FGO ANOTHER TALE   作:風仙

212 / 301
第212話 霧都の協力者

 その後はモードレッドとヘンリー・ジキルなる人物が拠点にしている集合住宅(アパルトメント)に到着するまで何事もなく、一行は無事ジキルと対面する運びになっていた。

 

「戻ったぜ、ジキル!」

「ああ、お帰り……って、ずいぶん大所帯だね」

 

 ジキルは温厚そうな学究肌の青年で、特に怪しいところは……ルーラーアルトリアがちょっと首をかしげたが、サーヴァントであるとは言わなかった。

 部屋はなかなか立派なもので、暖炉には薪が入れられて火がついており、壁にはランプが灯されている。ソファや壁に掛けられた絵画も、それなりに値が張るものと思われた。

 室内がきっちり整理整頓され掃除も行き届いているのは、多分モードレッドではなくジキルのおかげであろう。

 

「ああ、聞いて驚け! オレの父上2人と母上とその仲間たちだ!

 しかもこの異変の解決に協力してくれるってよ」

「へえ、君のご両親が……って、もしかして!?」

「はじめまして、アルトリア・ペンドラゴンです。アーサー王と名乗った方が通りがいいかも知れませんね」

「右に同じです」

「モルガン・ル・フェだ。モルガン王妃とでも呼ぶがいい」

 

「#$%&☆!?!?」

 

 ジキルは驚愕のあまり、王と王妃の前で不躾にも噴き出してしまうところだった。

 何しろアーサー王とモルガン王妃といえばイギリスでは伝説的な王とその姉にして宿敵として知られており、その2人、いや3人が予告もなく肩を並べてやって来たのだから。

 この辺りは現代日本でいうなら、ちょっとインテリなだけの一般市民の家に坂上田村麻呂と鈴鹿御前がアポもなしに訪ねてきたようなものだから、ジキルが慌てふためいたのはむしろ当然といえよう……。

 

「こ、このような狭苦しい所にようこそおいで下さいました!

 ヘンリー・ジキルと申します! お目にかかれて光栄です!」

 

 ジキルは冷や汗を流しつつも、何とか失礼にならないような挨拶をひねり出すことができた。まったく、モードレッドも分かっていたならあらかじめ知らせてくれればいいのに!

 ちなみにこの時代、電話機はすでに存在しているが、公衆電話や携帯電話はまだ存在しない。もっとも今はロンドンの都市機能がほぼ壊滅しているので、どのみち電話による通信はできないが。

 

「これはご丁寧に。連絡もせずに大勢で押しかけてしまいましたが、ご寛恕下さい」

「いえいえ、滅相もありません!」

 

 しかも王の方から軽くとはいえ頭を下げられてジキルが対応に四苦八苦していると、どんな思惑なのかモルガンが割り込んでくれた。

 

益体(やくたい)もない挨拶はその辺で良かろう。

 それよりさっさと情報交換だ。その後でモードレッドとも話をせねばならんしな」

「アッハイ」

 

 ただモルガンは普通にしていても圧が強いので、英雄豪傑ではないジキルが応接するのはかなり荷が重かったが……。

 あとモルガンとモードレッドが話をするというと失礼ながら厄ネタの気配しかしないので、できれば外でやってくれると有難いのだが、そんなこと言えるはずがなかった。

 ―――まあ味方になってくれるなら得難い戦力である。ジキルが気持ちを切り替えて、椅子やら飲み物やら茶菓子やらを用意しに行くと、マスターと思われる少年が妙なことを言い出した。

 

「あ、そうだ。今のうちにXX呼んでおこうかな」

「……?」

 

 ジキルには何のことか分からなかったが、少年が腕時計ぽい装置を何やらいじると、空中にスクリーンが出現して、そこに映っている若い女性が喋り始めた。

 これは相当に高度な科学、あるいは魔術と思われるが、彼らはいったい何者なのだろうか?

 

《あら、何か相談事かしら?》

「はい、そろそろXX呼んでもいいかなと思いまして」

《分かったわ、ちょっと待ってて》

 

 女性が一時画面から消え、しばらくするとアルトリアやルーラーによく似た、ちょうど2人の間くらいの年齢の女性が現れた。画面の向こうは結構広い場所のようだ。

 

《やっとですか! もうマスターくんってばじらすの上手なんですからー、って、もしかしてモードレッドですか!?》

「ええ!? って、まさかまた父上!?」

 

 ヒロインXXがモードレッドを見て驚いたのは順当だったが、モードレッドがXXを見てすぐアルトリア属だと分かったのはもう何かの特殊スキルの類かも知れない。

 なおXXは水着ではなく、例の遊園地スタッフめいた服を着ている。婚約者(フィアンセ)サマ(はーと)は独占欲が強くて、自分以外の男性がいる所では水着姿は避けてほしいという意向なのだ。困っちゃいますねぇー!(棒)

