FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第194話 白雪姫6

 木簡(もっかん)を項羽が持っていると彼の今の主導者(マスター)に見られる恐れがあるので、いったんカルデア側に返しておくことになった。

 その上でメリュジーヌ&バーゲストと八百長バトルを始める。まずはお互い様子見で10合ほど打ち合った辺りで、森の奥の方から身長5~6メートルほどもありそうな人型の何かがずしずしと地響きを立てながら近づいて来たではないか!

 どうやら木の幹を組み合わせて作ったゴーレムのようだ。左手に大きな棍棒を持っており、頭頂部には緑の葉が茂っている。

 

「おお、あれが項王が言ってた怪物か!?」

「はいぃ~。魔術でつくった人形じゃなくて、れっきとした生き物ですぅ」

 

 光己がその巨大さに驚きの声を上げると、傍らにいたシバの女王が解説してくれた。

 なるほどこの巨体で姿を見えなくできるというのなら、項羽ほどの強者が注意を促すのも当然である。

 なぜゴーレムみたいな姿をしているかは分からないが、怪物は光己たちの存在に気づくと本当に姿を消して見えなくなってしまった。当然このまま攻撃してくるだろう。

 

「ちょ、これヤバくないか!?」

「大丈夫ですぅ、私は見えますから」

 

 さすがに慌て出した光己に、シバはそう言って怪物が元いた場所の少し右を指さした。「精霊の目」は透明化スキルも看破できるようである。

 その指さされた方向では足音がしたり踏んだ地面に穴が開いたり、体がぶつかった木が揺れたりするので、彼の姿勢までは分からなくても居場所だけなら判明するというわけだ。

 

「さすがは伝説の女王、有能だな……」

「オーララ! まったくだ」

 

 光己が感心していると、ナポレオンもまったく同感という風に頷きながら手に持った大砲をぶっ放した。

 弾が空中で炸裂して轟音と爆炎をまき散らしたので命中したのは確かだが、倒せたかどうか分かるのはシバだけである。

 

「ちょっと穴が開きましたけど、まだまだ元気そうですぅ~。

 ……あ、跳んだ。って、私を踏み潰そうとしてるぅ!?」

 

 怪物はウッドゴーレムのような姿ながら、シバには彼の姿が見えていてその位置を仲間に教えているということを把握するだけの知能があるようだ。

 しかもシバはマスターのすぐ隣にいるので、避難するなら彼も連れて行かねばならない。とっさに後ろから抱きかかえてバックステップした。

 

「わわっ!?」

 

 その直後2人がいた所からものすごい轟音が響き、地面に大きな穴が開くと共にトランポリンのように揺れた。

 何しろこの怪物、体重が見た目通りなら推定で3トンほどもありそうな超重量級なのである。かつてベオウルフという勇士に倒されたといわれているグレンデルという怪物……の忌名(いみな)をどこかの不定形生物に押しつけた存在だ。

 名前に紐付けて力を与えられたという点では妖精騎士たちに似ているが、その辺の事情はカルデア勢や「7人の小人」たちには分からない。

 なお光己はシバの豊かなおっぱいが背中に当たってむにゅむにゅたわむ感触に大変感銘を受けていたが、厳しい戦闘の最中に顔や声に出さない程度の自制心は持っていた……。

 他の後衛組も思い思いの方向にジャンプして退避しつつ反撃に移った。

 

「お、間抜けが土に埋まったか? よっし、抜け出す前にハリネズミにしてやるよ!」

「頑張るわよ~♪」

「うーん、生き物といっても木に俺の毒は効いてくれるかねえ?」

 

 バーヴァン・シーとエリザベートとロビンがグレンデルの頭がありそうな所に矢を連射する。刺さる音が聞こえるが、砕けるところまではいっていないようだ。

 なおジャンヌオルタとゼノビアは魔物軍の退治に行っているのでこの場にはいない。エリザベートはドレス姿で森の中を駆け回るのが嫌になってきたので、あまり動かなくて済みそうなマスター護衛役に代わってもらったのである。

 ……その見込みはちょっと外れていたが。

 

「…………!!」

 

 グレンデルは口はあっても植物だけに声帯はないのか、何か吠えたような雰囲気が感じられたが声は聞こえてこなかった。そして穴から飛び出し、今度は普通に徒歩で執拗にシバを追いかける。

 シバの方はここで光己を横に放り投げれば彼は狙われずに済むようになる可能性が高いが、万が一その観測が外れだったら大変なことになる。なのでそれはできないが、ランプから煙を出す時間はあったので2人でそれに乗って退避する。

 

「わあ~♪ 空飛ぶ雲って何だかアラビアチック~♪」

「オーララ! こういうマジカルな芸当を見られるのもサーヴァントのいい所だな!」

 

 エリザベートの歌いながらの賞賛にナポレオンがそう相槌を入れつつ、また大砲を撃つ。大柄な彼の体躯よりさらに大きな大砲による至近距離からの砲撃に、さすがの怪物も太腿を砕かれ地面に片膝をついた。

