FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第172話 後日談1

 鵺を退治して何日か経つと、その影響は如実に現れ始めた。

 まず盗難事件が実は詐欺だったという話が広まったのか、昨年の同時期より明らかに客が多くなったのだ。

 しかも閻魔亭の建物自体に神気が宿り、雰囲気がだいぶ変わっている。債務から解放され、「感謝の気持ち」をすべて奉納できるようになったからだろう。これなら顧客満足度は昨年までより上がるから、さらなる来客増加が期待できる。

 いや正確にはまだ神々への奉納の儀式は行われていないが、賽銭箱にはちゃんと貯まっているし、債務から解放されたという事実それだけでも、紅閻魔を初めとした従業員の心理状態は大きく違ってくるというものだ。

 また魔猿が雀を襲うとか食材等を盗むといった悪さをしなくなって労働環境が良くなったというプラス面もあった。

 客層は以前猿長者が言っていた「零落(れいらく)した神」や「神を名乗る妖怪」が大部分で、湯治や観光のために来ているらしい。紅閻魔によれば彼らは表世界からはすでに退去しており人類に干渉はしていないそうなので、光己たちも争いごとを起こさずに済んで何よりだった。

 

「これが閻魔亭の本来の姿か……うーん、鵺の被害って甚大だったんだなぁ。

 でもその分、このまま何事もなければQP(かんしゃのきもち)もたくさん奉納できそうだな」

「そうですね、先生も明るくなられて何よりです」

 

 光己の独り言に玉藻の前がそんな相槌を打った。

 紅閻魔は鵺が退治される前も、以前の彼女を知る玉藻の前が気づかないくらいに普段と変わらぬ態度を見せて自分たちが心配しないようにしてくれていた。いや客商売なのだから他の一般客に対してもそうだったと思うが、今の彼女は最初にここに来た時より元気になっているのは一目瞭然だった。

 

「それにしても500年は長いよな。女将さんってこういう時に相談できる人はいなかったの?」

「ご両親に相談すればすぐ解決したと思いますが、先生は真面目で責任感が強い方ですから……。

 猿長者はそれを見抜いた上で犯行に及んだのだと思います」

「うーん、それはまた何ともはや」

 

 真面目なのも責任感があるのも良いことだが、何事も度が過ぎれば毒になるということか。

 これを機に、もう少し柔軟な考え方ができるようになればいいのだが。

 

「ところでお仕事の割り振りですけど、私と清姫さんとキャットさんは今日からは内勤にしていただけませんでしょうか?」

「内勤? 所長がいいって言うなら俺はいいけど、具体的には何するの?」

「はい、私たち自身の勉強も兼ねまして、厨房の手伝いと仲居などを」

 

 ただ内勤組は外勤組と勤務時間が違ってくるので、清姫は旦那さまと一緒にいる時間が減るのが残念ではあったが、このたびはめったにない機会ということで花嫁修業を選択したのである。

 

「ああ、お客さん増えてきたからそっちの人手も足りなくなったのか。

 あ、でも待てよ。それだと俺たちが帰った後は困るんじゃないか? もう施設の修繕はやめた方がいいのかな?」

 

 光己はそんなことを危惧したが、その辺は女将と雀たちも考えているようだった。

 

「いえ、そこは魔猿を雇うなり、素直にご両親に頼るなりするつもりでおられるようです」

「そっか。ここほどの老舗だと従業員教育も大変そうだけど、まあその辺は俺たちが考えることじゃないか」

 

 自分たちは経営コンサルタントではなく、あくまでお手伝いである。そこまで深く首を突っ込むのは避けた。

 

「それで、今日修繕するのはイベントホールだっけ」

 

 表世界の旅館やホテルにも、芸能人などを招いてショーをやるというのはよくある。無論タダではないが、その費用を出せる程度の蓄えはできたということなのだろう。

 

「はい、ようやくそうしたことをしても採算が取れるだけのお客様が見えるようになったのですわね」

 

 大変喜ばしい話である。手伝いをしている甲斐があるというものだ。

 

「それじゃ、早いところ班分けしようか」

「はい」

 

 3人が内勤になったので、外勤は16人である。光己と一緒の猿退治班改め魔物退治班はスルーズ・ブラダマンテ・ジャンヌ・エリセ・沖田オルタの5人になった。

 もともと魔猿以外にも魔猪や以津真天(いつまで)といった魔物はいたが、こちらも鵺を退治してからは減少傾向である。鵺が何かして引き寄せていたのか、それとも単に閻魔亭周辺が彼らにとって安全ではないことが周知されて離れていったからかは分からないが。

 

