FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第164話 旅館のお手伝い2

 光己たちはその後も何度か魔猿や魔猪や以津真天(いつまで)と遭遇しては退治したり追い払ったりしていたが、そろそろ太陽が真上に近づいてきたのでいったん帰ることにした。

 

「そうだね、ちょっと疲れたし……」

 

 エリセはまだ光己と契約していないので、魔力供給がなくて回復量が少ないのだった。というかまだ自分のことをサーヴァントだと認識していなかったりする。

 

「じゃ、さっきの魔猪の肉を回収しようか」

「うん、マンガ肉なんて初めてだよ」

 

 エリセもサブカルチャー界で有名なこの肉料理に興味津々のようだ。

 タマモキャットと名乗っている彼女が狐なのか猫なのか犬なのかは分からないが。

 そして閻魔亭の玄関前、ではなく魔猪の肉を持っているので裏口に行って肉と牙を雀に渡した後、生身の光己とマシュ、それに自分を生身だと思っているエリセも服の汚れを払い濡れタオルで体を軽く拭いてから亭内に入った。

 なおマシュ以外のサーヴァントは一度霊体化すれば汚れは落ちるので問題ない。

 翡翠の間に行ってみるとオルガマリーはすでに帰っていたので、さっそく報告することにする。

 

「―――というわけで魔猿と魔猪はともかく、以津真天はちょっと厄介なので俺は猿退治班固定にする方がいいと思います」

「そうね。治癒系のスキル持ってるサーヴァントは何人もいるけど、上から不意打ちでデバフかけられたら効き目落ちるかも知れないものね。

 貴方にばかり負担かけてすまないけど、お願いね」

「はい、どう致しまして」

 

 確かに光己が1番大変な仕事になるが、オルガマリーはいろいろ気遣ってくれるし、彼女自身がトップとして頑張っているのもよく知っているので不満はなかった。

 

「あとキャットが女将と相談して夕ご飯に魔猪のマンガ肉欲張りセットつくってくれるそうですので、清姫の霊衣のお礼にクレーンさん誘ってもいいかも知れませんね。鶴が猪の肉食べるならの話ですけど」

「……魔猪のマンガ肉って、さすがバーサーカーだけあって奇抜なものつくるのねえ。

 まあいいわ、人に化ける鶴の食性なんて知らないから、誘うだけ誘ってみましょう」

 

 クレーンのことだから、鶴は猪の肉なんて食べないのだとしても無知を怒ったりはしないだろう。うまくいけば親密度アップで勧誘チャンスだ。

 

「ああ、それとこっちの報告もしておくわね。

 6人をまた2つに分けるのは人数少なくなりすぎだから、午前中は全員そろって山の幸だけにしたの。

 こう言ったら何だけど山菜採りみたいで面白かったわ。段蔵のおかげで毒キノコや毒草は区別できたしね」

「魔物は出なかったんですか?」

「ええ。運良く出会わなかっただけか、あの辺りには生息してないのかは分からないけど」

「そうですか、それは良かったです。所長もたまには楽しいことあっていいはずですからね」

 

 オルガマリー(とアイリスフィール)に危険がなくて何よりだった。今後もそうであればいいのだが。

 

「ありがとう、貴方も……いえ貴方は、いえ何でもないわ」

 

 オルガマリーは何か言いかけたが、途中で顔を赤くして口を濁してしまった。

 実は彼女は昨日男湯を覗いたりはしなかったが、多量の魔力が流動していたのは感じていたので、光己がここでは口にできないコトをしていたのではないかと疑っているのだ。

 一緒にいた女性陣は自分から混浴しに行くくらい彼と仲がいいわけだし。

 

「?」

 

 当の光己はここでオルガマリーが赤面した理由を察せるほど鋭くはなく、しかし深く追及するとセクハラになりそうなので控えておいた。

 その後木材班も無事帰ってきて、こちらは今回は薪割(まきわ)りだけだったので難しいことは何もなく、つつがなく完了して納品したそうだ。ただ旅館の補修に使う物ともなると、形状を統一したり表面をきれいに削ったりする必要があるので手間がかかりそうである。

