アンデッド軍と接敵するまでに少しだけ時間があったので、アルクェイドが
「要は両方とも大元の吸血鬼に血を吸われた時、運良くなのか悪くなのか、死に切れなかった人たちの成れの果てよ。基本的にはグールの方が格上ね。
直接吸血鬼に血を吸われた人だけじゃなくて、グールが人の血を吸ってその人がゾンビになる場合もあるっていうか、数的にはこちらの方がずっと多いわ。
どっちにしても生まれたばかりだから、能力的には大したことないはずよ」
まともな自我は残っておらず、魔術の類も使えない。身体能力面は歩くのがやっとの者もいれば、常人並みに動ける者もいる。
ただ歯や爪に腐敗毒や麻痺毒がある場合もあり、上級グールだとサーヴァントにも多少は効くかも知れないから要注意だ。
「人間に戻すのは無理だから、素直にあの世に送ってあげるのが親切だと思うわ」
「ほむ……」
確かにフランスで見たゾンビも人間に戻せるとは思えない有り様だったし、ここでもそうだろう。
「すっご~~~~~~くたまに血を吸われてすぐグールを飛び級して吸血鬼になる、つまり自我を取り戻して超人的な強さになるイレギュラーがいるけど、そんな人は頭吸血鬼じゃなければあの行列には加わらないでしょうし」
「そんなケースもあるのか……まあ襲って来ないなら放っておいていいか」
特異点が修正されればそのイレギュラーも人間に戻る……いや今人間には戻れないという話をしたばかり? まあ人為的な手段で戻すのと歴史そのものが元に戻るのでは原理からして違うはずだし、何とかなるはずと考えることにした。
「んー、そろそろ来るわね。どう戦うの?」
「そうだなあ。ブリュンスタッドさんとモードレッドとバーゲストに並んで前衛張ってもらって、XXとバーヴァン・シーがその後ろから射撃でサポート。
ルーラーは探知の精度が落ちてるって話だから戦闘よりそっちに専念してもらって、モルガンと太公望さんは後方から支援。マシュはいつも通り、俺と後衛の護衛を。
ケガしたら無理しないで後ろに下がるように……っと、みんなこんなとこでいい?」
「おう、いいんじゃねーか?」
アルクェイドは作戦を訊ねはしたが光己たちの能力はまだ知らないので意見は述べず、代わりにモードレッドが「今度こそ活躍できそうだな!」という私情マシマシで肯定の意を口にした。
まあ他のメンツにとっても特に異議がある内容ではなかったので、この作戦で布陣を行う。
そしてついに、アンデッド軍の先頭がはっきり視界に入った。隊列も組まずに道路いっぱいに広がって、ふらふらと頼りない足取りで近づいて来る。
彼らは見た感じ典型的なスプラッター的ゾンビで、まともな意識もない様子……と思いきや。モードレッドたちの存在に気づくと生きた人間(ここには2人しかいないが)への憎悪をたぎらせたのか、あるいは食欲を刺激されたのか、目の色を変えて迫って来た。
今はまだ先頭しか見えないが、雰囲気的には本当に4桁いそうに感じられる。
「うわ、何だコイツら……こりゃ確かに元に戻せそうにねえな。
畜生、オレの
モードレッドとしては当然無辜の民を殺したくはないのだが、これはもうやるしかなかった。怒りと悲しみをこめて剣を振り上げる。
「せめて王の剣で眠らせてやるよ! 『
そして剣を振り下ろすと、幅広の赤い雷がアンデッド軍めがけて地を奔る。まっすぐの道路の上を群れてくる集団に対して直線状に飛ぶ宝具は多数の敵を捉えやすく、800体近くを木っ端微塵に粉砕した。
普通の敵ならこの強烈な一撃に恐慌して逃げ出してもおかしくないところだが、アルクェイドが言ったようにグールやゾンビには知性がない。残った者はそのままの勢いで寄せてきた。
「ああもう、頭もゾンビなのかよ」
「では次は私が」
敵は数が多い上に見た目がグロいので接近戦になる前になるべく削っておきたいが、大規模な宝具は魔力消費が大きいので連発できない。なので次鋒としてバーゲストが進み出た。
「円卓の騎士」に派手な大技を見せつけられて対抗心が湧いたからでもあるというのは内緒だ。
「哀れな死者たちよ、今その無惨な
こちらも対軍宝具で、額の角を引き抜き「妖精剣ガラティーン」に変えて巨大な黒炎を敵陣営に叩きつけるというものだ。捕捉人数は100人程度と少なめだが、炎を持続させておけば通り抜けようとする敵にダメージを与えることができる。
