FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第197話 祈りを捧げ、地に呪いを2

 モレーは光己が飛ばした炎の鳥の体当たりをまともに喰らったように見えたが、その直前に使い魔の大きな黒いナマコのような魔物を盾にして間一髪で回避していた。

 

「びっくりしたあ……()()()()()()この火力だなんて、もしかして本当にウリエルの疑似サーヴァントかも知れないねえ」

 

 まあ彼が本物のウリエルそのままだったら今頃こちらは全員蒸発して地獄(タルタロス)にご招待されてただろうから、それに比べればずっとマシなのだけれど。

 

「なのだけれど……これ相当マズくない?」

 

 モレーの当初からの目的は、崇拝している「森の黒山羊」を顕現させることだった。聖杯を体内に宿した者に仮面をかぶせて生贄にすればそれが叶うのだが、探していた聖杯はいつの間にかカルデアのマスターの体の中に転移していたことが判明したのだ。つまり目的を達成するには、カルデアのマスターをここにおびき寄せなければならない。

 そこでいろいろ手管を弄して、まずはこの特異点を「マスターは侵入できるがサーヴァントは侵入できない」ようにした。カルデアのマスターは一般人に毛の生えたようなものだというから、サーヴァントがいなければカボチャ兵士でも捕まえられるだろう―――と思っていたが、なぜか3騎も連れてきていたので失敗してしまった。熾天使パワーというやつか?

 しかし策はこれだけではない。エリザベートを分裂させてその片方を人質にすることで、彼をここに来させる計画も立ててあって、それはうまくいったのだが……。

 この後は、彼に味方するサーヴァントたちを倒して正面から仮面をかぶせるか、武運つたなくこちらが敗れてしまった場合でも、彼らが勝ったと思った隙を突いて、自分を分裂させてその片方で彼の背後を取るなりして人質にすればどうにでもなる。そういう隙を生じぬ二段構えの作戦だったのだけれど。

 

(あの翼が邪魔で背後は取りにくいし、取れても人質になんかできないよねえ。強いし剣持ってるし)

 

 そうなると彼を動けなくなるくらい痛めつける、つまり勝つしかないわけだが勝てるだろうか。それとも玉座で寝ているエリザベートを人質にして、自分の手で仮面をかぶらせるというのはどうだろう。

 

(……いや、どう考えても無駄だね)

 

 人類にとって「最後のマスター」と野良サーヴァント1人とどちらが大事かなんて分かり切っている。いかにカルデアのマスターがパンピーの甘ちゃんでも、そこは間違えないだろう。「助けに来る」のと「その人のために自分の身を犠牲にする」のはまるで違うのだ。

 というかウリエルの意識が前に出ていたら即決でエリザベートごと燃やされかねない。彼女は「狂う前」の特に邪悪ではない存在だが、「血の伯爵夫人」のそういう側面を抽出しているというだけで生前は大量殺人犯だったのだから。

 しかしウリエルが前に出ているなら、それはそれで打つ手はある。負けそうになったら哀れっぽくドゲザとかして謝罪しつつ、同じ「無辜の怪物」で貶められた者同士という点を強調すれば、いくら厳格といわれる彼でもちょっとは同情してくれるだろう。その隙を突いて仮面をかぶせるという策だ。

 生前も1度はあの2人に従うフリをしたことがあるのだし、ここは大願を果たすのが優先である。

 熾天使の疑似サーヴァントで聖杯を持っているマスターとなれば、生贄として極上だろう。禍を転じて福となすとはこういうことか。

 

(……いや、逆に顕現を阻害しちゃう可能性の方が高いかな。

 それより聖杯を奪う方が確実かも)

 

 カルデアのマスターの言動を見るに、体内に聖杯があることに気づいていない模様である。それなら仮面をかぶせるより、聖杯をかすめ取る方が手間は少ないし安全だ。あとは別の生贄を見繕って予定通り儀式をすればいい。