 

《そうですよ。まあ話はそちらに行ってからということで、マスターくんお願いします!》

「うん。それじゃ令呪3画を以て命じる。XX、ここに来い!」

「はーい!」

 

 XXが元気よく答えた直後、その姿がスクリーンから消える。ついで光己の目の前に出現した。

 

「おおっ!?」

 

 これにはモードレッドもジキルも目が点である。令呪には遠くにいるサーヴァントを呼び寄せるという使用法があることは知っているが、3画も使った所を見るによほど遠くから呼んだのだろう。

 

「てかおまえ、令呪3画全ツッパなんてよくやれるな……」

 

 ただモードレッドが驚いたのは、技術的なことより光己が「サーヴァントへの絶対命令権」を全部あっさり使い切ってしまったことだった。これではいつ裏切られるか知れたものではないのだが。

 さすがに気になったのでオブラートに包みつつ訊ねてみたが、光己は平然としていた。

 

「んん? 確かにそうだけど、ここにいる皆は裏切ったりしないって分かってるから。

 というかカルデアの令呪って、1日1画回復する代わりに束縛的な使い方には向かないらしくて」

「そ、そっか」

 

 そこまで信頼しているならもはや言うことはない。モードレッドが沈黙すると、XXがずいっと距離を詰めてきた。

 

「当たり前でしょう、カルデアにマスターくんを裏切るような不埒者なんているはずがありません。もしいたらユニヴァースの彼方までぶっ飛ばしますけどね!

 それはそれとして、まさか不良息子(あなた)がここにいるとは思いませんでしたが、ちょうどいい機会です。城の壁を壊して回ったことと、クラレントを盗んだことへのお仕置きです! 鎧を脱いでお尻をこっちに向けなさい」

「ふえっ!?」

 

 父上が増えたのは喜ばしいが、今度の父上は過激であった。

 モードレッドは恐れをなして逃げ出したが、人が多くて動きづらく、すぐに捕まってしまう。慌てて別の父上に助けを求めた。

 

「あばばっ!? た、助けてくれ剣の父上に槍の父上!」

「やれやれ、仕方ありませんね。

 XX、人前で叱るのはよろしくないと聞きます。後で家族会議をする時間を取ってありますので、その時にした方が良いのでは?」

「ふむ、確かにそうですね」

 

 もっとも、その結果は単なる先延ばしに過ぎなかったが……。

 なおジキルは王家の教育問題になんぞ絶対関わりたくなかったので、一切をスルーして饗応の準備に専念していたりする。

 そしていろいろ一段落したところで、用意した飲み物と茶菓子を提供した。

 

「王と王妃にお出しできるほどの物ではありませんが、準備する時間もありませんでしたので……」

「いえいえ、お気になさらず。贅沢は言いませんので」

「恐縮です」

 

 アーサー王3人は姉と違って圧がないし物腰も穏やかなので幸いだった。なぜ3人いて、しかも2人はどう見ても女性なのかは聞きそびれたが。

 そしてまずは改めてお互い自己紹介をした後、いよいよ本題に入る。

 ところでヘンリー・ジキルといえばここの日付から2年ほど前に刊行された有名な小説の主人公の名前なのだが、ジキルはそれに覚えがなく、この街に住む人間の1人に過ぎないそうだった。ルーラーはやはり少し不審そうにしているが、口に出せるほどの確信は持てないようである。

 

「ええと。それでは僭越ながら、今ロンドンを襲っている異変について説明させていただきます」

 

 そしてジキルが説明してくれたところによれば、およそ3日前から夜毎に生物の命を奪うほどの霧がこの都市に満ちており、今や昼間でもこの有様だという。それでも霧が薄い場所なら、人間でもマスクで顔を覆ったりすれば死ぬことはないそうだ。

 しかし濃い場所では、呼吸するだけで通常の生物は霧に含まれる魔力に侵され、体質などにもよるが、悪ければ1時間もすれば死亡してしまうらしい。

 

「正確な数までは分かりませんが、僕の試算ではすでに数十万単位の死亡者が出ています」

「数十万、ですか」

 

 その膨大な数字にアルトリアが小さくうめく。確かにあの危険な霧がロンドン全域に広まっているのであれば、そのくらいの犠牲者が出ていてもおかしくはないが……。

 

「このあまりに濃厚な魔力を帯びた常ならざる濃霧―――僕らはこれを、仮に『魔霧(まきり)』と呼んでいます」

「まきり……そういえば冬木には『間桐』という魔術師の名家がありましたが……」

 

