FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第168話 カルデア捕物帖1

 夕食という名の宴会が終わった後は特に何事も起こらず、平和に翌朝を迎えた―――のはカルデア一行だけで、信長たちは酔ったせいか枕投げがリアルファイトに発展して客間を焦がしてしまったため風呂掃除をさせられたそうだが、光己たちには関係ない。

 なおクレーンはカルデアに加入したといっても現場班に入れるつもりはないので、同じく特異点に行ってもらう予定がないアイリスフィールと契約してもらっていた。さしあたっては、光己が竜モードになる時やアイリが「天の衣」を出す時も脱がなくて済むような礼装を開発してもらうという方針である。

 ―――皆そろっての(遅めの)朝食の後、光己たちは沖田オルタが移籍したこともあって、信長一行がチェックアウトして閻魔亭から出るのを見送ることにした。

 そしてロビーで別れの挨拶をしている最中に、妙に真っ白い顔……いや白い顔で長いあご髭を生やした老人の仮面をかぶった黒い和服姿の男性が扉を開けて入ってくる。

 

「―――!」

 

 スルーズがとっさに認識阻害の魔術を使って、一同の姿をその来客の目から隠した。

 和服の(多分)老人ということで、彼が「自称竹取の翁」かも知れないと思ったからだ。もしそうでなかったなら、そのまま術を解けばいいだけのことで何も不都合はないし。

 

「……何かあったのか?」

 

 土方は使われた魔術の内容までは分からなかったが、スルーズが何かしたことには気づいたらしく鋭い口調で問いただした。スルーズも表情を固くし、視線は老人に固定したまま答える。

 

「はい。あの老人、もしかしたらここの女将を騙してQP(きんせん)を奪っている疑いがある『自称竹取の翁』かも知れませんので、認識阻害の魔術で私たちの姿を隠しました。

 皆さん、彼の動向がはっきりするまでこの場を動かないようにして下さい」

「竹取の翁が……!?」

「騙してQPを奪ってる、ですって……!?」

 

 土方と沖田の目が剣呑な光を放つ。

 2人が生前所属していた「新選組」は警察組織であり、その目の前で(先方にはこちらが見えていないようだが)サギを働こうとは(ふて)ぇ奴だ、というわけである。

 とはいえ今はまだ「疑いがある」「かも知れない」段階らしい。しばらく様子を見る必要があるようだ。

 

「ただマスターによれば、もし翁が『5つの宝』を持っていた場合は詐欺にはなりませんが別の罪になるそうですので、その辺りの話が終わるまでは待機をお願いします」

「?」

 

 2人は生前の経験から、おそらく翁が「5つの宝」とやらを盗まれたのを理由にして女将に金を要求しているのだろうと推測したが、それが事実であれば、要求額が妥当かどうかは別として確かに「詐欺」ではない。何の罪になるのかは見当がつかなかったが、やはりスルーズが言う通り黙って見ているしかなさそうである。

 というわけで2人が現場を観察していると、老人は紅閻魔と何か話し始めた。

 物陰に誰かいる気配がするが、関係者だろうか。

 

「―――こんにちは。今年も約束の時期となりましたな。

 返済の用意は出来ていらっしゃいますか? なにやら今年は例年と様子が違いますが」

 

 老人が形だけはていねいにそう言うと、紅閻魔はいささかうなだれて普段のきびきびした振る舞いとはかけ離れた気弱げな様子になった。

 

「それは……今年はまだ無いのでち。賽銭箱を開けるのは、あと数日待ってほしいのでち」

「それはそれは……今年は利息分も払えない、という事でしょうか?

 そうなると、まことに残念なのですが……抵当としてお預かりしているこの閻魔亭。売り払うことで完済とする他ありませんな」

 

 驚いたことに、この閻魔亭は借金の抵当に入れられてしまっていたようだ。

 そういえば段蔵は最初に来た時に何か陰気なものを感じていたが、おそらくはこれが原因なのだろう。

 

「そ、そんなことはありまちぇん! ちゃんと借金は返しまチュ!

 竹取の翁様! あと数日、待ってくだちゃいませ!」

「―――!」

 

 紅閻魔の今の台詞で、この老人が自称竹取の翁であることが判明した。光己がヒロインXXにチラリと目配せする。

 

「……………………いいでしょう。

 7日間ほど猶予を設けます。私も閻魔亭を無くしたい訳ではありません。

 それでは、私はまた7日後に。その時こそ借金の返済、よろしくお願いしますよ」

 

 そして翁が(きびす)を返したところで、XXは宇宙刑事感を出すため聖槍甲冑(アーヴァロン)乗着(じょうちゃく)してから彼の前に飛び出した!

