FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第195話 チェイテシンデレラ城へ

 項羽が撤退を始めると、魔物軍もそれを追うようにして逃げ始めた。

 ここで光己たちには、①このまま見逃す、②追撃して魔物を討ち取る、③魔物は無視して、項羽と武則天・カーミラが戻るより早く城に行って自称ジェーンを急襲する、という3つの方針が考えられる。

 ただし③は急ぐあまり城内で罠にかかったりする恐れがある上に、それを乗り越えて自称ジェーンの所にたどり着いても、彼女には令呪で項羽たちを呼びつけるという手があるのでリスクの割にリターンが少ないかも知れない。いや3画全部使ってしまったら3人とも反逆しそうだから、3人全員は呼ばないだろうけれど……。

 

「どうすればいいと思いますか?」

 

 光己が自分の考えを語りつつそばにいた元軍人皇帝と元義賊に意見を求めてみると、2人は慎重策に票を入れてきた。

 

「……ふむ。機動部隊で敵本拠地を衝くってのは確かに戦術の常道の1つだが、大将みずからってのはあまり褒められたことじゃないだろうな」

「魔物を追い討ちする必要もないと思いますよ? だいぶ減らしたから、これ以上減らすと逆にあの黒幕がまた何かやらかすかも知れねえからな」

「ほむ、なるほど……」

 

 手駒が減ったから補充しよう、という発想は確かにあり得る。せっかく追撃して被害を与えても、同じだけ追加召喚されては意味がない。

 特に自称ジェーンはいろいろな芸当を使える奴だから、どんな手練手管を弄してくるか分からないし。

 

「じゃあそうします。せっかくですから、行く前にケガ人の手当てしていきましょうか?」

「ほう、そんなこともしてくれるのか。さっき知り合ったばかりだってのに、カルデアのマスター(メートル)は気が利くな!」

 

 まあナポレオン自身がそのケガ人なのだが、この度の襲撃は敵の数が多くて質的にも強かったので、彼が見た限りでも何人かは負傷していた。またここが襲われる可能性はあるのだから、治療してくれるのはありがたい。

 ……というわけで光己とジャンヌがケガ人の治療をしている間に、無事だった者で魔物の遺体を1ヶ所に集めてジャンヌオルタが(腐敗するのを防ぐのも兼ねて)火葬したら、光己たちはもうここでやることは―――とても大事なことが残っていた。

 

「それじゃそろそろお別れですが、その前にせっかく会ったのですからサインと写真いただけませんか?」

 

 いつものお宝願いである。今の状況でカルデアに誘う度胸はなかったが、共闘したのだからサインと写真くらいはいけると判断したのだった。

 

「サイン? 写真?」

 

 まあ「7人の小人」はサインはともかく写真の概念なんて知るはずもなかったが、これはいつも通りのことなので、いつも通りに説明して7人とついでに白雪姫の分も手に入れた。

 サーヴァントたちにしてみれば、はるか未来の、しかも世界を救うために奔走しているという少年が自分のことを知っていて、しかも自分との出会いを覚えておくために形になるものを残しておきたいと言われれば悪い気はしないのだった。

 アルトリア・キャスターだけは「王子様と並んでの姿絵……これは玉の輿に1歩近づいた!」なんて俗なことを考えていたけれど。

 

「クックックッ……今回のお宝もグレートだな。まさに王に相応しい家宝、いや国宝というべきか……しかし国宝なら蔵に入れて独り占めはよろしくないかな。王立博物館を建てて他のお宝と一緒に展示すべきか……?」

「記念にしてもらえるのはいいんだが、そこまで言いますかねぇ……」

 

 光己が悦に入っているとロビンにちょっと引いた目で見られてしまったが、まあささいなことだろう……。

 またそれとは別に、ケガの手当てをしたからかナポレオンが手助けを申し出てくれた。

 

「まあ、それはそれとしてだ。

 どうだい皆の衆。このお嬢さん(マドモワゼル)方とそのメートルと世界を救うため、あの黒幕を討つ旅の供回りに興じたい奴は?」

「もちろん構わないが、全員というわけにはいかないだろうね。

 さっきの魔獣が砂漠に押し寄せたり、その逆も考えられる。

 それを抑え込む者が必要だから、同行できるのは……白雪姫とバーゲスト込みで3騎というところかな」

 

