FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第154話 初手温泉吶喊

 閻魔亭の扉をくぐると、そこは広々とした立派なロビーになっていた。

 旅館やホテルの顔ともいえる場所であり、3階分くらい吹き抜けになっていて観葉植物や休憩用の椅子といった備品も完備されている。基本的に和風だが、照明や椅子などには洋風のものもあった。

 案内してくれた雀「都市(とし)」が、中にいた小柄な少女に報告に向かう。

 

女将(おかみ)、女将! お客様をお連れしたチュン!」

「報告は聞いているでち。おまえは御厨(みくりや)に豆腐を届けなちゃい」

 

 少女はまだ10歳代半ばに見えるが、彼女がこの旅館の女将のようだ。雀の頭部を模したような帽子をかぶり、羽のような襟がついたエプロンをつけている。

 旅館の女将にしては挙措(きょそ)に隙がない上に、サーヴァント並みに強い霊基を持っている。この少女こそが「閻魔」なのかも知れない。

 

「ようこそ閻魔亭へ。歓迎するでち、お客様がた。

 人の身においては迷い込むしか術はなく、人以外であれば分け隔てなく迎える湯治の宿。

 あちきは当旅館を取り仕切る女将、舌斬(したき)り雀の紅閻魔(べにえんま)

 雀を助けてくれたその優しさに、閻魔亭を代表して感謝の気持ちを述べるでちよ」

 

 女将の丁重な挨拶を受けて、カルデア側トップのオルガマリーも挨拶を返した。

 

「はじめまして。フィニス・カルデアという団体の所長を務めている、オルガマリー・アニムスフィアという者です。

 このたびは道に迷って難儀していたところ、偶然そちらの雀さんと出会いまして。一夜の宿を借りようとお訪ねした次第です」

 

 オルガマリーは素で権高さが抜けてきたからか、それとも相手が「地獄の閻魔」という怒らせたらヤバそうな存在だからか、特にていねいな物腰で接していた。

 

「……それで、宿泊のプランとかコースといったものはどのような?」

「はい、こちらになりまち」

 

 すると紅閻魔はどこからか薄い冊子を取り出してオルガマリーに手渡した。

 それを読んでみると、要は部屋と料理の組み合わせで料金が変わるようだ。今回は雀を助けてくれたお礼に、デザートを一品サービスしてくれるという。

 ただいくつかの部屋に取り消し線が引かれていて、泊まれる部屋はかなり限られていた。

 

「まあいいわ。とりあえず値段が真ん中くらいの部屋と食事でいいかしら」

「そうですね。初めて来るところですし、従業員が閻魔様と雀ですし、冒険は避けましょう」

 

 というわけでプランが決まったので正式に申込み、17名一泊二食分の料金を先払いしてきっちり領収書を受け取るオルガマリーと光己。続いて部屋割りをしようとした時、なぜかというべきか予想通りというべきか、紅閻魔が清姫と玉藻の前に話しかけた。

 

「その前にそこの二人、前に出るでち!」

「は、はーーーい! お久しぶりです、紅閻魔先生~~~♡

 英霊の座・出張教室以来のご挨拶となります。先生においてはおかわりなく。ほほほ」

 

 どうやら紅閻魔は2人に何か指導したことがあるようだ。

 2人の緊張感全開ぶりを見るに、その指導がよほど厳しかったのだろう。これで2人が閻魔亭に入りたがらなかったことに得心がいった。

 それにしても英霊の座・出張講座とはいったい。そういえば清姫と玉藻の前はメル友だというし、英霊の座というのはデータベース的なものではなく、英霊たちが身体を持って活動している冥界的な空間なのかも知れない。

 

「そういえば旅館経営もやっている、という話でしたわ。まさかの再会、わたくしも嬉しゅうございます。ほほほ」

 

 とか何とか話しているうちになぜか料理の腕試しならぬ武闘的な腕試しになったが、それも何とか無事に終わると、女将がまた話しかけてきた。

 

「それで、夕食は6時でよろしいでちか? お客様のプランでちと、大広間で皆様ご一緒にということになりまちが」

「6時……今3時だから、ひと休みして館内を軽く散歩でもしたらちょうどいい時間ですね。ではそれで」

 

 オルガマリーはそんな目算をしたが、それに否を唱える者がいた。

 

「いえ所長! 3時間あるのなら、まずは温泉に入るべきではないですか?

