FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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項羽様クエスト ~砂塵の女王と暗黒の使徒~
第179話 芥ヒナコと特異点


 ヒナコが談話室を出ると、一緒にいた紅閻魔も厨房に行くと言って去っていったので、1人になったのを機に落ち着いて今後のことを考えることにした。

 大前提として、紅閻魔がカルデアに協力することになっているのだから自分もそれなりには手伝う。この方針に変更はない。今のところは突発的な事故でも起こらない限り待機のようだが。

 また今日会った範囲では、人間の所員にもサーヴァントにも悪党ぽい者はいなかった。居住環境としてはそんなに悪くなさそうである。

 しかし聖晶石がたまるまで2ヶ月というのは長い。いや普段の自分の感覚ならあっという間に過ぎ去る程度の時間だが、項羽と会える(かも知れない)日を待つとなると話は別で、人間の言葉にある「一日千秋」という感覚が身を以て実感できる。

 

(ならオルガマリーが言ってた、特異点で本人を探すか別の人から石をもらうかすればいいのよね)

 

 今までの経過によると、魔術王が作った(冬木以外の)7つの特異点では、石は持ち帰れるが現地サーヴァントは連れ帰れないらしい。閻魔亭のような夢で行くケースは逆に石は持ち帰れないがサーヴァントは連れて来られるようだ。

 一方別の時代の冬木のような例外的特異点では両方可能だという。カルデアスで観測できるそうだし、狙うならここだろう。

 もしかしたら何かの拍子にまた現れるかも知れない。ヒナコは暇つぶしも兼ねて、もう1度管制室に行ってみることにした。

 

「おやおや、みんな真面目に頑張ってるわね」

 

 そうなると手ぶらで邪魔するのは気が引ける。ヒナコは手土産にコーヒーなど用意すると、目についた所員に現在の状況について訊ねてみた。

 彼の話によると、今は次に修正しに行く予定である産業革命時代のイギリスにある魔術王製特異点を調べているそうだ。レイシフト可能な程度にまで詳細が判明するにはまだ数日かかるらしい。

 

「で、行ったらすぐに項羽様と会えて、それで修正完了になって2人で帰って来られるような微少特異点は見つかってないの?」

「そんな都合のいいものがあるんなら、俺だってアストルフォきゅんがいる特異点見つけたいよ」

 

 アストルフォというのがどんな人物かヒナコは知らないが、とにかく今は例外的特異点は発見できていない、もしくは存在していないようだ。ヒナコは彼の席から離れて、カルデアスに向かい合う位置に歩を移した。

 そして祈祷するシャーマンのごとく、大げさに身振り手振りをまじえて叫ぶ!

 

「天よ地よ、ガイアよアラヤよ! 我に項羽様と会える特異点を授けたまえ!!」

 

 するとその直後、カルデアスに微少特異点の反応が現れた。ヒナコと所員たちが一斉に噴き出す。

 

「芥ァァァ! 気持ちは分かるけど、本当に特異点つくるんじゃねぇぇぇ!」

「ご、ごめんなさい! せ、責任は取るわ!」

 

 いやヒナコも所員たちも本当にヒナコの祈りで特異点が出現したと思っているわけではないのだが、何分タイミングが悪すぎた。それで皆気が動転しているのである。

 

「…………いや待て。この反応だったら、放っておいても問題なさそうだぞ。何もしなくてもそのうち消えるんじゃないか?」

「何を言ってるの。今は放っておいていいように見えても、いつ突然変異を起こすか分からないでしょうが。

 明日にも修正してきてあげるから、おまえたちは細かい解析と存在証明の準備をしていなさい」

 

 もっともヒナコは思い切りタナボタ扱いしていたが……。

 

 

 

 

 

 

 その翌日の朝食の後。光己は談話室で個人用の端末(タブレット)にデータベースから次の特異点のご当地情報をダウンロードして予習していた。

 一緒にいるのはイギリス出身サーヴァントたちである。閻魔亭に当初行けなかったこともあって、彼女たちが行くことになっているのだ。

 なおジャンヌとジャンヌオルタは特異点に行く前に短刀の中に戻っておく→短刀を光己の「蔵」にしまう→レイシフト→短刀を「蔵」から出す→召喚という手順を踏むことでコストゼロで行けるようになったのだが、イギリスといえばジャンヌ・ダルクを実際に処刑した国である。本人の心情はもちろん、信仰補正で悪影響を受ける恐れもあるので留守番をお願いしていた。

 

「ううむ、これは……発展ではあるのだろうが、しかし」

「褒める気になれない所もいささか多いですね」

 

