FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第196話 祈りを捧げ、地に呪いを1

 門扉は開いたが、人が出て来る様子はない。モレーは城門前で戦う、あるいは話をするつもりはないようだ。

 

「もしかして自動ドアなのかな? 強い魔力の持ち主(サーヴァント)が門の前に来たら開閉する、みたいな」

「そうかも知れんが、私たちが来たことはすでに知られていると思った方がいいだろうな」

 

 光己がぼそっと呟くと、ゼノビアが慎重論を唱えた。

 まあ確かに、そう思っていた方が安全だろう。

 

「うーん、それだと尚更どうすべきか悩むな……。

 いやそれも自称ジェーンの作戦なのかな?」

「だとしても~せっかくの~♪ シンデレラ城なのに~ナイトの1人もナシ~♪

 不用心にも~ほどがあるわ~♪」

 

 とはいえエリザベートの意見にも一理はあった。実際城を守る兵士がいないおかげで、光己たちは城のどこから侵入するか自由に選べるのだから。

 

「……守備が薄いのはいいけど、アタシを甘く見てるのは気に入らないわね。

 やっぱり拷問ね~♪」

「はははは! 物騒なのは置いといて、どこから入る? 守備の兵士はいなくても、代わりに罠が張ってある可能性は十分あるからな」

「そうですねえ。わざわざ虎口に入る理由もないですし、上の階から行きましょう。

 建物の中に入ったらまたシバさんに煙出してもらえば、床にある罠は踏まずに済みますし」

 

 さすがのシバもこの人数を空輸するのは大変かも知れないが、疲れたら休憩すれば済むことだ。問題はあるまい。

 

「はいぃ~、頑張りますぅ。ただ11人はさすがに重いので、歩くのと変わらない速さになると思いますが……」

「うーん、まあ仕方ないか。手間かけるけど頼むな」

 

 シバの言い分はもっともなので、光己もそこは妥協することにした。

 ジャンヌの探知によるとモレーたちは3階にいるようだ。一行はサーヴァントの身体能力で3階のベランダに飛び乗ると、アルトリア・キャスターの「独自魔術」で扉のカギを開けて建物の中に入り込んだ。

 

「魔術ってそんなことまでできるんだ。すごいな」

「はいっ、王子様のお役に立てるかと思って勉強したんです!」

「そうなんだ、ありがと」

 

 キャスターの台詞は嘘というより媚びを売っているだけだったが、光己もそこにツッコミを入れるほど朴念仁ではなく素直にお礼を述べていた。

 その後は予定通りシバが出した煙に乗って、モレーたちがいる部屋に向かってのんびりと飛んで行くことになる。

 建物の中は特におかしなところはなく、何の変哲もない近世ヨーロッパの城のように見えた。敵の姿も罠もない。

 

「うーん、考えすぎだったかな?」

「そうね~ここはまだチェイテ城ね~♪ 変な細工されてなくて良かったわ~♪」

 

 その後エリザベートの最期の時の話やゼノビアが虜囚のような姿でいる理由などを話している内に、何事もなく一行はモレーたちがいると思われる部屋の前にたどり着いていた。

 

「ううむ、結局杞憂だったか。シバさん、余計な手間かけて悪かった」

「いえいえ、結果論ですから~。マスターの判断自体は正しかったと思いますよぉ」

「うん、ありがと」

 

 扉はかなり大きなもので、おそらく謁見の間とか大広間とか、そういう部屋に続いているのだろう。

 そして妖精騎士3人とエリザベートとゼノビアが煙から降り、バーゲストが扉を慎重に開ける。

 

「……いたか」

 

 扉の向こうの部屋は実際広くて、しかも3階分くらい吹き抜けになっていた。奥には玉座があり、天蓋付きのベッドのように上から青いレースのカーテンがかけられている。

 部屋の真ん中あたりに、モレーと項羽、カーミラ、武則天が待ち受けていた。光己たちが部屋に入るのを邪魔することもなく、全員入っていったん足を止めたところで話しかけてくる。

 

「……ほーう、来たねぇー?」

 

