サーヴァントが高速の乗り物を使ってきたという時点で、候補者はほぼライダーに絞られる。
しかし2騎とは。キャスター・セイバー・バーサーカー・ランサーはすでにカルデア側になっており、アーチャーとアサシンは退去した。数が合わないというか、もう該当者はいないはずではないか?
「いや、もう1騎いたな。街で会ったルーラーだ」
「なるほど。ライダーが昨日ああもあっさり退いたのは、ルーラーの存在を知っていて味方に引き入れるためだったのですね」
エルメロイⅡ世の推測にアルトリアがそう応じた通り、雷鳴を響かせながら現れたイスカンダルの
もちろんウェイバーも乗っている。窮屈そう、かつ少々ビビっているようだ。
まあ敵の数を考えれば当然の反応であろう……。
イスカンダルはいきなり吶喊はせず、まずは戦闘態勢に入ったカルデア一行から少し離れた所で戦車を止めた。
「おおう、良し良し。何とか間に合ったようだな」
「まさかまだ聖杯戦争を継続するつもりか?
大聖杯が放つ呪詛に満ちた魔力が分からないのか?
アレは貴方が求めていた願望機などではない! いい加減、騙されていたと気付け!」
イスカンダルのいっそ暢気といってもいい口調に、Ⅱ世がぐわーっと噛みつく。
しかし大方の想像通り、イスカンダルにはまったく効いた様子がなかった。
「うん? いやそんな事はどうでも良いのだ」
「いいのかよ!?」
ウェイバーもこれには目が点である。ホントにこの男は何を考えて生きているのだろうか?
「うむ。それより昨日言った、聞きたいことの方がまずは先だな。
騎士王が2人いる理由とか、どっちか分からんが余と問答した方の騎士王が妙に議論が強かった理由とかな」
「うーん、確かにそれは疑問だけどな。そもそもあいつら何者なんだよ!?」
あのマスターは今は人間の姿だが昨日は天使か悪魔か戦闘機かよく分からない姿をしていたし、盾兵は普通のサーヴァントとはちょっと違う人間とサーヴァントが混じったような雰囲気だし、第一人数が多すぎる。どこの誰で何をしに来た連中なのか!?
「いや、その辺はどっちかというと二の次なんだがな」
「オマエなあ!?」
ライダー陣営のやり取りはははたから見るとコントのようであった……。
「まぁ本命とばかり思っていた英雄王めがあの顛末だからな。次の一手をどうしたもんか、考えあぐねておったのだ」
「で、あいつらと戦うってわけか? まあ今となっちゃもう他に敵はいないけど」
「うむ。中でもあの眉間ジワの辛気臭い軍師、あいつが敵だ」
「え!?」
唐突にメインターゲット扱いされたⅡ世が、さすがに泡喰って反論した。
「……どうしてそうなる? 利害関係には何一つ抵触していないだろう!」
「うむ、別に」
「こちらは貴方との衝突を避けるために細心の注意を払ってきたのだ! なのに何故!?」
「なんとなく貴様が気に食わん。唯それだけの話だよ」
「!!!???」
理性派のⅡ世にとって、イスカンダルのこの反応は理解の外であった。子供じゃあるまいし、征服王ともあろう者が気分だけで戦争の行動方針を決めるとは。
「実際こいつらが何者なのかはまるきり分からん。
しかし明らかにこいつらはこの戦いのルールの外にいる。それでいて積極的にこちらの戦いに干渉しようとしておる。
その上ただの予測にしては不気味なほど的確すぎる先読み、余がしゃべることをあらかじめ知っておったのではないかと思うほどの素早い反論……。そう、まるでこの聖杯戦争を1度体験したことがあるかのようにな。
ただひとつ間違いないのは……こいつらが我々の聖杯戦争を邪魔しに来ているという点だけだ。
勝負の枠組みそのものを破壊しようなどと企んでいる連中は、敵よりさらにタチの悪い障害物であろう?」
「……ッ」
こう言われてはⅡ世は返す言葉がない。唇を噛んで沈黙した。