 モルガンとアルトリアは為政者だっただけに、産業革命の実情を見ていろいろと複雑な思いを抱いたようだ。

 光己もその辺の感想は近かったので話に加わってみた。

 

「だよなあ。日本でも『どうだ明るくなったろう』なんて風刺漫画が描かれる情勢で、鉱毒垂れ流しとかもあったからなー。

 これを乗り越えないと次の時代に行けないんだけど、庶民サイドとしては納得しがたいものが。たまには庶民万歳な時代があるといいのに」

「しかし自国内で完結するならともかく、他国との争いが絡むと民草の生活最優先とはいきませんからねえ」

 

 実際に村1つ干上がらせたことがあるだけに、アルトリアの言葉には重みがあった。

 それでも戦争に負けるよりはマシなのである。あんまり理解してもらえなかったが。

 

「心配には及びません。私が王になったあかつきには、王配たる我が夫が護衛なしでも安心して街を歩ける国にしますから」

「それって俺が無敵アーマー持ってるから大丈夫って意味じゃないよな? もしくは魔術で警備するとか」

「……もちろんです」

 

 ―――そんなことを話しながら勉強していると、不意にオルガマリーとエルメロイⅡ世とヒナコがやってきた。

 

「いたわね。ちょっと頼みがあるんだけど、ハイかイエスで答えなさい」

 

 そしてよほど気が急いているのかヒナコが開幕で無茶振りの気配を見せたので、パワハラに屈しない男光己は断固拒否の意を示すことにする。

 

「ノゥ!!

 この藤宮光己が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ……」

「腕力を自慢した覚えはないんだけど……ああもう、説明してやって」

 

 面倒になったのかヒナコが同行者に丸投げすると、オルガマリーがやれやれといった感じで説明を始めた。

 

「貴方たちにはまだ話してなかったけど、実は昨日の夕方にまた新しい特異点が出現したのよ。

 ただ今回のは放っておいても消えそうなんだけど、芥が修正しに行くのを希望しててね」

「ああ、項王を召喚するための聖晶石を探したいとか、そういうのですね」

 

 光己ならずとも推測できる理由だったが、ことはそう簡単ではないのだ。

 

「ええ。それはいいんだけど、芥がいくら不死身でも1人じゃ危険だし効率悪いわ。

 だから貴方が契約してるサーヴァントを一時的に何人か―――」

「絶対にノゥ!!! 寝取りは悪い文明!! 粉砕する!!」

「まあそうなるわよねえ」

 

 オルガマリーの台詞が終わるのを待たずに光己が再び拒否の姿勢を取ったが、オルガマリーはそれを非難はしなかった。

 これはサーヴァント契約は会社のように組織が給料で雇うのとは違って、マスターとの個人的な情誼による部分が大きいからである。歴史上の偉人たちにボランティア同然で戦闘その他をしてもらっているという立場上、組織の論理で簡単に人事異動させるのは難しいのだ。マスターとの同調率で強さが変動するという、より切実な理由もある。

 今回はマスター側も独占欲が強いから尚更だった。

 

「だから次善の策として、貴方に行ってきてほしいんだけどダメかしら?」

 

 というかヒナコに行かせたら特異点修正より聖晶石捜索を優先して時間を無駄にしかねないので、実はこちらこそが本命の方針だったりする。

 なお光己は「コレクター:D」という財宝感知スキルを持っているので、彼が代理を務めるのはミッションの成功率という視点で見ても順当な人事だった。

 

「もちろん石、あるいは項王本人が見つからなくても咎めはしないから」

「うーん、仕方ありませんねえ」

 

 光己はオルガマリーとはすっかり仲良くなったので、彼女の考えそうなことはある程度推測できる。ヒナコにしても2千年想い続けた人に会えるかも知れないチャンスとなれば多少暴走するのは致し方ないというか、代理に任せる気になっただけでも妥協しているというものだ。光己自身も最終防衛ラインは守れたわけだから、多少仕事が増えるくらいは甘受すべきと思ったのである。

 

「ええ、ありがとう」

「良い心がけね。でも私の代わりに行く以上、最低でも石を2個、草の根を分けても探し出してくるように」

「どんなに執拗に探しても、無いものは無いと思いますよ……」

「そんな弱気は認めないわ!