 

「ドーモ、竹取の翁=サン! 宇宙刑事ヒロインXXです!」

「!?」

 

 突然現れた世界観がまるで違う謎存在に伝説のニンジャのようなアイサツをされて翁はとても面食らったが、アイサツをされたら返礼するというのは古事記にも書かれている絶対的ルールである。XXと同じようにアイサツした。

 

「ド、ドーモ……!? た、竹取の翁です」

 

 それでもかなり困惑した様子だったが、これは場の主導権を握るためのXXの作戦である。彼が落ち着く時間を与えず、すぐさま本題に入った。

 

「実は私、この閻魔亭で発生した盗難事件について捜査をしておりまして!

 翁さんが被害者ということでよろしいんですよね? 盗まれたものは仏の御石(みいし)の鉢、蓬莱(ほうらい)の玉の枝、火鼠(ひねずみ)(かわごろも)、龍の首の珠、燕の子安貝の5点で間違いないでしょうか」

「え、ええ……そうです。家宝ですから常に持ち歩いていたのですが、部屋に置いたままちょっと外に出た隙に盗まれてしまったのです」

 

 この辺りは翁がしっかり意識していることなので、まだ戸惑っていても流暢に答えることができた。XXにとっても想定内の返事で、またすぐ質問を投げかける。

 

「なるほどなるほど……それほど大事な物であるなら、偽物とか模造品ということはないですよね? 当然『5つとも』本物ですよね?」

「それはもう。どれもこの世に2つとない希少品です」

 

 翁はこう答えるしかない。作戦成功!とXXは内心でほくそ笑んだが、逆に全身から業火のような怒気を噴き出した者もいた。

 

(嘘、嘘、嘘……! 旦那さまが仰った通り、やはりあの自称竹取の翁は嘘ばかりです……!!)

 

 清姫である。翁を睨みつけている双眸には濃厚な殺意がこもっていた。

 かつて安珍が清姫に嘘をついた時は単に逃げたいだけで積極的に清姫を傷つけようという意図はなかったのだが、あの翁は500年もの長い間明確な悪意と私欲をもって紅閻魔を騙して大金を奪い続け、果ては閻魔亭そのものまで取り上げようとしているのだ。許せるはずがなかった。

 

(灰にしてやる……!!)

 

 怒りのあまり無意識に宝具が発動して、火竜に変貌し始める清姫。しかしその肩に誰かが手を置いたため一瞬早く我に返った。

 

「……だ、旦那さま」

「怒るのは分かるけど、もうちょっと待ってね」

「……はい」

 

 まったくもって彼の言う通りである。今の状況で暴発したら紅閻魔が変な誤解をしかねないし、何より閻魔亭を燃やしてしまう。清姫はぐっと拳を握り締めて憤怒を抑えた。

 

「あ、旦那さま手は大丈夫ですか?」

「うん、平気だよ。俺は無敵アーマーあるから」

「そうですか、なら良かったです」

 

 嘘ではないようだ。愛する旦那さまを傷つけずに済んで、ほっと安心する清姫。

 その視線の先で、「犯人」の「自供」を得たXXが予定通り次の段階に入る。

 いや特に合図を出す必要もなく、ヒルドとオルトリンデはすでに気配を消して翁の後ろに回っていた。

 

(睡眠のルーン!)

 

 背後から不意打ちで原初のルーンを2つもぶつけるという暴挙により、翁はあっさり眠りに落ちた。膝から崩れ落ちる翁の腋の下を左右から抱えて、無言のまま閻魔亭の外に連れ去る。

 

「け、刑事様一体何を!?」

「あ、貴方たち何をする気なのですかな!?」

 

 当然紅閻魔が泡喰って早口に事情を尋ね、今まで物陰で様子を見ていた仮面の男3人も慌てて飛び出してきた。

 XXの方はこれも予想の範囲内なのでいたって泰然とした様子で、4人の前に立ちはだかって解説を始める。

 

「まあ落ち着いて下さい。翁さんが先ほど犯行を自供しましたので、こんな立派な建物の中は避けて外で詳しい取り調べ(と即決裁判と刑罰執行)をするだけですから」

「は、犯行でちって!?」

「自供!? どういうことなのです!?」

 

