FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第15話 ファヴニール

 その翌朝、カルデア一行は朝食の後に女性陣が泊まった部屋に集まると、今後の行動について会議を始めた。

 

「竜の魔女の正体とか思惑は、手掛かりがなくて想像しかできないから棚上げとして、とりあえず今日これからどうするかっていう話だな。

 具体的には、この街でもう1日聞き込みするか、それとも別の街に行くかってことだけど」

 

 光己は特にリーダー的な役職をしたことはないのだが、今はマスターという特殊な地位にあるので自然に司会になっていた。戦闘や情報収集といった実務面ではあまり役に立てないので、こういう面で貢献したいという気持ちもあったので。

 オルガマリー所長がいたら自分から引き受けてくれそうだが。

 

「そうですね。ワタシの感触では、市井の人にこれ以上聞いても無駄足かと思いますが」

「んー、段蔵がそう言うなら決まりか」

 

 といって上流階級と会えるような伝手はないので、この街とはもうおさらばということになる。

 ではどこに向かうべきか。光己は地図を出してテーブルの上に広げた。

 

「いきなりオルレアンに行くよりは、どこかでもう1回情報収集した方がいいとは思う。大きな街だと西北西のパリか、南西のラ・シャリテだな。

 他に何かいい考えでもあったら、遠慮なく言ってほしい」

「そうですね。パリとラ・シャリテはオルレアンからの方向が違いますゆえ、違った内容の情報が得られるかも知れませんから、両方行ってもいいかと思いまする。

 我々は敗北することが許されぬ身、多少の時間はかけても、より多くの情報を得る方がよろしいかと」

「むう、一流の忍者にそういうこと言われると重みを感じるな。

 誰か他に意見ある人いる?」

 

 手を挙げる者はいなかったので、段蔵の提案通り両方を訪ねることになった。

 ただここからパリまでは約300キロと大変な距離がある。

 

「早さ優先でいくなら、俺とマシュがヒルドとオルトリンデに抱えてもらって、他の人はランニングでいけばいいんだろうけど、ずっとそれだとランニング組はメンタル的にクるだろうし、俺も魔力が保たんかも知れんからな。何かいいアイデアない?」

 

 サーヴァントは魔力があれば肉体的な疲労はなく、ずっと全力で活動できるが、その魔力は(聖杯等に召喚されたはぐれサーヴァント以外は)マスターが供給せねばならない。カルデア所属のマスターはカルデアから魔力を送ってもらえるが、それを受け取れる量は当人の魔力容量に比例するので、あまり大勢のサーヴァントに多量の魔力を使われると、マスター自身の魔力を取られて干からびてしまうのである。

 特に光己はまだマスターあるいは魔術師として未熟なので、無理は避けるべきだった。

 

「本音を言えば、1日でも早く竜の魔女を倒したいのですが、マスターの言うことはもっともですね……。

 ならば時々休憩を入れるようにすればいいのでは?」

「馬車を買うという手もありますよ。馭者ならアーちゃんができますから」

「ほむ、馬車とな」

 

 ジャンヌとブラダマンテの提案の中で、光己は馬車という時代的な単語に気を惹かれた。

 

「馬車ってどのくらいの速さで走れるの?」

「条件によってだいぶ違ってきますけど、1日に100キロくらいはいけると思いますよ」

「へえ」

 

 つまりパリまで3日で行けるということか。マシュたちが座りっ放しだから、魔力消費が少なくて済む点を考えれば悪くはない。馬は高そうだし飼料もたくさん食べそうだが、ヒポグリフを代わりに使ってもらえば問題は2つとも解決される。

 

「アストルフォはどう思う?」

「馬車かあ。馭者やってもいいけど、道が平坦じゃないから、スピード出すとかなり揺れると思うよ? 馬車酔いしちゃうかもね」

「馬車酔い!? マジか。それはパスパス」

 

 言われてみれば、この時代に舗装された道路なんてない。いや、古代ローマは石造りの道路があったそうだが、ここではせいぜい土を固めただけの街道ぐらいが関の山だろう。雨が降ってぬかるみでもした日には救いがたいことになりそうだ。

 高級品を買ってゆっくり行けば緩和できそうだが、そこまではしていられない。

 

