一行が綱たちの住居に着くと、まずはいかにも
そして何故かろくすっぽ話もせぬ内に広間に案内され、家の住人も含めた大人数でのお昼ごはんになだれこむ。
「うむ!
山海珍味、山盛りの米! もちろん日本酒もあるぞ!!」
しかも誰かが調理している様子もないのに、人数分の美味しそうな食事をどこからか取り出してテーブルに並べている。人類の歴史に名を刻んだ英霊たちは多士済々とはいえ、こんな芸当ができる者はごくわずかだろう。
光己も如意宝珠を出せるようになれば同じことができるが、今はまだレベルが足りなかった。
「ええと、まだ未成年なのでご飯と味噌汁を……おお、これはまさに古き良き日本の味」
「へえー、これがマスターの生まれ故郷の料理か。なかなかいけるな」
「ふむ、確かはるか東方の、海を越えた先の島だったな。温かみを感じる味だ」
日本食が初めてのメンバーにも好評のようだった。
もちろんこの家の住人たちも普通に食べている。サーヴァントは身体的には食事をする必要はないが、精神的な楽しみとしては大きな意味があるのだ。
「サケか……悪くない、悪くないが、やはりここはコニャックだ!」
自己紹介もまだなのに酒を飲み始める者もいたが……。
しかも酒が入ったからかナンパまで始める。
「こんな怪しい森に迷い込んでしまったのは不運かも知れんが、気にするな!
不運は幸運に転じるもの。ここでアンタのような美しい
「そのように軽薄な台詞は控えた方がいいだろう。いろいろ問題を招く」
「塩対応~♪ ちなみにアタシには何かないかしら~♪」
「おお、麗しの姫よ。その蜂蜜のような声は、オレに愛を
「ほ、ホントに口説いてきた!? 子イヌ、後は任せたわヨロシク!」
まあうまくはいってないようだが、多分彼にとっては挨拶代わりのようなものなのだろう……。
なお光己は大奥国の民に対するNTR行為は断固粉砕する所存であるが、ゼノビアやエリザベートは
そこに緑色の服を着た、
「しかしオタクら、この見るからに怪しげな森に突っ込んで来たのかよ……。
もうちょい用心深くなるべきじゃない?」
「いや、さっきまでは空を飛んでたんですが、バーゲストさんと綱さんを発見したので降りてきたんです」
「マジか」
空を飛べると言われては、緑衣の男性も突っ込む余地がないようで沈黙した。
変わって中性的な美貌を持った人物が話しかけてくる。フランスの特異点で仲間になってくれたデオンだ。
「やあ、やっと普通に話せる状況になったね。
こちらはどうだろう? ハーブのお茶だ」
「おー、覚えててくれたんですね。これは心強いな」
「うん、あの時は世話になった。君も元気そうで何よりだ」
とまずは久闊を叙した後、カルデア一行を見た当初から気になっていたことを訊ねる。
「しかし白いジャンヌはともかく、黒い彼女まで一緒にいるとはどういう風の吹き回しなのかな? フランスを愛する心が戻ってきたとか、そういうタイプじゃないと思うけれど」
デオンはジャンヌオルタに聞こえるように言ったわけではなかったが、当人には聞こえていたらしくすぐさま反応してきた。
「ええ、そんな気持ちはまったくないわ。もちろん、罪滅ぼしとかそういう殊勝な動機でもないわよ。
……まして白い私にほだされたなんてことは絶対に、それこそ神に誓ってあり得ないわね」
「ふむ、するとどういう理由なのかな?」
彼女は本気で仲間になったのではなく後で裏切るつもりなのではないかとか、そういう疑念は抱いてないが、そうなると本当に想像がつかない。素直に白旗を上げて訊ねてみると、黒い聖女はフフンとドヤ顔で語ってくれた。