 女将さんも雀も強調してたことですし」

 

 光己の意見ももっともだったが、それを聞くと女将はひどく心苦しそうな顔をした。

 

「申し訳ございまちぇんお客様……実は今、温泉は閉鎖しているのでち」

「なんと!? 旅館に温泉がないなんて、カツ丼にカツと卵とじがないようなものじゃないですか!?」

 

 さんざん言の葉に乗せておいて今更入れませんとは何事か。光己の怒りは有頂天寸前であった。

 

「それはもうカツ丼とはいわないような……それはともかく、実は浴場は悪霊に占拠されているのでち」

「悪霊!?」

 

 光己がトーンダウンして詳細を訊ねると、女将は本当に済まなく思っているのか目を伏せたまま語り始めた。

 

「あれはいつのことでちたか……一匹の羅刹(らせつ)が酒と美少年と美少女に酔って、悪逆の限りを尽くしたのでち。長き戦いの末に追い払うことはできまちたが、その残留思念はいまだ浴場に居座っているのでち。

 その時の戦いで施設も壊れたままでちし」

「羅刹の残留思念、ですか」

 

 なるほどそんなモノがいては、ゆったりお風呂なんて気分にはなれない。

 しかしここで光己に電流走る!

 

「では女将さん。我々がその残留思念を退治するなり追い払うなりしたら、我々がここにいる間毎日貸し切りの時間を作ってもらうというのはどうですか?」

「貸し切りでちか? うーん、まあそれくらいでちたら」

 

 カルデア一行はずっと滞在するわけではない。その程度ならよかろうと紅閻魔は判断した。

 それを聞くと光己はキラーンと目を輝かせ、後ろのサーヴァントたちに向き直った。

 そして歴戦の少佐のごとき貫禄で演説を始める。

 

「諸君 私は温泉が好きだ。

 諸君 私は温泉が好きだ。

 諸君 私は温泉が大好きだ」

 

 そのまましばらく信条を語った後、手のひらを突き出しさらに語調を強めた。

 

「更なる温泉を望むか?

 情け容赦のない糞の様な温泉を望むか?

 鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す嵐の様な温泉を望むか?」

「「温泉! 温泉! 温泉!」」

 

 サーヴァントたちはこの時点で彼の思惑が分かった者もいれば分からない者もいたが、マスターがやけに意欲的なのでとりあえず合わせていた。

 むろん本気で温泉を望んでいる者もいるが。

 

「よろしい、ならば温泉だ。

 我々をお風呂から追い出し眠りこけている悪霊を叩き起こそう。

 髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう。

 目標 閻魔亭浴場!!

 征くぞ 諸君」

「「おおーーーっ!!」」

 

「…………!!??」

 

 光己を先頭にどたどたと騒がしくロビーから出ていく一団にオルガマリーはまったくついていけなくて目が点だったが、残っていた景虎が説明してくれた。

 

「マスターは『貸し切り』と言いました。つまり混浴をご所望なのです。

 マスターと肩を並べて湯に浸かりながら月見酒を呷る……最高ですね! では私も行ってきます」

 

 言うだけのことを言い終わると、軍神様もやる気十分な様子で行ってしまった。

 

「…………ええと、女将さん。貸し切りで混浴は大丈夫なのでしょうか……?」

「そ、そうでちね。出入りの時に他のお客様に見られないようにしていただければ……」

 

 今更約束を反故にしたらアレ以上の悪霊が出そうでちし、とまでは言わず、紅閻魔は光己の希望を追認したのだった。

 

 

 

 

 

 

 光己についてきたのは彼の野望に気づいて賛同したワルキューレ3姉妹、清姫、ヒロインXX、カーマ、景虎に加えて、気づいていないがマスターが行くのならということで()()()追ってきた段蔵、ブラダマンテ、タマモキャットの10人である。オルガマリー、マシュ、アイリスフィール、ジャンヌ、ジャンヌオルタ、玉藻の前の6人は景虎の解説を聞いて戦闘意欲がなくなったらしくロビーに残っていた。

 ―――閻魔亭の浴場は、いったん本館を出てから石造りの階段を昇った上にある。まず完全露天の岩風呂が階段の左右に2つあり、階段の終点の向こうに杉と(ひのき)でつくられた広い浴室が設置されている。

 残留思念がいるのは終点の方なので、下の露天風呂は今でも入れるが、気配を察して襲って来る可能性があるのでやはり無理かも知れない。

 

「……あれ? もう階段まで来たけど、途中に男女別の入り口とか更衣室ってあったっけ?」

「なかったけど、たぶん羅刹とやらに壊されたんじゃないかな?」

 

 ふと我に返った光己の疑問にヒルドがそう答えた。

 まあ男女別の更衣室が無いなら無いで、みんな一緒に着替えればいいだけのことである。貸し切りなのだから!