「やっぱり休憩しながら飛んで行くってのが妥当か……ヒルドにオルトリンデ、頼んでいい?」

「うん、もちろんだよ!」

「はい、了解しました」

 

 2人とも承知してくれたので、行き方は決定した。300キロなら1日か2日で着くだろう。フランスに来る前に考えていたより、日数はだいぶ少なくて済みそうである。

 一行は街から出ると、計画通り生身の2人を戦乙女の2人が抱えあげた。

 

「あれ、オルトリンデなの? ヒルドだと思ったんだけど」

「はい、マスターを抱えるのは交代制にしてもらいました。マシュさんが嫌だというわけではありませんが、同じ抱えるならマスターの方がいいですので」

「そっか、ありがとな」

 

 オルトリンデはおとなしめで口数も多くないので、今までヒルドより接触が少なかったが、一応は好意的に見てもらえているようだ。サーヴァントと良好な人間関係を保つのはマスターの重要な役目なので、大変結構なことである(建前)。

 

「では、失礼しますね」

「ん、よろしく」

 

 男子としては女の子にお姫様抱っこされるのはやはり気恥ずかしいものがあるのだが、この体勢だと光己の腋の下がオルトリンデの胸に当たるのが実に喜ばしい。結構なボリュームのマシュマロが、当たってきてはたわんで弾むのはとてもけしからん感触だった。

 しかも万が一にも落ちないために、光己は彼女の首に両手を回しているので、密着度はかなり高い。

 

(でもオルトリンデはあんまりそういうこと意識してないみたいだな。恥ずかしがったりしてくれると可愛いけど)

 

 まあ顔に出るほど恥ずかしいなら自分から立候補はしないだろうし、高速飛行中に精神集中を乱されても困るから高望みはしないことにした。

 ―――そして翌日の昼過ぎ頃、光己たちは無事パリに到着した。

 

「ヴォークルールより大きいけど、風景はあんまり変わらないみたいだな」

「気候や風土は大差ありませんからね」

「そだな。じゃあ今回もまず宿とって、それから聞き込みしよう」

「はい!」

 

 その結果、パリは大都市で竜の魔女が居座っているオルレアンにも近いので、新しいネタをいくつか仕入れることができた。

 まず1つめは、竜の魔女は単独ではなく、やたら強い手下が4~5人ほどいるらしいことである。

 

「どう考えてもサーヴァントだよな」

「聖杯があれば魔力には事欠きませんからね……」

「便利だな聖杯!」

 

 カルデアほどの組織が科学と魔術の最先端を駆使してやっと実現していることを、片手サイズの杯でできてしまうとは。これをめぐって「殺してでもうばいとる」なバトルロイヤルが開催されるだけのことはある。

 

「でも、サーヴァントがそうそう竜の魔女の言うこと聞くとは思えないんだけど」

 

 復讐が終わったら用が済んだ聖杯を下賜するというほど竜の魔女は善良ではないだろうし、むしろ「大量虐殺の手伝いなんかするか!」と言って反逆する者の方が多いと思うのだが。

 

「それはおそらく反英雄……人類に敵対的な者を召喚したのでは」

「ああ、彼女みたいな目に遭って人間嫌いになったとか、さもなきゃ妖怪とかか。

 そういえばサーヴァントは召喚者と性質が近いのが来るって話もあったな」

 

 なるほど、そう考えれば竜の魔女がサーヴァントを手下にできても不思議ではない。カルデア側としては厄介な話である。

 しかも厄ネタはもう1つあった。

 

「竜の魔女はワイバーンだけではなく、体長30メートルはあろうかという巨竜をも従えている、という話がありましたね」

 

 マシュがさすがに重い声で呟く。その竜はファヴニールと呼ばれていたそうで、もし事実なら最上級の竜種であり、サーヴァント数人がかりでも簡単には倒せない強敵だ。

 

「でも攻撃が効かないってわけじゃないんだよな?」

「そうですね。ジークフリートに倒されていますから」

 

 彼がファヴニールを討つ時に使った魔剣バルムンクは、対竜特化で作られたというわけではないので、他の武器でも邪竜の鱗を貫くことはできるはずだ。ただその時は、竜の魔女と配下サーヴァントたちも一緒にいるだろうから、厳しい戦いになりそうだが……。

 