「別に深い理由は……あったけど過去形ね。今は単に、
やってみたら面白いことけっこうあるしね」
最初は「自分の存在を確立するため」だったが、それはオケアノスの特異点が修正されたことで完了したので、今は友情と趣味のために参加しているのである。
冬木の街は目新しいものが色々あったし、ジルと話して分かり合うこともできた。外国の冥界の温泉に慰安旅行&お手伝い&詐欺師退治なんてレア体験、カルデアに所属してなかったら絶対できなかっただろう。
今回は今回で砂漠の街とか童話の役をかぶせられたサーヴァントとか、初めて見るものが矢継ぎ早にやって来て本当に刺激的だ。
短刀に紐付けされた時は怒ったが、今は感謝している。口に出す気はないが。
「……そうか、それは良かった」
デオンにとってはジャンヌオルタもまた被害者である。それが吹っ切れて明るくなって、友人までできたのは喜ぶべきことだった。
なので素直に祝福すると、ジャンヌオルタは気を良くしたのか問われもしないことまで語り出した。
「まあね。私とマスターともう1人の盟友が揃えば、不死身の羅刹すら葬る超必殺技を放つことすら可能よ。友情パワーというやつね」
ジャンヌオルタは自分語りできてご満悦そうだったが、そこでふと食事を終えて日本酒を手酌でかぱかぱ飲んでいる若い女性がどこかの誰かに似ていることに気がついた。
「……えっと、まだ名前聞いてないけどそこのお酒飲んでる女の人。閻魔亭っていう旅館に行ったことあったりしない?」
「……」
ジャンヌオルタには深い考えはなく思いつき程度の感覚で聞いてみただけだったが、すると女性はぴたっと手の動きを止め、壊れた
「さ、さあ、何のことかしら。そんな雀がやってる旅館なんて知らないし、ましてお酒飲み過ぎて暴れて出禁になったことなんてないわよ」
「…………」
女性は酒が入り過ぎたせいか、語るに落ちすぎてジャンヌオルタも光己もデオンも数秒固まってしまったほどであった。閻魔亭でのことはあんまり懲りていないようである。
ただジャンヌオルタは別に女性を咎めるつもりで聞いたのではないので、効き目があるかどうかは分からないがフォローしておくことにした。
「そ、そう。いえ別に私に被害はなかったからどうでもいいんだけどね。
でもせっかくだから、名前だけ聞いてもいいかしら? あ、私はジャンヌオルタっていうんだけど」
すると女性はつい数秒前の焦りっぷりを忘れたかのように無邪気に名乗ってくれた。
「へー、ジャンヌオルタさんね。異人さんかあ。まあサーヴァントなんてやってると珍しくないんだけど!
あ、私は宮本武蔵。こう見えても二刀流のセイバーよ。よろしくね!」
「え、ええ、よろしく……」
なんとあの羅刹が日本で最も有名な剣豪(の製作品)であったとは。いやネームバリュー的には納得なのだが、剣一筋の求道者だと思っていたのにとんだ買いかぶりだった……。
なお武蔵はいわゆる時空漂流者で、光己はいずれ生身の彼女と出会う可能性もあるのだが、今ここにいる武蔵はサーヴァントである。酒をいくら飲んでも肝臓を悪くしたりしないので、景虎と同じように生前以上の飲んべえになっているのだ。
そういう意味では「食糧を無限に出せるサーヴァント」の仲間として現界できたのは彼女にとってとてもラッキーなことだったといえよう。
それはそれとして食事が終わると、ようやく食事を出してくれたサーヴァントが光己たちの来意を訊ねてきた。
「うむ、今日もよく食った。おまえさんたちもなかなかの食いっぷりだったな!
