FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第187話 妖しの森

 ゼノビアとシバとのサーヴァント契約を済ませて役所の建物から出たカルデア一行だが、ここで光己は大事なことを思い出した。

 

「おっと、そういえばまだサインと写真もらってなかったな」

 

 カルデアに帰ってからでももらえるが、現地の役所の建物を背景に撮るというのはポイント高い。バーヴァン・シーとエリザベートにもお願いして、いつも通りのブツを手に入れた。

 もちろんエリセの分もちゃんともらっている。カルデアのマスターたる者、仲間(サーヴァント)への配慮は忘れないのだ。

 

「よし、あとは建物の中の店を回るだけだな。

 そういえばシバさん商人だって言ってたけど、何かいい物売ってたりする? 聖晶石とか」

 

 ゼノビアとシバは女王ではあるが偉ぶらないフランクなタイプで、光己はさん付け+タメ口で話せる間柄になっていた。

 

「はいぃ。現界してすぐあの盗賊に見つかりましたので元手を稼ぐ暇も商品を仕入れる暇もありませんでしたが、運良く聖晶石が1個とQPが一欠片見つかりました。

 もしかしてご入用でしょうか?」

「いや、俺は要らないけど本部に欲しがってる人がいるから……まあ直接交渉でいいかな」

 

 光己は聖晶石の相場は知らないし、マスター権限で買い叩くようなマネもしたくない。なので当人に任せることにした。

 

(それにしてもいい眺めだなあ……!)

 

 褐色肌で美人でナイスバディで露出が多くてえっちな服を着ている女王様を2人も連れて歩くとか、まさに大奥王に相応しい高尚な楽しみである。

 いや2人は大奥には入ってくれなさそうだが、仲間になってくれただけでも喜ばしい。道行く人から羨望のまなざしを向けられている気さえする。

 

(くっくっくっ、嫉妬の波動が心地よいわ!)

 

 それはともかくショッピングの続きである。光己たちはいくつも店を回った末、また1個聖晶石を購入することができた。

 珍しい上に特徴的な形をしており魔力もこもっているので他の宝石類よりお高かったが、ヒナコはさらに高く買い取ってくれるはずだから問題あるまい。

 

「それにしてもカルデアってお金持ちなんですねぇ」

 

 シバが先ほどから見ている限り、光己たちは買い占めにならない程度にはしているし、ゼノビアがいてぼったくられないようにもしているが、それでも欲しい物は手当たり次第に買ってしまっているように見える。遠い未来から来たという話だが、なぜここの通貨をそんなにたくさん持っているのだろうか。

 

「いや、俺が個人的に持ってた砂金をここで売却しただけだよ。

 カルデア自体はむしろ金欠ぽいかな。最近食料を買うためにQPの生産始めたけど」

「へえ……?」

 

 光己が事情を簡単に説明すると、シバの目がきゅぴーんと光った。

 

「そうなのですかぁ。

 ところでマスターは資産運用にご興味はありません? 貴金属とか有価証券とか土地とか穀物とかぁ」

 

 すると珍しくバーヴァン・シーが横槍を入れてきた。

 

「マスター、やめといた方がいいと思うぞ。

 この女は悪い奴じゃないとは思うが、今の話はメチャうさんくさい」

「おお、妖精の国出身なのに分かるのか。王の娘だけのことはあるな……。

 実際株とかってよほど勉強しないと損するだけらしいしな。いやシバさんなら勝てるのかも知れないけど、それはそれでズルみたいな感じがするし」

 

 何かこう、小学生の運動会に高校生が出て無双するみたいな。

 

「まあ今は人理焼却されてるから、そもそも取引する相手がいないんだけどさ」

「そういえばそうでしたねぇ。残念ですぅ」

 

 そんなことを話しながら買い物をして、終わった頃にはもう夕方になっていた。ここは交易メインの街らしく宿屋は何軒もあったので、今夜はこの街に泊まることにする。

 そして何事もなく翌朝を迎えて。街を発った光己たちは、予定通り空から山を越えていた。

 

「……って、何だこれ? 山を境に景色が一変してるぞ」

 

