FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第207話 報告会6

 妖精國組の反乱の問題についてはオルガマリーが清姫の見解をもとに納得したので解決済みということになり、その瞬間を素早く捉えたアルトリア・キャスターが報告の続きを始めた。

 

「そういうわけで私も王子様の仲間になりまして、いったん俵さんたちの所に戻ったのですね」

 

 何故そうしたかといえば、あの時の泥仕合を皆の前で解説されたくないからである。光己やジャンヌたちは知っていることだが、より多くの人に語るメリットはない。

 もっとも光己もメリュジーヌもあえて人の黒歴史を理由もなくバラすほど性悪ではなかったが、代わりにモルガンが嘴を入れてきた。

 

「待て予言の……いや白雪姫と呼んでおくか。確かに童話はそういう展開だったが、おまえはそれだけでカルデアに来ることを決めたのか?」

 

 どうやら言葉が足りなかったようである。キャスターはしっかり述べておくことにした。

 

「いえ、あくまで王子様の人柄()()をちゃんと観察した上でのことですよ。そもそも王子様を王子様認定したのは、王子様がカルデアのマスターだと聞く前でしたし。

 正しかったか間違ってたかはともかく、予言の子の使命も楽園の妖精の役目も果たしたんですから、死んだ後くらい好きにしてもいいですよね」

「……そうか、それならいい」

 

 モルガンは自分が役目を果たさず放置していたせいでキャスターがそれをやるハメになったことでキャスターにちょっと引け目を感じているので、彼女が死後とはいえ役目から解放されて自分の妖精生を生きられるようになったことにほっと安堵の息をついた。

 

「ただ我が夫はモテる男だからな。大奥に入るだけなら容易だろうが、正室になるとか、ましてや寵愛を独り占めなんてしようとしたら地獄めいた難易度になるから覚悟しておくのだな」

「むう。普段からの夫呼びで刷り込みを図るとは、やはりあの魔境でずっと女王をしていただけのことはありますね……」

 

 キャスターはここで「でも若さなら貴女よりは上ですから!」と言おうとしたが、それを口にしたらガチ戦争なのでやめておいた。

 

「これが汎人類史(こちら)の言葉でいう『おまいう』というやつか……?

 ん、ちょっと待て。今『王子様認定したのは、王子様がカルデアのマスターだと聞く前』と言ったな。ということは、我が夫は『異邦の魔術師』ではないということか?」

「……? 何言ってるんです? 貴女も異邦の旅人(リツカ)とはキャメロット城で会ったじゃないですか」

「え!? ……あ、ああ、そうだったな。思い出した」

 

 モルガンは今日まで記憶がぼやけていて異邦の魔術師が光己だったかどうか分からずにいたのだが、キャスターの言葉でようやくはっきりしてぽんと手を打った。

 いったん思い出してみれば、顔も性別も違うのに分からずにいた方が不思議なくらいである。6千年も生きたから記憶が多すぎたせいだろうか?

 

「まあ今後の展開によっては、王子様が異邦の魔術師になるかも知れませんけれど。

 むしろその方が順当じゃないですか?」

「確かにな、未来は変わるものだ。いや我々にとっては過去だが……んん!?」

 

 そこでモルガンは何か引っかかるものがあった。

 仮に光己が妖精國に行くことになった、あるいは妖精國を汎人類史に来させなかった場合、妖精國の行く末は自分たちの記憶とは違ってくることになるが、そういうことはあり得るのか? 未来は変えられても、確定した過去を変えることはできないはずではないか?

 

(……いや、そうでもないか)

 

 カーマやアイリスフィールのようにモルガンたちが平行世界の出身であったなら、ここの妖精國が自分たちの記憶と違う顛末になってもおかしくない。「過去」を変えるのは可能だろう。

 縁ならそれこそカーマがいるのだし。

 もちろんただの推測で、根拠は何もないが。

 

「どうかしましたか? 急に考え込んじゃって」

「いや、何でもない。記憶を整理していただけだ」

 

 するとキャスターが訝しげに口を挟んできたのでこう答えたが、これは結構重大な問題であるような気がする。もし平行世界説が正解なら、妖精國のありようも自分の記憶とは違っているかも知れないのだから。

 もし違うありようの妖精國というのがあるなら一目でも見てみたいものだが、どのみち共存できないのなら詮ないことだろうか。

 

「―――そうですか、じゃあ報告の続きに戻りますね。

 これで小人たちの家での用事は済んだと思ったんですけど、そこにジャンヌさんがサーヴァントが接近中だと警告してきたのですね」

「タイミングが良すぎるわねえ。モレーの差し金か、それとも白雪姫の継母かしら?」

 

