FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第186話 砂塵の女王4

 まさか黒髭が爆弾を使うとは想像もしていなかった。しかも爆風で外壁が揺れたため、光己たちはわずかに攻撃の手が止まってしまう。

 その隙に黒髭は2つめのタルを放り投げると、火種も投げて爆発させる。その威力はなかなかのもので、ついに壁に人が通れるくらいの穴が開いた。

 いや通路の上からでは穴は見えないが、黒髭の部下たちが穴を通って街の中に入り込んでいるのは見える。彼らが街の住人を襲い始めたら大変だが、階段を昇ってここまで来られるのも面倒だ。

 

「仕方ない。俺とお姉ちゃんとメリュの3人で穴の辺りを抑えてるから、後は頼む!」

 

 召喚された部下はともかく、黒髭本人を街中に入れるわけにはいかない。また市街の狭い所で戦う以上接近戦が強い者が有利という考えでの人選である。

 

「分かった!」

 

 メリュジーヌがまず先発として降りていき、乱入してきた盗賊たちをすさまじい勢いで斬り倒していく。瞬く間に街中に入った敵を討ち減らして、戦線を穴のすぐそばまで押し返してしまった。

 何かもう彼女1人でいいんじゃないかと思われるくらいだったが、そういうわけにもいかないので光己とジャンヌは抑えとして彼女の後ろに回った。

 

「ほ、本当に強いですねメリュジーヌさん」

「竜の妖精に理想の騎士をかぶせてるわけだからなあ。力と速さと技が全てそなわり最強に見えるってとこか」

 

 2人は暢気に感想を言い合う余裕すらあったが、やられている側の黒髭はちょっぴり青ざめて冷や汗を流していた。

 

「何あの娘コワい」

 

 黒髭としては壁に穴を開けることで、①外に残ったまま爆弾で攻める、②街の中に押し入る、③壁の裏の階段から通路に乗り込む、という3つの選択肢があるのを示すことで圧力をかけるつもりだったのだが、こんなバカ強いサーヴァントがいるのは想定外だった。そこでもう1種の爆弾、握り拳大の手投げ弾をいくつか放ってみたが、これも空中で導火線を切られたり、それが間に合わない時は部下を蹴飛ばして盾にしたりして防がれてしまう。

 

「ちょ、敵とはいえ人を盾にするなんてひどくない?」

「そう言う君だって部下ごと爆破しようとしてるじゃないか」

「……」

 

 まったくその通りなので黒髭はぐうの音も出ない。

 ところで今黒髭は穴から街の中に入ったその場にいるので、ここで足を止めていると通路の上の連中が外に降りて挟み撃ちに遭う恐れがある。前にいる3人を突破できないのなら、退かないと危険だ。

 

「……あばよ名も知らぬ(マス)っつあんとその怖い(サバ)!」

「あ、逃げた」

 

 黒髭がUターンして、すごい勢いで遁走していく。

 汎人類史のサーヴァントは見切りをつけるのが本当に早いとメリュジーヌは感心したが、最強最速の妖精騎士として2度も同じ不手際をさらすわけにはいかない。すかさず追いかけようとしたが、無限湧きする部下盗賊と手投げ弾のせいで距離を詰めることができない。

 

「なかなかやる!」

 

 ただ黒髭は部下を盾にしているので戦闘域はあまり広くない。つまり彼が街からある程度離れれば、メリュジーヌもそれを追う形で街から出られる。

 そうなれば邪魔な建物がない広い空間になる上に住人を守る必要がなくなるので、空を飛んで上空から回り込むことができる……と思いきや。黒髭はもう砂嵐の中に紛れ込んでいたので、あまり離れると姿を見失ってしまいそうである。

 つまり今まで通り地上をまっすぐ追いかけるしかないようだ。

 

「デュッフフフフ。陸の上でも黒髭の知略はこれこの通り。鯖がいくら強くても、鱒からあまり離れるわけにはいかんでしょう?