 

「よし、それでいこう。それで戦況はどうなってるかな?」

 

 改めてざっと左右を見渡してみると、まず項羽と彼に付けたカボチャ兵は妖精の剣士とカルデアの蒼い少女に抑え込まれていた。項羽は前衛としてはこちら側で最強なのだからもうちょっと頑張ってほしいものだが、相手の2人も強いからむしろよくやってくれているというべきか。

 武則天と彼女の酷吏、カーミラと彼女に付けたカボチャ兵ははっきり言って劣勢である。カルデア側が飛ばしてくる弾幕の前に酷吏とカボチャ兵は近づくこともできず次々と斃れていき、武則天とカーミラも攻撃している時間より逃げまどっている時間の方が長い。

 

「おーのーれー、聖神皇帝たる妾に対してよくもここまで遠慮のない攻撃を……この無礼も、っ、あいたぁ!?」

「あわわわわ、何かさっきより露骨に不利じゃない!?」

 

 カーミラは針串刺しの刑めいた不快感に耐えつつも一応戦況分析していたが、何かこう勝てる筋がまるで見えなかった。

 何しろ小人たちの家での戦闘と比べるとモレー側は兵士の人数が少ないのにカルデア側はアルトリア・キャスターとナポレオンが参戦しており、しかもこの部屋は遮蔽物がないので射手たちにとって有利な戦場なのである。劣勢なのは当然だった。

 特に娘役2人からの攻撃が激しい。ふと大きな黒い矢が頬をかすめて飛んで行って、カーミラはたらーりと血と冷や汗を流した。

 

「っきゃぁ!? 危な、ほんとに死ぬとこだった!?

 アナタたち、仮にも母親役相手に殺意高すぎじゃないかしら!?」

「おまえ視点だと確かにそうだけど、私としてはお母様以外のお母様にちょっとでも心を許したと思われたくないんだよな。

 それにはほら、私自身の手で始末するのが1番だろ?」

「母と娘が殺し合うなんて~♪ まさに悲劇ね~♪ ららら~♪」

「人のこと言えた立場じゃないけど、貴女たちたいがい性格悪いわね!?」

 

 そこで苦情を述べてみたが、娘と義娘は血も涙もない冷酷女どもだった。親の顔が見てみたい……って、自分だった! 産んだ覚えも育てた覚えもないけれど。

 

「マ、マスター! 何とかなるっていうのなら早めにそうして下さらないこと!?」

 

 なので今度はボスにヘルプを求めると、モレーも危機感を抱いてすぐ参戦を決意した。

 カルデアのマスターがまた何かしてくるかも知れないが、そんなこと言ってられる情勢ではないのだ。

 

「そうだねえ。それじゃ一発、パリの中心で呪いを叫んじゃったりしますか!

 いあ、いあ。森の王、豊穣の担い手よ。夜の虚ろに現れ、星海の淵ぞ至りて讃えん。いあ、千の子を孕みし森の黒山羊よ。我が生贄を受け取り給え!」

「ん、何か大技使う気だな!」

 

 モレーが何やら禍々しい呪文を唱え始めたのを聞いて、光己が妨害しようとまた剣をかざす。しかしそれを予測していたモレーが素早く玉座の前、つまり人質のそばに移動したので中止せざるを得なかった。

 

「むむ、やっぱり分かってたか!」

「ふっふふ、こういう時のための人質というものさ!

 では先ほどのお返しを。『13日の金曜日(ヴァンドルディ・トレイズ)』!!」

 

 モレーの体から薔薇色の炎が噴き上がり、その背後に黒い大きなぬいぐるみのような謎生物が現れる。彼女の台詞によれば「千の子を孕みし森の黒山羊(シュブ=ニグラス)」なる豊穣の女神だと思われるが……?

 その謎生物が水風船のように弾け、黒い濁流となってカルデア後衛組に襲いかかる!