 オルガマリーがまた畏怖混じりの声を上げる。ここまで積極的に絡んできた特異点ボスは初めてではあるまいか。

 

「そうですね、その両方だと思います。

 来たのは私の継母役の武則天さんと毒りんご職人の静謐のハサンさん、さっき話に出たカーミラさん、あと別方面から項羽さんでしたから。それぞれ手下に酷吏とかカボチャ兵とか魔物とか連れてましたし」

「えっ、項羽様敵方だったんですか!?」

 

 てっきり普通にはぐれサーヴァントだと思っていたヒナコがびっくりして項羽に顔を向けると、項羽はそれが分かっていたかのように落ち着いた様子で頷いた。

 

「うむ。今彼女が名を出した、私を含む4騎はモレーの配下として召喚された。シンデレラや白雪姫、小人たちが現界したのは『童話の役』で紐付けられた連鎖召喚だと推測される」

「うぐぐ。項羽様を呼びつけて手下にするなんて許せないけど、そのおかげで会えたわけだから怒るに怒れない……!」

 

 ヒナコが深刻な葛藤に頭を抱えて悶え始めたが、キャスターはそれが終わるのを待たずさっさと説明を再開した。

 

「えー、それでですね。私と王子様たちは武則天さんたちを、俵さんたちは項羽さんたちを迎え撃つことにしたんですね。

 で、まず私たちの東側ですが」

 

 武則天とカーミラは生前は荒事の経験がなかったらしく戦闘技術は低めで、手下も数こそ多かったが質は大したことなかったので、戦況はカルデア側有利に推移した。しかし静謐のハサンは勝算が小さいのを悟るとこちらの急所=マスターに単騎突撃を仕掛けたのだ。

 

「あの捨て身っぷりにはびっくりしましたけど、王子様って意外と戦い慣れしてたんですよね。口から細いビーム吐いて目潰しするとか、それでも突っ込んできた彼女の顔を盾で殴るとか」

(??????)

 

 魔術師どころか人間から逸脱した戦闘法を聞かされた太公望の頭の周りにはてなマークが浮き上がる。針を飛ばす宝貝(パオペエ)を使った武将なら知っているが、何故にわざわざビーム?

 

「でも静謐さんって執念深くて、そこで盾をつかんで踏ん張ったと思ったら、自分で喉を短刀で掻き切って毒の血を王子様に浴びせたんですよ。王子様が無敵アーマー持ってなかったら死んでたそうなんですけど、何が彼女をそこまでさせたんですかねえ」

「たまにいるのよね、そういう覚悟ガンギマリな人。なんでそれを人理の味方(こっち)に向けてくるのか分からないけど」

 

 オルガマリーがはあーっとため息をつく。そういう手合いはローマにもオケアノスにもいたが、なぜその気合いを魔神柱なり特異点ボスなりに向けてくれないのか。

 

(……無敵アーマー?)

 

 一方太公望は別の単語にまた首をかしげていた。こちらも生前に似たような技能を何度か見たが、神秘が薄れたこの時代でここまでやるとは、もしかして宝貝人間(ナタ)の同類か何かなのか!?

 だとするととんでもない技術だが、その内容によっては光己こそが英霊の座でまことしやかに噂されていた、カルデアの闇だという可能性も……!?

 いや、よそう、僕の勝手な推測でみんなを混乱させたくない……などという与太はいったん横に置いて続きに耳を傾ける。

 

「それで静謐さんが退去したら武則天さんとカーミラさんは退却したので、私たちも北側に向かったんですね」

「そっちには項羽様がいたわけよね!? まさかケガさせたりしてないでしょうね!?

 いえ、項羽様を傷つけられるサーヴァントなんているわけないけど」

「あー、えーと」

 

 ヒナコがぐるぐる目で詰め寄ってきたので、キャスターはこれはめんどくさいと判断して王子様……に丸投げすると好感度に悪影響がありそうなのでバーゲストに投げることにした。

 

「私は後衛担当でしたので、ここは直接対峙したバーゲストが話すべきかと」

「貴女という妖精は……いえまあ、私が対峙したのは事実ですが」

 

 なので仕方なく、バーゲストはキャスターの依頼を引き受けて説明を始めた。

 この時点では項羽の真名は判明していないが相当な強者だと思われた上に、魔物軍も以前より強いという話を聞くと、キャスターの提案で彼女と光己がバフをかけてくれたのである。

 