 それに拙者が逃げてる先に罠があるかも知れんでござるし、ここはおとなしく帰った方が良いのでは?」

「……むう」

 

 敵ながら彼の言うことは一理ある。多少の罠なら咬み破る自信はあるが、マスターと引き離されるのは確かに避けたい。

 しかしそこに、後ろからお兄ちゃんの声が届く。

 

「メリュ、大丈夫だよ。俺が上から攻撃するから、メリュは付かず離れずで牽制してて」

「うん、分かった!」

 

 そちらを見ずとも分かる。光己は彼がいう「熾天使形態(ゼーラフフォルム)」になって追いかけてきてくれたのだ。

 ただお邪魔虫が背中におぶさっているが、彼女はサーヴァント探知と結界と治癒という有用なスキルを持っているから仕方がない。

 

「ちょ、鱒が変身して空飛ぶなんて聞いてないでおじゃるよ!?」

「そりゃ教えてないからな」

「冷たーい!」

 

 とか言いつつ黒髭は光己に銃を撃ってみたが、翼で体をかばっており当たっても効かないようだ。手投げ弾は……避けられるのがオチだろう。

 

「よし、それじゃ街から離れたことだし今回はハロウィン的な大魔術で決めるぞ」

「ハロウィンですか?」

「うん」

 

 背中にくっついているジャンヌにそう答えつつ、両腕に付けたテュケイダイトを前方に突き出す光己。魔力を込めると、槍の先端の間の空間にエネルギーをためてビームを発射できるのだ。

 

「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グ〇ス・シルク!」

 

 そして何やらそれっぽい呪文を唱え始める。もっとも光己には魔術スキルはないので、世界に刻みつけられた魔術基盤に申請するとかそういうことはまったくできず、単に気分が盛り上がるから唱えているだけである。

 

「灰燼と化せ! 冥界の女神、七つの鍵をもて開け地獄の門!」

 

 その時ふとどこかの冥界神が「私の冥界は地獄なんかじゃないのだわ!」とクレームを入れてきたような気がしたので、光己は文言を改めることにした。

 

「冥界の女神様、七つの鍵をもて開け深淵の門!」

 

 そして最後に、決めの力ある言葉(パワー・ワード)を詠唱する。

 

七鍵守護女神(ハー〇・イーン)ーーー!!」

 

 詠唱が終わると同時に、槍の先端の間に作られていた金色のエネルギー球から輝く魔力の波涛が放出される。黒髭はその卓越した戦闘センスで直撃は避けたが、ビームは斜め上から下に向けて撃たれていたので、地面に当たって大爆発を起こしていた。

 

「んぎゃーーーーーっ!!」

 

 爆圧に吹っ飛ばされ、傷だらけになってはるか遠くの地面に落下する黒髭。相当な威力があったようだ。

 それでも何とか立ち上がったが、追っ手の3人はすぐそばにまで迫っていた。もはや助かる目はない―――が、ただで首をくれてやる気もない。

 

「……そう! お宝の隠し場所を教えるから命だけはお助けを!」

 

 地面に膝をつき両手を組んで哀れっぽく命乞いなどしてみると、3人は予想外のことに驚いたのか、かくっと脱力して一瞬動きが止まる。そこを不意打ち―――するのではなく、最後の力でタル爆弾を作り出した。

 火種は生前と同じく、髭の中に導火線を仕込んである。それをつかんだ握り拳で、タルのフタを叩き割った。

 

「……なんてことは言わぬでござる! 今度はこの首もお宝も、誰にもやらねぇ!