 

「なんとぉ!?」

 

 あまりに予想外な攻撃方法に光己やエリザベートは一瞬固まってしまったが、モレーが呪文を唱え始めた時点で準備していたジャンヌは対処が間に合った。

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!!」

 

 ジャンヌが掲げた旗から白い光が広がり、それが光己たちを包んだ直後に濁流がその光のドームを呑み込む。

 それは悪魔崇拝者の呪いと聖女の祈りが(しのぎ)を削る、まさに叙事詩的な激突だった。両者の宝具は生前から使えたものではなくサーヴァントになってから得たものという点も共通している。

 ただジャンヌはスペックが1.6倍になっているし知名度補正も上だから、モレーの宝具を防ぐことはできるはずだ。光己はそのように計算したが、どうもそれは外れのようだった。

 

「マスター、押されています。このままでは……!」

「デジマ!?」

 

 言われてみれば結界は少しずつ軋み始めているし、何となく嫌な感じがするのは呪いが浸透してきているからであろう。モレーが予想以上に強いのか、森の黒山羊が強いのか、それとも聖杯ブーストによるものか?

 

「王子様、私も宝具使いましょうか?」

「いや、聖杯ブーストなら宝具連打もありえるからそれは待って」

 

 同じ理由で最後の令呪を使うのも避けたい。光己がそう言ってアルトリア・キャスターの申し出をいったん断ると、少女は次の案を出してきた。

 

「なら普通の魔術で支援するというのは?」

「そうだな、俺もやるよ」

 

 ジャンヌの宝具は結界の中から外に干渉できる便利仕様なので、光己の炎やキャスターの魔術で外の濁流を攻撃することができる。魔力EXとAなだけあって、それなりに濁流を打ち払えているようだ。

 なおジャンヌオルタやエリザベートやバーヴァン・シーの攻撃方法はあんまり効果なさそうなので、今は控えて魔力温存してもらっている。

 一方メリュジーヌとバーゲストと項羽の前衛組は濁流が届かない所にいたが、当然モレーが宝具を使ったことには気づいていた。その見るからに毒々しい光景にメリュジーヌが柳眉を跳ね上げる。

 

「お兄ちゃんに何てことするかな。もう怒ったよ」

 

 言うなり手近なカボチャ兵から剣を奪うと、ノータイムでモレーの首を狙って投げつけた。もちろんお互いの位置はちゃんと見ていて、もし避けられてもエリザベートには当たらないのは確認している。

 

「!!」

 

 モレーは生前は騎士団のトップを務めていただけあってその狙撃には気づいたが、宝具を開帳している最中なので反応はわずかに遅れた。首筋をざっくりと、致命傷まであと数ミリという深さで斬られて血が噴き出す。

 

「痛ったぁぁ!?」

 

 モレーが反射的に剣が来た方に目をやると、投げたのはカルデアの蒼い少女のようだった。ただでさえ高速で変態駆動するヤバい娘なのに、殺意もヤバいだなんてマジヤバい。

 

「ム、ムッシュ項羽ぅぅ! と、とりあえずその蒼い子最優先で抑えてぇ!」

 

 痛みと恐怖で目をぐるぐる回しながらそんな悲鳴を上げたのも、まあ致し方ないことだろう……。

 項羽の方は名指しで命令されては仕方ないので、あんまり気は進まないながらもメリュジーヌの前に立ちはだかる。

 

「むう、()り損ねたか……しかし人質がいるとほんと面倒だね」

 

 項羽に前に立たれては、さすがのメリュジーヌも追撃は難しい。つまらなさそうに舌打ちすると、バーゲストも考え込むような顔をした。

 

「そうだな。しかも後ろで寝かせているだけで、後ろから抱きかかえて喉元に刃物を突きつけるようなマネはしてないのが逆に厄介だ」

 

