FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第188話 3人目の妖精騎士

 まさか1つの微少特異点に妖精騎士が3人集まるとは。メリュジーヌとバーヴァン・シーはいささか驚いたが、さらに近づいてよく見てみれば、確かに生前同僚だった妖精騎士ガウェイン、本名バーゲストだった。

 ただ彼女は「獣の厄災」になるより前にモルガンに反旗を翻していたから、味方になってくれると決まったわけではない。しかし敵対までする理由はあまりないと思われるので、予定通り接触を図ることにする。

 

「相方のサーヴァントも強いから手伝う必要はなさそうだけど、手伝うという行為自体に意味があるってやつだね」

「そうだな。下手に声をかけて注意がそれたらまずいし、まずは私が援護するよ」

 

 バーヴァン・シーはそう言うと「妖精騎士トリスタン」の着名(ギフト)によって使えるようになった弦が何本もある黒い弓、ではなく竪琴を取り出した。

 

「ほぅら♪」

 

 その弦を指ではじくと血のように赤い魔力をまとった真空の刃が虚空を走り、魔物の肉を切り裂いて鮮血を噴き出させる。その威力は相当なもので、たちまち数匹が戦闘不能になって倒れた。

 

「!? こ、これはバーヴァン・シーの竪琴か!?」

 

 こちらも驚いたバーゲストが、援護のおかげで敵の攻撃が緩んだ隙にさっと周囲を流し見る。するといかなる定めか偶然か、生前の同僚が2人もいるのを見つけてしまった。

 その後ろには見知らぬサーヴァントも大勢いる。何かの組織に属しているのだろうか?

 

「メリュジーヌもいるのか!? なぜここに」

「その辺の話は長くなるから後にして、僕たちからの手助けを受ける気はあるかな?」

「……そうだな、私の方から断る理由はない。では新手が私たちの背後から来るから、そちらを任せていいか」

「そうだね、そちらの男性は知らない人だから別々に戦う方がいいか」

 

 バーゲストは初手敵対はしてこなかったので、メリュジーヌとバーヴァン・シーは彼女の依頼を受けて2人の背後から現れた敵に当たることにした。

 前方にもいる海魔めいたやつに加えて、巨大な怪鳥や多頭蛇までいる。総勢20匹ほどか。

 特に多頭蛇は見るからに強そうだ。こんな集団に挟み撃ちされたら、確かに並みのサーヴァントの1人や2人ではやられてしまうかも知れない。

 

「まあ、僕たちは並みじゃないし1人や2人でもないんだけどね」

「……しかし汎人類史(こっち)って、魔物も妖精國とは違うんだな」

 

 普通の動植物はそんなに変わらないように見えるが、神秘が関わると違いが大きくなるのだろうか?

 まあそんなことより迎撃である。パーティ8人のうち純粋な近接前衛型はジャンヌとメリュジーヌの2人だけだが、人間要塞と竜の妖精なのでこのくらいの敵なら後衛を襲わせないよう足止めしておくことができていた。

 

「なぎ払います!」

 

 その発言の通りに、旗槍1本で自分より体重が重い魔物たちをどっかんどっかんと叩いては吹っ飛ばし叩いては吹っ飛ばすジャンヌはまさに聖女ならぬ凄女であった。体長10メートル、体重は2トンほどもありそうな多頭蛇を一撃で全身のけぞらせた上に骨まで折ってしまったのにはもう乾いた笑いしか出て来ない。

 

「ふっ、はっ、とぁぁぁ!」

 

 一方メリュジーヌは体躯が小さく両腕に付けた剣も短めなので間合いが狭い代わりにやたら速く、まるで人型の蒼い光が縦横無尽に跳び回っているようだ。その鋭い刃がほんの一瞬きらめくたびに、魔物たちの首や触手が落ちていく。