 我が生涯に一片の悔いな……いやいっぱいあったわwww」

 

 そしてひときわ大きな爆発により、跡形残さず散華したのだった。

 

 

 

 

 

 

「……いや、お宝目当てで追いかけたんじゃないんだけど」

 

 光己はちょっと呆れた顔でそうごちた。

 それとも財宝収集家的なアトモスフィアが顔に出ていたのだろうか。どちらにせよ黒髭を捕虜にするなんてのはリスクが高すぎるので、命乞いが本当だったとしても助けるわけにはいかないのだが。

 あるいは彼もそれが分かっていて、敵の手にかかるよりは華々しく自爆する方がマシと思ったのかも知れない。

 

「まあそれはそれとして、結構な爆発だったけどお姉ちゃんもメリュも大丈夫?」

「はい、私はマスターの後ろに背負われてましたから」

「あれくらいなら掠り傷もつかないよ。でもお兄ちゃん、あの呪文みたいなのいったい何?」

 

 妹に曇りない目で訊ねられると、光己はむしろ嬉々としてその秘奥義について語った。

 

「ああ、あれは魔術の呪文じゃなくて、妄想力(コスモ)を高めるための儀式みたいなものでね。魔術じゃないから口に出さなくてもいいんだけど、その場合より技の威力がだいぶ上がるんだ」

「へえー、そんなものがあるんだ。私にもできるかなあ?」

「うーん、メリュには邪〇眼がないから無理かな?」

「むうー」

 

 するとメリュジーヌはつまらなさそうに頬をふくらませた。だってお兄ちゃんと同じ技を使ってみたかったのに、試す前から却下されてしまったのだから。

 

「あー、ごめんごめん。お詫びに街まで抱っこしていってあげるから」

「ほんとに? やったあ」

 

 ただあっさり機嫌を直したあたり、さほどのこだわりはなかったのかも知れない。

 そして3人が街に戻ると、ゼノビアたちが通路から降りて出迎えてくれた。

 

「ご苦労だったな、ケガはないようで何よりだ。

 それであの不埒な男はどうなった?」

「……追い詰めたら自爆しました」

「……そうか」

 

 ゼノビアは虜囚になった自身と引き比べて表情に苦いものを浮かべたが、光己たちには関係のないことなのですぐ元に戻した。

 

「とにかくこれで、この街を悩ませていた盗賊はいなくなったわけだ。

 私はこのことを街の長に知らせてくるが、おまえたちはどうする?」

「んー、せっかくですから一緒に行きます。

 その後で、人に聞かれずに話ができる所に行きたいんですが」

「ああ、シバの女王に聞きたいことがあるんだったな」

 

 ゼノビアもその名前は知っている。光己が何を聞きたいのかまでは分からないが、役所の部屋を一室借りるだけだからたやすいことだ。

 

「分かった、ではそうするか」

 

 というわけで、一同は街の役所に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 さて、街の長への報告がすんだらシバの女王への質疑応答である。いったい何を聞かれるのか、女王は戦々恐々だった。

 

「あ、そういえばまだちゃんと名乗ってなかったですね。シバの国を治める女王、と呼ばれておりました。『シバ』とお呼びください。

 ハイ? ホントの名前ですか? う~ん、そこからは別料金ですねぇ」

「つまりお金を払ったら教えてくれると?」

「……」

 

 これはお金を払う価値がある情報だと見た光己がカマをかけてみると、シバはちょっと困った様子で沈黙した。どうやら別料金云々は言葉のアヤで、教えられない事情があるようだ。

 

「うーん、まあ仕方ないですね。それじゃ本題……の前に。

 この件はこの特異点の修正とは直接は関係ありませんから、エリザベートとゼノビアさんは聞かなくても困らない話ですけどどうします? むしろ知らない方がいいレベルのアレな話ですので」

「へえ!?」

「ほう!?」

 

 相当な厄ネタのようだが、エリザベートとゼノビアにとっては聞いても聞かなくても実害はないらしい。なので怖いもの見たさ的な感覚で聞いてみることにした。

 

「そうだな、ならせっかくだから聞いておくとしようか」

「そうね」

 

 こうしてみんな同席で話をすることになったので、光己は直球でソロモン王について訊ねてみた。

 

