FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第177話 芥ヒナコとオルガマリー

 重傷者を入れて凍結処置してあるコフィンの解凍には非常に高度な技術が必要で、それができる技師は爆破テロで全員殺害されていた。それでオルガマリーたちは手を出せずにいたのだが、コフィンに入っている者が「死亡」してもいいのなら簡単である。

 念のためモルガンとワルキューレズが結界を張ってから、コフィンの凍結モードを解除する。やがて内部が常温に戻ったところで蓋を開けた。

 中に寝かせてあったヒナコは常人ならまさに死亡寸前の重傷だったが、しばらく待っていると傷がだんだん治っていって、やがて半分くらい癒えた辺りでうっすらと目を開けた。

 

「ここは……コフィンの中……?」

 

 ヒナコがまだ寝ぼけているのか、ぼんやりした口調でそう呟く。

 確か特異点Fとかいう場所にレイシフトするために管制室に集合して、コフィンに入る段階になったところで爆音のような音が聞こえて―――その後の記憶がない。何がどうなっているのだろうか?

 しかし周囲に人の気配がある。ヒナコが体を起こして周りを見てみると、コフィンのそばに数名の技師と、その後ろに所長のオルガマリーや技術局のダ・ヴィンチといった幹部勢がいた。

 そしてその傍らに―――!

 

「え、えんまちゃん!?」

「はい、かれこれ500年か600年くらいぶりでちねぐっちゃん」

 

 数少ない友人が、こちらを見て微笑みかけていた。

 

「な、なんでえんまちゃんがこんな所に!?」

「それについてはいろいろありまちて。でもお話する前に、体を洗って着替えもしてきた方がいいでちよ」

 

 爆発に巻き込まれて重傷を負ったのだから、身体は治っても服は破れたままだし血で汚れている。ヒナコは他にもいろいろ聞きたいことがあったが紅閻魔の意見は確かに妥当なので、言われるがままにコフィンから出て自室に向かうことにした。

 

「良かった、本当に自力で身体を治せたのね。

 あの爆破テロからかれこれ5ヶ月半も経っているけど、貴女の部屋は使えるようにしてあるわ。場所は覚えてるかしら?」

「爆破テロ!? 5ヶ月半!?」

 

 するとオルガマリーがとんでもないことを言ってきたが、これも後で聞くことにする。よく見ると彼女の周りにいるのは人間じゃなくてダ・ヴィンチと同質の者、すなわちサーヴァントであることにも気づいたが、これも後回しだ。

 

(でもこの娘、あの頃よりだいぶ穏やかになってるわね)

 

 ヒナコは5ヶ月半?前のオルガマリーと何度か話したことがあるが、当時の彼女は仕事の大変さと父親を失った孤独感でメンタルがだいぶやられていた。所員にもつらく当たって嫌われていたが、今ぱっと見た感じでは当時のとげとげしい雰囲気はまったくない。爆破テロに遭ったというなら当時よりさらに酷くなるのが順当だと思うが、何かいいことでもあったのだろうか。

 

(まあ、いいか)

 

 トップの精神状態が改善されたのは一応は所員であるヒナコにとっても喜ばしいことだが、その理由を聞きたいと思う程ヒナコはオルガマリーと親密ではない。自分の損になることではないので放置することにして、使えるようにしてもらったという自室に向かう。

 すると紅閻魔が同行を申し出てくれたので2人で行くことになったが、こちらを見送っているサーヴァントの中の1人と偶然目が合った瞬間、ヒナコは信じがたいものを見てしまったショックで一瞬よろめいてしまった。まさか自分と同類の者がいるとは!

