FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第203話 英霊召喚 6回目

 モルガンとバーヴァン・シーが談話室に向かって歩いていると、オルガマリーたちと項羽&ヒナコ夫妻を見かけた。

 夫妻が見るからに幸せそうなのは当然として、オルガマリーたちが胃が痛そうな顔をしているのはロマニの正体があまり喜ばしいものではなかったからだろう。まあこちらが知る必要のあることなら先方から話してくるはずなので気にしないことにする。

 そして揃って談話室に入ると、なぜか皆ごはんやスイーツを食べていた。酒を飲んでいる者までいる。

 

「え、えっと、何これ?」

 

 オルガマリーがたまたま1番近くにいた玉藻の前に訊ねてみると、狐の美女は今口に入っていたケーキをごっくんと飲み込んでから説明してくれた。

 

「マスターが如意宝珠を出せるようになったんです。それで私たちがただ待ってるのは暇だろうからと言って、こうしてご飯や甘味を出してくれたんですよ」

「如意宝珠……って、閻魔亭で言ってたあの?」

「はい、その如意宝珠です」

「本当に……!?」

 

 事実だとすれば大変なことだ。オルガマリーがさっそく本人のもとに赴いて訊ねてみると、少年はあっさり肯定した。

 

「はい、まだ低ランクのやつですので、食べ物や衣服出すのと、あと病気治すのと濁った水を清めるのだけですけど。

 所長も何か食べます?」

「あ、いえ、今はいいわ……というか分かってるとは思うけど、それ、なるべく人前に出さないようにしなさいね……」

 

 その事態の重大さをまるで理解してなさそうなのほほんぶりに毒気を抜かれたオルガマリーがとりあえずそう答えると、後ろに続いて来たエルメロイⅡ世が話に割り込んできた。

 

「ううむ、相変わらずウチの生徒たちに負けず劣らずの非常識をかましてくれるな……。

 それで、新しく出せるようになったのはそれだけなのか?」

「いえ、竜言語魔術の概要が書かれた本、というか大きな石板と、如意宝珠ほどの効能はないですけど竜の体の一部を使って作られたアイテムがいくつかですね」

「「ぶふぅぅぅっ!!」」

 

 光己の台詞の前半のとんでもなさに、オルガマリーとⅡ世は思い切り噴き出した。見方によっては如意宝珠よりヤバい代物だ。

 

「そ、その本はどういうものなんだ!? 読めるのか!?」

 

 オルガマリーと違って魔術の才能は凡庸なⅡ世ががばっと身を乗り出す。

 何しろ今までまったく知られていなかった魔術系統の存在を知らされたのだ。もしかしたら自分でも気づいていなかった適性があって、根源に近づけるかも知れぬではないか。

 というのも諸葛孔明には臥竜という二つ名があるから、その依代である自分に竜関係の魔術の適性があるというのは決して荒唐無稽な妄想ではないのだ。おまけにマスターが竜種の冠位だから倍プッシュだし。

 光己はⅡ世の血走った目と顔にちょっと引いてしまったが、答えは真面目に返した。

 

「読めますよ。アルビオンになったら何故か分かるようになりましたんで。

 中身は普通に解説書ですね。手で触れたら身につくとかそういう都合のいいのじゃなくて、理論とかやり方を竜の言葉で書いてあるだけです」

「よろしい、ならば翻訳だ。翻訳を!! 一心不乱の大翻訳を!!」

「ちょ、ちょっとⅡ世。藤宮は忙しいんだから、強要するのは良くないわ」

「ん!? んん、確かにそうだな。すまん」

 

 Ⅱ世は竜言語魔術によほど興味が湧いたのか普段の冷静さを那由多のかなたまでブン投げて光己に翻訳をせがんだが、オルガマリーにたしなめられるとさすがにおとなしくなった。

 

「しかしせめて概要くらいは知りたいところだな。前書きだけでも訳してみてくれないか?」

「んー、まあそれくらいなら」

 

 妥協が成立したので、光己はまた波紋を出すと中から大きな石板、いや岩板を取り出した。縦横ともに1メートル、厚さは2センチほどもあり、その片面に人間の感覚ではかなり大きめに見える文字(らしきもの)がびっしり彫られている。