「その私と互角以上に渡り合えたのですから、勇猛な剣士だったのは確かですね。お互い剣技だけで特殊なスキルなどは使っていませんでしたが」

「そうでしょうとも、さすがは項羽様ね!」

 

 見た目いかにも強そうなバーゲストに夫の武勇を褒められて、すっかり鼻高々なヒナコ。当の項羽は自慢たらしいことは好まないのか無言だったが。

 

「その時点では私は貴女と項羽王のことを聞いていなかったので戦って倒すつもりでしたが、メリュジーヌが来て仲裁してくれたのでお互い剣を引いたのですわ」

「なるほど、それで項羽様もこちらに移籍したというわけね?」

「いえ。あの場では項羽王とモレーのサーヴァント契約を解除することはできませんでしたので、ここは退却してもらって後でモレーもいる所で、となりましたが」

「ぐむむ、項羽様をそこまで縛りつけるとは不埒な……」

 

 ヒナコの怒りは荒ぶるばかりだったが、それで報告の邪魔をするのはお子ちゃま過ぎるので今回はこの辺にしておくことにした。

 

「……それでどうなったの?」

「項羽王が撤退する理由を作るためにお互い手加減して打ち合っていたのですが、その最中に変身と透明化の能力を持った巨大な怪物が現れたのですわ。

 シバの女王の眼力のおかげでそこまで苦労せず倒せたようですが」

「変身はともかく透明化って危なくない?」

 

 オルガマリーが青ざめた顔でまた話に加わる。フィクションじゃあるまいし、いくら武闘派の英霊でも目に見えない敵とまともに戦うのは難しいと思うが。

 

「そうですわね、女王がいなければもっと苦戦していたでしょう。フレンドリーファイアを気にせず広範囲攻撃をしていいなら別ですが、そういうわけにもいきませんから」

「なるほどねえ」

 

 確かにサーヴァントには「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」や「最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)」のような派手な必殺技を持つ者もいるが、この手の技はたいてい敵も味方もない無差別攻撃なので、使い勝手が悪いところもある。難しいものだった。

 

「……そういうわけで怪物を倒した後は、項羽王に合図して一撃喰らって傷ついたフリをして撤退したもらったのです」

「うーん、まあ仕方ないかしら」

 

 同僚が倒れたからといって、項羽ほどの強者が無傷なのに撤退したら怪しまれる恐れがある。なのでヒナコはケチはつけなかった。

 

「実際、そうしたらモレーが空中にスクリーンを出して顔見せしてきましたからね。

 様子を見ていたのでしょうから、このくらいの演技は必要だったでしょう」

「そうねえ」

 

 こうして項羽も撤退すると魔物軍も逃げ始めたため、カルデア一行と白雪姫組はどうにか勝利を収めたのだった。

 その後ケガ人の治療とか魔物の遺体の処理をしたらそろそろ出立の時なのだが―――。

 

「おっと、忘れるところだった。エリセ、俵公たちをカルデアに誘う度胸はなかったけど、サインと写真はちゃんともらってきたから安心して。後で印刷して渡すから。

 ジャンヌ・ダルクとナポレオン・ボナパルトのツーショット写真というスペシャルなお宝に震えるがいい」

「うわー、ありがと光己さん!!」

 

 エリセは英霊マニアなので、光己に影響を受けてサーヴァントのサインと写真を集めているのだ。居ながらにしてコレクションが増えていく幸せに頬が緩むばかりである。

 

「うーん、でもホントに良くしてもらってばかりで申し訳ないなあ。今度仕事行く時はメンバーに入れてね」

「うん、次はイギリス組と太公望さんにお願いすることになってるけど、その次くらいで考えるから」

「うん」

 

 実際エリセは今は食堂の手伝いくらいしかしていないので、1度くらい現場仕事に出ないと肩身が狭いなあ、などと思っているのだった。

 

「―――これで俵公たちとはお別れになったんですが、ナポレオン帝が好意でついてきてくれまして。チェイテ城には11人で行くことになりました」

 

 その後は城に着くまで襲撃はなく、城内にも罠の類はなかったので、ようやく謁見の間っぽい大広間でモレーとご対面になったわけである。

 

「長かったわねえ」

 

 日程的にはわずか2泊3日だったのだが、事件が起こる密度が濃い。逆にローマや戦国時代のような長期に渡ったものは事件の頻度は低かったので、特異点の面積が狭いと事件や現地サーヴァントも密集するということだろうか。

 いやそれよりオルガマリーが1番気にかかったのは。

 

