FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第181話 妖精國女王の娘

 カーミラと妖精騎士トリスタンはシンデレラの義母と義姉という役をつけられて現界したとはいえ、元は赤の他人である。ましてトリスタンはある特定の妖精(ヒト)以外を母として認めるつもりなど毛頭ないのだが、2人ともサディスト気質という共通点があるので今のところ2人の仲は破綻とまではいっていなかった。

 

「……それにしても、異聞帯の妖精である私が何で汎人類史の童話の悪役なんてやらなきゃいけないんだ? 性格悪いのは認めるけどさ」

「アナタ、顔形や髪の色はあの子によく似てるのよ。中身の方も……あの子があと3歳くらい育って、私と同じ『血の伯爵令嬢』になったらだいぶ近くなるわね。

 つまりその縁で呼ばれたんじゃないかしら」

「……」

 

 カーミラの過去の姿に似ていると言われるのはトリスタンにとって愉快なことではないらしく不機嫌な顔になったが、数秒ほど黙り込んだだけでそれ以上の反応は見せなかった。

 

「で、貴女は過去の自分に会ったらどうする気なの?」

「私とあの子は互いに認めがたい存在、顔を合わせたら殺し合うしかない間柄よ。

 オルレアンでやられた恨み、たっぷり返してあげるわ」

「それはご愁傷さ……って、ちょっと待った。つまり貴女はもう大人なのに、14歳かそこらの自分に負けたってこと? ざぁこ、ざぁこ♪」

「うるっさいわね!」

 

 ただでさえ過去の自分の意地悪な義母なんてしょーもない役を押しつけられて辟易(へきえき)しているというのに、同僚?も性格が悪いとは。さっさと終わりにして英霊の座に帰りたいものだとカーミラが内心で嘆息しつつ歩いていると、ようやくたどり着いたお屋敷の前でサーヴァントらしき男女が何人か話し込んでいるのを見つけた。

 

「カボチャどもが邪魔でよく見えないわね。ちょっとどきなさい」

 

 すると指示通りカボチャ兵士たちが左右に分かれたので、2人は屋敷の前の連中の顔まで見えるようになった。そのメンツを把握したカーミラが仰天して目を丸くする。

 

「ちょ、何であいつらまでいるのよ」

 

 過去の自分がドレスなんぞ着て舞い上がってるのはまあいい。忌まわしきカルデアのマスターがいるのもある意味当然だ。しかしなぜ黒と白の聖女が一緒にいるのか。自分と過去の自分と同じような仇敵同士ではなかったのか!?

 一方トリスタンも生前の同僚と目が合って驚いていた。そしてトリスタンが何か言う前に、先方が大きな声で呼びかけてくる。

 

「バーヴァン・シー! こちらに来れば陛下と会えるよ」

「!?」

 

 次の瞬間、トリスタンいやバーヴァン・シーは今ちょうど開いた空間を通ってメリュジーヌの隣までダッシュしていた。ついで回れ右すると、先ほどまでの仲間に別れの挨拶をする。

 

「楽しかったぜぇ、おまえとの母娘ごっこ!!」

「ちょ!?」

 

 秒で裏切られたカーミラは怒るというより当惑したが、この人数差ではどうあがいても勝ち目はない。こちらも秒で逃走を決意すると、カボチャ兵士を盾にして脱兎したのだった。

 

 

 

 

 

 

「あ、逃げた」

 

 メリュジーヌもバーヴァン・シーもカーミラの逃げ足の速さに一瞬あっけに取られて追撃しそこねてしまった。さすが(見た目は)年長だけあって判断が早い。

 しかも殿(しんがり)を仰せつけられたカボチャ兵士たちが襲って来たので、彼らを倒している間に完全に見失ってしまう。

 

「ま、お子様の自分に負けたざぁこ☆だし、放っておいていいんじゃね? それよりお母様はどこだよ」

 

 バーヴァン・シーは逃げた母親(仮)より、生前慕っていた本当の母親(こちらも義母だが)の方にご執心だった。まあ当然のことだが、するとメリュジーヌは厳しい顔をして一瞬光己たちの方に目をやった。

 

「いや、ここにいるわけじゃないんだ。説明するからこっちに来てくれ」

 

 そしてバーヴァン・シーの手を引っ張って、光己たちに声が聞こえない所まで離れる。

 

「何だよ一体。あいつらの前じゃ話せないことなのか? いや知らない顔ばかりだけど」

「うん、絶対に聞かせられない」

「……」

 

 同僚にピシャリ断言されて、バーヴァン・シーは思わず口をつぐんでしまった。どんなややこしい事情があるというのだろうか?

 

「さて、どこから話そうかな。まずは陛下がいらっしゃる所からかな?