それにしてもこちらが「2回目」であることに考えが行くとは、やはり二つ名に恥じない頭脳だ。と状況は理解しつつ、つい唯一の主を脳内で称賛してしまうⅡ世であった。
「そういうわけでセイバー、ランサー、バーサーカー。そいつらに与する貴様らも今この時点より余の敵だ。よってルーラーと組んできた。実に明快であろう?」
「……ルーラーは基本的にどの陣営とも組む事はない。しかし聖杯戦争そのものを妨害する、しかも単騎では勝てないほど強大な敵がいるなら話は別ということか?」
「うむ。ルーラーも貴様たちと会ったことがあるようでな、話はすぐまとまったぞ」
「……むう」
イスカンダルの動機は子供なのに思考力と行動力は大人すぎるほど大人というタチの悪さにⅡ世は低く唸った。
「まあそれはそれとしてだ。せっかく会話をしておるのだから余の疑問に答えてはもらえんか? 貴様たちの動きがただ頭が良いというレベルでない理由を」
「むう、こうなっては明かすしかないか……。
あなたが推測した通りだ。私と『こちらの』騎士王は別の世界で、ここのとは少しだけ違う第4次聖杯戦争を体験したことがあるのだ。
騎士王が議論に強かったのも、私の先読みが的確だったのもそのおかげだな。
むろん、大聖杯が汚染されているのを知っていたのもだ」
「ほう、英霊になっても余の頭は錆びついていなかったようだな。
しかしそちらの騎士王よ、なぜわざわざ問答に割り込むような真似をした? ぶっちゃけ必要のないことだったろうに」
イスカンダルがそう言ってアルトリアに顔を向けると、少女騎士は薄く笑った。
「必要はなかったな。では逆に聞くが、貴様は必要のないことはしないのか?」
「ぶっははははははは! これはまた一本取られたな!
確かに! 余の征服だってあそこまでする必要はなかった! それでもしたかったからした。貴様も割り込みたかったから割り込んだ。うむ、まことに人間らしい答えだな!
貴様とはまた何か別のお題で問答したいところだが……ここではさすがに空気が悪いか」
イスカンダルが痛快そうに大きく口を開けて笑う。よほどツボにはまったようだ。
一方アルトリアは逆にちょっと頬をひきつらせた。
「アレを賭けて勝負するというのは、正直負けた方が勝ちな感じまであるからな……」
「まぁ王であっても人生ままならんことはあるものよ。これはまた次回にしよう。
余がここに来た本来の目的は、貴様らの勝ち逃げを阻むことなのだからな。
そして多少の回り道を経てようやくイスカンダルが本題に入った頃、蚊帳の外だったアムールはカーマと対峙していた。
「まさか部外者さんチームにも『愛の神』がいたなんて。これが私が裁定者として選ばれた理由、というか縁でしょうか?」
「そうですねー。愛の神で疑似サーヴァントでかぶっててとてもうっとうしいので、さっさと座に帰……いえそうするとまた聖杯に魔力が溜まるので、外に出て昼寝でもしててもらえませんか」
お互い表面上は敬語調で話しているが、好意とか善意とかはまるで感じられないやり取りであった……。
「いえ、ルーラーとしてはそういうわけにも。先ほどライダーが言った通り、聖杯戦争の枠組みを破壊しようとする者を排除するのが私の役割ですから」
「あの濁り切った聖杯から出た指令なんて、ブッチしてしまっていいのでは?」
「それじゃ面白くな……もとい。人々のより
実はアムールの依代となったこのカレンという少女は、敬虔なシスターでありながら、人々の苦しむ姿を見るのが大好きであり、自身の体が苦しむのも大好きという、SとMを併せ持つアレな性格をしているのだ。
愛の神に選ばれただけあって全人類を等しく愛しており、その破滅などまったく望んではいないのだが、それはそれとして試練あっての人生であり、愛の鞭を振るうのは大変楽しいことなのだった。
「というわけで、お互い愛の矢を持つ身同士。どちらが真の愛の神か、弓矢で決めてみませんか?