 もうこの2人だけで十分のような気もするが、そういうわけにもいかないのでバーヴァン・シーたちもむしろ2人の邪魔にならないことを重視しつつ飛び道具で支援した。

 

「不良品になぁれぇ!」

「ひれ伏す気はないか」

 

 木の枝の上から後衛側に魔力弾や矢を連射すると、魔物軍はにっちもさっちもいかなくなってあっさり全滅した。

 すると前方の敵を倒し終わったバーゲストと綱が近づいてくる。

 

「そちらも片付いたか。まあ妖精騎士が3人そろったのだから当然だな。

 ……いや、汎人類史にも強い者は大勢いるのは実感したが。こちらの男もそうだし、住処にいる5人もそれぞれ秀でたものを持っている」

 

 サーヴァントにはスペック保証や信仰補正や逸話再現があって生前より大幅に強くなる例も多いが、綱の技量は間違いなく生前から持っているものだし、他の4人もある者は普通に武技の達人であり、ある者は罠や狙撃に長けており、またある者は卓越した指揮能力を持っていた。騎士たる者、事実は事実として認めねばなるまい。

 

「そうだね。それじゃまずは自己紹介かな?

 僕は妖精騎士ランスロット。メリュジーヌと呼んでもらってもいい」

「妖精騎士トリスタンだ。バーヴァン・シーでもいい」

 

 まずは2人がそう名乗ると、綱も小さく頷いて自己紹介した。

 

「ふむ、おまえたちも人ならぬ妖精の騎士か。人を喰らう鬼でないなら、争うこともあるまい。

 渡辺綱、セイバーだ。何の因果か『白雪姫』という異国の童話に登場する妖精(こびと)の役を付けられて現界した身だが、よろしく頼む」

「おまえもそうなのか。私も『シンデレラ』の義姉役なんてやらされてる身だけど、マジ難儀だよな」

 

 バーヴァン・シーは綱に少し親近感を抱いたようだ。彼は頭のネジはちゃんと締まってそうだし、うさんくさくもないので。

 

「まったくだな。それで、おまえたちはここで何をしているのだ?」

「ああ、それそれ。私たちはこの特異点を修正するためにあの城に向かってる最中なんだけど、おまえたちがいるのを探知したから情報収集しようって話になったんだよ」

「そうか、ならばついてこい。我ら8人、この迷妄の森に居を構えている。1人はずっと眠りっ放しだがな。

 皆、良い奴だぞ。食糧は無限にあるから、そろそろ昼時だし昼食がてら話をしよう」

(食糧が無限……?)

 

 バーヴァン・シーは何か不思議な台詞を聞いたような気がしたが、すぐ見せてもらえるだろうから訊ねるのはやめておいた。

 

「それはとても美味しい~森の果実~♪」

 

 エリザベートは特に疑問を持たず、嬉しそうに唄っているだけだったが……。

 

 

 

 

 

 

 綱たちの住居に向かう道すがら、光己たちの自己紹介が終わるとバーゲストがメリュジーヌとバーヴァン・シーに小声でいろいろ訊ね始めた。

 

「先ほどあの少年が『カルデア』と言ったが、カルデアとは妖精國に来た『異邦の魔術師』が所属していたあのカルデアなのか?」

「うん、そうだよ。ただし妖精國に来る前どころか、妖精國や異星の神が汎人類史に来るより前の時間軸のカルデアだけどね。

 だからお兄ちゃんを含めたカルデアの人たちは妖精國のことは知らないから、あまり詳しいことは話さないようにね。陛下に口止めされてるから」

「お兄ちゃ……? い、いやそれより! 陛下に口止めされてるとはどういうことだ!?」

 

 バーゲストが泡喰った顔でメリュジーヌに詰め寄る。まったくこのロリっ子め、何気ない口調で心臓に悪い話を投げ込むんじゃない!

