方針が決まると、女将は他の客のお世話があるので退室し、「
ただその前に、光己には1つ言っておきたいことがあった。
「お手伝いするのはいいんですが、その前にあの賽銭箱に鍵をつけた方がいいんじゃないですか?
いくら稼いでも、またフタを開けられて台なしにされたらたまったものじゃありませんから」
あるいはフタを開けた者には神罰が下るとかそういうものがあるのかも知れないが、開けられずに済むならその方がいいはずだ。
「そ、それは確かにそうチュン! 女将に伝えておくチュン!」
「よろしくお願いしますね」
これで光己の懸念は解消されたので、いよいよ具体的な仕事の話に入る。「都市」によると、現状でカルデア一行とエリセにできそうなのは食材の山の幸や川の幸を取ってくること、旅館の補修や
その山の幸や川の幸の内容や取り方とか、木材の種類や形とか、魔猿がよく出る場所とか、そういった実務的な話まで済んだら班分けになる。
その時改めて自己紹介をしたのだが、サーヴァント14人に続けて名乗られたエリセが興奮のあまり失神しそうになったのだが、本当に失神まではしなかったあたりクレーンよりはオタク度が低そうである。
なお玉藻の前とタマモキャットは「
(それにしても1人で14騎と契約して平気な顔してるなんて、やっぱりこのヒト本当に元熾天使なのかも……。
あと「世界各地に観測される、魔術が関わる異常事態を解決している組織」って何? 魔術師が大勢からんでそうだし、何だか怪しい……)
エリセは魔術師が嫌いなので、魔術が関わると言われた時点であまり好感は持たないのだった。もっとも怪しいといっても証拠はないし、光己もオルガマリーも善人ぽいので今は難癖をつける気はないが。
そんなことを考えているエリセの前で、オルガマリーが音頭を取って班分けをしている。
「エリセも入れたら18人だから、ちょうど6人ずつになるわね。
ワルキューレは1人ずつ分かれてもらうこととして、それ以外はどうしようかしら?」
「所長とアイリスフィールさんは猿退治は論外として、
ですので山の幸川の幸班に回っていただいて、安全重視でマシュかお姉ちゃんも入るようにしましょう。
猿退治班は戦闘ですから俺がリーダーしますよ。
あとはジャンケンか交代制ってことでいいんじゃないですか? ただ清姫とジャンヌオルタは炎メインですから、猿退治班は避けた方が良さそうですね」
「お待ち下さい旦那さまぁぁ! それではわたくしはずっと旦那さまとは別行動ということになってしまうのではぁぁ!?」
光己の意見は妥当なものだったが、妥当なら納得できるというわけでもない。清姫はドラゴンのごとくぐわーっと吠えて不服の意を表明したが、幸いにして彼女の希望を叶える方法は存在した。
「じゃあまたランサーになればいいんじゃない? スクール水着も山林の探索に向いてるとはいえないけど、それならクレーンって人に霊衣つくってもらえばいいんだし」
「それです!!!」
ヒルドの提案に清姫が全力で乗っかって、ただ霊衣は頼んだその場でできるものではないので、今日のところは山の幸川の幸班に入ることになった。
その後ジャンケンしてとりあえず今日のお昼までの班分けは、山の幸川の幸班はオルガマリー・アイリスフィール・スルーズ・段蔵・清姫・ジャンヌ、木材班はヒルド・ブラダマンテ・ヒロインXX・カーマ・ジャンヌオルタ・玉藻の前、猿退治班は光己・マシュ・オルトリンデ・景虎・タマモキャット・エリセという割り振りに決まった。
あとは先ほど巨鳥が割った窓をルーンで直して、次に運良く自室にいたクレーンに清姫の霊衣を依頼したら二つ返事で引き受けてもらえたので、満を持して現場へと出立である。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はい、所長も」
微妙に家族っぽい挨拶をかわしつつ、光己チームがまず赴いたのは閻魔亭の裏山のさらに奥の方である。そこには魔猿だけでなく魔猪や、
魔猪は珍味だが、目的はあくまで追い払うことだから、無理に退治して持ち帰る必要はないそうだ。
「そいつらの強さによっては、人数配分を変える必要があるかもな」
「そうですね、まあどんな強い魔物が出てこようとマスターは私が守りますから!」
山の奥まで歩いていくと時間がかかるので空を飛んで行くことにしたのだが、景虎は光己にしっかり抱きかかえてもらってご満悦であった。
しかし「マスターを守る」と言われては、反対側のマシュも黙ってはいられない。
「いえ景虎さん、先輩をお守りするのはシールダーであるこの私ですから!