憐れになるほどの恋愛クソザコ……失礼、愛に飢えた子羊のカマちょさん」
「…………。最近幸せでしたが、久しぶりにイラついてしまいましたよ……。
人数で負けてるから挑発してタイマンに持ち込もうって腹なんでしょうけど、お望み通り乗ってあげますよ。
ただしマスターの方に流れ矢の1本でも飛ばしたら、私何するか分かりませんのでそこはご承知下さいね」
カーマがその言葉通り心底イラついた顔でさとうきびの弓を構え、周りの人を巻き込まないよう宙に浮く。アムール、いやカレンも同様に白金色の弓を取り出すとともに空に舞った。
「じゃあいきますよ。どうにかなっちゃえー!」
「支配してあげましょう」
こうして女神同士の空中戦が始まった。
「……わけが、わからん。何故そうまでして我々に敵対する?」
Ⅱ世にとっては納得どころか理解いたしがたい流れだったが、征服王にも彼なりの配慮らしきものは存在した。
「貴様、何やら先の因果の行く末を見通している様子だが、つまんないだろ? それ。
だったらせめて余くらいは番狂わせを演じてやるしかなかろうよ」
「なんと?」
「いや何となく分かるんだよ。貴様は覇道の影を追い求める者。つまりはこの征服王と悦びの形を等しくする者。
そういう奴はきちんと楽しませてやらんとな。王たる余の務めだ」
「楽しませる……? Ⅱ世さんを笑わせるために、我々の敵に?」
「「「えー……!?」」」
メンタルパンピーなマシュや光己、ジャンヌオルタやアイリスフィールにはイスカンダルという稀代の豪傑の思考回路はやはり理解しがたいようだった……。
「まぁ何だ。何を背負い、何を賭けるにせよ。挑むとなれば楽しまずして何のための人生か。もっと熱くたぎるがいい、策士。その掛け金に我が覇道も積んでやる。さぁ、勝負だ」
「そこまでして……私が、矛を交えるに値する相手だと?」
「応さ。貴様がいったいどういう出自で、余とどんな縁故があるのかまでは知らぬがな。
いま余の目の前におる男は、ぜひとも制覇せねば気が済まぬ猛者である」
「……はは、あはははッ、はっはっはっはッ!」
それでも仕方ないので光己たちはⅡ世とイスカンダルの会話を拝聴していたが、不意にⅡ世が普段見せないちょっとマッドが入った顔つきで高笑いを始める。
理詰めな彼にとって不可解な流れが続きすぎてついに知恵熱が出たか、などと光己は少し失礼なことを思ってしまったが、それはあながち外れでもなかった。
「済まない藤宮、我がマスターよ。これが一度かぎりの我侭だ。
あいつと戦わせてくれ。使命も、世界の命運も、全てを忘れた上で……。
あの男だけを見据えて、この私に、勝つか負けるかも分からない競り合いをやらせてくれ!」
(あー、そういえばⅡ世さんイスカンダルが唯一の主とかそんなんだったっけ)
つまり尊敬している人に認められ挑戦されて闘志が最高にハイ!になったとかそんなところだろう。現場主任としては困ったものだが、これはもう応じるしかない。
「そりゃまあ戦闘不可避な状況ではありますが……。
具体的にはどうするんですか? 一騎打ちじゃ勝てないと思いますけど」
イスカンダルの戦闘スタイルはアルトリアからのリークですでに情報を共有しているが、神牛の
「ぐっ!? あ、ああ、確かにそうだな」
マスターのいつも通りの(Ⅱ世的感覚では)ちょっと暢気な口調で訊ねられて、Ⅱ世はいくらか頭を冷やした。
確かに今の言い方では一騎打ちを望んだと思われても仕方ない。しかしそれは彼が言う通り勝ち目ゼロだからマスターとしては許可できまいし、認めてくれたイスカンダルにも申し訳ない。
逆に勝てばいいのなら光己が竜モードになって上空からブレスぶっぱしていれば済むのだが、幸か不幸かここの天井はアルビオンが飛び回れるほど高くはなかった。
「……マスターはセイバーと一緒に、アイリスフィール嬢の護衛に徹してほしい。
それとマシュ嬢たちへの指揮権を貸してくれ」
Ⅱ世はオルガマリーの補佐や特異点の調査が主な仕事なので、マスターを差し置いて他のサーヴァントたちに直接指揮できるほど親しくなっていない。要は彼に憑依している英霊と同じ軍師ポジなので、それをしたい時はトップの委任が要るのだった。
ちょうど三国志演義の諸葛孔明の初陣で、彼が関羽や張飛を従わせるために劉備から剣と印綬を借りたようなものである。
「分かりました。それじゃマシュもみんなも、この戦いだけⅡ世さんの指示聞いてあげて。
あー、でもエミヤさんはこういうノリ嫌いそうだな。じゃあ向こうの女神を見張っててもらうということで」
「…………ふむ、君はまだ若いのに察しがいいな」
実際エミヤは「英雄」が嫌いなので、英雄ぽいノリに合わせて戦うのは面白くない。光己の依頼通り、あの性悪そうな女神の監視に向かった。
本音をいえば今すぐ横からドカンといきたいのだが、女神と英雄はカテゴリが違うし、新入りがそこまで出張るのもよろしくない。カーマがピンチになるかアムールが一騎打ちの枠から外れる行為に及ぶまでは沈黙を保つことにした。
「よし、こちらの態勢は整ったぞ! 勝負だ征服王!!」
Ⅱ世が珍しく気合いが入りまくった大声で叫ぶと、イスカンダルもそれ以上の野太い声で答えた。
「おう、やる気になったか!