 

「ルーンで何とかなるといえばなるけど、あたしたち木こりや大工じゃないからねー」

「まあその辺は仕方ないだろ。というか最初に建てる時はどうしたんだろうなあ」

 

 おそらく八百万(やおよろず)の神々のすごいパワーで何とかしたのだろう。それなら毎年QPを捧げているのも分かるし。

 昼食の後ひと休みしたらまたお仕事だが、光己は探索の合間に山の幸川の幸班と木材班の様子も見に行くことにした。

 

「猿退治班専従といっても、他のとこまったく知らないのもつまんないからな」

「これは旦那さま! わざわざわたくしの仕事ぶりを見に来て下さるなんて嬉しいです」

「うん、まあ清姫だけってわけじゃないけどね」

「むうー、乙女としてはわたくしだけを見に来たと仰ってほしいところですが、それでは嘘になる上に、引率者としては失言になる……今日も旦那さまは思慮深いお方」

「や、そこまで持ち上げられると困っちゃうけど……でも川の幸集めならスクール水着でちょうど良かったんじゃないか? 絵になってるよ」

「も、もう旦那さまったら♡」

 

 光己がそんなことを話しつつ川を見てみると、水はとても綺麗で澄んでおり魚もそこそこいるようだ。岸辺に閻魔亭の備品の大きな魚籠(びく)が置いてあり、すでに20匹くらい中で泳いでいる。

 

「おお、ちゃんと獲れてるみたいだな」

「はい、仮にもワルキューレですから川魚を手で獲るくらいは簡単です。

 別に、魚を獲り尽くしてしまっても構わないのでしょう?」

「いや、乱獲ダメ絶対」

 

 やる気があるのは良いことだが、何事もいきすぎはよろしくないのだ。

 スルーズがしゅんと肩を落としたが、今回はそのまま流すことにする。

 

「所長とアイリスフィールさんは普通に釣りですか?」

「ええ。水はそんなに冷たくないけど、私たちは魚を傷つけずに手でつかむなんて無理だから」

「正直にぎやかしにしかなってないけど、だからってサボるわけにもいかないし」

 

 山菜採りは腕力や武術の技量はあまり関係ないのでオルガマリーとアイリも普通に戦力だったが、川魚獲りはスルーズと段蔵が圧倒的だった。ジャンヌと清姫は水中で腕を振って起きた波で魚を陸に打ち上げる漁法を使っているが、武芸達者の2人には及ばないようだ。

 

「まあその辺は仕方ないと思いますよ。

 それじゃまた後で」

「ええ、気をつけてね」

「お気をつけてー」

 

 最後にトップに挨拶してから、光己たちは木材班の仕事場に向かった。

 今回は客間の修繕のための杉や(ひのき)の柱や板の調達である。さすがのルーンも、材料がなくては元に戻せないので。

 柱や板を作るにはまず立木を根元から切り倒した後、枝を落として丸太にする。それを削って大ざっぱに製材するところまでは、ブラダマンテとヒロインXXとジャンヌオルタが担当していた。

 その後乾燥させたり表面を(かんな)がけしたりといったことは、ヒルドとカーマと玉藻の前が魔術でやっている。実は復讐者(アヴェンジャー)のカーマはかの蘆屋道満に勝るとも劣らぬ術スキルの持ち主なのだ。

 

「おお、すごいな。手作業でこんなきれいな柱や板をほいほい作れるなんて……」

「フフッ、私にかかればこんなものですよ。感謝して下さいねマスターさん」

「うん、さすが魔王様だな。カーマちゃんカワイイヤッター!」

「えっへん!」

 

 なお夏の魔王様は水着サーヴァントなので山林の中だとちょっと場違いに見えるのだが、今は部外者がいないので特に気にしていなかった。

 