 驚くべきことに、東西に長い岩山の南は一面の砂漠なのに、北は緑豊かな、ただしどこか怪しげな森が広がっている。どう考えても自然の環境ではなく、黒幕が細工したものだろう。

 しかも高い所から見下ろしてみると、岩山はまっすぐではなく大きく円を描いており、森はその内側だけに広がっているようだ。また森の中央には小高い山があり、その頂上には城らしき大きな建物が建っている。

 山の中腹には街もあるようだ。

 

「うーん。これは一体?」

「黒幕は何を考えているんだ?」

 

 光己にもゼノビアたちにも、この特異点を作った首魁の狙いや構想は想像がつかなかった。あの城がエリザベートがいう「チェイテシンデレラ城」なのはまず間違いないだろうけれど。

 

「どうする? いきなり城を襲うのか?」

「森の中にサーヴァントが7……いえ8騎いますね。今は2騎と6騎に分かれてますが、接触してみてもいいと思います」

「ほむ」

 

 森にもサーヴァントが、しかもけっこう大勢いるようだ。聖晶石は入手したことだし早急に目的地に直行するか、それとも戦力と情報を得るために森のサーヴァントと接触してみるか? いや味方になってくれるとは限らないが。

 

「それじゃ、2騎の方から行ってみようか」

 

 基本慎重派の光己がそんな意見を出すと、反対する者はいなかったのでそうすることになった。ただゼノビアの時の失敗に鑑みて、少し離れた場所で着地して光己が人間の姿に戻ってから接触することにする。

 それはいいとしてこの森、木の(うろ)と枝が怪物の顔と手のように見えたり、奇怪な形をした草花がたくさん生えていたりしていて実に気味が悪いので、なるべく早く通り抜けたいものだが……。

 そしてしばらく歩いたところで、シバが不穏なことを言い出した。

 

「これは……この森自体におかしな魔術がかけられてますねぇ。

 具体的に言いますと、空間が捻じ曲げられてて特定のルート以外は堂々巡りになっていると言いますかぁ。

 いえもしかしたら、正しいルートなんてないのかも知れません」

「デジマ」

 

 それはまた厄介な術を使ってきたものだ。こちらを城に近づけたくないということか?

 

「ただ私たちはジャンヌさんのサーヴァント探知能力を目印にして動いてますのでぇ、どこかに飛ばされたらそれに気づくことはできると思いますが……」

「ほむ」

 

 それは不幸中の幸いだった。まあどうしても森を抜けられなかったら、また空を飛んでいけばいいのだけれど。

 迷路化の魔術も高い上空まではカバーしていないだろうから。この手の術は森の中や海上のように見晴らしが悪い、あるいは同じような景色が続く所だからこそ有効なもので、周囲の風景から自分の位置がすぐ分かる所では意味が薄いし。

 そこにメリュジーヌが話に加わってきた。

 

「なるほど、ここの細工はそういうものだったんだね。なら僕に任せておいてよ」

 

 そう言いながらついっと一同から少し離れると、何もない……ように見える空間を得物の蒼い剣でさくっと切り裂いた。

 すると絵を描いたカーテンを切り落としたかのように、向こう側の景色がぱらっと変わる。今まで別の場所につなげられていたのを解除して、通常の空間に戻したのだ。

 

「おお、メリュはそんなこともできたんだな」

「それはもう、とてもすごい竜だからね! お兄ちゃんも経験を積めばできるようになるはずだよ」

「そっか、じゃあ今後も精進しないとな。メリュも手伝ってくれる?」

「うん、もちろん!」

 

 兄妹仲睦まじいのは大変結構だったがそれを妬んで邪魔するかのように、いや単に何かを感知したのだろうが、突然前方に小さな爆発が起こったかと思うと、その後にはちょうどカルデア本部と通信する時に出すスクリーンとよく似たものが宙に浮かんでいた。

 スクリーンには若い女性が映されている。やや色黒で銀髪の、肩から胸にかけての露出が多めの黒い服を着たお姉さんだ。

 頭に紫色のツノらしきモノが2本生えているが、本物のツノだろうか?