それで、おまえさんたちは何用でこんな怪しい森に来た……いや自己紹介が先か。
「デジマ」
名前を言ってはいけないあの御方を討ち取ったといわれるビッグネームの出現に光己は驚愕した。龍神に頼まれて
いや龍神ともあろう者が多足類なんぞに恐れをなして人間に助けを乞うとはいかがなものかとも思うが、この百足は山を七巻き半するほどの超巨体だったそうだから仕方ないのかも知れない。雷でヘッドショットとかそういうのは龍神でも難しいということか。
なおこの時龍神が藤太に贈った宝物は正当な謝礼なので、光己の「蔵」には戻ってきていない。
食糧を無限に出せるというのは紅閻魔を始めとするカルデア厨房組にとってはぜひお招きしたい逸材だと思われるが、やはり出会ってすぐは無理である。
「あ、俺はカルデアという組織から特異点修正のために派遣されてきた藤宮光己という者です。どうぞよろしく」
「ほう、まだ若いどころか武門の出にも見えぬのに大変だな。まあこんな狭い所で良ければ、好きなだけ休んでいくといい。食う物だけはたっぷりあるからな!」
藤太がそう言うと、先ほどゼノビアとエリザベートをナンパした偉丈夫が話に加わってきた。
「オーララ! 確かにその通りだが、これだけの麗しきお嬢さん方に囲まれて冒険ができると考えると少々羨ましくもあるな!
おっと、名乗りが遅れたな。オレはナポレオン・ボナパルト、生前はフランス皇帝なんてやってたこともあるが、しょせんは過去の……いやここから見れば未来か。まあ気にせずフランクにいこう、フランスだけにな!」
「お、おおぅ!?」
日の本の大物弓兵に続いて、知名度補正がヤバそうな初代フランス皇帝までがご出陣とは! メンタル一般人の未成年には刺激が強すぎである。
他のメンツもガチ武闘派揃いだし、もしかしてここは難易度EXのヘル&ヘヴンな特異点なのだろうか。仲間が増えたから忘れていたが、カルデアのサーヴァントの侵入を阻む障壁まで用意されていたのだし。
だとすると黒幕がちょっと抜けてそうに見えたのもフェイクであろうから、これまで以上に慎重にせねばなるまい。
……光己がそんなことを考えて眉をしかめていると、最後に緑衣の野伏が名乗ってきた。
「まあそう緊張なさんな。無駄に疲れるだけだしな。
オレはロビンフッド。皇帝や騎士様なんてお偉方じゃないケチな弓兵だが、まあよろしく」
「おお、ロビンフッドというとあの義賊の!? いやいや、遠い未来の外国人の俺が名前知ってるってだけでも『ケチ』じゃないですよ」
「ほぅ!? いやあ、そこまで言われると照れちまうな」
ちょっとヒネくれた所があるロビンだが、未来の外国人が自分のことを知っていたというのは嬉しいらしく、顔を綻ばせて手で頭をかいた。
「……で、黒幕やこの森についての情報だったか? うーん、森については確かにいくつか知ってるが、空を飛べる奴にはいらない話ばかりだなぁ」
たとえばこの森は
「黒幕のことは何も知らんし……そうだ、せっかくだからお姫様の顔も見ていくか?
オレたちじゃ起こせなかったが、オタクらなら起こせるかも知れないしな」
「あー、そうですね。ぜひ」
光己はすでに「シンデレラ」の魔法使い役をしている身だが、もしかしたら他の童話の役も兼任できるかも知れない。仮にできなくても
するとバーゲストが案内を申し出てきた。
「こちらだ。ついて来い」
「ああ、そう言えばお姫様はアンタと同郷なんだったな。んじゃ頼むわ」
なんと、白雪姫役も妖精國出身のようだ。どんな妖精なのだろう?
そして光己たちがバーゲストに連れられて別室に入ると、童話で語られている通りガラスの
白いワンピースの服を着て青い帽子をかぶっているが、まるで汎人類史の女学生の制服のようなデザインだった。傍らには黒い杖が置かれている。
光己たち汎人類史組は当然初対面だったが、メリュジーヌとバーヴァン・シーは知っていた。
「ま、まさか予言の子!?」
「ああ。私も最初に見た時は驚いたが、この特異点が童話をモチーフにしているというのならさほどおかしくはないな」
白雪姫に限らず、童話や昔話には妖精がよく出て来る。つまり召喚されやすい下地があるという意味だ。
「さっきロビンが言った通り私たちには起こせなかったが、おまえたちなら可能か?」
「うーん、シバさんどう思う?」
光己が魔術師クラスに見解を求めてみると、シバは棺のフタをずらして予言の子と呼ばれた少女の顔をじっと観察し始めた。
シバは「精霊の目」というスキルを持っており、鑑定や欺瞞の発見が得意なのだ。
「…………ええとぉ。これは普通の魔術じゃなくて、童話の役柄として眠ってるというか、仮死状態になってるものですので、魔術で起こすのは無理ですねぇ」
「つまり、童話のストーリーに沿った方法でないとダメだと」
「はいぃ」
やはり王子様が起こすしかないようだ。確かキスだっただろうか?