 するとデオンがそんなことを言った。

 7人の家はチェイテシンデレラ城と山向こうに通じる洞窟をつなぐ経路の途中にあるので、ここを抑えておけば城と砂漠の行き来を止めることができるのだ。

 

「数としては妥当だが……誰が行く?」

「ジャンケンでいいんじゃないかしら?」

 

 真面目くさった綱とテキトーな感じの武蔵が実に対照的だったが、誰が向いてるとかそういうことは分からないのだから、後でモメる要素がない方法だと言えるかも知れない。

 

「別に行きたくないんですけどねえ?」

 

 ロビンが露骨に嫌そうな顔をしているのは、(絶対に変なトラブルに巻き込まれる)と確信しているからだろう。実に真っ当な危惧であったが、武蔵は頓着しなかった。

 

「まあそう言わないで、いっしょに戦った仲なんだしみんなで決めましょう!」

 

 そして公正なジャンケンの結果、参加権を獲得したのは最初に提案してくれたナポレオンであった。

 

「というわけで、オレが行くことになった! よろしくな!」

「はい、こちらこそ。心強いです」

 

 実際彼の大砲は強力だ。光己は本心からそう言った。

 そして藤太たちに別れを告げて森の中を歩く道すがら、光己は先ほど会った項羽について考えていた。

 

(わりと冷静で話が通じる人みたいだな。あれなら問題なさそうだ)

 

 史実では彼は確かに強い将軍だったが、敵に対して苛烈すぎる所があった。捕虜や敵都市の住民を恒例のように穴埋めにして殺していたので、恐れられると同時に敵の戦意を高めることにもなっていた―――が、ある街を陥とした時に住民の少年にその非を指摘されて改めたという逸話があるので、あまり無茶なことはしないだろう。

 味方に対しては謙虚で敬意を示し言葉遣いも穏やかだったが、手柄を立てた人に土地や爵位を与えず、有能な者に権限を与え任せることもしなかったのが劉邦に負けた原因であるらしい。しかしカルデアでは賞罰や登用を行う立場ではなく大勢いるサーヴァントの1人に過ぎないので、その辺も問題にならない。「もはや王ではなくなった我が身」と言っていたからそこまで出しゃばらないはずだし。

 

(そうだ、自称ジェーンのことも調べとくか)

 

 彼女については名前しか知らなかったので、端末(タブレット)に入れてもらってある歴史的著名人事典(サバペディア)で概略だけでも予習しておくことにした。

 それによると自称ジェーン、本名ジャック・ド・モレーは1244年頃生まれで1314年没、フランスの小貴族出身だったとされている。テンプル騎士団という有名な騎士修道会(聖地エルサレムへの巡礼者守護を使命とした組織)の最後の総長で、その資産を奪おうとしたフランス王フィリップ4世に異端の疑いをかけられて火刑に処されたという。

 

(うーん、最期はお姉ちゃんに似てるかな?)

 

 しかしモレーは復讐に燃えているという感じはしなかったし、彼女が異端だというのは冤罪であろうから、悪魔崇拝がどうこうということもあるまい。何が目的なのかさっぱり分からなかった。

 

(いや、そういえばツノが生えてたな。あれか、無辜の怪物というやつか)

 

 フランスで会ったヴラドが本当に吸血鬼だったように、モレーも悪魔崇拝者にされているのかも知れない。だとしたらその崇拝する悪魔を召喚するのが目的だとか? 女性の悪魔崇拝者とはすなわち魔女だから、いろんな魔術を使っていたのも納得だし。

 しかし仮にそうだとしても、この特異点が童話をモチーフにしている所とか、エリザベートが人質になっていること等は説明がつかない。本当に何を考えているのだろうか?