 

「わあ、これは効いたみたいですぅ! 右腿に大きな穴が開きました……でもナポレオンさんの砲撃以外はあんまり効いてなさそうですねぇ」

 

 シバがさっそくその様子を実況してくれたが、生物とはいえ魔術人形(ゴーレム)的状態だからか、矢が刺さるのはたいしてダメージにならないようである。痛みで動きが鈍るというのもないだろうし。

 

「むう……仕方ない、どっちみちロックオンされてるんだし参戦するか。

 いやこの特異点に来てから参戦頻度高すぎるような気もするけど」

 

 光己は立場上自分の身を守るのが第一なので自分から攻撃するのは控えめにしているのだが(ゼロということではない)、透明化なんてヤバいスキルを持っている巨大エネミーが相手では早期決着を優先せざるを得ない。戦闘が長引けばその分シバのおっぱいの感触を味わっていられるのだが、人理修復に臨むマスターたる者時には私情を抑えねばならないのだ。

 大急ぎで口に魔力を集めて、必殺のドラゴンブレスをぶっ放す!

 

「アルビオン・ビィィム!!」

 

 どこか異境的な印象を受ける金色のビームがグレンデルの腹部を強打し、後方によろめかせ尻もちをつかせる。

 なおシバの手が間違ってブレスの射線内に入らないよう、彼女のたおやかな手を軽く握っておいた上での行為であり、安全面の配慮に手落ちはない。褐色おっぱい美人の手を握れて嬉しいなんて思春期な感想もないのは当然だ。

 

「ひわわぁ!? マスターってばそんなことまでできたんですねぇ」

 

 まあ当人はドラゴンなマスターが人間形態でもブレスを吐くという奇行に驚いていてそれどころではなかったけれど。光己の正体を知らないナポレオンやロビンは尚更だ。

 

「おお!? 口から光線を吐くとは、未来の魔術師ってのは面白いことを考えるもんだな」

「そういうモンなんですかねぇ……というか威力がおかしくなかったですかい!?」

 

 なるほど口からビームを撃つのは敵の意表を突けるといえば突けそうだが、それなら牽制程度の威力があれば十分なのに、何故わざわざ武闘派サーヴァントの全力攻撃並みの出力にまで鍛えたのだろうか。未来人の感性は難しい。

 

「ま、今はそれより怪物を倒すのが先か」

「そうね~♪ アナタとは腐れ縁を感じるし~♪ 勇敢なる円卓の騎士ロビン卿として~♪ 被虐的(マゾヒスティック)に~♪ 頑張るのよ~♪」

「どれもこれも全力で辞退したいんですがねェ!?」

 

 エリザベートの好意あふれる激励にロビンは渾身の塩対応を返したが、まったくもって残当であった……。

 まあそんなことより追撃である。シバに「効いた」とお墨付きをもらっていたナポレオンが手早く次弾装填して発射した。

 

「そいっ!」

 

 これも命中して相応のダメージを与えたが、ここで怪物は予想外の行動に出た。左手に持っていた棍棒をナポレオンめがけて投げつけたのだ。

 

「え、投げ……!?」

 

 シバの警告が一瞬遅れたのも無理はない。棍棒が透明になっていたなら怪物の体の一部のはずだから、それを投げるなんてできないはずなのだから。それとも棍棒は彼にとって爪や髪程度の、体から分離してもいい小さなパーツ程度のモノだったのか!?

 狙われたナポレオンの方は一級の英霊だけあって、目には見えずとも危険が迫る気配は感じていた。とっさに大砲を体の前にかざして盾代わりにした直後に棍棒が当たって、耳ざわりな衝突音が響く。

 

「……っぐ、デカいだけあって腕力は強いな」

 

 踏ん張り切れず、棍棒と大砲と一緒に後ろに倒れてしまった。しかも受けた拍子に手首と肘を痛めたようである。

 棍棒が本体から離れたからか透明化能力を失い、目に見えるようになった。ナポレオンは大砲は撃てなくなってしまったので、代わりに急いで起き上がるとその棍棒をかついで遁走した。

 

「…………!!」

 

 怪物が怒ったような気配を感じるが、これはこの行為が有効ということである。ただ好き好んで自己犠牲する趣味もないので、カルデアのマスターとシバの女王の方に走った。

 ナポレオンは2人の後ろにいればおおむね安全だし、2人はもともと狙われている身だからナポレオンが来てもマイナスにはならないのだから。

 

「ナポレオン帝、大丈夫なんですか!? てか帝が大砲撃てなくなったってことは、メインアタッカーは俺だけなのか……!?」

 

 アテにされた光己は怒ったりはしなかったが、状況が悪くなったことには狼狽した。

 令呪でメリュジーヌを呼ぼうかとも思ったが、いくら無窮の武練があるとはいえ見えない巨怪と戦わせるのは気が引けるし、怪物の前にいられるとブレスを撃てなくなってしまう。どうしたものだろうか。

 

「うーん、マジでどうしよう?」

 