景虎さんは安心して、アタッカーの仕事に専念なされると良いかと」
「むう、何という正論! しかしそれでは撃墜数は稼げないのでは?」
「ご心配なく。私は攻めの手柄などなくてもいい身ですから!」
「……」
マシュはフランスでランスロットと遭遇した時は強硬に攻めの手柄を欲しがっていたのだが、それについては光己は口にしなかった。嘘は良くないことだけれど、事実なら何でも公表していいというわけではないのだ。主に安全と平穏のために。
やがて目的地に到着して地面に降り立ち、まずは少し歩いてみることにする。
「……一見は普通の森ですが、昨日の林より魔力が少し濃いですね」
オルトリンデがそんなことを言った直後、獲物の匂いを嗅ぎつけたのか、さっそく野性味たっぷりの黒っぽい猪が2頭現れた。当然のように襲ってくる。
「あれが魔猪か! みんな迎撃して!」
特殊能力は持ってなさそうだが、下から斜め上に伸びた大きな2本の牙に刺されたらサーヴァントでも痛そうだ。接近される前に仕留めるべきだろう。
「はい!」「うん!」
オルトリンデが槍の穂先からビームを放ち、エリセも黒いエネルギー波のようなものを放つ。魔猪は突進速度こそ速いが、急カーブして攻撃を避けるという芸当はできないらしく2人の攻撃をまともに喰らった。
「Guuuu!」
顔面を強打されて一瞬足が止まるものの、すぐさま突進を再開する黒き猪2頭。食欲に傷つけられた怒りが加わって実際コワイ!
最初の標的は当然、今攻撃してきたオルトリンデとエリセだ。しかし2人はぎりぎりまで引きつけると、ぱっと真上に跳んで避けた。
その後ろには太い木が立っていたが、魔猪は急ブレーキなんてできない。そのまま頭からぶつかったが、なんと木の方がメリメリと音をたてて倒れてしまった。
「うわ、すごいパワー」
なぜこんな危険な魔物がうろついている所で紅閻魔は旅館など経営しているのか、光己は改めて不思議に思ったがそれはさておき。エリセが跳んだ際に横乳がぷるんと揺れる所と、服の裾が舞い上がってその下に穿いている薄青色の
おっぱいは年齢以上によく育っているし、褌も角度がえぐくて張りのいいお尻がかなり露出している。サービスがいい娘だなあ、と光己は(もちろん内心だけで)感謝した。
あとオルトリンデのスカートの裾も舞い上がっていたのだが、彼女を含む3姉妹はパンツが見えるところまではいかないのが残念である。いや3人の時代的に考えて穿いてないという可能性もあるので、今はシュレディンガーのパンツ状態だった。
「やあっ!」
魔猪は立木を一撃で倒したとはいえ、さすがに動きは止まった。そこにオルトリンデとエリセが再びビームを放ち、景虎とタマモキャットも横から撃ちかかる。
「Guーーー……」
それでも魔猪は容易に絶命しない。そこで光己がいいもの見せてもらったお礼に光のブレスをぶつけると、ようやくズシーン!と地響きを立てて倒れ伏した。
「ずいぶんタフな奴だったな。みんな大丈夫?」
「うん、私は大丈夫……だけどすごいね、キミ」
彼は元熾天使かも知れないと思っていたが、ドラゴンめいたブレスまで吐くとは。エリセはこの(見た目は)年上の男性が何者なのか、怖いもの見たさ的な意味で本当に気になってきたのだった。
「ん、そりゃまあ俺もヴァルハラ式トレーニングで鍛えてるからなー」
「トレーニングでああいうのって身につくの……?」
怪しげなパワーワードを聞かされたが、彼はきっと真の正体を隠そうとしているに違いない。すでに3対の翼を見せてしまっているのに何故とも思うが、何か深遠な考えでもあるのだろうか。
「ところで魔猪の遺体、持って帰る?」
「そのまま持っていくには大きすぎますし、血抜きや切り分けをしていると時間がかかります。
倒した証拠として、牙だけ折って持っていくというのはどうでしょう」
「そうだな、そうするか」
武功を主張するには物証を持っていく。景虎の理にかなった進言を採用して、光己は持参していたズタ袋に魔猪の牙を入れた。
「じゃ、次行こうか」
「うむ。ご主人に魔猪のマンガ肉欲張りセットをご馳走できないのは残念だが、諸事このアタシに任せておくといいぞ!」
