障ったの?」

「いえ、あの者の言動が問題なのではありません。実は私、虫が苦手でして」

「ほえ!?」

 

 まさか無敵の妖精國女王にそのような弱点があったとは。女の子らしくて可愛いとも言えるが、邪悪な魔術師の本拠地に乗り込むのだから魔術師に職場放棄されては困る。光己がそう言って翻意を試みると、モルガンもその理屈の正しさの前に譲歩せざるを得なかった。

 

「魔術師ならそこにⅡ世がいる、と言いたいところですが、それは私には魔術師としての価値がないと言うも同然。

 あなたのたっての頼みですから参加しますが、あくまであなたの頼みだからですからね。そこのところ、しっかり認識しておくように」

「アッハイ。後で何かお礼しますので」

「分かって下さればよろしいです」

 

 モルガンはどうにかやる気になってくれたようだ。

 光己たち、というかアルトリアとモルガンはこの後聖杯問答に出席せねばならないので、急いで間桐邸に赴くカルデア一行とバーサーカー陣営。

 そこは一見は何の変哲もないただの大きなお屋敷だったが、Ⅱ世とモルガンは当然に魔術の気配を感じ取っていた。

 

「ふむ、やはり工房をつくって陣地化してあるな。むろん我々の侵入を阻めるようなものではないが」

「カリヤの体内の蟲と同じ気配が多数……これは塵ひとつ残さず殲滅すべきだろう。

 異存はないな、カリヤ」

 

 モルガンがまさに冷徹な女王そのものの口ぶりで同意を求めるというより宣告を下すと、雁夜はむしろ願ってもないといった様子で頷いた。

 

「ああ。俺は魔術師は嫌いだが、その中でも間桐の魔術は滅びるべきだと思っている。

 桜ちゃんを救出した後でなら、遠慮なく消し去ってくれ」

「よし。ではアルトリア、サクラを探して連れ出して来い」

 

 モルガンの上から目線での命令にアルトリアは当然こめかみに井桁を浮かべて―――ついで昨日彼女にやり込められたことを思い出した。

 

「人にものを頼む時には、それなりの言い方というものがある。確か貴女昨日私にそう言いましたよね?」

 

 騎士王らしからぬ邪悪な笑みを浮かべながらの悪意マシマシな返事に、モルガンは特に動揺を示さなかった。

 

「何を言っている、これは単なる手分けだ。貴様はサクラを救う、私はその後この虫屋敷を潰す。適材適所というものだろう?」

「むぐぐ」

 

 ムカつくがモルガンの言い分は正当であり、アルトリアは言い返すことができなかった。

 しかし突入するのはアルトリア1人ではない。他には誰が行くのだろう?

 

「俺とバーサーカーは当然行く。そちらはどうするんだ?」

「そうだな。間桐邸の中はマスターやマシュ嬢やアイリスフィール嬢に見せるものではあるまいから、この3人は留守番兼見張りだな。突入組は私とセイバーとアルトリア嬢とXX嬢とジャンヌ嬢というところか」

 

 名前が出なかったモルガンとジャンヌオルタは桜救出の後蟲を駆除する役ということで留守番である。またカーマは物理的破壊力はあまりないが、幼い上に身体は桜である者を乗り込ませるのは雁夜的に好ましくなかったので留守番で構わなかった。

 配置が決まったところで、モルガンが作戦開始を告げる。

 

「では私がこの屋敷ごと認識阻害と人払いで野次馬が来ないようにしておこう。安心して行ってこい」

「なるほど、それは助かる」

 

 雁夜にはそんな芸当はできない。もしこの作戦を1人でやって仮に成功としたとして、その騒ぎを聞きつけて来た警官に職務質問でもされたら面倒なことになるわけで。改めて自分の判断が正しかったことを確認した。

 

「それじゃ、いくぞ!」

「皆の者、このキャットに続くのだ!」

「お、おう……」

 

 こうして7人は間桐邸の防衛設備をなぎ払って中に乗り込み、手あたり次第に捜索してついに地下の一室に囚われていた桜を救出して戻ってきた。

 発見された時の桜は裸で全身蟲にたかられていて悲惨なありさまだったので、蟲を退治してから風呂場で体を洗いジャンヌの宝具で身を清め、最後に服も着せてとりあえず小康状態に持ち込んである。

 

「ふむ、無事助け出してきたようだな」

 

 雁夜が抱っこした腕の中で眠っている桜を見たモルガンがそう声をかけると、雁夜はかなり疲れた様子ながら嬉しそうな顔をした。

 

「ああ。臓硯はいなかったが、桜ちゃんは救出できた。約束通り、あんたたちに協力しよう」

「そうか。しかしカリヤよ、その娘の心臓にも蟲が1匹潜んでいるぞ」

「な!?」

 

 その過酷な事実に雁夜は絶望して地に膝をついた。

 何てことだ、この罪のない少女が、一生間桐の蟲という重い枷をはめたまま生きていかねばならないのか!

