事ここに至って、ロマニはついに黙秘も詭弁もあきらめて真実を語ることにした。
「むう、こうなったら仕方がない。すべてを白状しよう……。
―――そう、ボクこそがかの伝説の王! 魔術王ソロモンだったんだよ!」
「な、何ですってーーー!?」
ただどんな意図からか大仰に芝居がかった言い方をしたので、オルガマリーも乗せられたのかものすごく驚いてかん高い声を上げる。
「……って、こっちは真剣なんだからふざけないで。ねえ清姫?」
しかしやはり信じられなかったのか清姫に水を向けると、嘘鑑定家は蒼白な顔で小さく震えていた。
「いえ……この方おちゃらけた言い方はしましたが、嘘ではないようです」
「……へ? するとマジ? マジでロマニが魔術王なわけ?」
「はい、少なくとも本人はそう思っています……」
「何てこと……」
つまりロマニが誇大妄想狂ででたらめを信じ込んでいるとかでない限り、彼は本当にソロモンなのだ。オルガマリーは驚愕のあまり、10秒あまりも息が止まったほどだった。
しかし酸欠になりかけた頭を再起動させて考えてみるに、ロマニはサーヴァントでも魔術師でもない一般人のはずである。今こうして間近で観察してみても、魔術の祖とまでいわれる大魔術師の要素はまるで見て取れない。
とはいえシバの女王の顔を見ただけで素性を言い当てたのだから、生前の彼女を見たことがあるのは確かだ。もしかしてソロモンの生まれ変わりで前世の記憶を持ってるとかそういうのなのだろうか? いや光己が安珍の生まれ変わりなのかどうかは知らないが。
「ええっと、シバ女王……?」
そこで今度はシバに発言を求めてみると、女王も困った様子ながらロマニと清姫の言葉を肯定した。
「はいぃ~。この方こそ生前の私の夫、ソロモン王様ですぅ~。
ただ生前とは外見も雰囲気も物腰もまるで違いますが、おそらくは今の状態が本来の王なのだと思いますぅ」
「……!?」
他ならぬシバの女王がこう言う以上、やはりロマニは生まれ変わりとかではなく本物のソロモンのようだ。
ならば生前とはまるで違うとはいったい!?
「ええい、じらしてないでキリキリ話しなさい! こっちはやることいっぱいあって忙しいんだから」
「いや、所長たちがボクの話に割り込ん……待って待って、落ち着いて!」
オルガマリーは堪忍袋が温まってきたのか声が荒くなってきたので、ロマニは慌てて顔の前で両手を振って自制を求めた。
これは彼女の言う通り急ぎで話さないと比喩じゃない本物の雷が降ってきそうだ。
「ええとですね。ボクはもともとマリスビリー前所長……つまり所長の父君が聖杯戦争に参加した時に召喚されたサーヴァントだったんですが、勝利して入手した聖杯に『人間になりたい』と願ったんですよ」
「受肉したい、じゃなくて?」
オルガマリーとしては父が聖杯戦争に参加していたとかそれに勝利していたとかいう話も重大だが、今はそれよりロマニが口にしたその微妙な言葉の方がもっと肝心である。すぐさま確認すると、ロマニもここは重要な所なのか表情と声色を改めた。
「はい、『人間になる』です。
いえ生前も生物学的には混じりけなしの人間でしたが、英霊としての力をすべて放棄したんですよ。だからサーヴァントでも魔術師でもないわけです」
ロマニは放棄した理由までは語らなかったが、オルガマリーとしてはそこはある程度推測できるし、さすがに偉大な魔術師の内面の問題を必要以上にほじくり返す気はない。なのでそこには触れず、彼がソロモンであり、かつ(人間になることを望んだくらいだから)人類の敵ではないことはもう既定のこととして―――ただし英霊であることを放棄したと言ったのだから、ソロモン王に対する態度ではなくロマニ・アーキマンへの態度で話を続けた。
「なるほどね……。
それで、私たちの敵の方の『魔術王』についてはどう思う?」
ロマニとしてもオルガマリーのそのスタンスは望ましいもので、こちらも今まで通りのスタンスで答えることにした。
「生前のボク、あるいはサーヴァントだった頃のボクであれば、人理焼却なんて考えもしないと思います。
ただアーサー王にもオルタがいたり、ジル・ド・レェがジャンヌオルタを創った例もあります。あるいは無関係の誰かがソロモンを騙っているという可能性もありますので、そちらの『魔術王』の正体や動機については何とも」
「うーん、確かに本人はまだ出てきてないものねえ」
どうやら敵の正体を特定することはまだできないようだ。しかしそれでも、聞いておきたいことはある。
「じゃあ仮に魔術王がソロモンオルタだったとしたら、今までに見せたもの以外にどんな能力があるのかしら?」
「うーん。実はボク生前に奇跡を成したのは1度きりですし、英霊であることを放棄した時点で『ソロモンの魔術』については
ただ彼の権能的なものだけなら推測できます」
「え、ホントに!?」