 

「お、おまえ……!?」

「ほう、気づいたか。そう、私もおまえと同じ、星の内海から地上に出てきた者だ。

 といっても異聞帯の出身で、今はサーヴァントの身だがな」

「異聞帯……?」

 

 初めて聞く単語だ。まあこれも後で聞けばいいだろう。

 しかしこんな珍しい存在を2人も集めるとは、カルデアもずいぶんと物好きなものである。

 そして管制室を出て紅閻魔と2人きり……ではなく付き添いなのか見張りなのか、異聞帯とやらの女ともう1人額にツノらしきものが生えている小柄な少女がついてきたが、害意はなさそうなのでスルーしておいた。

 5ヶ月半ぶりということになる自室に入ると、異聞帯女とツノ少女はそこまではついて来なかったので、ヒナコは改めて年来の友人にカルデアにいる理由を訊ねた。

 

「それで、なぜ貴女がこんな所にいるの?」

「はい、実は500年ほど前に詐欺に遭いまちて。それで旅館をたたむ寸前まで追い込まれていたのでちが、カルデアの方々のおかげで詐欺師を退治できて、お客様も昔並みに増えまちた。

 そのお礼と社会勉強を兼ねて、トト様とカカ様の提案でしばらくカルデア(ここ)のお手伝いをすることになったのでち」

「さ、詐欺!?」

 

 ヒナコは怒りで柳眉をぴーんと跳ね上げた。

 

「おのれ、人の良いえんまちゃんを騙して金を巻き上げるとは! こ、これだから人間……いや、閻魔亭の客は妖怪や零落した神の類ばかりだったか」

「はい、詐欺師は人間じゃなくて猿面の怪……あちきと同じ、お伽噺の住人でちた。

 あとどちらかというとお金目当てというより、あちきたちが苦しむのを見て楽しむ愉快犯だったというか」

「なお悪いわ! ま、まあ事件解決したのならもう言うことはないわね」

 

 そういえば300年ほど前からは閻魔亭の噂をあまり聞かなくなっていたが、詐欺師の仕業で評判が落ちていたからだったのか。自分がいれば紅閻魔を詐欺師のいいようになどさせなかったというのに、もう少し頻繁に訪れるようにしておけばよかった。

 しかしカルデアが自分の代わりに紅閻魔を助けてくれたのであれば、多少は態度を改めねばなるまい。

 

「はい、至らないあちきのために怒ってくれる友達がいて、あちきは果報者でち」

「えんまちゃんは至らなくなんてないわ。騙されたのは褒められたことじゃないけど……」

 

 どんな詐欺だったかを詳しく問いただす気はないが、そういうことがあったのなら、両親が外部の信頼できる者に預けて勉強させようとするのは分かる。この件に関して口をはさむ筋合いはないようだ。

 いやカルデアが本当に信頼できるかというと不安が残るが、おそらく5ヶ月半前より改善されているのだろう。

 

「それで、ぐっちゃんの方こそどうしてここに?」

「んー。あまり自慢できることでもないんだけど、前の所長に項羽様に会えるかも知れないって煽られてね。

 他にすることもないし、ダメ元で来たというところ」

「すると、今はまだ会えていないのでちか?」

「ええ、でも希望はあるみたい」

 

 5ヶ月半前はサーヴァントはダ・ヴィンチ1人しかいなかったが、さっきは管制室の中に20人ほどもいた。つまり現在のカルデアはサーヴァントを大勢召喚する方針になっているわけで、今後項羽を召喚できる可能性はあると思う。

 

「そうでちか、早く会えるといいでちね」

「ええ、ありがとう」

 

 そんなことを話しながらシャワーを浴びて着替えもして、自室から出ると異聞帯女とツノ少女が待っていたので4人で管制室に戻る。

 オルガマリーたちはまだそこにいて、声が届くところまで近づくと話しかけてきた。

 

「それじゃ、ここで長話するのも何だから所長室に行きましょう」

「……ええ」

 

 確かに話すべきことは多い。ヒナコはこくりと頷くと、オルガマリーやロマニたちの後について所長室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 所長室にいるのはヒナコと紅閻魔とオルガマリーとロマニとダ・ヴィンチの他に、スーツ姿の男性と異聞帯女とツノ少女、それとツノ少女よりさらに年下に見える娘の計9人だ。

 ヒナコは本格的に話が始まる前に初対面の4人に名前だけは聞いておいたが、その後皆が席につくとオルガマリーがみずからお茶を淹れ始めたのでびっくりしてしまった。

 それを口に出すほどヒナコは不作法ではないが表情でバレたらしく、オルガマリーは小さく苦笑しながら説明してくれた。

 