 ジキルと間桐に関係はあるまいから、多分偶然だろう。アルトリアは軽く首を振って、その想像を頭から振り払った。

 

「しかも魔霧だけではありません。すでに遭遇されたかも知れませんが……」

「サーヴァントですね。あと怪しげな自動人形(オートマタ)の群れとも戦闘しました」

「やはり戦闘になっていましたか。

 他にも魔術で作られたと思われる殺人ホムンクルスや正体不明の怪機械(ヘルタースケルター)、さらには屍食鬼(グール)動死体(ゾンビ)といったものもいます」

「グールにゾンビ、ですか。

 数十万人が犠牲になっているのに、ここに来るまでの道中市民の死体を見かけなかったのは」

「ええ、グールに変えられた市民が、魔霧で死亡した市民を食べたのでしょう」

「…………」

 

 思った以上にホラーで陰鬱な話に、光己とアルトリアたちの顔色が悪くなる。おそらくフランスの時と同様に、吸血鬼の性質を持ったサーヴァントがいるのだろう。

 それともちろん先ほど逃がしてしまったジャックとアタランテ、そして聖杯を持っている特異点ボスも。

 

「……って、あれ? 記憶がぼやけています。

 アタランテさんのことは覚えているのに、ジャックさんのことを思い出せません」

 

 そこでマシュが妙なことを言い出した。

 ジャックと遭遇してから逃げられるまでの流れやアタランテの顔は普通に思い出せるのに、ジャックの容姿や得物、戦い方、しゃべったこと、そういったことはそれこそ霧がかかったように不鮮明ではっきりしないのだ。

 

「え、あ、言われてみれば……私も真名看破したことは覚えていますが、その内容を思い出せません」

「私もですね……」

 

 ルーラーもアルトリアも同様のようだ。太公望にも顔を向けてみたが、彼も今気づいたかのように首を横に振る。

 もしかして自分のことを忘却させるスキルでも持っているのだろうか? だとしたらジャックはこちらのことを覚えていて対処法も考えられるのに、こちらはできないのだから逃げられて再戦するほど不利になるということか。

 

「これも逸話再現による能力でしょうか? かなり厄介ですね」

 

 ただでさえ面倒な事態になっているのに、とアルトリアが困り顔になるが、しかし例外も存在した。

 

「そうなの? 俺はちゃんと覚えてるけど」

「え、マスターは覚えてるんですか?」

「うん。黒いボロ布はおった10歳くらいの幼女で、両手に大きなナイフ持ってる暗殺者(アサシン)、だろ? 宝具は確か『暗黒霧都(ザ・ミスト)』と『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』だったかな」

「おお、合ってる。父上が忘れさせられたこと覚えてるとはやるじゃねえか」

 

 実はモードレッドも何故か全ては忘れずある程度は覚えていられたので、光己の記憶が正しいと理解して称賛の声を上げた。

 これなら再戦で不利になることはなさそうだ。

 

(ほう、マスターは精神干渉も跳ねのけられるのか……)

 

 一方バーゲストも内心で感心していた。

 光己は物理的に硬いだけでなく毒耐性もあるが、こういう方面にも強いとは。これほど頑丈ならもしかして―――。

 

(いやいや何を考えている。仮にもマスター、しかも陛下が夫とお呼びしている方に)

 

 どうやら光己に何か期待したいことがあるようだが、それはあまり好ましくないことのようだった。

 そしてバーゲストが煩悶している間に光己たちはジャックとアタランテの説明を終えて、自分たちが何者でここロンドンに何をしに来たのかという話に入っていた。

 

「―――ということで、ここは本来の歴史が捻じ曲げられている空間で、それを元に戻しに来たというわけです」

「なるほど、話は分かりました。そういうことなら是非協力させて下さい」

 

 何しろジキルが得ている情報によればロンドンはもはや政府としての機能は麻痺しつつあり、外からの救援も魔霧に阻まれて入れず孤立状態だ。魔霧は屋内には入り込まない性質があるが、それでも水や食料がなくなれば住人は全滅するだろう。

 のんびり構えて手段を選んでいる暇はないのだった。

 

「はい、こちらこそ。

 それで、これからどう動くかという方針はありますか?」

「待って下さい。その前に家族会議をしなければなりませんから」

「ああ、そういえば」

 

 事態は急を要するが、これはこれでやっておかないと人間関係的な問題が残ってしまう。その微妙なわだかまりが戦闘に影響することもあり得るから、先に解決しておくべきことではある。

 というわけで、アルトリアズとモルガンとモードレッドは別室に引っ込んでいったのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。