 自分たちの倍以上の人数の敵に本拠地に乗り込まれたのに、モレーは余裕綽々といった様子だった。罠を仕掛けていなかったくらいだから、本当に勝てる自信があるのだろう。

 

「森の8騎を揃えて来るかと思ったけれど、追加戦力は結局3騎だけ、か。

 エリザベート・バートリー、女王ゼノビア、女王シバ、カルデアのマスターとそのサーヴァント3騎。

 加えて……皇帝ナポレオン、あとよく知らないけど妖精3人」

 

 モレーはそこで一息つくと、また話を続けた。

 

「悪くはないラインナップだけど、でも。残りの5騎を置いてきちゃうとか、もしかして舐めてるー? あたし、舐められてるー?」

「……」

 

 確かに藤太たちはみな強力なサーヴァントだから、彼らを連れて来なかったのはモレーたちを侮っていると思われても仕方ないかも知れない。

 もっともモレーもカルデア側の実情を見抜けているとは思えず侮っているようだが、光己は今はあえて沈黙を保ち「慢心してる鼻っ柱をへし折って泣き顔見る方が面白いだろ?」を実行に移す最善の機会を待っていた。

 

「ああ、そーゆー意味じゃなくてさ? もーっと悪い意味でね。こっちの企みが、ほんの何手か先に進んでるってだけだから。

 絶対に逃せないチャンス、大切な現界の機会だもの、自分にやれることを最大限やるんだ。

 舐めてかかってくれてもいいよ。その隙を見逃さないからさ! そーゆーこと」

 

 モレーが自信たっぷりなのは、やはり何らかの仕込みがあるからのようだ。

 それをこれから明かしてくれるのだろうか?

 

「……何ですって?

 お城を乗っ取ったあげく、その物言い! どこまでもバカにしてくれるわね。

 許さないっていうか、元々許すつもりなんかこれっぽちもないけど、大拷問! 大決定!」

 

 光己は沈黙していたが、エリザベートはモレーの長広舌に我慢ならなくなったようで一歩前に出るとまずは言葉でケンカを売り、いや買い始めた。

 ただあまりモレーを挑発すると人質になっているもう1人のエリザベートの身に危険が及ぶ可能性があるのだが、それをこちらから口に出すと逆にモレーにそれを有効なカードであると再認識される恐れがあるので、光己はあえて指摘は控えた。

 ちなみにそのもう1人のエリザベートは玉座でぐっすり眠っている。暢気なものというべきか、それとも魔術か薬物で眠らされているのだろうか。

 

「……メリュジーヌ。この女ずいぶん長話をしているが、我らを前にして余裕がありすぎる。何か隠し玉があるのは間違いないが、推測できるか?」

「あるだろうね。仮に僕たちの力を分かっていないにしても、単純な人数でも倍以上の差があるというのに。聖杯で何か仕掛けを作ってあるのかも知れない」

 

 一方口論に参加していない妖精騎士たちは別のことを小声で話していた。ただその仕掛けが何なのかは、3人にも想像がつかない。もちろん警戒はするけれど……。

 

(……しかし、あれがジャック・ド・モレーか。

 テンプル騎士団最後の総長。団の本拠地、パリのタンプル塔は血に濡れすぎた。なんでまあオレがブッ壊した訳だが。そのへん謝る筋合いは―――まあ、ないな!)

 

 ナポレオンはモレーと多少かかわりがあったようだが、わりとあっさり割り切っていた。

 まあ生前の彼女に直接何かしたわけでなし、引け目を感じる必要はないといえばないのだが。

 

「まー何ていうか。小悪魔系とか別に自称しないけど~♪ 他の誰かがやろうとしてるの~見てると~♪

 イラッとするわ~♪ イラッとするの~♪

 ってことで自称ジェーン、本名ジャック・ド・モレー! ついに追い詰めたわよ!」

 

 そしてエリザベートがずびしと指を突きつけて正体を暴いてやると、モレーはさすがに驚いた顔をした。

 