 それを壁に立てかけて黙読し始めると、メリュジーヌがそばに寄ってきた。

 

「魔術の解説を岩板に刻んで残すなんて、汎人類史の竜は面白いことするんだね」

「あ、メリュ。読めるの?」

「それはもちろん。何しろ最強だからね」

「へえー、すごいな」

 

 光己は戦闘力と語学の知識には何の関係もないような気がしたが、ツッコミを入れても仕方ないので素直に褒めてあげた。

 するとメリュジーヌは今の発言を実証しようと思ったのか、読んだ内容を話し始める。

 

「ええと。このページの説明によると、この本で扱ってる竜言語魔術には大別して3つのジャンルがあるみたいだね。

 まずは人間の魔術を竜種向けにコンバートしたもの、妖精や人間といった竜以外の存在が一時的に竜の力を使えるようになるもの、そして竜種の大魔力が前提の大魔術」

「おおー、俺の訳とまったく同じだ」

 

 2人の翻訳が同じであるなら信頼性は高い。Ⅱ世としては1番目と3番目はともかく、2番目にはとても興味が湧いたのでさっそくメリュジーヌに翻訳を依頼することにした。

 

「そうか、ならば時間がある時でいいから翻訳を頼めないだろうか。むろんできる限りの対価は払おう」

「うーん、僕が欲しくて君からもらえそうな対価なんて……いや、そういえば君は汎人類史におけるブリテンの神秘に詳しくて、アルビオンのことも知ってるんだったね。それを聞かせてもらうことにしようかな。

 もちろん、陛下とお兄ちゃんがいいと言ったらの話だけど」

 

 メリュジーヌがそう言って主君と兄の顔を顧みると、光己は何も考えてない様子ですぐ承知したが、モルガンはさすがに抜け目なかった。

 

「ふむ。別に構わんが、私も興味があるからコピーを取っておくように」

「は、ではそのように」

 

 こうして交渉が成立したので光己がいったん岩板を「蔵」にしまうと、オルガマリーの希望で報告会の前にロマニの正体の話をすることになった。

 一同座り直して、オルガマリーとロマニの顔を注視する。

 

「聴取の結果、ロマニは『シバの女王の縁者の生まれ変わり』であることが判明しましたが、具体的に誰であるかはかなりデリケートな問題なので、今は公表しないということになりました。

 少なくとも人理とカルデアの敵ではないことは確かですので、そこは安心して下さい。

 当人は今まで通りロマニ・アーキマンとして扱われることを希望していますので、そのようにお願いします」

「――――――」

 

 デリケートな問題と言われてロマニの正体に勘づいた者もいたが、もしそうなら確かに軽々しく話題にしていいことではなさそうなので、とりあえず沈黙を保っていた。

 そしてロマニとシバの女王が知人同士ということもあって、シバは特異点修正には参加せずカルデア構内で庶務的な仕事をしてもらうことになったとオルガマリーが述べると、なぜか光己が憤怒もあらわに拳を突き上げる。

 

「寝取りは悪い文明! 断固反対! 粉砕する!」

「何言ってるの、シバの女王は貴方の大奥に入ってないじゃない」

「うぐぅ」

 

 しかしオルガマリーの的確なツッコミであっさり撃沈されたが、まったくもって残当であった……。

 そしてシバは同じく留守番役のアイリスフィール組に移籍することになり、代わりに次の新規召喚は光己が行うことになる。

 

「だから報告会と所内案内の前に、召喚を先にやりましょう」

「そうですね、玉藻の前の時は2度手間になりましたし」

 

 そんなわけで、光己たちはそろって召喚ルームに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 光己が魔法陣の真ん中に聖晶石を置き、いつものように召喚の呪文を唱える。

 

「――――――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!!」

 

 するといつも通り光の柱が立ち昇り、やがてそれが消えた後には、ここでの召喚では初となる男性のサーヴァントが立っていた。

 身長は光己より少し高い程度、体格的にはあまりゴツくないから魔術師タイプであろう。黒髪黒眼の東アジア系と思われる風貌で、どこか捉えどころのない飄然とした雰囲気を漂わせている。

 年齢は20代半ばぐらいだろうか。黒を基調として赤い模様と縁取りが入った服を着て、金属製の黒い棒を持っていた。

 

「此度はライダーの霊基にて現界しました。

 真名を、太公望!