 

「よし、いくぞ!」

「うん! でも邪悪な気配がするからマスターはもう下がってね!」

 

 光己がいくら頑丈だろうと、強敵がいると分かっているのに先頭に立つのはNGである。彼もそこはわきまえており、足を止めて後続が先に行くのを待った。

 そして終点の浴室に入ると、女将が言った通り黒い人影が1体さまよっていた。

 輪郭がぼやけているのではっきりとは分からないが、両手に刀を持った女性のように見える。また石造りの浴槽は無事だが床や立て板はひどく破損しており、彼女を退治しても入浴するには修繕が必要と思われた。

 光己はいきなり襲いかかったりはせず、まずは口頭で説得を試みた。

 

「どうも、女将の依頼で貴方の説得に来た者です。

 そこに居座られると皆さんの迷惑になりますので、退去するなり成仏するなりしていただきたいのですが」

 

 しかしその説得は無意味だった。

 

「いーーーやです!

 私は私が納得するまで、温泉(ここ)で美男美女を待ち続けるのです!

 というかお風呂に入りたいなら今さっそく入ればいいのでは? さあさあ邪魔な服はぱぱーっと脱いで、お酒も飲んで楽しみましょう!」

「……」

 

 声色と口調で残留思念が人間の若い女性のものであることが判明したが、ここまで残念だとさすがの光己も食指は動かなかった。

 おそらくは剣の達人であろうが、速やかに退治することにする。

 

「やっぱり説得は無理だったか!

 でもいくら羅刹とはいえ、囲んでかかれば倒せるはず。みんな、頼む!」

「おおっ、やる気かぁー!?

 ならば返り討ちにしてお湯の中に突き落として、水も滴るいい女にしてあげましょう!

 あー、でもキミはあと5歳くらい若かったらなあ」

「性犯罪者死すべしフォーウ!」

 

 しかしそのアレな言動に反して、羅刹は本当に強かった。5人もの凄腕ランサーに襲われているというのに、たくみな足捌きで囲まれないよう立ち回り、しかも後衛の段蔵やカーマの飛び道具を喰らわないよう、常にこちらの前衛の陰になる位置にいる。

 

「強いというより巧い……! この悪霊、一対多の戦いに慣れています」

「マジか……しゃべってることは本当にどうしようもないのに」

 

 さすがは閻魔が根負けしただけのことはあるというべきか。しかし光己もめざす理想郷がある身、こんな所で残留思念なんぞに手間取ってはいられない。

 

「みんな、俺が必殺技撃つから射線開けて!」

「必殺技!?」

 

 それについてはまだ知らない者もいたが、マスターがそう言うなら是非もない。スルーズたちが一斉に後ろに跳んで下がる。

 ただ光己の声は当然羅刹にも聞こえており、彼女の反応も速かった。その必殺技とやらを喰らわないよう、1番近くにいたブラダマンテにつきまとって離れない。

 

「くっ、あれじゃ撃てない……!」

「いえご心配なく! 私を標的にしたのが間違いだったと分からせてあげるだけですから!」

 

 そう、ブラダマンテは他の4人より槍が短いので間合いは狭いが、代わりに盾を光らせて目くらましをするという小技があるのだ。これには羅刹も一瞬動きが止まり、その間にブラダマンテは1歩引いて距離を取った。

 これでようやく光己は必殺技を放てる。

 

「よし今だ! 喰らえ、『ギャラク〇アンエクスプ〇ージョン』!!」

 

 光己が突き出した手のひらの先に、銀河の星々をも砕くような巨大な爆圧が広がる。これはいくら剣技が優れていても防げない。

 いや羅刹の作り主がその剣の奥義に開眼していたならあるいは破れたかも知れないが、今ここにいる残留思念はその境地には100万歩ほど遠かった。

 

「本気出したな、このぉー……!」

 

 羅刹の体がほぼ真上に舞い上がり、ついで清姫の時同様半回転して頭から落ちていく。

 今回はささえる者がいないので、そのまま脳天が床にぶつかって固い物が潰れるような音がした。

 

「こ、これは……!?」

 

 いくら人に迷惑をかけ続けてきた悪霊とはいえ、この殺し方はむごいのでは。人がよいブラダマンテはそう思ってちょっと光己に批判的な気分になったが、それが口に出る前に悪霊は何事もなかったように立ち上がってきた。

 

「いやー、効いたあ!