「ええ、いつも私が淹れてるわけじゃないんだけど、今回は貴女への誠意を少しだけでも見せておこうと思って」

「……?」

 

 誠意と言われてもヒナコには分からないので黙って彼女の次の言葉を待っていると、オルガマリーはティーカップを一同に配り終えてから姿勢を正してヒナコの方に向き直った。

 

「……5ヶ月半前の爆破テロは、実は魔術王の手下だったレフ・ライノールの仕業です。

 それをずっと見抜けずテロ行為を許してしまったのは、ひとえに私の不明によるもの。

 所長として、貴女を5ヶ月半もの間凍結処置せざるを得ない事態になったことをお詫びさせていただきます」

「……!?」

 

 魔術王とかいう大仰な二つ名と、あのレフが敵の手下だったという話にも驚いたが、それよりオルガマリーが率直に自分の非を認め謝罪してきたことにヒナコはもっとびっくりした。

 たった5ヶ月半で変わりすぎではないか、これだから人間は!

 いや今のは褒め言葉なのだが。トップがこの誠実さであるなら、紅閻魔の両親が娘を預けてもおかしくないし。

 

「……なるほど、ね。

 確かに貴女の不明だけど、でもそれを言ったらレフと親しくしていた者は全員同罪。むしろ若くて経験不足な貴女より、ダ・ヴィンチたち幹部の方が責が重いともいえるわね。

 かく言う私も見抜けなかったわけだし、謝罪している者をこれ以上咎めはしないわ」

 

 なので深く追及せず鷹揚に許す姿勢を見せると、オルガマリーもダ・ヴィンチたちもほっとしたように緊張を緩めた。

 

「それで、その魔術王というのは何者? 話の筋からして、特異点Fを作ったのもそいつなんだろうけど」

「レフはローマに作られた特異点で『魔神柱フラウロス』に変身したわ。次のオケアノスでも『魔神フォルネウス』が現れた。

 といっても悪魔学でいうフラウロスやフォルネウスとは似ても似つかない肉柱だったから、『魔術の祖』を(かた)る何者かなんじゃないかと推測してるところ。

 いえ一般的な悪魔学の方が間違ってるという可能性もあるのだけれど」

「魔術の祖、ね」

 

 それはまた難儀な奴を敵に回してしまったものである。それで少しでも戦力を集めるために自分を解凍したということか。

 もともと不死身を見込まれて、レイシフト実証が失敗だった時に備えた保険として招かれた身なのでやる気はあんまり無かったが、今は紅閻魔がいるのだからいくらか助力する程度ならやぶさかではない。

 とはいえ懸念はある。

 

「でも精霊にそんな大仕事を手伝ってもらうなんて不安じゃない? あえて言うけど人間と価値観違うわよ私」

 

 人間なら致命傷だったのを特段の治療措置もせずに解凍したのだから、自分が人間ではないことはすでにバレているだろう。なのでさらに具体的に種族名を出して、本当に自分の助けを借りる気なのかどうか問うてみた。

 

「今はそういうことにこだわってられる状況じゃないから、信用できる者なら種族は問わないわ。

 今ここにも本物の女神と、本来なら汎人類史とは相容れない異聞帯のサーヴァントがいるくらいだし」

「……そ、そう」

 

 すると何か予想外の答えが返ってきて、ヒナコはかくっと肩の力が抜けてしまった。

 どうやら思った以上にカルデアは追いつめられて、トンチキなことをしているようである。

 

「で、その異聞帯って何?」

 

 当初からの疑問を解消するため異聞帯女に顔を向けてストレートに訊ねると、モルガンと名乗った彼女は特に隠し立てすることもなくあけすけに教えてくれた。

 

「並行世界のようなものだが、その中でも文明的に行き止まりになったがゆえに『剪定事象』として切り捨てられ消滅する運命にある世界のことだ。無論その世界の中にいる住人にそんな自覚はないがな。

 普通は他の世界と接触したりしないのだが、ここ『汎人類史』においては今進行中の『人理焼却』を解決した後で、異星の神と称される謎の存在の侵略により、異聞帯が7つやってくることになる。私はその中の1つ『妖精國ブリテン』の女王だった者だ。