 モレーがそこまでやったら、光己も人質救出はリスクが高すぎると見て「はぐれサーヴァントなんて黒幕を倒して聖杯を奪ったらどのみち退去になる身だから、もうモレーごとやっちゃうか」と開き直る可能性だって無くはない。しかし後ろに寝かせて攻撃しづらくするだけであれば、彼の性格ならそこまで思い切ったことはできないだろう。よくよく人質の使い方を心得ているようだ。

 いや光己が熾天使ムーブをしているのはそれをさせないためでもあるのだが、妖精國出身の2人にはその辺の細かい機微までは分からないのだった。

 

「それをやられたらバーヴァン・シーがブチ切れそうだから、お互いのためにラッキーな展開なんだけどね……」

 

 まあそれはそれとして、今のメリュジーヌの攻撃でモレーは精神集中が乱れて宝具の開帳が中断され濁流がいったん消えた。この隙に後衛側で何とかして欲しいものだが。

 ―――そして1番早く反応したのは知恵者の女王だった。モレーの宝具で彼女とカルデア後衛の間にカボチャ兵がいなくなり、射線が通ったのに気づいたのである。

 もちろんすぐ扉の向こうから援軍が来るだろうが、それまでの何秒かがあれば十分だ。シバは金のランプから全速で煙を出すと、大きな手の形にしてモレーめがけて伸ばした。

 

「んひゃあっ!?」

 

 モレーはとっさに横に身を投げ、床を転がって手が鷲掴みにしてくるのを回避した。首に深手を負ったので激しい運動は避けたいのだが、あれに掴まれてカルデア本陣に拉致られてはおしまいなので。

 すると手はそのまま伸びていって、眠ったままのエリザベートを掴んだ。こちらも隙を生じぬ二段構えで、煙でつくった手なら罠が仕掛けてあっても平気という計算もあった。幸い罠はなかったけれど。

 

「ああっ!?」

 

 モレーは後悔の悲鳴を上げたが、もはや後の祭りである。手がエリザベートを掴んだまま引っ込んでいき、人質は奪還されてしまった。

 

「おお、さすが3つの問いの女王様だ。うまい!」

「お褒めに預かり光栄ですぅ~♪」

 

 一方カルデア陣営ではシバの見事な手際を光己が大仰に褒め称え、シバも満更ではないらしく相好を崩していた。その分モレー陣営は反対にお通夜ムードで、武則天とカーミラの後ろに逃げて来たモレーに武則天が訊ねる。

 

「こうなってはもはや勝ち目はなさそうじゃが、どうするのじゃ?」

 

 ただでさえ押され気味だったのに、大将が重傷を負った上に人質を奪われたのでは敗北は必至である。他に切り札があるなら早く使うべきだし、ないならカボチャ兵が残っている内に退却すべきだろう。

 モレーもそのくらいのことは分かっている。「二段目」を実行する時が来たと覚悟を決めた。

 

「大丈夫、2人とも安心して。あたしにはまだとっておきの策があるから」

「とっておきの策じゃと!? それはいったい」

「謝るんですぅ~~~!!」

「は!?」

 

 そしてモレーがためらいもなく流麗な土下座を敢行したので、武則天とカーミラは思わずずっこけそうになってしまった。

 いやまあ、ある意味間違ってはいないけれど……。

 

「ほら、貴女がたも! 土下座が嫌なら手を上げるくらいは」

「ま、まあこうなったら仕方ないわね」

「むう!? 女帝たる者がすることではないが、妾1人だけ意地を張るわけにはいかんか……」

 

 武則天よりはプライドが高くないカーミラが先におずおずと両手を上げると、武則天も仕方なくそれに倣った。

 項羽も1歩下がって、剣を鞘に納めると同じように手を上げる。

 

「ええー……!?」

 

 モレーのまったく予想外の行動に、光己もエリザベートたちもいささか当惑して間の抜けた声を上げてしまうのだった。

 

 

 

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