 4人はとりあえず足を止めたが、先ほどの翁の発言の何が犯行の自供になったのか分からず首をかしげた。XXもこれだけで全部分かってもらえるとは考えておらず、続きを話し始める。

 

「はい。先ほどの話をまとめると、翁さんは『龍の首の珠』の本物を所持していたことになります。しかしこれを入手するには元の持ち主の龍を殺害して奪うか、龍王もしくは海獣マカラの脳から抽出するかしかないのです。

 つまり翁さんには強盗殺龍、もしくは強盗殺マカラの容疑がかかっているのですね。彼の存在を知ったさる高貴な竜種の方と、インドのカーマ神が告発しているのです」

「ご、強盗殺龍……!?」

 

 聞き慣れない言葉に紅閻魔はちょっとどもってしまったが、龍の首の珠を奪った者を竜種の者が告発するというのは理にかなっている。これについては文句のつけようもないが、疑問はまだ残っていた。

 

「カーマ神という方はどんな関わりがあるのでちか?」

「はい、カーマ神はマカラを自分のシンボルにしているのです。

 さらには、マカラは古代インドの最高神ヴァルナ神と、ガンジス川を神格化した存在であるガンガー神の乗り物(ヴァーハナ)でもありますね」

「い、インドの最高神……!?」

 

 一介の獄卒である紅閻魔にとっては雲の上のお方である。目がくらむような気がした。

 そもそもこの件は紅閻魔には関係ない。宝物を盗まれたのは自分の失態だが、元はといえば翁がそれをここに持ち込まなければ盗まれることはなかったし、今こうして宇宙刑事に目をつけられることもなかったのだ。いわば翁の自業自得というもので、紅閻魔は口出しをやめることにした。

 しかし仮面の男3人は、実は翁とグルである。まずは先日も大広間に乱入してきた、猿面の男が弁護を始めた。

 

「いやいやお待ち下さい。あのようなご老人が、龍だの海獣だのを殺せるはずがありません。察するに、交渉して譲ってもらったのではありませんかな?」

「我々もそれは考えましたが、竜種の方にお伺いしたところ『それはない』と一蹴されました。

 まあ持ち主の龍にとっては龍王の遺骨であり、何でも願いをかなえてくれるとまで言われる至宝でもありますからね。他の種族の者に交渉で譲るなんてあり得ないと言われれば、ごもっともと頷くしかありません」

「……」

 

 あまりにも明快な正論に猿長者(さるちょうじゃ)はぐうの音も出ない。本当は翁は珠など持っていなかったことを知っているのだが、今この状況で言えるわけがないし。

 XXの方は3人の雰囲気に怪しいものを感じたので、少し探りを入れてみることにした。

 

「ところでお三方は翁さんの知り合いですか? だとしたら今すぐ縁を切った方がいいですよ。

 ヴァルナ神は司法の神でもありまして、悪人には苛烈な罰を下すそうですからね。仲間だと思われるようなことは避ける方が賢明というものです。

 まあそれ以前に、もし翁さんの取り調べを邪魔したら公務執行妨害罪という非常に重い罪になりますが」

「……」

 

 仮面の3人のうち猿長者以外の2人、蛇庄屋(へびしょうや)虎名主(とらなぬし)は内心でだらだら冷や汗を流したが、幸い仮面をかぶっているので表情は見られない。

 とはいえXXはわざわざ意図して探りを入れたわけだから、3人のうち2人だけ動揺の度合いが深いことには気づいていた。しかしこの場ではそれを言わず、しばらく泳がせることにする。

 

「では私は取り調べがありますので、これで失礼しますね」

 

 そして回れ右して、さりげなく光己たちの方に向けて手で三角を描いてから()()()()()()()()()()()()()()()()()閻魔亭の扉に()()()()()歩いて行った。

 なお三角は、全員外に出るのではなく一部は亭内に残るようにというあらかじめ決めておいた合図である。なぜそう判断したのかまでは伝えられないが、それはあちらで考えてくれるだろう。

 ―――さて、自称竹取の翁と仮面の男たちはこの突発事態にどう対応するのであろうか……?

 

 

 




 月初めの呼符込みの10+1連でゼノビアさんktkr。やはり時代はえちえちハロウィンか……。
 でもエリちゃんともう1回くらい会っておかないと開催の説得力が足りませんな。どこかで出てきてもらわないと。


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