 つまりこのカルデアにとっては未来の時空からやってきたことになるな。だから異聞帯や汎人類史などという専門用語を知っているのだ」

「!?!?!?!?」

 

 モルガンはごく端的に説明してくれたようだが、逆に端的すぎてヒナコは理解するのに少し時間がかかってしまった。しかも新しい疑問まである。

 

「……ええと、その異聞帯とこの世界って共存できるの?」

「できない。1つの地表に2つのテクスチャは乗せられないのだ。

 だから異聞帯同士でも、領土が接触したら争うことになる。最終的に生き残る異聞帯は1つだけだが、それですら異星の神が降臨するための祭壇でしかないようだ」

「つまり魔術王を倒して人理焼却事件を解決しても、その後で異聞帯を7つとも追い払った上で異星の神も倒さないとこの世界はおしまいってこと?」

「その通りだ。異星の神が来るのを事前に阻止できればいいのだが、現時点ではその方法は見つかっていない」

「うっわあ……」

 

 酷い話だ。2千年以上生きてきたが、ここまで大規模に酷い話は聞いたことがなかった。

 なるほどこの惨状なら、オルガマリーもなりふり構わなくなるはずである。

 

「……って、ちょっと待ちなさい。今の話だと、おまえがこの世界に味方する理由はないな。

 もしかして後で裏切るつもりか?」

 

 この直球すぎるカマかけにモルガンがイエスと答えるとは思っていないが、多少の揺さぶりにはなるだろう。ヒナコはそんな目算をしたのだが、モルガンはまったく動揺しなかった。

 

「いや、そのつもりはない。カルデアの召喚式ではここの人理に害をなすつもりの者は呼べないことになっているから、逆説的に私がここにいること自体が裏切る意志がないことの証明になるな。

 といっても私なりの動機や要求はあるし、メリュジーヌに至ってはカルデア式で来たのではないが」

「うん、でも僕は陛下の忠実な騎士で、マスターの(つがい)にして妹でもあるから、陛下とマスターが人理の敵にならない限りは僕も大丈夫だよ」

「……は?」

 

 モルガンの釈明は納得できるものだったが、このツノ娘は何を言っているのだろうか。ヒナコは視線でオルガマリーに説明を求めたが、オルガマリーもあまり触れたくないらしく目をそらされてしまった。

 仕方ないので話題を変えることにする。

 

「ま、まあいいわ。

 それで結局、私は何をすればいいのかしら?」

「現状では何もないわ。ただ解凍しても大丈夫なことを知ったのに放置して、必要になったとたんに解凍する自己都合優先の姿勢じゃいい顔されないんじゃないかと思っただけ。

 いえ何か突発的な事件でも起こったら対応をお願いするかも知れないけど」

「そう……」

 

 なるほどそれはその通りだ。もともと保険の身だったが、露骨にそんな扱いをされては意欲も削れるというものである。

 しかも今の所は何もしなくていいと言うならお言葉に甘えるだけだが、あと1つだけ重要な案件が残っている。

 

「ところでさっき見ただけでも、サーヴァントが20人くらいいたわね。

 なら項羽様も召喚してもらえないかしら? 突発的な事件が云々っていうなら、その事件が起こってから召喚してる暇はないでしょう?」

 

 我ながら見事な大義名分だとヒナコは自画自賛したが、返ってきた答えは激辛マーボー豆腐めいて辛口だった。

 

「項羽……中国の英霊かしら?

 私は中国史には疎いから、英霊の性格や能力の面での諾否は保留させてもらいたいけど……それ以前に、聖晶石の備蓄がもう無いのよ。爆破テロで半分以上砕かれちゃって、無事だったものも藤宮に召喚してもらうために使ったから。

 技術局で製造してはいるけれど、3個たまるのは2ヶ月くらい先の予定」

「おのれレフ・ライノール! もし会ったら絶対挽き肉にしてやる!!」

 

 ヒナコは怒りも露わに、虚空に向かってそう吼えた。

 

 

 




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