「ええっ!? あたしの本名、バレてたの!?」

「まあねー。このミュージカルなエリザにかかれば、黒幕の正体を見抜くくらいお茶の子さいさいってやつよ。今すぐ降伏して、舐めた口利く代わりにアタシの靴を舐めたら特別に許してあげないでもないわ」

 

 この台詞の前半はもちろん嘘なのだが、ここに清姫はいないので特に問題にはならない。

 

「言うまでもないけど~♪ もう1人のアタシも返してもらうわよ~♪

 いやだと言うなら~♪ アタシのナイトたちが~黙っておかないの~♪」

「はっはっは。ナイトとは嬉しいことを言ってくれる。淑女の期待には無論応えよう!

 ―――オーララ!」

 

 ナポレオンが調子よくそう言って気炎を上げると、モレーはにやりと不敵に笑った。

 エリザベートの降伏勧告に応じるつもりはナッシングのようだ。

 

「ウーララ! 威勢がおよろしいことで、皇帝陛下!」

「面識はないがこちらこそだ総長殿! 同じフランスの英霊同士、語ることがないでもないが―――今は敵味方! ここは突破させてもらう!

 いくぞ!!」

 

 ナポレオンが戦闘開始を告げて大砲を構えると、ゼノビアも同じようにバリスタを出現させた。

 

「我が国の平穏のため! 手加減はしない!」

「ふっふふふ、母と仔と堕落の御名(みな)において! いざ、お相手つかまつる!」

 

 モレーも何やら悪魔崇拝者めいた単語を口にしつつ戦闘態勢に入る。

 項羽と武則天とカーミラも同様に身構え、さらに部屋の奥の扉からカボチャ兵たちがわらわらと大勢入り込んできた。どうやら戦力をここに集結させていたようだ。

 そして光己も、時は今と見さだめてモレーを泣き顔にする秘策を実行に移した。

 翼と角と尻尾を出す「熾天使形態(ゼーラフフォルム)」である。同時に天使の翼から白い光を部屋全体に放射した。

 さらに小道具として、「蔵」から立派な剣を一振り取り出す。これは「隕鉄の(ふいご)」や「フスベルタ」といった「火を噴く剣」の原典で、光己が念と魔力をこめると刀身から松明のような火が噴き上がった。

 それを見たモレーとカーミラが光己の目論見通り思い切り狼狽して驚きの声を上げる。

 

「アイエエエ!? 天使!? 天使ナンデ!?」

 

 まさか天使、それも最上位の熾天使が実在して、しかも自分の敵として現れるとは!

 キリスト教圏に生まれ育った2人にとっては信じられない、いや信じたくない光景だった。だって自分たちが天使に助けてもらえるような、そんな高潔な人間だなんてまったく思っていないので。

 

「あれは、ウリエル……!?」

 

 モレーは騎士修道会の総長だっただけに天使にも詳しく、彼の正体を何とか推測できていた。

 3対の翼を持っている時点で熾天使と分かるが、その中でも有名な「四大天使」の中でウリエルだけはローマ教会会議により堕天使扱いされていた時期があるのだ。彼が黒い蝙蝠の翼を持つ上に強い魔性を感じられるのはそのせいだろう。

 ウリエルとは「神の光」「神の炎」という意味だが、彼が今放射している光からはまさに「神の光」と呼ぶに相応しい神々しさを感じるし、手に持っている炎の剣もウリエルの象徴的アイテムである。これはヤバいのが来てしまった!

 

「ちょ、ウリエルっていったら私でも知ってる有名所じゃないの!」

 

 それを聞いたカーミラがますます慌て出した。

 何しろウリエルは地獄(タルタロス)の管理者でもあり、罪人の魂を炎で焼く仕事も持っているのだ。悪魔崇拝者と大量殺人犯を引っ捕らえに来たとしか思えない。

 現に今彼の白い光を浴びているだけでも、何かこう針串刺しの刑でも喰らってるかのような、痛みに近いレベルの不快感を覚えるし。

 

「こんな所にいられるもんですか! 私は部屋に帰るわ!」

「ひ、1人だけ逃げようったってそうはいかないよ。令呪を以て命じる、カーミラ、最後まであたしと運命を共にせよ!」

「ちょ!?」

 