 しかし雁夜が嘆いたのは早計だった。

 

「まあ落ち着け。私の魔術なら、その蟲を摘出することができる」

 

 モルガンは転移系の魔術を得意としており、生前は遥か遠くにいる巨大なターゲットを大昔に送り込むことさえできた。今はそこまでいかないが、ただの人間の中にいる非力な蟲をちょっと移動させるくらいは容易である。

 

「ほ、本当か!?」

「ああ、任せておけ。動かすなよ」

 

 しかし場所が場所だけに、細かい調整が必要だ。モルガンは息を詰めてじっと蟲の気配を観察していたが、やがて軽く手を振るとその指の50センチほど先に小さな線虫めいた何かが現れた。

 空は飛べないらしく、地べたに落ちるとそのまま這って逃げようとする。

 

「カリヤ、恨みは骨髄だろう。好きなだけ踏み潰してやれ」

「え!? あ、ああ、そうだな。思い知れ臓硯!!」

 

 恨みと怒りと憎しみをこめて、1回だけでは気が済まないのか何度も何度も偏執的なまでに蟲を踏みつけ続ける雁夜。

 なおその時外出中だった小柄で深いしわが刻まれた老人が断末魔の悲鳴をあげながら絶命したのだが、それには誰も気づかなかった。

 

「次はあの忌まわしい屋敷だな。

 慈悲はない。ただ罪人のように死ね! 『はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)』!!」

 

 普段と違い感情丸出しな真名開帳の詠唱と共に、屋敷の真上に12本もの巨大な槍が現れる。それらが一斉に落下して魔力の爆風を巻き起こし、建物全部を崩壊させた。

 槍の一部は桜が囚われていた地下室をも貫通し、中にあったものをこなごなに粉砕している。

 どう見ても蟲は一匹も生き残っていなさそうだったが、モルガンは実に用心深く周到だった。

 

「ではジャンヌオルタ。あの四角い穴、つまり地下室の中に全力で炎を叩き込むのだ」

「オーバーキルとしか思えないけど、黒い炎で火葬ってのもこの陰気な蟲屋敷にはお似合いかもね。

 それじゃ一発かますわよ。焔は獣に、竜は我が手に。楔を破壊し、命の鎖を引きちぎれ! 『焼却天理・鏖殺竜(フェルカーモルト・フォイアドラッヘ)』!!」

 

 黒い炎で形づくられた3頭の黒い竜が地下室に躍り込み、かろうじて残っていた蟲の細片を蒸発させ、瓦礫の残骸の類を溶かしていく。

 こうして、間桐の魔術は今日をもって終焉を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「これでこちらの義務は果たしたわけだが、おまえの体の中に蟲が残っているのは実に目障りだ」

 

 間桐邸とその中にいた生物が完全に消滅したのを確かめた後、モルガンは雁夜にそんな言いがかりをつけていた。よほど虫が嫌いらしい。

 

「そんなこと言われても……」

 

 雁夜はいささか困惑気味にそう答えたが、女王様は納得しなかった。

 

「おまえは黙ってそこに突っ立っているだけでいい。私が1匹残らず駆除してやるから」

 

 この女本気だ。そう判断した雁夜はあわてて抗弁を試みた。

 

「ま、待ってくれ。俺も刻印虫に未練はないが、今駆除されたらバーサーカーを使役できなくなる」

「ふむ、そういえばさっきそんなことを言っていたな。

 だがおまえはもう聖杯戦争から降りるのだろう。バーサーカーは必要あるまい」

「しかしこちらの義務として、バーサーカーをそちらに協力させる約束をしていたが」

「なら令呪ごとよこせ。そちらの方が確実だ。

 なに心配はいらん。普通の魔術師なら手首ごと奪うのだろうが、我が夫……マスターは手に傷をつけず令呪だけを取り上げることができる」

「そんなことができるのか」

 

 それなら雁夜に不満はなかった。ただ当然の礼儀として、当人に同意を求める。

 

「こういうわけだ。すまないがバーサーカー、ランサー陣営に移ってもらえるだろうか?