「じゃ、行こっか」

「はい、今日も訓練に励みましょう」

「いやそれは二次的なものだからね」

 

 ところで魔物退治班は時間節約のため、行き帰りは飛べる者が飛べない者を抱きかかえていくことになっている。清姫と景虎が光己に抱えてもらいたがるのと、一夫一妻主義者の玉藻の前が逆に彼を避けるのを除いては、人間関係的なあれこれから彼に抱えてもらう者はジャンケンで決めていた。

 このたびは何の因果か新米のエリセと沖田である。沖田は特に気にしていない様子だが、普通の感性を持つエリセは腰をぎゅっと抱かれて体の前面が密着する状況をかなり恥ずかしがっていた。

 

「み、光己さんいい人だしお世話になってるし、このくらいだったらいいけど……」

 

 エリセは光己とは性格的な相性はいい方だと思っているし、大勢のサーヴァントたちのリーダーを務めているだけあって頼れる人だとも感じていた。人類のために人間をやめた立派な人だというから尊敬してもいる。

 それにこの集団の中で唯一同じ現代日本人で歳も近いので親近感もあった。これは彼も感じてくれているようだ。

 だから正当な理由があれば体がくっつくくらいは構わないというスタンスなのだが、やっぱりこう恥ずかしいとかドキドキするとか、思春期的にちょっと困るというのはあるのだった。

 

「俺はエリセだったら何の問題もなく大歓迎だけど……あ、もちろん沖田ちゃんもだぞ」

「うん、私もマスターのそばにいられるのは嬉しい」

「わ、私はキミたちとは感覚が違うの!」

 

 光己はそもそも性別が違うし、沖田は外見より精神年齢が低いというか天然さんぽくてそちら関係をまだあまり意識してないように見える。同じ枠で語られては迷惑というものだ。

 とりあえず話を変えることにした。

 

「ところでさ、このお手伝いって奉納日までってことで良かったんだよね?」

「そうだな。それでひと区切りついて、俺たちはカルデアに帰るってことになる……と思う」

 

 今回は戦国時代の時と違って聖杯という確実な目印がないので、光己も断言はできないのだった。状況から考えて、多分そうなるだろうけれど。

 

「今のペースでいければ閉鎖されてる施設の修繕はだいたい終わるし、魔物もほとんどいなくなるだろうしね」

「うん、でもたまに変わった魔物も出るよね。浮遊する大きな目玉(ゲイザー)とか、最初に出くわした巨大鶏もまだいるし」

「ああ、あの生態がよく分からないやつか。あいつら意外と強敵だよな」

 

 宙に浮いてるとか目からビームとかは魔術的な能力ということで納得するとして、口も鼻も耳もないのでは色々と不便というか、栄養の摂取さえ満足に出来ないのではないか。それとも後ろの方に生えている何本もの脚?を獲物に突き刺して体液を吸い取るとか、そういう生態なのだろうか。

 

「でもそれなら体の前か下に生えてないとやりづらいよな。あの形状なら魔眼での催眠からの触手プレイの方が夢があるけど」

「しょ、触……!? って、光己さんセクハラ!」

「あ、ああ、ごめんごめん。でも何で触手プレイっていう言葉がセクハラだって思うんだ?」

「だ、だからそういうところ!」

 

 痛い所を突かれたらしく、エリセは顔を真っ赤にすると光己の胸をばんばん叩いてごまかした。

 なお光己視点だと、エリセはファッションセンス以外は普通の女の子なので服についての突っ込みはあえて入れないが、たまにこうしてからかったりもするのだった。あとこうして密着していると歳のわりには立派なおっぱいや太腿の感触がディモールト良いが、これは正当な役得なのでやましいところは一切ない(断言)。

 反対側の沖田オルタについてはもう説明不要のナイスバディで、最後のマスターになって良かったと思えるひとときである。

 

「ふむ、よく分からないがマスターとエリセは仲良しなんだな」

「それはまあ、仲悪いとは言わないけど!」

 

 ……そうやってたわいないことを話しているうちに現地についたので着陸したが、やはりフラグというものはあるのか、最初に遭遇した魔物はゲイザー、それも2匹であった。

 

「!? 左側のやつの攻撃は私が防ぎますので、その間に右側のをお願いします!」

 

 するとブラダマンテが聖騎士らしく素早い判断で、盾をかざしながら1歩前に出る。これで敵の片方を抑えている間に、もう片方を倒せば有利になるという意味だ。

 

「分かった!」

 

 それに応じて沖田が刀を抜き、右側のゲイザーに突進するが敵もつるんで来ただけあってコンビネーションができていた。ビームで沖田を迎撃すると見せかけて、2匹で同時にブラダマンテを撃ったのだ。