 

「ふっふふふふ。どうやら正しい道を探り当てる魔術なり特殊感覚なりをお持ちのようですね。

 しかしそんなものでこの迷妄(めいもう)の森を抜けられるとは思わないことですねー」

 

 どうやら黒幕がコンタクトを取ってきたようだ。

 

「何者!」

「な~に~も~の~♪」

 

 ゼノビアとエリザベートがさっそく正体を訊ねると、スクリーンの女性はちょっと呆れた顔をした。

 

誰何(すいか)の呼びかけ、めっちゃズレてるくない!?

 コホン……まーいーや。そんな不協和音(ディゾナンス)は置いといてー」

 

 そう言いながらフフンと自信ありげな、というか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。自身の優位を確信しているようだ。

 もっともカルデア側の裁定者(ルーラー)に「真名、ジャック・ド・モレー。フォーリナーです。宝具は『13日の金曜日(ヴァンドルディ・トレイズ)』、敵集団に強力な呪いをかけるものですね」と正体をすっぱ抜かれていることには気づいていなさそうだが。まして光己の竜形態は見ていないだろう……。

 

「ふっふふふー……。

 無策無謀、あまりにも甘々シロップ漬けな方針。放置プレイの予定だったけど、路線変更。容赦なく現実を突きつけるとしましょーか」

 

「マスター、このスクリーン経由で呪いを送れるけどどうする?」

「……いや、やめとこう。舐めプしてもらう方が有利だからな。

 それにほら、警戒してる奴と普通に戦うより、慢心してる鼻っ柱をへし折って泣き顔見る方が面白いだろ?」

「なるほど、さすがは我が盟友ね!」

 

 光己とジャンヌオルタがこそこそ話をしているのも、気づいているのかいないのか耳には入っていないようだ。

 

「あたしは……そうですね。ジェーン……と呼んでくだされば」

 

 これが偽名であることをジャンヌは当然見抜いているが、先ほどの光己とジャンヌオルタの会話を聞いていたので指摘はしなかった。泣き顔云々はともかく、甘く見てもらった方が得なのは確かなので。

 

「そう。あたしこそがこの特異点を引き起こした犯人であり、この特異点の主なんですぅー!」

 

 そしてついに、ジェーンならぬモレーが自身が黒幕であることを言明する。ただ口調や雰囲気には今イチ緊迫感や悪党感がなかったが……。

 

「デジマ~♪」

「なるほど、貴様が黒幕というわけか。だが、わざわざ我らの前に姿を現したのは、どういう訳だ?」

「ふっふふふー。皆さんに絶望と(かす)かな希望を与えるためさ」

「―――」

 

 そろそろめんどくさくなってきたメリュジーヌは宝具を城にぶっ放したくなってきたが、それを察したお兄ちゃんが手振りで止めてきたので我慢することにした。

 

「どーうーいーうーこーとー♪」

「……()()()()()()()()()()唄うの? なんで? まーそれはともかくだ。

 この迷妄の森には、あたしの魔術が敷かれている。一度、足を踏み入れたならば、もはや出ることはかなわず!」

 

 ラスボスめいて自信満々に勝利宣言をするモレー。だがその背後に、エリザベートとまったく同じ姿をした何者かが現れてぴょこぴょこ跳び回り始めた。

 そういえばゼノビアが「エリザベートが元凶」と言っていたがこのことだったのか!?

 

「ふっふふー。さまよってさまよって、行き着く先はこの世の果ての果て……。

 苦しみ、もがき、震え、()(わずら)い、そしてその最期には絶望の嘆きが―――」

 

 モレーはそれに気づいていないらしく気分よく長広舌を振るっていたが、カルデア側がちゃんと自分を見ていないことには気がついた。

 

「って、あの、マドモワゼル!? すみませんが、人がシリアスに話してるのに、目線が浮つくのは失礼かと思うのですけど?」

 

 そう言われては仕方がない。ゼノビアは教えてあげることにした。

 

「仕方ないな、空気を読まずに指摘してやろう。

 ジェーンとやら。貴様の後ろにエリザベートがいる!」

「え、後ろ?