 うん、そこからだね。一言でいうと、陛下は今カルデアに身を寄せておられる。もちろん僕や君と同じくサーヴァントとしてだけどね」

「はあ!? なんでお母様がカルデアに行くんだよ。そりゃカルデアの連中に直接やられたってわけじゃないけど、敵は敵でしょうに」

「うん、その辺はいろいろ事情があってね」

 

 バーヴァン・シーには理解しがたい話だったが、その後メリュジーヌが説明してくれたところによると、要するにモルガンにとっては汎人類史のブリテンもまた愛すべきブリテンであり、そこの王になるためにカルデアに協力しているということらしかった。

 

「でも変じゃない? 確かお母様って、生前は汎人類史全部潰してでも妖精國を残そうとしてたはずだもの」

 

 そうしたら当然汎人類史のブリテンも潰れてしまうと思うのだが。

 

「うん、そこは優先順位の問題だと思う。まずは妖精國が第一だけど、そちらにはもう入れなくて手の打ちようがないから、今は汎人類史の存在になったわけだしこちらで、ということじゃないかな」

「なるほどね。でもあんな酷い目に遭ったのに、まだ王様続けたいのかな。

 もうやめて、どこか田舎でのんびり暮らせばいいのに」

 

 バーヴァン・シーはそう言っている間はしんみりした様子だったが、言い終えると何かを思い出したのか悪鬼のような形相でメリュジーヌを糾弾し始めた。

 

「……って、なに訳知り顔でお母様の代弁者気取ってるんだよ。裏切者のくせに!

 いやおまえだけじゃない。バーゲストもウッドワスも、スプリガンもオーロラも城の上級妖精たちも、みんなみんなお母様を裏切った! 最後までお母様の味方だった妖精なんて1人も、ただの1人もいなかった!」

「……」

 

 狂ったように叫ぶバーヴァン・シーを、メリュジーヌは黙ってじっと見つめていた。おそらくこうなることが分かっていて、光己たちに聞かせまいとしたのだろう。

 

「なんておバカで、恩知らずな妖精ども!

 何が『ブリテンは貴女の庭ではない』だ! ブリテンは、妖精國はお母様1人の力で保ってたものなんだから、お母様の庭でいいんだよ! 少女らしい夢で何が悪い! そうでもなかったらあんな詰んでる國、誰が面倒みるもんか。あいつらは何か都合のいいこと考えてたんだろうけど、そんなうまくいくわけないだろ」

「……」

 

 メリュジーヌはまだ沈黙している。邪魔せず最後まで聞くつもりのようだ。

 

「実際うまくいかなかったよな。お母様がいなくなったらすぐ滅びた。神と虫にやられて、國どころか島ごと消えてなくなった! いい気味だ!! あはははははははははははは!!!」

 

 焦点の合ってない目で虚空を見上げて高笑いを続けるさまは本当に狂ってしまったかのように見えたが、やがて当座の怒りは全部吐き出し切ったのか、ようやくおとなしくなった。

 

「………………いや、私におまえらを責める資格なんてないか。

 そもそも私が人質にならなかったら、お母様は死なずに済んだんだから。お母様がなぶり殺しにされてる時も何もできなかったのに、偉そうなこと言えるわけないよな」

 

 そして山の頂上から深い谷底に転げ落ちるようにテンションが急降下したかと思うと、メリュジーヌに背中を向けてとぼとぼと立ち去っていく。

 

「……お母様には適当に報告しといてくれ。

 さっきはああ言ったけどとても顔向けできないし、私が行っても役に立つどころか、足手まといになる気しかしないから」

「え!?」

 

 メリュジーヌはバーヴァン・シーに責められることは覚悟していたが、こんな行動は予想していなかった。慌てて追いすがると、肩に手を置くようなことは避けて言葉だけで説得を試みる。

 

「ま、待って待って! 人質の件は陛下に直接聞いたけど、君を責めてる様子はなかったよ。むしろご自分の判断ミスを悔いておられた」

「……え」

 

 モルガンに直接聞いた、と言われてバーヴァン・シーはさすがに足を止めた。

 

「本当に?」

「こんなこと嘘で言えるわけないだろう? あと君の身体を腐らせた犯人のベリルに対してはことのほかお怒りで、なだめるのは大変だったよ」

「え、ベリルが? 何言ってるの? マジで!?」

「気づいてなかったのかい!?」

 

 同僚の迂闊さにメリュジーヌはちょっと呆れてしまった。

 そういえばモルガンはなぜバーヴァン・シーを娘=後継者にしたのだろう。どう贔屓目に見ても、王としては人格も能力も不適格だと思うのだけれど。

 

「でもお母様がそう言ったのなら間違いないわよね。そういえば体の調子が悪くなったの、あいつに習った魔術やった直後からだし。

 ちくしょう、騙された! 今度会ったらブチ殺……って、もう生きてるわけないか」

「……」

 

 実は凍結処置されて生きているのだが、今それを言うと面倒なことになるのでメリュジーヌはとりあえず伏せておいた。

 