 といってもタダでというのは虫が良すぎか。見事使命を果たした時は、望みのままの褒美を与えるわ」

「おお、先輩太っ腹!」

 

 ヒナコは2千年以上に渡って放浪していたらしいから、その間にいろんなお宝を手に入れていたのだろう。それを望みのままにとか、これは財宝収集家として本気を出さざるを得ない。

 

「それで、誰を連れて行くの?」

 

 するとメリュジーヌが「私は当然連れて行くよね?」と目で語りながら聞いてきたので、光己はふむと考え込んだ。

 

「……そうだな。メリュジーヌは『蔵』の扉経由でお願いかな。

 他のイギリス勢は予約済みだから外して、他の人はみんな閻魔亭に行ったからいったんリセットということにして……芥さんに共感しそうな人優先かな」

 

 ブラダマンテとか清姫とか玉藻の前とか、恋愛にこだわりがある人という意味である。

 あとはいつものマシュと段蔵と、ワルキューレの誰かを連れて行けばいいだろう。

 ただコストなしで3人呼べるようになったので、これからはリスクを伴う令呪3画を使う召喚は控えた方がいいかも知れない。まあこれは現地の状況次第か。

 

「うん、がんばるよ!」

 

 メリュジーヌは自分が行けるのであれば同行者にこだわりはないらしく、見た目年齢相応の無邪気な笑顔で請け負ってくれた。

 ブラダマンテたちも特に異論なく承知してくれたので、あとは解析班の話を聞いたら出発となるわけだが……。

 

「その前に、恒例の必要電力調査をお願いするよ」

 

 実際にレイシフトする前に、光己はどの程度の電力が必要が調べておくという意味である。

 光己は年末に冬木に行った時とは別の生物になったので、今回は特に念入りにチェックしておくべきだというのがダ・ヴィンチの意見だった。

 下手するとまた同行できるサーヴァントが減るというお労しい展開―――になると誰もが思ったが、その結果は予想外のものだった。

 

「魔力量はまた大幅に増えてたんだけど、必要電力はほぼ同じという科学者として興味が湧きすぎる結果になった。これが境界竜(アルビオン)というやつか!

 この前メリュジーヌがレイシフトも令呪もなしで閻魔亭に行ってたくらいだから、ある意味当然なのだけどね。この分なら、いずれ藤宮君も自力だけで特異点に行けるようになるかも知れないね!」

 

 まあその頃には人理修復は終わっているだろうが、いずれにしても喜ばしいことである。

 

「おおー、さすが俺……!

 それで、今回は何人連れて行けるんですか?」

「前回と同じ、6騎だよ」

「ほむ、つまりワルキューレは1人か。年長順でスルーズにしようかな」

 

 こうしてメンバーが決まったので、後回しになっていた解析班からの説明を聞いてみると、今回の特異点は中近東なのだそうだ。

 

「初めて行くエリアですね」

「そうだな。年代は3世紀だ、かなり古いな。

 まあマスターに今さらあれこれ言うこともあるまい。レディ芥のご機嫌のためにも、ちゃっちゃとミッション達成してきてくれ」

 

 エルメロイⅡ世も微妙に投げ槍であった。「特異点修正」ではなく「ミッション達成」と言ったところがキモである。

 

「はい」

 

 というわけで一同レイシフトしたわけだが―――。

 

 

 

 

 

 

 途中で光己は妙な感覚があったような気がした。

 アルビオンになったからか、それとも別の要因によるものか?

 そして現地に到着してみると、そこは暗い洞窟の中だった。いやそれはいいのだが、いるはずのサーヴァントたちが誰もいなくて1人きりだった。

 

「アイエッ!? こ、これがモルガンが言ってた『サーヴァントが入れない特異点』ってやつか? それともはぐれただけで、どこか別の場所に着いてたりするんかな?

 と、とりあえずこういう時は報連相だな」

 

 光己はカルデアとの通信機を取り出して通話キーを押してみたが、反応はなかった。通信まで妨害されているのだろうか。

 

「こ、こういう事態は初めてだな」

 

 1人で放り出されて連絡も取れないという危険で心細い状況に追い込まれて光己はいささか慌てたが、すぐに今やれることを思い出した。

 

「まずは『蔵』を開けて『白夜』出して、お姉ちゃんとジャンヌオルタとメリュジーヌを呼び出さないと……っとぉぉ!?」

 

 しかしそうしようとした直前に、何やら金属音がいくつも響いてきた。

 振り向いてそちらを見てみると、カボチャの頭に西洋風の甲冑を着てコウモリをモチーフにした剣や盾を持った兵士が何人も近づいてくるではないか。

 

(な、何だあいつら? 人間がカボチャの兜かぶってるだけか? それともゴーレムか何かなのか!?)

 

 よく分からないが、あの連中は敵っぽい。そう判断した光己は、カボチャ騎士と関わるのを避けて逃げ出したのだった。

 

 

 




 当初は閻魔亭イベントの次はロンドン編にする予定でしたが、そうするとこの小説の設定だと項羽様を召喚できるのがアメリカ編の後になりかねないので、前倒しで機会を設けることにしました。
 ただし必ず引けるとは言っていな(ry


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