 あ、呂尚でも姜子牙でも姜太公でも、好きに呼んでくれて構いませんよ。

 しかし、惜しいなァー。キャスターで喚ばれてたら、僕は絶対、グランドキャスターだったろうになァ」

 

 その自己紹介を聞いた直後、玉藻の前が盛大な悲鳴を上げる。

 

「アイエエエ!? 太公望!? 太公望ナンデ!?」

「おお、ついに悪が滅びる時が来たか! さあそこのうさんくさい糸目、その棒切れでこの腹黒女狐を成敗するのだ!」

 

 一方タマモキャットは大喜びで、玉藻の前の背後に回って羽交い絞めにしていた……。

 

「誰が腹黒女狐ですか!

 てか私が成敗されるとしたら、私の分け御霊である貴女も同じ目に遭うんですが分かってます!?」

「ふふん、アタシはいつでもオリジナルと刺し違える覚悟は完了済みなのだな。

 でもその前に辞世の句代わりにゴールデン猫缶を3個ほど欲しいのだワン」

「意味が分かりませんよ!?

 そもそもマイネームイズ玉藻の前! ノット妲己! アンダースタンド!?」

 

「…………」

 

 超有能軍師である太公望にもさすがにこのコントは内容を全部は理解できなかったが、玉藻の前と名乗った女性からは自分がよく知っている人物の気配を少なからず感じる。もし人類を救うべく孤軍奮闘している組織に暴虐な妖怪がいるのだとしたら不用心にも程があるわけで、太公望は担当者に見解を聞くことにした。

 

「……ええと。マスター、この2人はいったい?」

 

 問われた光己の方は召喚に応じたのが美女美少女でなかったことを大変悲しみつつも、太公望ほどのビッグネームならカルデアのマスターとしては喜ぶべきかとも思いつつ、今は質問に答えなければならない。

 

「あ、はい。玉藻の前は日本の伝承では妲己本人だか生まれ変わりだかなんですけど、当人は妲己のことは一切存じ上げないというスタンスだそうで、実際カルデアでは何も悪いことしてませんので、ここは見逃してもらえるとありがたいです」

「そうですか。ええ、邪悪な者ではないのなら、討つ理由はありませんとも」

 

 太公望は屈託なくそう答えてくれたが、その時一瞬ひどく複雑な、切なげといってもいいような表情をしたことに光己は気づいたが、まだ初対面なので追及するのは避けた。

 

「むう、おかっぱ糸目のくせに何たる甘ちゃんぶり。さては酒池肉林をご所望か? よかろう、ご主人の宝具にも劣らぬタマモ地獄をお見せしよう!」

 

 キャットの方はやはり意味不明だったが……。

 

「ちょ、待って、キャットステイ!」

「というか僕に酒池肉林ってどういう嫌がらせなんです!?」

「酒池肉林が要らぬとは、さてはオヌシベジタリアンか?

 ではとりあえず、その服で爪をといでもいいカ?」

「いえ、よくありませんが……」

「むむう、オリジナルを殺すのもとぐのもダメと言う。つまり、どちらかが死ぬしかないというワケか?」

「いえ、殺し合いをする理由はないという話をしていたのですが……」

「そう。必要なのは対話。理解する心。さすが軍師だけあってインテリなのだな」

「…………」

 

 太公望はキャットが単なるバーサーカーではなくいくつか真理を突いた発言もしていたような気がしたが、どう答えていいものかは見当もつかなかった。本当にどう答えるべきか悩んでいると、玉藻の前が猫缶とかいう缶詰を餌にしてどこかに連れて行ってくれたので、心底ほっとしつつ改めて担当者に訊ねる。

 

「……それで、あのキャットという方はいったい?」

「あー、はい。何でも玉藻の前が切り離した尾が神格を得て分け御魂として英霊化したものだそうで……俺も詳しくは知らないんですが」

「な、なるほど……」

 

 そういえば玉藻の前は一尾しかなかったが、そういうことだったのか。

 しかしずいぶん奇妙なことになっているものだと思ったが、口に出すのは控えた。

 

「それで、太公望さんは史書的な普通の軍師なのか、それとも封神演義的に仙術を使えたりしますか?」

 

 するとマスターの少年はこの話題を続けたくないのかスペックを訊ねてきたので、それはもうばばっと胸を張って答えることにする。

 

「仙術? 使えますとも! この僕は一人の人間であった頃の僕ではなく……仙境にて修行を積んで道士になった後の僕のようですし。

 僕はなかなかやりますよォ。キャスター霊基なら、グランドキャスターにもなり得る僕ですからねェ!」

「おお、マジですか!