「先生が困ってらっしゃるのですから、私も少々本気出さざるを得ませんからね。

 でもマスターのおかげで自称竹取の翁に言い逃れされずに済みそうでありがたいです」

 

 なにぶん証拠がないことなので、玉藻の前だけではいくら「昔話では誰も本物を持って来なかったのだから貴方は嘘を言っているのだ」と追及しても水掛け論にされかねない。しかし光己(とカーマ)のおかげで、どちらに転んでも自称翁を成敗して賠償金をナシにできるのが紅閻魔の生徒として嬉しかった。

 

「うん、99%サギだから俺自身には多分関わりのないことだけど、あれはさすがに見過ごせないからなあ」

「ありがとうございます、やはりマスターはいい方ですね。

 あ、それはそれとして帰る時はまたここに寄って下さいましね。私たちだけでは材木運べませんから」

「ああ、それがあったか。じゃあロープで縛っておいてくれたら、俺が竜モードになって閻魔亭の裏口まで運ぶよ」

「おおー、いつもながらマスターは頼りになります!」

「うん、それじゃまた後でね」

 

 木材班も問題ないみたいなので、光己たちは辞して本来の仕事場に戻ることにした。

 さっそく魔物の気配がする、のはいいのだが―――。

 

「午前中の戦闘でここの魔物の強さは把握できましたので、午後はマスターの訓練のため以津真天以外の敵はマスターに退治してもらうことにしましょう」

 

 戦乙女脳のメンバーがそんなことを言い出したため、光己は最初に遭遇した魔猪は上空からのブレスで一方的に打ちのめしたものの、2頭目は飛行禁止になったのでひーこら言いながら逃げてはブレス逃げてはブレスでやっと倒すという苦労をするハメになっていた……。

 

「疲れた……やっぱまだまだ未熟だなあ」

「いえ、技能縛りをつけて魔猪を倒せるならエインヘリヤルとしても上澄みの部類に入りますので誇っていいと思います」

 

 なおその次は午後では初めての魔猿に出会って、これは魔猪より攻撃力は大幅に劣るもののとても素早いので、ブレスは照準をつけられず、手刀や掌打は避けられてカウンターをくらうで結局倒し切れずに逃げられてしまった。

 

「痛くはなかったけど、徒労感がひどい……」

「なるほど、やはりマスターはスピードや技量が優れている相手は苦手なようですね。今後の参考にしましょう」

「オルトリンデ先生厳しみ……」

 

 昨日ヒルドが「光己にとってヴァルハラはちょっとキツめの部活のようなもの」と言っていたが、もしかしたら「キツめ」の基準が違うのかも知れない。とりあえず後でご褒美欲しいなあ、と思春期に走る光己なのだった。

 その後ろではエリセが(この世界のマスターって、サーヴァントにここまでしごかれなきゃならないのかな……?)という畏怖と憐憫と呆れがこもったまなざしで見つめていたのだが、彼がそれに気づくことはなかった……。

 

 

 

 

 

 

 前回のレムレムレイシフトでは道具を持ち込めなかったが、今は「蔵」の中に時計その他の小道具を入れてあるので時刻を知ることができる。「蔵」は基本的に財宝しか入れられないのだが、時計がない時代や場所を想定すればお宝認定可能だ。

 

「もう4時か。日も傾いてきたし、そろそろ帰ろう」

「そうですね、材木班を迎えに行かないといけませんし」

 

 というわけで光己たちは閻魔亭に帰って材木を納入すると、部屋ではなくロビーで川の幸班が帰るのを待つことにした。

 やがて扉が開き、何人かのサーヴァントが入ってきたがオルガマリーたちではない。

 

「ほかのお客さんか……って、信長公に沖田ちゃん!?」

 