「……! …………!!」
アンデッドたちが口をぱくぱくさせているのは、悲鳴を上げようとしているのだろうか。しかし口や咽喉の器官が傷ついているらしく、まともな声にはなっていなかった。
「うーん。可哀そうではあるけど、実際こうするしかないからなあ……」
リアルスプラッターは精神衛生上とても良くないのだが、光己はフランスで何度か見ていたおかげでギリギリ平静を保つことができていた。これで安らかに成仏、いや天国に行ってくれればいいのだが……。
「そうですね。ブリテンの首都に毒霧を充満させただけでも許しがたいのに、このような蛮行まで働くとは不敬極まります。首魁には厳罰が必要でしょう」
モルガンも王様目線ではあるが、怒りを抱いてはいるようだ。
なのに動く気配がないのはサボっているのではなく、アルクェイドが何か大技、つまり宝具を使う気配を感知したからだ。彼女が後々敵に回る可能性はゼロではないのだから、手の内を見せてくれるのを邪魔する手はない。
「へえ、サーヴァントってなかなかやるのね!
それじゃわたしも披露するかぁ。月の光を、受けるがいいー!」
アルクェイドはそう言うとタンッと軽く地を蹴って、真上に20メートルほども跳躍した。
まあ武闘派サーヴァントにとっては容易なことだが、ミニスカートを穿いていると、その武闘派サーヴァントの視力ならその内側を地上からでも覗き込むことができてしまう。今回それをやって「ほむ、飾り気少なめの白か……タイツ越しのパンツってえっちだよな」と小声で呟いたのは1人だけだったけれど。
アルクェイドは気づいた様子もなく、空中でいったん停止するとくるっと斜め下を向いた。ついで青白い光球をまといつつ、高速で敵のただ中に吶喊する!
「そぉーれっ! 真祖、いっきまーーす! 『
そして地面に衝突すると、まるで隕石落下で衝撃波が広がるかのように光が炸裂して周りのアンデッドを消し飛ばす。
ただここで普通なら衝撃は半球形に広がるのに、今回はほぼ前方だけに広がっていた。言うまでもなく、道路脇の民家に被害を与えないように制御したのである。
そして当人は後ろに跳んで味方陣地に戻って来たので、光己はさっそくパンツ、ではなく手際を褒めることにした。
「うん、確かにすごかった。
あと民家に当てないようにしてくれてありがと」
アルクェイドが人間だったなら人道上当然の配慮だが、そうではないなら特別に気遣ってくれたということになる。なのでお礼を言ったわけだが、するとアルクェイドも我が意を得たりと微笑んだ。
「どう致しまして! 実際配慮したんだけど、自分から言うと恩着せがましい感じになりそうだから気づいてくれて良かった」
「うん、こう見えてマスター歴長いからさ」
「へえ、そうなの? 聖杯戦争って1週間かそこらで終わるっていうイメージあった、というか1人でそんな大勢サーヴァント連れてるのってあんまりないわよね」
「うん、普通はそうらしいけど俺の場合は事情があって」
「へえー」
アルクェイドは興味を抱いたようだったが、戦闘中なので深入りはしなかった。これだけ圧倒的な力を見せつけたのに、アンデッド軍はペースを落としさえせず迫って来ているのだ。
「それで、宝具連発はまだやるの?」
「うーん、そうだなあ」
問われた光己が後衛2人に顔を向けると、太公望がすっと姿勢を正した。
「そうですね、では次は僕が」
するとその傍らに角が生えた馬らしき動物が現れる。彼こそが太公望がライダークラスである由縁の、師匠元始天尊より授かった「
「それじゃ行ってきますよ。『
太公望が四不相にまたがって真名を解放すると、1人と1頭が青白い光に包まれた。そのまま路上を駆けてアンデッド軍のただ中に突進して、当たるを幸い薙ぎ払い、灼き尽くす。
そのさまを見たアルクェイドがぽんと手を打った。
「ああ、わたしもああすれば良かったかも」
弱い敵が細長い隊形で攻めて来るなら、爆撃1発で終わるよりローラー作戦の方が大勢攻撃できる。似た形態の宝具でより有効そうな使い方を見せられて感心したのだ。
(わたし、『知識』はあるけど『経験』は少ないからなあ。