「ククク、効いてるようだな。計画通り!」

「やるわね子イヌ!」

 

 モレーとカーミラのぐだぐだぶりに光己とエリザベートは思い切り溜飲を下げたが、モレーは黒幕だけあってさすがにしたたかだった。すぐに恐慌から立ち直って、カーミラをなだめ始める。

 

「まあまあ落ち着いて。本物がそのまま降臨したんだったら確かに勝ち目/Zeroだけど、彼は前の特異点ではへっぽこ魔術師だったんでしょう? なら疑似サーヴァントだろうから、それなら何とかなるんじゃないかな」

「なるほど、確かにそうかも知れないわね」

 

 フランスの特異点でカルデアのマスターが一般人同然だったのは事実だから、その後天使が憑依して疑似サーヴァントになって、それでもマスター適性が残っていたと考えれば現在の状況にも筋が通る。高位の神霊はサーヴァント化するとパワーがだいぶ落ちるというから、それなら勝てる可能性はある。

 ――――――モレーとカーミラの考察は大間違いではあったが、2人が持っている情報からの推理としては致し方ないといえるだろう。とにかく戦意を回復して、待機していたカボチャ兵たちに攻撃を命令した。

 

「というわけで戦闘開始! もちろんカーミラも武則天も項羽もね」

「やれやれ、ようやくか」

 

 武則天はウリエルというのが何者なのかは分からなかったが、さほど気にしなかった。確かに雰囲気は変わったし妙な圧迫感はあるが、実害といえるほどのものではないので。

 そしてまず、先ほどと同じく酷吏を召喚して攻撃を命じた。

 

「ゆっけーい!」

 

 酷吏とカボチャ兵は合わせて50人くらいである。カボチャ兵はまだあと70人ほど残っているが、部屋にあまり大勢入るとすし詰めになって動きが取れなくなるので外に控えているのだ。

 項羽もポーズとして剣を抜き、先ほど対戦したので八百長がやりやすいバーゲストの方に向かう。

 

「おおぅ、ついに決戦だな……ここはモレーに1発牽制かましとくか」

 

 いろんな魔術を使えるラスボスを自由にしておくのはよろしくない。そう判断した光己は、本格的に戦闘が始まる前にもう少しデモンストレーションしておきたいという意図もあって一撃入れることにした。

 

「人間よ、罪を(あがな)うがいい!」

 

 まずは地獄の管理者っぽいことを高らかに宣告してから、剣を真上にかざす。ついで魔力をこめると、赤く燃え立つ炎の鳥が出現した。

 オケアノスで1度マシュに披露した、威力より見栄え重視の芸当である。天使の翼の光を出しながらなのでパワーはさらに落ちるのだが、今回はあくまで演出重点なのだ。

 

「ちょ、何あれ!? あれが罪人を焼く神の炎ってわけ!? (ついば)まれながら焼かれるって、プロメテウスより悲惨じゃない!?」

「さすが王子様、カッコいいです!」

「テュケイダイト以外の武器はあんまり使ってほしくないんだけど、今回は確かにカッコいいからまあ良しかな!」

「あんなもの作れるお宝持ってるなんて、リッチなドラゴンってすげぇな……」

「うむ、魔力が強いだけでなく実技もできるようだな……」

 

 それでもカーミラを震え上がらせることはできたし、妖精國組には受けが良かったのだから意義はあったといえるだろう……。

 そして光己が剣を振り下ろすと、炎の鳥はモレーめがけて飛んで行った。

 

「ちょ!? ……っ、ぴぎゃーーーっ!!」

 

 見栄え重視といっても、術者の魔力はオケアノスの頃とは段違いである。モレーは周りにカボチャ兵がいたため逃げることもできず、灼熱の炎鳥の体当たりをまともに喰らって悲鳴を上げ……たように見えたのだった。

 

 

 




 熾天使ネタとギルから巻き上げた武器をやっと使えました。
 モレーとカーミラは犠牲になったのだ(ry


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