 でもそれなら何でライダーなんですか? キャスターで来てくれれば良かったのに」

「……」

 

 しかし予想外かつ率直な質問をくらって、太公望は一瞬硬直してしまった。

 

「そ、そこはそれ、サーヴァントは自分でクラスを選べないといいますか。ランサー希望なのにキャスターで現界してしまった人もいるそうですし」

「なるほど、適性が多ければいいってものじゃないんですね」

 

 幸いマスターは物分かりは良くて素直に納得してくれたので、太公望はほっと胸を撫で下ろ―――すのはまだ早かった。

 

「うーん、でもどうせならもう少し早く来てくれてれば聖杯問答に参加してもらえたのに」

「聖杯問答?」

「はい、少し前に行った仕事場で、現地の聖杯戦争に参加したアーサー王とギルガメッシュ王とイスカンダル王が聖杯の所有権と己の王道の正しさをかけて論戦するというイベントがありまして」

「控えめに言って、君子危うきに近寄らずな案件だと思うんですが」

「その時ギルガメッシュ王が『世界の宝全ての所有権は今もなお我にある』とか言ってましたんで、これは太公望さんとしては絶許なんじゃないかと」

「マスターもしかして僕のこと詳しいんですか?」

「六韜と三略と史記と封神演義は読んだことあります」

「そ、それはどうも……」

 

 サーヴァントとしてははるか未来の異国に生まれたマスターが自分のことを知っていたというのは嬉しいといえば嬉しいのだが、知られ過ぎているのは困る場合もあるような気がした……。

 

「というわけで、もし次があったらお願いしますね。

 ああそれと! 仙術を使えるんでしたら、ぜひ房中術を教えて欲しいんですが!!」

 

 人理修復の大任を負ったマスターといえども、思春期の男子らしいところもあるようだ。

 とはいえ太公望はそちらは修めてないのでそう答えるより早く、10歳くらいの女の子が彼の腰にしなだれかかった。

 

「もう、マスターさんてば。そういうのをお望みでしたら、私がカーマスートラを手取り足取り腰取り教えてあげるのに」

「ええっ!?」

 

 カーマスートラというのは確かインドの性愛の教典だと思ったが、マスターはともかくこの少女が実践するのは色々まずいのではないか。太公望はそう思ったが、すると少女はその考えを読んだのかニヤリと笑った。

 

「ふふん。あいにくですがそんな堅苦しい俗世間の倫理観念など、私には関係ないのですよ。

 何故なら!」

 

 少女がそう言った直後、ぶわっとその姿が変わる。見た目20歳くらいになり、何故か服も炎のような形状の襟と裾と袖口がついた紫色のコートになった。

 

「どうです、これなら文句ないでしょう!?」

「おお、その服なら普通に人前にも出られるな。そんなことできるようになったのか」

「ええ、私も日々研鑽を積んでますから。もちろんすべてはマスターさんと私の将来のためですから、そこんとこ忘れないで下さいね!」

「うんうん、カーマちゃん色っぽいヤッター!」

「!?!?!?」

 

 カーマといえばインドの性愛の神だが、まさか神霊が現界しているのか!? しかもマスターとこれほど親しいとは。

 さらには人間出身じゃなさそうな者がけっこう大勢いるという、ずいぶんキテレツな、あるいは危険なところに来たものだと太公望は(微妙にあきれつつ)心に呟くのだった。

 

 

 




 何かと厄介事をかぶることが多いⅡ世ですが、竜言語魔術がご褒美になるかどうかはまだ決まっていないのです(酷)。太公望が来たので、軍師としての仕事は減りそうですが。
 太公望の方は妲己ぽい人が2人もいる所に来られてラッキーですね!(棒)


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