 しかしロリっ子は相変わらず淡々としたまま続きを話してきた。

 

「そのままだよ。陛下は今カルデアに身を寄せておられるんだ。もちろんサーヴァントとしてだけどね」

 

 とメリュジーヌが先日バーヴァン・シーに話したことを繰り返すと、バーゲストは納得はしづらいながらも、理解はできたという顔をした。

 

「うーむ、陛下がそのようなことを考えておられるとは……。

 しかし陛下はそれでいいとして、カルデアはよく受け入れられたな。完全に敵対して、あれほど激しく戦ったのに」

「そこはそれ、さっきも言ったけど今のカルデアはまだ妖精國に行ってないからね。

 陛下ほどの実力者なら、多少のことは飲み込んで採用しようと思ったんじゃないかな」

「ふむ……」

 

 そういうことなら話は分かる。メリュジーヌとバーヴァン・シーがカルデアに所属している理由も分かった。

 

「それで、君はどうする? カルデアに来るかい?」

「え、私がか……!?」

 

 まさか王の方針に賛成できず反逆した者を勧誘してくるとは。バーゲストは意外すぎて即答できなかったが、するとメリュジーヌは説明が足りなかったと思ったのか補足を加えてきた。

 

「参考までに言っておくと、妖精國が滅びた以上、カルデアでは陛下も僕も君も一介のサーヴァントに過ぎない。もちろん冷遇はされてないけど王様扱いはしてもらえてないし、君も地位や領土はもらえない。いや陛下がブリテンを征服したら、それなりのポストはくれるかも知れないけど」

「…………」

「ああそうそう、肝心なことを忘れてた。

 陛下は僕を全く咎めなかったから、君のことも怒ってはいないと思うよ」

「そ、そうなのか……!?」

 

 何という寛大さだ。民を見捨てた冷酷な王だと思ったあの時の判断は間違い……いやあの時点での判断としては間違っていなかったが、いろいろ理解した今であれば、モルガンこそが妖精國を最も深く愛していた妖精なのだと思える。

 

「それで、どうする? もし来るのならお兄ちゃんに取り次ぐけど」

 

 メリュジーヌの勧誘がバーヴァン・シーの時ほど積極的ではなく相手に判断を任せている感じなのは、彼女の時と違って両者が再会したいと思っているかどうか確信が持てなかったからである。バーゲストがきつく咎められることはないと思っているが、歓迎されるかどうかまでは分からないのだった。

 当のバーゲストは、メリュジーヌの今の台詞でもう1つの疑問を思い出していた。

 

「い、いやその前に。そのお兄ちゃんというのは何者だ?」

 

 そう直球で訊ねてようやく、ロリっ子はその単語が同僚にとって不可解なものであることを理解できたらしく説明を始めた。

 

「そこにいる男の人のことだよ。カルデアのマスターにして、僕の(つがい)でもある人さ。

 おおらかで気前が良くって、すっごくやさしくしてくれるんだ。他のサーヴァントに対しても、単なる使い魔じゃなくて仲間として尊重してる立派な人だよ」

「ベタ褒めなのは分かったが、なぜ兄が番になるんだ?」

「え、そこが1番大事なところなのに」

「……」

 

 生前も性格が合わないと思っていたが、会話が噛み合わないレベルにまでなってしまうとは。バーゲストは少し頭痛がしてきたが、仕方ないので今少し詳しく訊ねてみることにする。

 

「しかしあの少年、妖精國に来た『異邦の魔術師』ではないようだ、が……!?

 何だあれは!? まるでおまえみたいな……!?」

 

 そしてその途中でカルデアのマスターが純然たる人間ではないことに気づいて、またメリュジーヌの方に向き直る。確かにあれなら兄妹というのも分からなくはないが……!?