光己がそんなことを考えると、表情でバレたのかエリザベートがダメ出ししてきた。
「いいえ~♪ 棺ごともらっていくだけで~♪ 良かったはずよ~♪
私は~♪ 詳しいの~♪」
「ぬう、なんと風情のない」
大変残念なお話だったが、それはそれとしてメリュジーヌたちは棺の中の少女のことを知っているようなので、引き取る前に人となりを確認しておかねばなるまい。
「3人とも、この娘の性格や生い立ち知ってる?」
「うん、でもどこまで話していいものかなあ」
訊ねられたメリュジーヌはちょっと困ってしまった。
予言の子を起こすか起こさないかの判断材料を提供するという面ではなるべく詳しく教える方がいいのだが、そうすると妖精國の内情を明かすことになってしまうのだ。
またこれだけ(カルデア方式で召喚されたのではない)妖精國出身者が増えるとカルデアも多少は警戒するようになるだろうから、ヒナコが言った「もしかして後で裏切るつもりか?」という疑念を払拭するために、モルガン案出の「ベリルを殺害することで妖精國が来るのを防ぐ」という方針を早めに表明する必要が出てくるかも知れない。
……まあその辺は王が判断すべきことだろうから、一介の騎士としてはまず
「……予言の子というのは、未来を知る力を持ったある妖精が残した予言で謳われてる妖精のことでね。
異邦の旅人、つまりカルデアのマスターとともに、妖精國を襲う災いを退けた後モルガン陛下も倒して『真の王』を玉座につけて、でも当人は元いた場所に帰るという内容だよ」
「…………その予言は当たったの?」
「うん。予言の全文までは覚えてないけど、覚えてる範囲では全部当たった」
「……そっか。するとこの娘はモルガンやメリュたちにとっては敵なわけ?」
光己にそう訊ねられて、メリュジーヌは小さく首をひねった。
「うーん、どうだろう。確かに敵対はしたけど、お互い私的な憎悪はなかったと思う。
彼女が僕たちの仲間になる理由も、汎人類史を助ける理由もないと思うけれど」
もし光己が妖精國に来た「異邦の旅人」本人であったなら、その縁で協力してくれるかも知れない。しかしそうでない以上、予言の子にとって汎人類史は見ず知らずの、故郷と共存できない異世界というだけのものだろう。
汎人類史のブリテンを征服したいとか、モルガンの力になりたいなんてことも考えないだろうし。
「むうー、それなら起こしてもケンカになるのがオチだな。やめとくか」
眠りっ放しなのは可哀想だとも思うが、それも特異点が修正されて座に還るまでのことである。光己が火中の栗を拾うのはやめて安全策を採ると、予言の子と共闘したことがあるバーゲストはちょっと残念そうな顔をしたが、メリュジーヌの意見に反論できる材料がないらしく沈黙していた。
「そうですねえ、仕方ありません」
聖女メンタルのジャンヌも、敵対する動機は確実にあるのに味方になる動機はなさそうな者をあえて起こそうと言うほど無鉄砲ではないようだ。
というわけで一同はこのまま部屋を出ることにしたのだが、ああ、何という運命の悪戯か、それとも世界設定の強制力というものか。部屋が狭くて混んでいたせいで、ジャンヌオルタが棺に足をぶつけてしまった。
するとどうだろう……童話の展開の通り、棺が揺れた拍子に
目を覚ました姫が棺のフタをどけて体を起こし、まずはざっと辺りを見渡す。
「王子様だ! 王子様来た! ついに私にも妖精生の春が来た、やったー!」
そして光己と目が合うと、喜色満面でガッツポーズを取るのだった。