「それじゃ面倒な前置きは省いて即本題で。シバさんは生前にソロモン王とお会いしたことがあるはずですけど、どんな方でしたか? 性格とか能力とか」

「ソ、ソロモン王様ですかぁ? そ、そうですねぇ。市井でも『真の知恵を以て裁きを下す完璧な王』と噂されておりましたが、実際にお会いした印象では、まさしくその通りであられたと思いますぅ」

「ほむ」

 

 どうやら彼は「魔術の祖」であるだけでなく、知能や政治の面でも優秀なようだ。「完璧な王」とまで称えられるくらいなら善政を敷いていた善性の人物であるはずで、人類を滅ぼそうなんて大それたことはしなさそうである。

 

「うーん、するとやはりソロモン王を騙る偽者なのか?」

「どういうことなんです?」

 

 光己がぼそっと呟くと、シバは気になったのか訊ねてきた。

 いやまあ、わざと聞こえるように呟いたのだが。

 

「はい、実は未来の世界で『魔術王』と呼ばれる者が人類を滅ぼす計画を実行中でして」

 

 そう言って光己がカルデアと人理焼却について説明し、特異点Fでアルトリオルタが「魔術王」という名前を出した件や魔神柱の存在も明かし終えた頃には、シバもエリザベートもゼノビアも顔色がだいぶ青くなっていた。

 

「な、なるほどぉ……それで私にソロモン王のことを聞いたんですね」

「はい。シバさん的には、ソロモン王はそういうことしそうに見えました?」

「ま、まさかぁ……少なくとも私が知っているあの方は、そんなこと考えないと思いますぅ」

 

 本心である。エルサレムで謎かけ問答をしたあの王が、人類を滅ぼそうとする殺戮者になっただなんてとても思えない。冤罪であるなら晴らしたいし、万が一事実だとしたらそれはそれで、父が子が建てた国(エチオピア)を滅ぼすなんて悲劇は見過ごせない。

 光己は善人ぽいし、隣のジャンヌに至っては聖人的アトモスフィアまで感じるから、カルデアの方が悪の組織ということはないだろうし。

 

「……ですのでぇ。もし良ければ私もカルデアに協力したいと思うのですが、信じて下さいますか?」

 

 ただカルデア視点だと、犯人の盟友あるいは妻だから信用できないと考えてもおかしくはない。なので一歩引いて訊ねる形で加入希望してみると、リーダーの少年はむしろそれを待っていたような勢いで了承してくれた。

 

「はい、それはもう! シバさん頭いい人みたいですし喜んで」

 

 なおジャンヌはその返事には思春期的思考が3~4割くらいは混じっているのを見抜いていたが、それを言っても話がこじれるだけなので黙っていた。

 シバは悪人には見えないし有能なのも確かだから、加入してくれるのは良いことなので。

 そしてもう1人、同様の理由で黙っていられない者も現れた。

 

「……ふむ。ところで人理が焼却されるということは、我がパルミラも同じ運命になるということか?」

「そうですね、人類史全てですから」

「そうか、なら私も加わろう。足手まといにならない程度の自信はある」

「マジですか。ゼノビアさんなら喜んで!」

 

 願ってもいなかったタナボタ展開に光己は大喜びしたが、そこでエリザベートがちょっと困った顔をしているのに気がついた。

 

「子イヌ、こうなったらやっぱりアタシも参加するべきなのかしら?」

「へ? うーん、そりゃエリザベートが来てくれれば嬉しいけど、シンデレラは戦闘向きには見えないからなあ。無理しなくても、また別のクラスで会えた時でもいいよ」

「そ、そう? じゃあとりあえず保留にしとくわね」

 

 エリザベートは今回は童話のお姫様の役をかぶせられているだけに、人理修復というハードバトルに即決で参戦表明する度胸はないようだ。まあやむを得ないことだろう。

 その後光己は2人とサーヴァント契約をして、正式に仲間に迎え入れたのだった。

 

 

 

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