 

「うん。妖精國では最後まで会えなかった同族が、まさか汎人類史にいたなんて本当にびっくりしたよ。まったく同じってわけじゃないけどささいなことだよね」

「……そうか。とりあえずおめでとうと言っておこう」

 

 妖精氏族の出身で同族が大勢いたバーゲストには、メリュジーヌの心情は正確には理解できない。なので当たり障りがなさそうな言葉を贈るにとどめておいた。

 

「うん、どう致しまして。祝福してもらえると嬉しいよ」

「……しかし何だな。彼ほどの大魔力の持ち主がいるのに、なぜ妖精國に来たのは妖精國の(ただの)人間よりいくらか強い程度の者だったのだ? 我々を甘く見ていたのか?」

「来る前は内情を知らなかったはずだから、そういう理由じゃないと思うよ。

 お兄ちゃんがどこかで殺された……とは考えたくないから、魔術王を退治してから異星の神が来るまでの間に裏世界に行っちゃったとか、そういうのだと思いたいな」

「ふむ……」

 

 そうであれば妖精騎士の誇りは傷つかない。考えて結論が出る話ではなさそうなので、とりあえずそういうことにしておいた。

 

「……ところでバーヴァン・シー。先ほどから黙っているが、私に言いたいことはないのか?」

 

 まあそれはそれとして、こちらを見てはいるが何も言ってこないもう1人の同僚に水を向けてみると、つっけんどんという言葉の見本のような態度で答えてきた。

 

「山ほどあるに決まってるだろ。でも私にそれを言う資格はないから黙ってただけだ。

 でも1つだけ言っておくぞ。おまえが来ようと来まいとどちらでもいいけど、来た上でまたお母様を裏切ったら、それは絶対に許さないからな」

「…………分かった、覚えておこう」

 

 バーヴァン・シーにとっては当然の話だ。バーゲストは深く頷いて、ただ言葉の上ではあえて短く答えた。

 ―――これで聞くべきことは全部聞いたと思うが、どうするべきだろうか。

 今さら領地や領民など欲しくはないし、汎人類史のために戦う義理もない。しかし旧主に不明を詫びる機会が与えられたのなら、それを投げ捨てたくもなかった。

 どの面下げてという気もするが、メリュジーヌの見込み通り帰参が許されればそれで良し、見込み外れで罰を受けることになったなら、それはそれで正当なものだからどちらに転んでも後悔はない。

 あと問題になるのはマスターになる者の人格や能力だが、人格はメリュジーヌが褒めていたから問題なし、能力も今見た通り十分すぎるものだ。

 

「………………そうだな、では取り次ぎを頼む」

「うん、それじゃさっそく」

 

 そしてついに決断してロリっ子同僚にその旨を述べると、やはり軽い口調で了承してくれた。

 

「お兄ちゃん。こちら妖精騎士って名乗った通り僕の生前の同僚なんだけど、また陛下にお仕えしたいそうだから契約お願いしていいかな」

「ん? ああ、問題起こさない人ならいいけど……」

 

 光己が見たところ、バーゲストは女性ながらヘラクレスやスパルタクスに似たゴリマッチョな感じで、雰囲気も近いものがあるしちょっと怖い。パンピーマスターの言うことなんて聞いてくれるだろうか。

 するとメリュジーヌは妹だけあって、光己の不安を察してフォローしてくれた。

 

「それは大丈夫だよ。カルデアに帰れば陛下からご指示があるだろうし、そうでなくてもすぐ分かってくれると思う」

 

 バーゲストは「弱肉強食こそ絶対のルール。弱き者は強き者に従うのみだ」という思想を持っているので、光己がドラゴンパワーを見せれば文句なしで全面承認になるというわけだ。ただそれを露骨に言うのも何なので、ぼかして表現したのである。

 光己にはそこまで分からなかったが、妹が太鼓判を押すなら是非もない。

 

「分かった。それじゃよろしく頼む」

「ああ、こちらこそ」

 

 こうしてカルデアに妖精騎士が3人そろったのだった。

 

 

 




 次回投稿は来年になります。皆様よいお年をm(_ _)m


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