サーヴァントって人間の中でも特に強くて戦闘経験も人生経験も豊かな人たちってことだから、一緒にいれば面白いかも)
アルクェイドがそんなことを考えながら太公望の後ろ姿を眺めていると、1人と1頭は敵軍を蹴散らしながらその最後尾まで行くのはさすがに無理だったらしく、途中で宙に浮いてこちら側に戻って来た。
到着した太公望に光己が声をかける。
「お疲れさま。あとは普通に迎え撃つだけかな?」
「そうですね、横槍が入らなければそれでいけるでしょう。
しかしまだ1千体くらいは残ってそうですが、魔力は大丈夫ですか?」
「うん、平気平気」
いかにカルデア本部からの供給があるとはいえかなりの消耗になるはずなのだが、やはり竜種は格が違うようだ……。
(それどころか、この特異点に来てから何だか体調いいんだよなー。
それに誰かに呼ばれてるような気がする)
しかし光己はイギリスに来たのはこれが初めてだから気のせい……いやそういえばエルメロイⅡ世が、魔術師の本拠地の1つである「時計塔」は大英博物館の地下にあって、そのさらに下に「霊墓アルビオン」があるとか言っていたが、アルビオンは大昔に亡くなったそうだからやっぱり気のせいだろう。
太公望はその辺には気づいた様子はなく、普通に安堵した顔を見せた。
「それは良かった。では僕はこのまま、四不相くんの上で」
四不相は口からビームを吐いて攻撃する技も持っているのだが、地上でやると前衛組に当たってしまう恐れがある。しかし空中から敵後方を狙って斜め下に吐く分には、その心配はないのだ。
それを聞いたバーヴァン・シーが光己に近づく。
「なるほど、確かにその方がやりやすいか。マスター、アレ出してくれよ」
アレとはモルガンにお願いして一緒に作った、
何かの役に立つこともあろうかと思って光己の「蔵」に入れてもらっておいたのだが、戦闘で使うことになるとは予想外だった。
「おお、アレか」
光己が靴を出して渡すと、バーヴァン・シーはさっそく履き替えて宙に浮かんだ。
パルミラの特異点でやった時より動きがずっとスムーズになっていたのを見た光己が驚きの声を上げる。
「おお、ずいぶん上手になってるな」
「まあな。靴コレクターとして下手っぴのままじゃいられねえし、何よりお母様と一緒に作ったんだから」
「なるほど、いつもながら親子仲いいなあ」
(バーヴァン・シー……楽しそうで何よりです)
なおその様子を横目で見ていたお母様は、娘が努力の成果を披露できてご満悦だったり、親想いなことを言ってくれたり、「我が夫」とも仲良くできていたりすることを大変喜んでいたが、人前というか戦闘中なので言葉と表情には出さなかった。
もう1人の中衛のヒロインXXは自前で空を飛べるのでこちらも浮上して、3人でアンデッド軍に矢弾とビームの雨を浴びせる。モルガンも空間転移で槍や斬撃を飛ばした。
それでも敵軍はまだ数が多く、しかも恐れや痛みを知らずがむしゃらに攻めてくるので遠距離攻撃だけでは止め切れない。しかし突破された先にはまだ前衛が3人もいた。
「あーあ、ここまで来やがったか。仕方ねえ、オレが直接あの世に送ってやるよ」
「うむ、私も騎士の務めを果たそう」
「グロいのは好きじゃないんだけどなー」
ノリはそれぞれ違っていたが……。
モードレッドとバーゲストの剣がグールとゾンビを引き裂き、ぶった切り、焼き払っていく。一方アルクェイドは武器を持たず、素手で彼らの頭を水風船めいて叩き割ったり、横蹴りで鞠のように吹っ飛ばしたりしていた。
「ブリュンスタッドさんはステゴロ派なのか……しかし確かに強いな」
ただ光己の目で見ても何らかの武術を修めているような動きではなく、身体能力でゴリ押しのように思えた。まあその身体能力たるや超A級なので、よほどの強敵でなければ問題なさそうだけれど。
惜しむらくはこの位置関係だとせっかく彼女が「スーパー真祖キック」とやらを披露してくれてもパンツは見えないことだが、今回のようなほぼ危険がない戦闘ではマシュの後ろ姿を鑑賞する余裕がある。何しろ彼女のインナーは股のVカットの角度がとてもえぐい上に、なぜかお腹と背中に大きなくり抜きがあって素肌を見せつけてくれる大変眼福な仕様なのだ。
あんまり役に立ったことがない鎧なんて外しちゃえばいいのに!