 ぶっちゃけた話、俺と一緒にいるより勝てる確率は上だろうしな」

「ふむん。まあご主人はもともと聖杯戦争のジゴクめいた闘争には向かぬ虚弱体質。これを機に、魔術から手と足と頭を洗ってそこな娘と第二の人生を始めるのが賢明であることは、このキャットの理性なき脳みそでも分かるのだな。

 というわけでランサー陣営とやら、以後よろしく頼むのである」

 

 キャットはマスター思いな性格らしく、移籍話に文句ひとつ言わず光己たちににぱっと笑いながら挨拶してきた。

 カルデア一行にとってはありがたい話だったが、そんな彼女にあまり面白くない事実を告げねばならない。

 

「ありがとう。ただ俺たちの調べによると、ここの聖杯は汚染されてて願望機としては使えない可能性が高いんだけど、それでも手伝ってくれる?」

「なんと!? うーむ、これはまさしく晴天のライトニング。しかし今さら手を引くのは狐の道にも猫の道にももとるゆえ、最後まで付き合うことを約束してやろう」

「何、それは本当か!? だとしたら何かの間違いで時臣の奴が聖杯を手に入れることになっても、奴の願いは叶わんということだな。あはははは、これは痛快だ」

 

 キャットは実に義理堅かったが、雁夜の方は少々ひねくれているようだ……。

 まあ雁夜の内面などカルデア一行には関係ないことなので、さっさと用事を済ませることにする。

 

「それじゃ間桐さん、右手出してもらっていいですか?」

「ああ、令呪を譲るんだったな。好きにしてくれ」

 

 雁夜は本当に聖杯戦争に未練はないらしく、ごくあっさり右手を伸ばしてきた。

 光己がその手の甲に自分の右手を重ねてスキルを使うと、龍之介の時と同じように令呪が光己の腕に移動する。

 

「本当にかすり傷1つつけずに令呪を奪えるんだな。大したものだ」

「いやいや、降って湧いたスキルですよ」

 

 実際そうなので、光己は特に自慢はしなかった。

 

「これで問題はなくなったな。ではカリヤ、さっさと害虫を駆除するぞ」

「アッハイ」

 

 女王様はせっかちであった……。

 雁夜の体内の刻印虫はかなり数が多いが、心臓や脳などにいるのでなければ、多少の傷は後で治癒魔術で治せるのでそこまで精密にしなくてもいい。モルガンはぱっぱと虫を体外に転移させてはジャンヌオルタが出した炎の中に放り込んだが、よく見ると刻印虫はすべて死んでしまっていることに気がついた。

 

「……ふーむ。そういえばサクラの中にいた虫はこいつらとちょっと毛色が違ったな。

 おそらくあれが本体で、こいつらは分体なのだろう。もしくは吸血鬼の『親』と『子』のような関係なのかも知れん」

 

(……! 臓硯は死んだ!!)

 

 モルガンの推測を聞いて雁夜は臓硯が死んだことを直感的に確信したが、口には出さなかった。善良そうに見える光己たちには教える必要のないことだ。

 そして雁夜の体内の虫をすべて摘出して傷も治したら、そろそろお別れの時である。

 その間際に、モルガンが光己に1つ提案をした。

 

「我が夫、最初の約束では令呪まで受け取ることにはなっていませんでした。その埋め合わせに、餞別のひとつでも贈るべきではありませんか?」

「あー、なるほど」

 

 いかにも不健康そうに見える雁夜が幼い女の子を引き取って育てるのは大変だから、多少の手助けはしてやろうということか。

 しかし一回り年下の少年に施してもらうというのは、雁夜もプライドが傷つくだろう。

 

「それじゃこれ、桜さんに美味しいものでも食べてもらうための餞別です。

 間桐さんはあくまで預かってるだけということで」

 

 光己がそう言って収納袋から札束でも入ってそうな封筒を出して雁夜に手渡すと、実際不健康な青年はとても驚き、かつ感謝した表情を見せた。

 

「あ、ああ……すまない、恩に着る。

 といっても2度と会うことはないだろうが、せめて君たちの勝利を祈らせてもらうよ」

「はい、お2人ともお元気で」

 

 そうして雁夜と桜が去っていくのを見送ると、光己はモルガンに体を向けた。

 

「ところでモルガン、間桐さんにずいぶん世話焼いてたけど何か理由でもあったの?」

「……ええ、生前のことを少し思い出しまして。

 私にも娘が―――血のつながりはない義子ですが―――いましたから。

 カリヤとサクラは実の親子ではないでしょうが、だからこそ」

「……そっか。

 でもモルガンのやさしいとこ見られてよかったかな」

 

 光己は正直な感想を述べただけだったが、モルガンはそれを聞くとぼっと顔を赤らめた。

 

「な、こ、この冬の女王に向かって何て気恥ずかしいことを……!

 ゆ、許しませんよ!?」

「え、何で!? 褒めたのに?」

「我が夫は人の心が分からない―――でもお金を使わせたのは事実ですから、先ほど聞いた『お礼』はこれで受領したということにしてあげましょう。感涙にむせぶように」

「それは嬉しいけど、まだ説明は足りてないと思うなあ!?」

 

 とか何とか言いつつも、2人の距離はまた少し縮まったのだった。

 

 

 




 雁夜さん救済ルートでした。彼は必ずしもギルと戦う必要はないのですな。
 感想、評価お待ちしてます。


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