「……でもなんで? それなりに仲良かったし、まして私にあんなことしたのがお母様にバレたら八つ裂き確定なのに」

 

 遊びや気まぐれだとしたら、リスクなしでやれるターゲットが他にいくらでもいるのに何故? バーヴァン・シーにはベリルの思惑がまったく想像できなかったが、やがて1つの可能性に思い至った。

 

「もしかしたらカルデアのスパイだったのかな? 異聞帯と異星の神に寝返ったと見せかけて、本当は汎人類史の味方のままだったって感じの。それでスプリガンやオーロラをそそのかして反逆させたって考えれば筋通るでしょう?」

「なるほど、それはあり得るね。だとしたら裏切者の汚名をかぶってまでして同胞のために尽くしたわけだから見上げたものだね」

 

 それは2人が持っている情報から考えるなら合理的な推理だったが、実際はベリルはカルデアに対しては終始敵対的だったので大外れだったりする……。

 

「まあそのあたりは僕たちじゃなくて陛下が判断することだと思うよ。

 ……そういうわけだから、素直に来てくれないかな。じゃないと僕が陛下に怒られる」

「おまえが怒られるのは別にいいけど、お母様が私を待っててくれるんならカルデアでもどこにでも行くよ。たとえ私を責めてなかったとしてもちゃんと謝らないと」

「そうか、ありがとう」

 

 バーヴァン・シーが説得に応じてテンションも戻ったので、メリュジーヌは任務達成とばかりに安堵の息をついたが、ここで彼女には1本釘を刺しておかねばならない。

 

「……それでね。こちらから呼んでおいて虫がいい話かも知れないけど、もう1つお願いしたいことがあるんだ」

「……聞くだけは聞いてやるよ」

「ありがとう。君がカルデアに行くためにはあちらにいるマスターとサーヴァント契約をする必要があるんだけど、そのためには君が妖精國でやってた無軌道な殺戮はやめてもらわないといけない。

 マスターはそういうのは絶対受けつけないし、陛下にも迷惑がかかるからね。できれば言葉遣いももう少し穏やかにしてもらえるとありがたい」

 

 バーヴァン・シーは見たこともないマスターとやらの都合などどうでも良かったが、モルガンに迷惑がかかるとなると目の色を変えた。

 

「マスターはともかく、お母様に迷惑がかかるってどういうこと?」

「君が妖精國で大手を振って歩けてたのは、陛下の後ろ盾があったからだということくらいは分かってるよね?

 でもカルデアではそれはない。妖精國自体がすでにないんだし、ましてやカルデアには『汎人類史の陛下』の妹君が5人もいて、しかも汎人類史では妹君の方が王だったそうだからね。妖精國女王といっても肩書だけで、実質的な力は何もない。

 つまり陛下といえども『1人の強い魔術師』に過ぎないんだよ。君がやらかしたら、陛下も母として泥をかぶるハメになるんだ。

 まあ僕が代弁するのが気に入らないというのなら、陛下にお会いする時まででいいよ。その時改めて陛下にお伺いすればいい」

「……」

 

 メリュジーヌの話は筋が通ったもので、バーヴァン・シーにとっては不愉快ではあるが反論はしづらかった。とはいえ気になることはある。

 

「……お母様がカルデアでは肩身の狭い思いをしてるとか、そういうのはないよな? 妹たちに虐げられてるとか」

「それはない。他のサーヴァントと扱いは同じだし、妖精國にいた頃より穏やかな顔をしておられるくらいだよ。

 妹君たちとの仲も……アルトリア王とは会うたびに口ゲンカしてるけど、他の4人とは険悪じゃないしね」

「……そうなんだ」

 

 妖精國と汎人類史の関係を思えば十分以上の厚遇というべきで、文句をつける余地はなかった。

 

「それにしてもお母様の妹かあ……私にとっては叔母ってことになるのよね?」

「……姪と認めてくれるかどうかは分からないけど、どちらにしても『おばさま』という呼び方は避けた方がいいだろうね」

「そう言われるとやりたくなるな」

「責任は取らないよ」

 

 もともとメリュジーヌはバーヴァン・シーとはたいして親密ではなかっただけに、そこまで深入りするつもりはないようだった……。

 

「……まあいいや。

 ところでマスターってあそこにいる男だよな? 私が知ってる『異邦の魔術師』と違うんだけど」

「僕が知ってるのとも違うね。カルデアには複数の魔術師がいるから、妖精國には別の人が派遣されたんじゃないかな」

 

 モルガンは記憶が混乱していて『異邦の魔術師』が光己だったのかどうかはっきり思い出せなかったが、メリュジーヌとバーヴァン・シーは別人と断定できているようだ。

 まあ2人にとっては、両者が別人ということは光己への敵愾心が減るだけで不利益は特にない。連れ立って彼のもとに戻るのだった。

 

 

 

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