 

「マスター、何を考えこんでいるんだ?」

 

 するとゼノビアが声をかけてきたので、光己は今の考察を説明して意見を求めてみた。

 

「―――というわけなんだけど、ゼノビアさんはどう思う?」

「ふむ、敵についてあらかじめ調べておこうとは良い心がけだな。感心した。

 しかし今の話では、私にもさっぱり見当がつかないな。ましてなぜ千年も昔の我が国を拠点に選んだのか、理解に苦しむ」

「うーん、ゼノビアさんでも分からないか」

 

 まあ2人は接点が皆無だし生い立ちも全然違うから、思考や心理を推測するのが難しいのはむしろ当然なのだけれど。

 一方光己たちから少し離れて、バーヴァン・シーがアルトリア・キャスターに小声で何事か訊ねていた。

 

「なあ予言の子、ベリル・ガットって知ってるか?」

「ベリル? ええ、覚えてますけど、彼がどうかしたんですか?」

 

 キャスターがこちらも小声で答えると、バーヴァン・シーはさっそく本題に入った。

 

「ああ、メリュジーヌの奴と少し話したんだけど、あいつが私を陥れたりお母様を裏切るようなことしたのは、汚名をかぶってでも汎人類史を救おうとしたからじゃないかっていう説が出たから他の奴にも意見聞いてみたくてさ」

「え」

 

 ベリルの本性を知っているキャスターにとって、その推測は的外れもいい所である。思い切り眉をしかめた。

 

「それはないですね。大外れすぎて笑えもしません。

 だってあのいけ好かないひねくれ野郎、異邦の旅人(リツカ)を殺そうとしたんですよ!? 汎人類史の味方なわけねえです」

「マジか!?」

 

 その回答に、今度はバーヴァン・シーが驚いて目を白黒させた。

 

「じゃああいつは何が狙いだったんだ!? 妖精國も汎人類史も潰れたらあいつ自身の居場所が、いやあいつは他の異聞帯に行けるんだっけ……するとクリプターのボスのキリ何とかって奴のためか? いやでもあいつってキリ何とかも殺したんじゃなかったっけ。違ったかな?」

 

 確かそのためにモルガンがギリシャ異聞帯にロンゴミニアドを1本飛ばしていたと思ったが、ちょっと記憶に自信がない。

 まあベリルの目的が何であれ、汎人類史の味方ではなかったことは確定したが。

 

「ま、もう死んだ奴のことそこまで深く考えても仕方な……いや待て。確かマスターたちのカルデアって、妖精國と異星の神が来る前の時間軸だったよな。てことは、ベリルはまだカルデアで生きてるってことか? いやそれだったらお母様がとっくの昔に始末して……あれ、でもそうなると異星の神が来た時はどうなるんだ? もし妖精國が汎人類史に来なくなるんだとしたら、私たちが汎人類史(ここ)に召喚されるだけの縁はないはずだし……うーん、やっぱ今考えても仕方ないか!」

 

 頭がこんがらかってきたので、バーヴァン・シーは考察を打ち切ることにした。どちらにせよカルデアに行ったらモルガンに聞くことになるのだし。

 メリュジーヌはモルガンがベリルを()()殺していないことをバーヴァン・シーとバーゲストに話していないので、こういう結論になってしまったのだった。無論今ここで聞く手もあるのだが、彼女は先頭を歩いているので内緒話をするのは避けたのである。

 

「そうですね。まああいつはマシュのことが好きだったぽいくせに、そのマシュにも容赦なく攻撃してましたからね。単なる考えなしのサディストだと思いますよ」

 

 当然のことながら、キャスターはベリルに対しては実に塩評価であった……。

 一方後列では、ナポレオンがオーバーな身振り手振りをしながらジャンヌと何か話していた。

 

「まさか救国の聖女と肩を並べて世界を救うために戦える日が来るとはな! 小人役なんてやってた甲斐があるってもんだ。素晴らしい(トレビアン)!!」

「そ、そうなのですか? 光栄だとは思いますが……」

 

 ジャンヌは聖女扱いされるのを好まないからか少々当惑していたので、光己はちょっと私見を述べてみることにした。

 

「お姉ちゃんはお姉ちゃんが思ってる以上に後世で象徴として祭り上げられてるからなあ。21世紀でさえ、空母とかの名前に採用されてるくらいだし。

 というか、帝自身が国民の戦意高揚のためにお姉ちゃんの業績を宣伝したって話もありますけど」

「おお、メートルは詳しいな! 何しろいくつもの国に同盟組んで攻められたからな、国内は団結しなきゃ勝ち目はない。

 というわけで、今回手伝いを提案したのは名前を使わせてもらった礼って意味もあったのさ」

「そ、そうなんですか」

 