 せめてカルデアと通信ができれば軍師の知恵を借りられるのに。自称ジェーン許すまじ!と光己は元凶への怒りをさらに深めたが、そこにいかにも自信ありげな声が響く。

 

「あらら、あっち行ってる間にピンチになってたみたいね。でも私が来たからにはもう恐れることはないわ。

 燃え尽きろ! 『焼却天理・鏖殺竜(フェルカーモルト・フォイアドラッヘ)』!!」

 

 ジャンヌオルタが怪物のさらに向こうから宝具を開帳し、三つ首の黒竜の形をした炎を飛ばしたのだ。

 怪物が木の性質を持っていれば当然燃えるし、炎に包まれていれば居場所も姿勢も分かる。またこの森に生えている草木は生育が異常に速いそうなので、山火事になっても問題ないという判断もあった。

 

「おお、さすがは我が盟友!」

 

 恐ろしかった怪物も、間接的にとはいえ見えるようになればもはや図体が大きいだけの木偶の坊に過ぎない。光己の2発目のブレスが彼の腹部を貫通して風穴が開き、さらにエリザベートやバーヴァン・シーも傷ついている部位を狙って集中攻撃する。

 怪物は矢弾の痛みと炎の熱さに苦しみ悶えていたが、やがて右腿がへし折れてそのまま体ごと右側に転倒した。

 

「やったか!?」

「あの~、その台詞はフラグだと私ですら分かるんですがぁ~?」

 

 光己の失言にシバがツッコミを入れた通り、怪物はかなり弱ってはいるものの力尽きてはいなかった。事前情報の通り、その全身がうねうねと変形していく。

 ダメージが大きいせいか、サイズ的には縮みつつあった。透明化能力も一時解除されており、人間大で粗末な服を着た女性のゾンビという感じになっていくのが分かる。

 変身の効用か、体の傷や欠損は修復されて五体満足になるように見えた。

 

「変身でケガも治るのか!? なら変身し終わる前に倒すんだ!

 特にジャンヌオルタは炎を絶やさないように!」

 

 光己は敵の変身中は攻撃を控えるなんてお約束を律義に守るタイプではないので、むしろチャンスと見てさらなる攻撃を指示していた。無論仲間たちも一部を除いて同類である。

 

「ええ、もちろん!」

「ガラスの靴よ! 残酷でしょ?」

「アハハハハ、小さくなったら矢のダメージも相対的に大きくなるのにお馬鹿さぁん!」

「ちょ、やめ……」

 

 怪物は曲りなりにも人型生物になったことで喋れるようになったようだが、出せた言葉は短い哀願の言葉だけだった。いと哀れ……。

 この変身は体を治すのと、巨体とパワーで押す作戦が失敗したので小さくなってスピードと(ゾンビではなくグールの)麻痺毒の爪で戦おうという算段だったのだが、敵の容赦なさと大魔力量による継戦能力は彼の予想以上だったのだ。なにせ黒幕側のカルデアのマスターに対する認識は「素人に毛が生えたようなもの」なのだから。

 

「怪物よ、我が国から立ち去れ!」

「アバッ……サ、サヨナラ!」

 

 そして最後は応援に来たゼノビアのバリスタ連射により、しめやかに爆発四散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 グレンデルが斃れ魔物たちも減らされてきたのを確認すると、項羽はバーゲストにチラッと目配せして合図した。

 バーゲストがそれに応じて剣で斬りかかると見せて蹴りを繰り出すと、項羽はわざとそれを受けて派手に後ろに吹っ飛ぶ。背中を木に打ちつけて尻もちをついた。

 とはいえさすがにこれで終わりというわけではなく、いかにも痛手だったという風に演技しつつのろくさと立ち上がる。

 すると予兆もなくぶわっと蒼い炎が噴き上がり、その後に先刻と同じスクリーンが現れた。映っているのは言うまでもなく自称ジェーンだ。

 

「あらあら~、東方の覇王もさすがに多勢に無勢だったかしらね。

 まあ仕方ない、動ける内に退散してもらおうかな。メルシーメルシーお疲れさまー」

「……うむ」

 

 項羽は大仰に頷くと、これまた無駄に大げさな身振りをしながら退却していった。

 バーゲストは彼を追わないという行動を正当化するため、いかにも怪しんでいるという表情をつくりながら自称ジェーンに話しかける。

 

「おまえがこの特異点をつくった元凶だな。一体何を企んでいる?」

「ふふふー、何でしょうかねー。

 どうしても知りたければ、直接聞きに来ることね。そう、そこのお姫様の片割れが囚われているお城までね?」

 

 自称ジェーンがそう言ってニヤッと笑うと、それで用は済んだということかスクリーンはぱっと消えた。

 

 

 




 つまり項羽は原作のヘクトールの代役というわけですね。名前ネタはオミットということで(ぉ
 なお原作ではグレンデルは助命されてましたが、ここでは戦闘中に倒しちゃってます。透明化能力を持ったそこそこ強い怪物なんてのは、光己君の感覚では怖すぎてとても助命できないのです(^^;


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