 何とびっくり。現れたのは戦国時代やオケアノスで会った信長と沖田2人、それに黒い小袖と袴を着たいかにも荒っぽそうな男性、お姫様的な印象を受ける派手な兜をかぶった少女、詰襟学生服に似たデザインの白い服を着た男性と彼に寄りそうように宙に浮かんでいる黒衣黒髪の女性、信長に似た顔立ちの赤い服を着た少年、そして最後に青いジャージを着て黒いホットパンツを穿いたアルトリア顔の少女としめて9名様の団体客であった。

 

「マジか。クレーンさんがいたくらいだから信長公が来てもおかしくはないけど、まずは声だけかけてみるかな」

 

 黒い服の男性がかなり怖いので光己はすぐそばまでは近づかず、1番自分のことを覚えている可能性が高い沖田ノーマルに少し離れた所から声をかけてみた。

 

「沖田さん!」

「え、今誰か私を……ってカルデアのマスターじゃないですか!」

 

 すると沖田はぱーっと嬉しそうに相好を崩して駆け寄ってきた。どうやら覚えていてくれたようだ。

 

「まさかこんな所で会うとは奇遇ですね! 今回はお仕事ですか? それともまた夢の中に?」

「よかった、覚えててくれてたんだ。うん、実は夢の中の方。

 この特異点で起こってる事件を解決するまで戻れないと思うけど、今はこの旅館に住み込みでお手伝いしてるんだ」

「そ、それは大変ですね……」

 

 人理修復だけでも大変なのに、また夢の中でトラブル解決せねばならぬとは。これには沖田も同情を禁じ得なかった。

 そこに沖田オルタと信長も近づいてくる。

 

「マスター……本当にマスターなんだな。温泉旅行に来てマスターに会えるなんて、本当に夢みたいだ」

「うん、俺の方は本当に夢……ってのはおいといて。沖田ちゃんに会えたのは嬉しいけど、確か沖田ちゃんって1度きりの顕現がどうとか言ってなかったっけ?」

 

 沖田オルタが感動のあまり目の端に涙まで浮かべているのは嬉しいが、これはどういうことなのだろう? もっともオルタの方も確信はないらしく、やや自信なさげな口調で説明してくれた。

 

「きっとマスターが助けてくれたからだ。本来なら光秀公を討った時に消えるべきだったところを、マスターのおかげで延命したから『その事実が』英霊としての逸話になって普通の英霊のように存在できるようになった……んだと思う」

「そっか、あの時は痛かったけどその甲斐あったってことだな。ホントに良かった」

「うん、私も嬉しい」

 

 オルタは童子のような素直な笑顔で喜んでくれているが、彼女だけと話しているわけにもいかない。

 

「信長公……お久しぶりです、と言っていいんでしょうか?」

「うむ、そなた本当に難儀な人生送っとるようじゃのう……ちょっとかける言葉が見当たらん」

「いえ、役得はいっぱいありますので嫌ではないです。ところで信長公たちはここにはどのようなご用事で?」

「なに、沖田オルタが今言ったがただの温泉旅行じゃ。人生、いや英霊生も戦ってばかりでは気分がささくれだってしまうからの」

「なるほど、それはそうですね」

 

 信長たちがどういう経緯で閻魔亭の存在を知ってここに来るまでに至ったかの過程に興味はあったが、他の人たちがいるのでそこまで長話するのは避けた。

 しかし温泉が開放された翌日に来るとは何とも耳ざとい、それとも偶然の幸運なのだろうか?

 

「あー、それじゃ後ろの方々をお待たせしてるみたいなので、また後でお邪魔していいですか?」

「うむ、酒の肴にそなたの冒険(たん)を聞くのも良さそうじゃな。ではまた後での」

 

 信長はそれで話を切り上げると、沖田たちと連れ立ってフロントの方に去って行った。

 

 

 




 ハロウィンイベ。アイリさんはあの服着て人前に出るの平気だったのか……! それなら「天の衣」なんて楽勝ですよねぇ。



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