 でも相性の差で負けただけですから、ぜーんぜん悔しくなんかありません! 私の理想の美少年美少女世界をつくるまで、私は何度でも仕切り直すのです!」

「……」

 

 どうやら光己はむごいのではなく手ぬるかったようだ。ブラダマンテは己の判断の甘さを反省した。

 しかしいくら思念体とはいえ、本当の意味の不死身などありえない。傷を治すのにはエネルギーを使うはずだし、「死ぬ」ような痛撃を何度も受ければ精神の方が折れるはずだ。

 

「ええーいっ!」

 

 なので再び5人がかりで攻めかかる。施設はどのみち修繕が必要なのでもう遠慮はせず、宝具もばしばし使っていく方針だ。

 

「螺旋拘束! 全身、全霊!」

 

 ブラダマンテの宝具は準備段階の拘束さえ決まれば、続く突進は回避できない。

 また彼女自身が突撃する前に、他のサーヴァントに宝具を使ってもらうという選択肢もできる。

 

「では私が。駆けよ、放生月毛! 毘沙門天の加護ぞあり! 『毘天八相車懸りの陣(びてんはっそうくるまがかりのじん)』!!」

 

 景虎が風呂場で馬に乗って8体に分身するという暴挙をかましつつ、代わる代わる襲い掛かってそれぞれ違う武器を振るう。人の感情の機微なんて分からない軍神様だから是非もないヨネ!な勢いで悪霊に連続攻撃を喰らわせた。

 

「―――目映きは閃光の魔盾(ブークリエ・デ・アトラント)!!」

 

 その上でブラダマンテが渾身のシールドチャージをぶちかます!

 

「いったぁぁぁぁい! さ、さすがにずるいんじゃ……」

「いえまだこれからです。ワルキューレ・トライアングルアタック!」

 

 これはワルキューレ3姉妹が同時に宝具を開帳し、21本の「偽・大神宣言(グングニルのレプリカ)」を一斉に投げつけるという無茶苦茶な必殺技である。並みのマスターでは魔力負担に耐えられず死んでしまうが、現在のマスターなら問題ない。

 とどめの「正しき生命ならざる存在を否定する結界」により、悪霊は今度こそ消滅退散した――――――と思いきや。確かに消え去ったはずの黒い影はまた霧のように湧いてきて再び悪霊を形づくった。

 

「ちょ、本当に不死身!?」

「だから言ったでしょう!? 私はさもしい現実になんてぜーったい戻らないのです!」

「マ、マスターどうしましょうか」

 

 この悪霊、ある意味魔神柱よりタチが悪いかも知れない。ブラダマンテはそろそろ怖くなってきて、マスターに新しい抜本的な作戦を求めた。

 むろんいきなりそんなことを言われても簡単に考えつくはずもなかったが、そういえば悪霊は自分でウィークポイントをばらしていたような気がする。

 

「よし、それじゃ段蔵はロビーに戻って、ジャンヌオルタとアイリスフィールさんを呼んできて! アイリスフィールさんは『天の衣』モードで。

 ブラダマンテたちはそれまで防御重点!」

「は、はい!」

 

 前衛5人は全力で宝具を使った直後だが、マスターからの魔力供給量はとても多いので防御に徹するなら5対1だし問題はない。逆に羅刹は何か策があると見て司令塔の光己を討とうと間合いを詰めてきたが、これは光る盾という便利な防具を持っているブラダマンテが前に立って何とかしのいだ。

 そしてジャンヌオルタとアイリスフィール、というか羅刹が強敵と聞いた居残り組全員と紅閻魔もやってきた。

 

「よし、アイリスフィー……んんっ!?」

 

 光己の希望通り「天の衣」を着てきてくれたアイリの、想像もしていなかった露出過多ぶりに思春期少年は鼻血を噴き出しそうになってしまった。

 まず頭の白い冠と、両腕の巫女装束のような広い袖、あと白いストッキング?はいいとして。あのノースリーブの白いドレスのデザインは何なのだ。

 何しろ胸の真ん中からへその辺りまで露出しているばかりか、バストを隠しているのは上から垂らした逆二等辺三角形の布だけなのである。あれでは戦闘どころか、ちょっと風が吹いただけでおっぱいの下半分が全部見えてしまうではないか。