「先輩、何か変なこと考えてませんか?」
すると要らない時だけ勘がいい後輩が嫌疑をかけてきたので、光己は丁重に説明責任を果たすことをした。
「いや、真面目に戦闘のこと考えてるよ」
「本当ですか? ……まあそれはそれとして、私だけ何もしてなくて心苦しいのですが」
「うーん、気持ちは分かるけど前衛に行ってもらうわけにもいかないしなあ。
ここは俺の精神衛生面で役に立ってるってことでひとつ」
「先輩のお役に立ててるならいいのですが……」
そんな話をしている間にグールとゾンビはどんどん減って、もはやリーダーとおぼしき他より数段強めのグールと、その取り巻き数名のみになっていた。
「へえー。こんな短期間でここまで成長するなんて、それなりに素質あったのかしらね。
どっちにしてもここで終わりだけど」
「…………!!」
そしてアルクェイドの容赦ない一撃で、ついにアンデッド軍は全滅したのだった。
「はあー、終わった終わった! ありがとう、貴方たちのおかげで想定よりずっと楽だったわ。
でも返り血と返り肉片で服汚れちゃったわね。どうしよう」
「霊体化すれば全部落ちるよ」
「ああ、サーヴァントならその手があったわね!」
こうして前衛3人が身づくろいを終えたら、今後の方針について話し合うことになる。
「そもそも貴方たちはここで何をしてるの? 聖杯戦争?」
「ある意味そうだけど、普通のとは少し違っててね。俺たちはこの異変を解決して街を元に戻すために来たんだけど、そのためには聖杯持ってる元凶を退治する必要があるんだ」
「へえー、大変そうねえ。
あ、それだとこのグールやゾンビつくった吸血鬼が聖杯持ってる可能性もあるってこと?」
「ゼロじゃないけど、断言はできないかな」
「うーん、そっかあ」
するとアルクェイドは腕組みしてちょっと考えた後、また質問をしてきた。
「仮に別のやつが聖杯持ってたとして、それを貴方たちが取り上げたら吸血鬼はどうなるの?」
「元の歴史では吸血鬼はいなかっただろうから、いなかったことになるはずだよ。サーヴァントなら単純に座に還るだけかな。
あー、もしかしてブリュンスタッドさんは自分の手で吸血鬼を倒すことにこだわってるとか」
「ううん、その辺は気にしてないわ。
過程や方法なぞどうでもよいのだァーッ!って感じ」
「その台詞は負けフラグでは?」
というか何故この時代に現界したサーヴァントがこんなフレーズを知っているのか不思議だったが、そういえばアルクェイドは現代の服を着ているから、20世紀後半以降の生まれなのかも知れない。
「あははー。
……そういうことなら、わたしも貴方たちと一緒に行っていいかしら?
もし吸血鬼が聖杯持っててグールとゾンビも連れてたらさすがに1人じゃつらいし、貴方たちが異変解決すれば吸血鬼も消えるならそっちでもいいわけだし。
もちろん、吸血鬼と関係ない戦闘でも手伝うから」
ところでアルクェイドがこの特異点にいるのは吸血鬼を退治するためだけではなく、他にも大きな理由があるのだが、そちらは本人にもまだ自覚はない。
「うん、ブリュンスタッドさんなら大歓迎だよ」
美人で性格も良さそうな女性の加入を光己が断るわけがない。
こうしてアルクェイドが正式加入したのだった。