それだけでも十分有用な情報だ。よくも今まで黙ってたなこの優男!なんてことを思いつつも、オルガマリーは顔には出さずに普通に訊ねた。
「はい。まず召喚術の元祖的存在として―――『召喚された者』からの攻撃を否定・破却できると思います。ネガ・サモンとでもつけましょうか。
あとは『ソロモンの指輪』ですね。もし10個すべて揃っていたなら、人間が行う魔術はすべて無効化、あるいは配下にしてしまえるでしょう」
「ふえ!?」
久しぶりに半泣き顔を披露しつつ、ヘタレっぽい悲鳴を上げるオルガマリー。だって今の話が本当なら、ソロモンオルタにはサーヴァントや魔術師からの攻撃は効かないということになるのだから。
「そ、そんな奴どうやって倒せばいいの!?」
「落ち着いて下さい。決して無敵ってわけじゃないんですから。
早い話が、召喚された者でも人間でもない者……つまりミズ芥や藤宮君の攻撃なら通るんです。
ただサーヴァントの持ち物を使うのはNGかも知れません。マシュの盾とか、藤宮君がギルガメッシュから巻き上げた武器とか」
「そ、そう。よかった、抜け道はあるのね」
確かにガイアの精霊やアルビオンであれば、権能面でも力量面でもネガ・サモンを突破できる。2人とも人理を修復せねばならぬ理由があるから、やってくれないということはないだろう。
「でも誰が頼むわけ? サーヴァント抜きでたった2人で魔術王と殴り合えだなんて」
「それはまあ……トップである所長ご自身しかいないかと」
「何言ってるのよ。貴方のオルタがやらかしたことなんだから、少しは泥をかぶるべきじゃないかしら?」
「いやいや、ボクごときただの医療スタッフが、偉大なる精霊様や竜種の冠位様にそのような無理難題を頼めるわけが。
それにほら、まだ魔術王がボクオルタと決まったわけじゃありませんし」
とはいえやってくれるだろうということと、それを実際に頼むということは別である。オルガマリーとロマニは互いにその嫌な役を相手に押しつけようと舌戦を繰り広げた。
さすがに見かねたエルメロイⅡ世が、いかにも仕方なさそうな顔で仲裁に入る。
「2人とも落ち着け……。
確かに人理修復を頼んだ時よりさらに言いづらいことだろうが、実際にやる方よりはずっとマシだろう。2人で一緒に、せーので言えばいいのではないか?
いやまあ、マスターはともかくレディ芥に今日言うのはよろしくないと思うが」
「……そ、そうね。久しぶりに動転しちゃったけど、反省するわ」
「うん、確かに副所長の言う通りだ。そうしましょう」
すると2人ともⅡ世が危惧したよりは物分かりが良かったので、やれやれと肩の力を少しだけ抜きつつちょっと気になったことを訊ねた。
「ところでドクター。サーヴァントの持ち物を使うのはNGかも知れないという話だが、サーヴァントがカルデアの資材でつくった武器ならどうだ?」
「ああ、それなら大丈夫だと思いますよ。サーヴァントが使ったら効かないと思いますが」
「ふむ、やはり普通の魔術障壁ではなく概念的な防御というわけか……」
さすがは魔術の祖というところだが、カルデアの技術力とモルガンの魔術とワルキューレのルーンが合わされば対抗できなくはないだろう。少なくとも素手で戦わせるよりはずっといいはずである。
「個人的にはこれを機にレディ・モルガンに魔術を教わりたいところなのだが、そんな暇はなさそうなのが残念だな」
「そうね。私もそれ考えたことあるけど、仮に教えてくれるとしたら藤宮にだけでしょうね」
魔術は大勢に知れ渡ると効力が減ってしまうので、広めようとする者はあまりいないのだ。秘匿されている理由の1つである。
「それはそうと、普通に戦って倒す以外の方法はないのかしら? 何かこう、弱点を突くとか概念バトルでひっくり返すとかそういうの」
オルガマリーのその問いかけは、本人は意識していないことながらまさにロマニの急所を突くものであった。ロマニは「あるには……あります」と答えはしたものの、さすがに顔色が悪くなり、言い淀んで押し黙る。
「どうしたの? そりゃまあ自分の効果的な倒し方を教えるなんて嫌でしょうけど、別に貴方を倒すわけじゃないんだから、そこまで深刻にならなくていいと思うんだけど」
この発言もまたロマニ視点では無神経なものといえたが、知らないものは仕方なかった。ロマニも不快感は抱かず、改めて秘密を明かす決意をする。
「…………いえ。いってみればボク自身の肉を切らせてボクオルタの骨を……いやそこまではいかないかな。骨を断たせて肉を切るとか、そんな感じですね」
「!? どういうことなの!?」
オルガマリーはちょっとだけ先ほどの発言を後悔しつつ、しかし聞く必要があるのも事実なのであえて続きを促した。するとロマニはまず左手の中指にはめた指輪をかざして見せてから、ゆっくりと語り始める。
「……これはソロモンの10個の指輪の内、ボクに残されたただ1個の指輪です。
これを使うと、ソロモンの宝具『
「……どういう効果なの?」