「あー、でもこれって悪いことばかりじゃなさそうだぞ。詳しくは知らんけど、確かジークフリートってファヴニールの血を浴びたら無敵になったんだよな? つまり俺もヤツの血を浴びれば、めったなことじゃやられなくなるってことにならんかな」

 

 光己にとっては深い考えのない思いつきの言葉だったのだが、体ごと乗り出してきた者が2人いた。

 

「さすがあたしたちのマスター! いい考えだと思うな」

「今後のことを考えるなら、多少の無理は押してでもやる価値があると思います」

 

 ヒルドとオルトリンデである。確かに光己が頑丈になれば、7つの特異点を回るのが有利になるから妥当といえば妥当なのだが、この2人の場合は彼の死後も意識していることに留意しておくべきだろう……。

 

「…………うーん??」

 

 アストルフォとジャンヌは何か引っかかるものを感じているようだが、やはり具体的に思い出せず、首をかしげるばかりだった。

 ブラダマンテはファヴニールという固有名詞を知らないので、「それでマスターの身がより安全になるなら」とおおむね賛成の意向だったが、段蔵は忍者というシビアな職種だけあって疑念を表明した。

 

「マスター。ワタシはその伝承を知りませぬが、ファヴニール自身が無敵でないのに、その血を浴びただけで無敵になるというのは眉唾かと存じまするが」

「ああ、もちろん無敵ってのは言葉の綾だよ。ジークフリートだってバルムンクで斬られたら死ぬんじゃないかな。

 ただ副作用なしで頑丈になったっていう話だから、そうできるなら儲けものってだけで。もちろん無理にとは言わないけど」

「なるほど、そういうおつもりでしたら反対は致しませぬ」

 

 こうして段蔵が納得して、残るはマシュである。

 

「え、ええと。確かにジークフリートがファヴニールの血を浴びたことで何かの被害を受けたという話は私も知りませんが、独断でするのはどうかと。

 先に所長の許可を得ておくべきではないでしょうか」

「んー、それもそうか」

 

 光己は思いつきで言ったことがずいぶん大きな話になったような気がしてきたが、ドラゴンの血でパワーアップとかいかにも厨二的ロマンあふれる響きだし、うまくいけば生存率が上がるのは事実だ。マシュの言う通り、正式な提案としてトップに具申してみることにした。

 通信機の通話キーを押すとちょうどよくオルガマリーが出たので、さっそく状況を報告し提案を述べる。

 

《んんん、ファヴニールの血で頑丈さアップ、ねえ……。確かにうまくいけば貴方が死ぬ、つまり人理修復が失敗になる可能性が下がるわね。

 第一特異点でもうこれだけの強敵が現れたってことを考えれば、安全策を打てるなら打っておくにこしたことはないけど……》

 

 しかしオルガマリーはすぐ同意はできないようだった。光己は「最後の」マスターで代わりがいないので、冒険は避けるべきだという意識があるのだ。

 そうと気づいたヒルドが話に加わる。

 

「大丈夫だよオルガマリー。もし毒や呪いみたいな作用が出たらあたしたちが治すから」

《え? ああ、そういえば貴女たち『原初のルーン』を使えるんだったわね》

 

 それなら伝承になかったような事態になっても大丈夫だろう。オルガマリーは光己の提案を許可することにした。

 

《わかったわ、ただし絶対無理はしないこと》

「はい」

 

 こうして上司の許可も取ったところで、光己たちはパリを立って次なる目的地ラ・シャリテに向かった。距離は250キロほど、途中で街を見つけて一泊する予定である。

 そしてその翌日、ラ・シャリテが見えてきた時、そのさらに向こうで何かが飛んでいるのが見えた。

 

「……何だあれ? 鳥の群れか何かか?」

 

 いや違う。段蔵がかなり切羽詰まった声で地上から注進してきた。

 

「あれはワイバーンの群れでございまする。数は100は居ましょう。

 中央にはひときわ巨大な個体がいます。あれがファヴニールかと」

「な、何だってーーー!?」

 

 まさかここで敵ボスと遭遇するとは。光己は思わず生唾を呑むのだった。

 




 ラ・シャリテにファヴニールが現れるのは漫画版の展開ですね。果たしてラ・シャリテの住民は助かるのか? そして主人公は悪竜現象を起こしてしまうのか!?

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