 

「なんと!?」

 

 ブラダマンテの盾のサイズでは片方しか止められない。沖田はとっさの判断で左に跳ぶと、両腕を交差させてビームを受け止めた。

 

「ぐっ! な、なかなか強いな」

 

 腕にぶつかったビームがはじけ、重い衝撃に押されてよろめいてしまう。ただの大きな目玉と思っていたが、意外と知能もあるようだ。

 これではすぐに反撃はできないと見たエリセがすかさず割り込む。

 

「それじゃビームにはビーム! 私に任せて」

「待った! 今回は俺の新技を試させてくれ」

 

 新技というほのかに中二風味漂う単語に興味を引かれたエリセが魔力弾を打ち出そうとした手を止めると、光己が前に出て一旦しまっていた翼と角と尻尾を再び生やした。

 いやそれだけではない。両手に彼の身長より長いツインランサーめいた黒い武器を持っているではないか!

 

「!?」

 

 エリセがそれについて訊ねるより早く、ゲイザーが彼に危険を感じたのかすぐさまビームを放つ。しかし光己は回避の訓練は怠りなく積んでおり、ひょいっと身を翻してかわすと同時に右手の槍を真上に投げた。

 すると槍は明らかに不自然な加速で∩字を描いて宙を翔け、ゲイザーの真上から突き刺さって貫通し地面に縫いつける!

 しかしゲイザーはなかなかの生命力で、脳天?に穴が開いたのにまだ生きていた。

 

「エリセ!」

「う、うん!」

 

 彼はとどめ役を譲ってくれたようだ。エリセはダッシュでゲイザーの横に回った。

 この位置なら、動けなくなったゲイザーはビームを当てられない。

 

「神水、神火、神風清明!」

 

 あとは彼の脚?が届かない間合いから槍で切り裂くだけである。エリセの斬撃でゲイザーが息絶えた時、もう1匹も沖田オルタの手で動かなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 沖田の腕の治療が終わるやいなや、エリセは目を輝かせて光己の「新技」について訊ねた。

 

「光己さん、その大きな槍どういうものなの? さわっていい?」

「うん、いいよ。でも指切ったりしないように気をつけてね」

 

 光己はまず年長者として最低限の注意を促してから、この新兵器の説明を始めた。

 

「俺の『蔵』のことはもう知ってるよな。この前の神気のおかげで俺のレベルが上がったから、出せるものが増えたんだよ。

 ただこれは他の竜のものじゃなくて、アルビオン自身の装備品みたいだけど。だから使い方はだいたい分かるんだ」

 

 普通に手で持って振り回すのはもちろん、今やったように思念で動かすこともできる。また切っ先を揃えてその間からビームを射つことも可能という多機能兵器なのだ。

 

「へえー、すごいね。誰がつくったのかな」

「メリュジーヌが同じもの持ってるから多分モルガンだと思うけど、別の鍛冶師である可能性もなくはないな。

 しかし専用武器を出せるようになったからには、『神魔モード』ってだけじゃ味気ないな。新しい名前を考えないと」

 

 盟友候補(どうるい)と話しているからか、光己はまた邪〇眼が活性化してきたようだ。

 

「そうだな、アルビオン武装現象(アームド・フェノメノン)なんてどうだろう」

「うーん。かっこいいとは思うけど、どうせなら熾天使形態(ゼーラフフォルム)とか良くない? せっかく3対の翼があるんだし、言霊効果でレベルアップが早くなるかも知れないし」

「ほむ」

 

 エリセ案では武器を出せるようになったという要素が感じられないが、ミカエルは剣を持っている姿で描かれることが多いというから連想できないこともない。もしかしたら本当に天使の翼が強くなるかも知れないし。

 しかし即興でドイツ語が出てくるとは、やはりこの娘お仲間(じゃ〇がんもち)のようである。

 

「うん、それじゃせっかくだからエリセの案にしようかな」

「ほんとに? ありがと」

 

 何かすごい能力と武器の名前にまだ14歳の女の子の提案を採用してもらえて、エリセは嬉しそうに表情を綻ばせた。

 彼はいつもいろいろ気遣ってくれるし、何だか親戚のお兄さんみたいな感じがする。

 

「あ、そういえばエリセも槍からビーム出せるんだよな。後で連携技とか合体技とか、そういうの考えてみない?」

「合体技!? うん、作ろう作ろう!」

 

 シュミも合うことだし!

 後はえっちな所さえ治してくれれば、本当にいうことないのだけれど。

 

 

 

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