とはいえさすがの余も、騎士王を含むそれだけの人数を1人で相手するのはちと厳しい。
最初から切り札を切らせてもらうとしよう!」
イスカンダルが剣を高く掲げると、彼の足元が砂地になってどんどん周囲に広がっていく。
ウェイバーとアイリスフィールは魔術師だけあってそれが「固有結界」といわれるものだとすぐ気づいたが、しかし魔術師でもないイスカンダルにそんなことができるはずがない。
実際その通りで、これができるのは彼1人の力ではなく、彼の配下全員がこの景観を共有しているからに他ならない。
砂煙の中から、無数の兵士が湧き出るように現れる。
「こいつら……一騎一騎がサーヴァントだ……!」
ウェイバーが信じがたげに呟くのを尻目に、馬にまたがったイスカンダルが得意げに彼らの紹介を始める。
「見よ! 我が無双の軍勢を!!
肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられ、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち!
時空を超えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち!
彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強の宝具――『
固有結界の展開とともにイスカンダルと光己たちはだいぶ間合いが広がっていたが、それでも彼の声は空気がビリビリ震えるほどの力感を持って光己たちに届いた。
「王とはッ! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!
すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に―――!
王は孤高にあらず!! その偉志は、すべての臣民の志の総算たるが故に!」
「「「然り!! 然り!! 然り!!」」」
「……うーん、ほんとにすごいな。そういえばネロ帝の兵士もこんな感じだったっけ」
兵士たちがイスカンダルの言葉に全面的に同意している様子を見て、光己はローマで会ったネロの配下の兵士たちのことを思い出していた。
ただローマでは似たような宝具を何度も見ていたので、そこまで畏怖したり、逆に感動したりはしなかった。
「でもその絆や王道とやらでやることは結局ヒャッハーなんだよな。
1人殺せば犯罪者、100万人殺せば英雄っていうけどこういうことか。萎えるー。
まあ今回はⅡ世さんが超やる気なんだから任せとくか」
ついでにやっぱりイスカンダルとの相性はよろしくないようだった。
AZOの次はどうするか、所長の出番と、ロンドンにモルガン&アルトリアを行かせるための順番調整を兼ねてレムレム特異点……カルデアのカレンダーはちょうど1月1日ですし、150話記念のお風呂イベントもやれそうな閻魔亭なんかいいかも。あそこなら鯖が勝手に行けてもおかしくないですし、タマモキャットが加入して料理要員も揃いましたし。
プレイした時はラスボスが性格悪すぎてちょっと引きましたが、ここのカルデアなら面倒な段取り組まなくても、宇宙刑事がいますから詐欺の疑いで逮捕からの自白剤ぶっこみですぐケリつきますし。
でも他にもツッコミ所はあったんですよねー。騎士道一途なディルムッドがお供え物を盗み食いするのはギャグだとしても、それの連座で豚化だの半強制労働だのはアレですし、何よりも閻魔を名乗る者が詐欺師に騙されてどうするのという(マジレス)。