「でもあれね、そこに人質のエリザベートもいたんでしょう? いざとなったら人質ごと大技でモレーを倒すって手もあるけど、こちらにもエリザベートがいたらやりにくくなるわね」

「そうですね、わざわざ分割までしたのはそのためでしょうし。

 でも対策考える時間はありましたので、喉元に剣突きつけて『彼女の命が惜しかったら~~』的なことまではされずに済みました」

「へえ、どうやって?」

「はい、まずは熾天使形態(ゼーラフフォルム)で翼出しまして、さらに光も出してですね。ダメ押しでギルガメッシュから分捕った武器の中に『火を噴く剣』の原典がありましたので、これで炎出して見せればウリエルの疑似サーヴァントのフリができるってわけです」

「ウリエル? ……ああ、なるほどね」

 

 オルガマリーはそちら方面の知識はあるので、光己の策の狙いをすぐ理解できた。

 ウリエルはとても厳格な性格だと言われているから、血の伯爵夫人(エリザベート)に組みつく、つまりくっついて動きを止めたりしたらこれ幸いとばかりに彼女ごと殺しにいく可能性が高い。それを示唆することで、人質作戦は逆効果だと思わせたのだろう。

 

(翼を出した? ギルガメッシュから武器を分捕った?)

 

 一方太公望は例によって宇宙猫状態だったが……。

 またそれとは別に、光己に苦言を呈する者もいた。

 

「あ、そうそう! あの時は言いそびれましたけど、主の御使(みつか)いを騙るのはダメですからね!

 今回は事情がありましたから仕方ありませんが、軽い気持ちでやっちゃいけませんよ」

 

 ジャンヌである。敬虔なキリスト教徒としては当然の発言だった。

 

「んん!? ああ、そういえばお姉ちゃんはキリスト教徒だったか……。

 実際威圧効果はあったんだけどしょうがない、この手はなるべく使わないようにするよ」

「分かって下さればいいです」

 

 お姉ちゃんに怒られては仕方ないので光己が「なるべく」という含みを残しつつも了承すると、ジャンヌも彼とカルデアの使命の重大さに鑑みて妥協してくれた。

 穏便に済んで何よりである。

 

「それで戦う前にあれこれ問答したんですが、モレーはこの時点では目的は話してくれかったんですね。でも戦力はこっちが上だったから追い詰めたら、いきなり土下座してきたからびっくりしました」

「土下座!?」

 

 これにはオルガマリーも驚いた。さんざん手管を弄しておきながら、負けそうになったら恥も外聞もなく命乞いとは。

 

「はい、それでまず目的を語ってくれたんですが、何でもフランス王家への復讐と、全人類の堕落と深淵の聖母への回帰、とか言ってました」

「復讐はともかく、深淵の聖母への回帰って危なくない?」

「俺は詳しくは知りませんけど、激しくヤバい奴ですよね。

 どっちにしてもやらせるわけにはいきませんので、降参するなら聖杯と令呪よこせって言ったら今度は服を脱ぎ出しまして」

「!?」

 

 斜め上の展開にオルガマリーがぼっと頬を赤らめる。戦闘の真っ最中に男性の前で服を脱ぐとは何という破廉恥な、もしかしてモレーは魔女のサバトのアレとかコレとかそういうのをやっていたのか!?

 

「いや、これも彼女の策でして。それで俺たちが驚いてる隙に、自分を分割して俺の背後から聖杯を抜き取ろうとしたんです」

「ああ、そういえば貴方の体内に聖杯があったんだったわね」

「ええ、そこでさっき言った話ですけど、立香がインターセプトしてくれたんです」

「へええ、それはお手柄ね」

 

 テロで重傷を負って凍結処置されている、しかも素人の身でありながら特異点ボスから聖杯を守ってくれたとは。いずれそれなりの礼をせねばなるまい。

 

「その後もモレーは結構粘りましたけど、まあ何とか倒す、というか気絶に追い込めまして。そしたら武則天とカーミラも負けを認めましたんで、モレーから令呪を奪ってミッション完了というわけです」

「……ああなるほど。モレーから令呪を奪う前に致命傷与えて退去させちゃったら、項羽王と契約し直すのが間に合わなくなる恐れがあったわけね」

「はい、武則天とカーミラを先に退去させてたらそちらでも良かったんですけど」

「……そうね。

 貴方は物理的に強くもなったけど、判断力も育ってきたわね。

 本当にありがとう。サーヴァントの皆もお疲れさま」

「はい、どう致しまして」

 

 ―――ということで、2度目の報告会は無事お開きとなったのだった。

 

 

 

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