 ぴぃやぁぁー!! ホントだーーメルシーー!!

 ノンノン、ちょっと出てきちゃだめだって! 今は大事なお話してるから!」

「助けて子イヌ~♪ アタシは~♪ 囚われの~♪」

「いーーいーーかーーらーー!」

 

 心底びっくりした様子のモレーがエリザベートを無理やりスクリーンから押し出すと、彼女の声は聞こえなくなった。

 しかし光己を「子イヌ」と呼んだり唄ったりしたところから見て、向こうのエリザベートも「本物」なのは間違いないようだ。どうやら囚われているみたいだから、城にブレスをぶっぱして解決するという戦術は放棄せざるを得なくなった。

 

「と、ともかくさぁー! その森から抜けられるなんて思わないこと!

 永遠にさまよい続けるがいいわ! このおいも(バタツ)! ばかにんじん! こんこんちき(アンドゥイコ)!」

「助けに来なさいよね~♪」

 

 それを最後に、スクリーンは消えて2人の声は聞こえなくなった。

 しかしここまで貫禄に欠けるラスボス(多分)は初めてではなかろうか。これだけの舞台装置をつくったのだから甘く見ることはできないが……。

 

「そういえば力が半減してるような気がしてたけど、やっぱり2人に分かれてたからなのね。彼女と1つになれば、完全体になるのよ!

 ちなみに根拠は一切ないわ!!」

「ないのか!!」

 

 ゼノビアは憤慨したが、その辺はエリザベートだから仕方なかった……。

 

「まあいずれにせよ、まずはこの森を抜けてからの話だな。

 メリュジーヌにシバ、あのジェーンとかいう女が言ったことをどう思う?」

「ああ、彼女自身がどう思ってようと、僕がいればまっすぐ突破していけるよ。安心してほしい」

「……だそうですぅ」

 

 どうやら森を抜けることは可能のようだ。

 そしてジャンヌのナビに従ってメリュジーヌが空間歪曲魔術を切り裂いて進んでいくと、何やら物音が聞こえてきた。

 

「……? ねえみんな、音が聞こえないかしら?」

「どうやら誰かが戦っているようだな。ジャンヌ、サーヴァントとの距離は?」

「もうすぐそこです。おそらくは例の2騎でしょう」

「そうか。音からすると、刃物と刃物がぶつかり合っているのではなく、刃物を持った者と魔獣か何かが戦っているようだな」

 

 つまりサーヴァント同士の戦闘ではないということである。

 

「我らと同じく迷子かも知れないが、もしそうなら逆に仲間にしやすいというものだ」

「そうだな。それじゃみんな、警戒しつつ前進!」

 

 光己の号令に応じて、メリュジーヌを先頭に音がする方に近づいていく。

 そしてそこでは、ジャンヌの探知通り2騎のサーヴァントが魔獣の群れと戦っていた。

 巨大な食虫植物というか、タコとイソギンチャクの合体生物というか、そんな感じの毒々しいモンスターである。具体的にはフランスの特異点で見た海魔に似ていた。

 もしかして先ほどモレーが自信満々だったのは、この森には魔物がたくさんいてサーヴァントが何人か集まった程度では突破できないと思っていたからかも知れない。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

「ぬおぉぉぉぉっ! この剣にかけて!」

 

 サーヴァントの方は1人は東洋風の剣士、具体的には白い服を着たサムライである。1人は身の丈2メートルほどもありそうな、銀色の甲冑をまとった西洋風の戦士だった。

 

「―――ではいつも通りに。侍の方は渡辺綱、セイバーです。宝具は『大江山・菩提鬼殺(おおえやま・ぼだいきさつ)』、鬼を討つことに特化した剣撃ですね。

 甲冑の方は妖精騎士ガウェイン、こちらもセイバーです。宝具は『捕食する日輪の角(ブラックドッグ・ガラティーン)』、角を剣として巨大な炎をばらまくものですね」

「な、何だってーーー!?」

 

 メリュジーヌとバーヴァン・シーは予期せざる遭遇にびっくりして、間が抜けた声を上げてしまうのだった。

 

 

 

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