 スカートもすごいミニの上に左右にスリットまで入っているし、どうもパンツを穿いてないように見える。けしからん、実にけしからん!(棒)

 

「そ、それで私は何をすればいいのかしら」

 

 アイリは名指しで呼ばれたからには大役があると思って覚悟を決めて来たわけだが、できるならなるべく早く終わってほしい。頬を赤らめつつ、光己に用件を訊ねた。

 光己としてはせっかくだからしばらく鑑賞していたい気持ちはあるが、強敵と戦っている最中にわがままは言えない。すぐに作戦を指示した。

 

「はい、あの黒いやつの動きを止めてほしいんです」

「分かったわ」

 

 アイリは天の衣を着ていれば針金なしでもサーヴァントに通用する出力があるが、針金を使えばより丈夫な縛り紐ができる。さっと空中に一束の針金を放り投げると、魔力を送って使い魔に変えた。

 まるで光る網でできた白鳥のような優美さで悪霊に向かって飛んでいく。

 

「おおっ、ずいぶん増えたわね! でも私は絶対あきらめないわよ」

 

 羅刹はこれだけの人数を前にしてもなおくじけず、使い魔に向かって刀を振り下ろす。

 彼女の剣の腕からいって、ただの針金であれば一刀両断にできただろう。しかし白鳥は刀が触れたと同時に形を崩し、蛇のように彼女の腕に巻きついた。

 ―――さて、ここが知恵の使いどころである。というのも普通に両腕と胴体を縛るだけでは、力自慢の敵には引きちぎられてしまうからだ。

 しかし両手の小指に巻きつければ、いかな剛力の持ち主でも簡単にはちぎれないし、高ランクの狂化持ちでもない限り指を捨てる決断もすぐにはできないだろう。

 

「うわっ!? これじゃ刀振れないじゃない」

 

 羅刹もこれは予想できなかったらしく、どうしていいか戸惑っている。第二次総攻撃のチャンスだ。

 

「カーマ、宝具だ!」

「はーい!」

 

 羅刹は美少年美少女を求めていた以上、幼女の魅了宝具には耐えられまい。

 両手の小指をくくられていてはかわせるはずもなく、10本ほどの魅了の矢がすべて命中する。

 

「はわわわ……カーマちゃんカーマちゃんカーマちゃん……カーマちゃん可愛い! カーマちゃん最高!」

 

 羅刹は両目をハートマークにして幸せそうに身をよじっている。完全無防備状態だが、成仏とまではいかないようだ。

 ならば最大の必殺技を使うしかあるまい。

 

「よし、それじゃ清姫、ジャンヌオルタ! ()()を仕掛けるぞ!」

「はい、旦那さまのおおせとあれば!」

「ええ、その言葉を待ってたわ!」

 

 2人ともやる気十分のようだ。まず光己が片膝立ちになり、両手を突き出して魔力弾とかそういうのを放つ構えを取る。

 その右後ろと左後ろに、清姫とジャンヌオルタが軽く足を開いて立ち両手を向かい合わせた。

 

「燃えろ俺の性……じゃなかった正義の怒り! 黄金の位まで高まれ!」

「よく分かりませんが、わたくしたちの愛の力を教えてあげます!」

「強大なる邪悪に神に禁じられし秘技で立ち向かう……いいわね!」

 

 3人は考えていることはまるで違うが、妄想力(コスモ)を高めるという方向自体は一致していた。魔力の波長が同調共鳴し、1人でやる時の何倍もの強大なオーラが噴き上がる。

 

「こ、これは……!?」

 

 宇宙開闢(ビッグバン)を彷彿とさせる圧倒的パワーに紅閻魔が冷や汗をかいた。この連中、本当に何者なのだろうか?

 そして3人が黄金の妄想力を開放する!

 

「究極奥義! 『人類悪もびっくり(ビーストエクスクラメーション)』!!」

「きゃわーーーーーーっ!? こ、これがもしかして涅槃!? 極楽浄土!? ああ、私はついに到達したのね……!」

 

 その何だかよく分からない超破壊力が羅刹の全身を飲み込み、ようやく無に還すことに成功したのだった。

 

 

 




 閻魔亭の温泉はクエストだと男湯と女湯がありますが、建物の一枚絵だとないんですよね。しかしそれは見やすくするための都合で、実際には階段の間に仕切りがあって、それが屋上の浴室の中まで続いているのではないかと思います。


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