 ジャンヌは思うところはあったが、フランスを守るためだったと言われては何も言えない。とりあえず無難な相槌を打つと、ナポレオンは光己の方に顔を向けた。

 

「ところでメートルは聖女のことをお姉ちゃんと呼んでいるが、何か事情でもあるのかい?」

「あー、それはですね。お姉ちゃんとはフランスに発生した特異点で偶然会えて共闘したんですが、それが終わっていったん別れた後また別の特異点で会えて共闘することになったので、これはもう家族みたいなものなんじゃないかとお姉ちゃんに言われまして」

「ほほぅ、そりゃすごいな! 確かにまあ、同じサーヴァントが何度もはぐれとして召喚されること自体珍しいだろうに、それと2度も会えるなんてのは相当な幸運、あるいは縁だろうからな」

「というかそろそろ洗脳から抜け出しなさいよ……」

 

 光己の説明にナポレオンが大仰に感心しているのと対照的にジャンヌオルタはいたって憮然としていたが、彼がそれを聞き入れる気配はなかった。ファミパン恐るべし!

 

「そうだ、せっかくだからここ……じゃ風情ないから、街か城についたら帝とお姉ちゃんが握手してる所の写真も欲しいですね」

 

 ローマではブーディカとラクシュミーの握手写真を撮らせてもらったが、今回は同じ国の英雄である。縁はあるし経歴も似た所があるし、フランス人が見たら卒倒モノの1枚になるだろう。我ながらよく思いついた!と光己は自画自賛した。

 

「ハッハー、我らが聖女とツーショットの写真とは男冥利に尽きるな! 座に持って帰れないのが残念なくらいだ」

「マスターのご希望とあればかまいませんけど……」

 

 ノリノリのナポレオンに比べてジャンヌはやはり聖女扱いは好まないようだったが、ツーショット写真を断るほどではないようだ。

 やがて一行は無事城下町に到着したが、そこには人っ子1人いなかった。

 

「……うーむ、あの女何を考えているんだ? それに城も街並みも家屋も我が国のものとはまるで違う。

 エリザベート、この街もやはりおまえの時代のものなのか?」

「ええ、そうよ。まったく、ハロウィンなのに~♪ トリック・オア・トリートもないなんて~♪

 ……ハロウィン舐めてるわね、あのモレーって女」

 

 ゼノビアの問いにそう答えたエリザベートは光己と会った時にハロウィンに言及しただけあって、お祭りがちゃんと開催されていないことにすっかりおかんむりであった。

 一応カボチャの街灯がそこかしこに飾られているのだが、それがかえって不気味に感じる。街の住民はどこかに拉致されたのか、それとも城と街の建物類だけがここに来ていて、住民は初めから来ていないという線か?

 

血まみれ(ミートソース)な~♪ 拷問をかけてあ~げ~る~♪」

「凄い歌だな!」

 

 これにはさすがのナポレオンもちょっと引き気味であった……。

 それはそうと街に手掛かりはなさそうなので、一行は素通りして城門前に到着した。城は魔術か何かでライトアップされていてお祭りムードを出そうとしているようだが、黒幕のアジトだからかおどろおどろしさしか感じない。

 でもせっかくなので、光己は予定通りナポレオンとジャンヌの握手写真を撮らせてもらうと、気持ちを切り替えて真面目に作戦を考えることにした。

 

「まずは敵情の確認からかな。お姉ちゃん、城の中にサーヴァントは何人いる?」

「反応は5つですね。普通に考えるなら、モレー、エリザベートさん、項羽王、カーミラ、武則天でちょうど5人ですが」

「ほむ」

 

 想定通りである。ではこれからどうするか。

 素直に正門から入るか、裏手に回ってみるか、それとも上の階から忍び込むか? あるいはビームや砲弾で門や壁を壊して入るという手もある。

 

「マンガとかだとあの門が開いたりするんだけどな」

 

 光己が何の気なしにそう言うと、なんと本当に木製と思われる門扉がぎぎーっと音を立てて開き始めたではないか。

 

「おお、マジか!?」

 

 これは見え透いた罠か、それともモレーの自信の表れか? 光己たちは思わず門をまじまじと見つめ直してしまうのだった。

 

 

 

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