「え、キャットマンガ肉つくれるの? じゃあ帰る時またここに寄って―――」
光己がそう言い終える前に、今度は上から鳥の羽音が聞こえた。
見れば体高2.5メートル、翼幅はその倍ほどもありそうな黒っぽい鳥が3羽も飛んでいるではないか。
こちらを見下ろして「いつまで」「いつまで」と気味悪い声で鳴いている。
ただ襲ってくる様子はない。
「で、でかい!? それにあの鳴き声、あれが『以津真天』か!?」
「でも何故襲ってこないんでしょうか?」
「単に大きすぎて森では動きづらいのでしょう。どうしてもというのなら、翼をたたんで脚で走るということになりますね。
太平記には、
景虎が生前に「太平記」を読んでいたらしくそんなことを言ったが、残念ながらこのチーム、いやカルデアにはアーチャーはいなかった。
それでも飛び道具はあるから攻撃はできるが、怪鳥の鳴き声を聞いている内に一同はだんだん気分が悪くなってきた。
「せ、先輩……何かすごく嫌な感じがして、力が入らなくなってきたような」
「言うまでもなくあのおぞましき鳴き声のせいなのだな。キャットも眠く……いや寝るのも嫌な感じなのである」
「え、そんなことになってるのか?」
しかし光己は平気なので、どうやら声に妖力がこめられているようだ。なら対抗策はある。
天使の翼に魔力を送って白い光を放射すると、マシュたちはすぐさま全快した。
「やっぱりすごいですね、これ。全身に力がみなぎってきます!」
「ええ、普段の倍ほども強くなった感じがします。これなら誰にも負けませんよ!」
特に景虎は心身ともに最高すぎるほどハイ!!になっていたが、すると怪鳥はおびえた様子になって逃走してしまった。
「に、逃げた!?」
「うむ、やはり野生の掟に生きる者は判断が早いのである」
「むむー、ある意味人間より手強いな」
光己たちの目的は魔物を閻魔亭に近づかせないことであって殺すことではないので、脅して逃走させたのなら目的を達成したといえるのだが、殴られたのに殴り返せなかったのでちょっと不満が残った光己なのだった。
しかし済んでしまったことは仕方ないので気持ちを切り替えて次に行こうとした時、エリセが仲間になりたそう、もとい何か聞きたそうにこちらを見ているのに気がついた。
「あ、もしかして俺が出した光浴びて嫌な気分になっちゃったとか?」
「ううん、むしろあの鳥にやられたのが治ったくらいなんだけど、今の何?」
「簡単に言うと、俺を好きな度合いに比例してバフがかかったりデバフが治ったりする技だよ。毎回やったら依存症になるかも知れないから、今回みたいに必要そうな時だけにしてるけど」
「へえ……じゃあもし嫌いだったら?」
「そりゃもう、嫌い度に比例してデバフだよ」
「……」
彼はずいぶんとマスター向きのスキルを持っているようだ。いや1度嫌われたらドツボにハマるわけだから諸刃の剣というべきか。
「でも少なくとも、エリセに嫌われてなくて良かったよ」
「うん。キミはいい人みたいだし、召喚された英霊を愚弄なんてしないだろうから」
「愚弄? 敵ならともかく、善意でボランティアしてくれてる人を愚弄なんてするわけないぞ」
エリセが口にしたショッキングな単語に光己はびっくりしてしまったが、するとエリセも不思議そうに首をかしげた。
「……ボランティアってどういうこと?」
「あー、そこからか。他はどうか知らないけど、カルデアにいるサーヴァントはみんなタダで協力してくれてるんだよ。いやご飯くらいは出してるけどね。
嫌になったら契約解除してサヨナラだから、ぞんざいには扱えない……といっても俺はリーダーだから媚びへつらったりまではしないけど、感謝の気持ちとかそういうのは当然かな、と」
「そうなんだ……」
エリセがいた世界では、人間はみんな「運命の示す」サーヴァントと契約してパートナーになっていたのだが、ここはそうではないようだ。そういえばサーヴァントが14騎もいるのに全員光己と契約していて、オルガマリーとアイリスフィールは誰とも契約していないし。
(もしかしてただのマヨヒガじゃなくて、違う世界とかそういうのに来ちゃったのかな?)
ふとそんなことを考えて、エリセは少し気が遠くなった。