「これを発動した時にボクは死亡し、生前のボクが成したことの痕跡もすべて消滅します。英霊の座からも。
つまり2度とソロモンは召喚されなくなりますが、今現に存在して指輪を10個とも所持している者にどこまで打撃を与えられるかは、ボク自身にも分かりません」
「!?」
オルガマリーはまた驚愕で息が止まってしまったが、いつまでも
「……なるほど、それで骨を断たせて肉を切るなわけね。
しかも死ぬんじゃなくて消滅って……重いわね」
「ええ……ですがもし、それ以外にボクオルタを倒す方法がないのなら。
ボクは命令される前に、ボク自身の意志でこの宝具を使いたいと思います」
それは「人として」人類が滅ぼされるのを見過ごすことはできないという純粋な気持ちの発露でもあり、光己とヒナコに対する礼儀でもあった。何しろ片や拉致されて来た未成年の一般人にすでに人であることを捨てさせてしまっており、片や初めから人間ではない。そんな2人に「人類のために」魔術王と殴り合ってもらうのだから、いみじくもオルガマリーが言ったように「少しは泥をかぶるべき」だと思ったのだ。
「………………………………」
オルガマリーはさすがにすぐには答えられなかったが、自分の使命の重大さは分かっている。言うべきことは1つしかなかった。
「分かりました。カルデアのトップ、いえ1人の人間として、貴方の献身に感謝します」
それはまだ年若く経験も少ない彼女にとって苦渋の決断ではあったのだが、それを聞くとロマニはなぜか不意に表情を崩していつも通りのゆるふわな顔と雰囲気になった。
「あ、でも所長。これが効くのはさっき話したアーサー王型のボクオルタに対してだけで、ジル型オルタや騙りに対してはまったく無意味ですので、それは覚えておいて下さいね!
ボクも消えたいわけじゃありませんし!」
「……そうね。じゃあヒルド、ちょっとこのおバカを吊るしておいてくれるかしら」
「はーい!」
「え、あ、ちょ!? 事前に注意点を説明しただけなのに何で!?」
「お黙りなさい。あと事情が事情とはいえ、今まで黙ってた罪も軽くはないわ」
「アイエエ……」
ロマニは本当に命大事なだけだったのか、それとも雰囲気を和らげようとあえて軽薄に振る舞ったのかは不明だったが、どうやらハズしてしまったようで蓑虫めいて吊るされるハメになったのだった。
「……えーと。それでロマニ、人理やカルデアに関わる隠し事はもうないわね?」
オルガマリーがあらかじめ予告しておいた通りの質問をすると、ロマニは蓑の中でこくこく頷いた。
念のため清姫に確認を求めると、嘘センサー娘も首を縦に振って問題ない旨を答える。
「はい、これは嘘ではないと思います」
「ありがとう。それじゃとりあえず、今回はこの辺にしておこうかしら。
でもこの件、所員たちにはどう説明すればいいかしら? 頬かむりで済ませるわけにはいかないし」
写真がなかった頃の者の顔を知っていたからには、何か普通でない背景があるのだ。それを皆の前で言ってしまった以上、説明なしでは済まされないだろう。
かといって今聞いた話をそのまま公表したら所員たちが動揺するのは避けられないが、いかがしたものだろうか。オルガマリーがそう言って軍師に意見を求めると、エルメロイⅡ世は胃が痛そうな顔をしながらも彼女の求めに応じて案を出してくれた。
「……そうだな。先のことはともかく、今の段階では『シバの女王の縁者の生まれ変わり』ということでいいのではないか? 具体的にどんな縁があったのかは、デリケートな問題だから今は公表できないということで。
とはいえマスターとレディ芥には近い内に教えるべきだろうな。
……清姫、強弁ではあるが嘘ではないはずだがこんなところでどうだろう」
魔術王がジル型か騙りだった場合はロマニが指輪を使うことにならない、つまり正体を明かす必要がないので、今は隠しておこうという趣旨である。
ただこの席には嘘に厳しい人物がいるので了承を求めたのだが、清姫もこのたびは事態の重大さに鑑みて普段より心が広かった。
「そうですわね。確かに強弁ですが、事実といえないこともありません。
今回はそれで納得いたしましょう」
「ありがとう。所長も皆も、これでいいだろうか?
ただこの場合、ドクターはソロモン王とはいえないわけだから、シバの女王と人前で過度に親しくされては困るが」
「そうね、いいんじゃないかしら」
「そうだね、皆に正体バラすよりはマシか」
「そうですねぇ~、いいのではないでしょうか」
そして他の出席者にも異存はなかったので、とりあえずマスター2人以外にはロマニの正体は隠しておくということになったのだった。
現時点では敵の魔術王がゲーティアだと判明してませんので、こういう展開になったわけです。
しかし原作ではなぜ対ゲーティア特攻武器を作ろうという話が出なかったんでしょうねぇ。2部ではブラックバレルとか作ってるのに。