「それで、これからどうするの?」
アルクェイドは正式加入が決まると次にどうするか訊ねてきたので、光己は今行こうとしていた屋敷を指さした。
「あの家に住んでるフランケンシュタイン氏の安否を確かめに来てたんだけど、家の前でメフィストフェレスってヤツに襲われて、撃退したところでブリュンスタッドさんとアンデッド軍がやって来たんだ。だから改めてあの家に行くってとこかな」
「メフィストフェレスって確か小説の登場人物よね。ノンフィクションだったのか、それとも概念が実体化したサーヴァントなのか……どっちにしても悪魔が家の前で待ち伏せしてたのなら、そのフランケンシュタインって人はもう殺されたかさらわれたかどっちかじゃない?」
「うん、その可能性が高いとは思うけど一応は確かめないとね。手がかりが残ってるかも知れないし」
「それはそうね」
確かにそうなのでアルクェイドが頷くと、モードレッドが話に加わってきた。
「ただヴィクターじいさんはジキルと違って正真正銘の魔術師だから、気を付けろよ。あれこれと結界やら何やら仕掛けてやがって、知らずにあちこち触ると、サーヴァントでも多少痛い」
「あー知ってる、工房っていうんでしょそれ」
アルクェイドは魔術師について多少知識があるようだ。
ちなみにアルクェイドは対魔力がA+もあって、文明によって生じた干渉術式はほぼ通用しない……のだが、魔術的な武器は有効なので注意が必要である。
「おう、それそれ……って、いや待て。今は母上がいるから問題ないか」
建物の外は魔霧のせいで発見しづらいかも知れないが、屋内なら簡単だろう。魔術を使わない純物理的な罠は別だが、有能な魔術師ほどその手のものは好まないものだし。
「うむ、任せておくがいい」
そんなわけで屋敷に仕掛けられたいくつもの罠を片っ端から解除しつつ、手分けして探索を進める光己たち。そして書斎らしき部屋に、あの爆弾でも使われたのかひどく損傷した死体を発見した。
「……やっぱり遅かったか」
「ああ、これは間違いなくじいさんの遺体だ。仇は討ってやるから、安らかに眠りな」
モードレッドとバーゲストが遺体を庭に埋めに行き、残った者で部屋を調べると何やら書きつけが見つかった。
「博士が遺したものでしょうか。これを書いている最中に襲われたようです」
それには「私はひとつの計画の存在を突き止めた。名は『魔霧計画』。実態は、未だ不明なままだが。計画主導者は『P』『B』『M』の三名。いずれも人智を越えた魔術を操る、恐らくは英霊だ」と書かれていた。
この街に今も立ち込めている、魔力がこもった毒霧を使って何かするつもりということだろうか?
「M」というと先ほど対面したメフィストフェレスが頭に浮かぶが、ジャックとアタランテは主導者ではないようである。吸血鬼については全く分からない。
「持って帰ってジキルさんに渡せばいいか……」
せっかくなので他に遺品になりそうな物を探していると、彼が残した資料や魔術的物品の類とは別に聖晶石を2個見つけた。敵が英霊と分かったので、サーヴァントを召喚して対抗しようとしたのだろうか?
一応ジキルに渡すが、できればこちらで回収したいとも思う。。
「……うーん、この部屋はこんなもんかな?」
あまり長居したい部屋でもないので用が済んだら早々に引き払うことにして後始末をしていると、モードレッドが何故か1人で戻って来た。
「まだこの部屋にいたか。一つ面白いものを見付けたからこっち来い」
「面白いもの?」
言われるがままに光己たちがモードレッドについていくと、その部屋にはバーゲストと一緒に見知らぬ女の子が1人いた。
身長は光己とほぼ同じと女の子としては高めで、ウェディングドレスに似た感じの白い服を着ている。メイスのような棒を持っているのが花嫁というには少々物騒だけれど。
額には金属製に見える角が1本生えており、両耳の辺りにも大きなビスのようなパーツが付いていた。この屋敷の主がフランケンシュタインであることを考えると、もしかして彼がつくった人造人間であろうか?
ルーラーアルトリアが何も言わないので、少なくともサーヴァントではなさそうだが……。
「……ゥ」
女の子は自己紹介しようとしたようだが、言葉をうまくしゃべれないようだ。
「こいつは奥の部屋の棺に入ってたんだけど、そのおかげでメフィストフェレスに見つからずに済んだみたいだ。
一緒に入ってた説明書きによると、祖父ヴィクター・フランケンシュタインが制作した1体目の人造人間、ってことらしい」
「ほむ、やっぱり人造人間なのか。しかしこの時代に1人で作ったとは……」
2015年でもまだ作れていないのに大したものである。光己は素直に感嘆した。
さしあたって、「人造人間」とか「フランケンシュタインの怪物」などと呼ぶのはいささか失礼なので、二、三のやり取りの後「フラン」と呼ぶことになったのだが……。
「しかしこの子がサーヴァントじゃないのなら、魔霧には耐えられないよな。といってここに置いてくのも何だし、どうしようか」
「ご心配なく。先ほど話した通り、土遁の術で僕たちと一緒にジキル殿の家に行けばいいだけのことですから」
さすがは名高い道士にして軍師、光己の危惧は一瞬で解決されてしまった。
ただモードレッドによるとフランは呼吸をしていないそうで、当人もそれを肯定したから魔霧は平気かも知れないが、必要もないのに試すこともあるまい。
「しかしフラン殿を連れ帰る前に、ジキル殿に話しておくべきでしょう。アルトリア殿に預けた通信機を使えば済みますし」
「あー、それは確かに」
そうするとジキルは快諾してくれたので、これでようやくここでのミッションはすべて終了と相成った。結構な時間が経ったし色々あって精神的にも疲れたので、そろそろひと休みしたいものである。
「それでは帰りましょうか。皆さん、僕のそばに来て下さい」
「おお、お待ちかねの土遁の術だ……」
そして太公望が術を使うと、目の前の景色が歪んだように見えたのに続いてエレベーターに乗った時のような移動感が数十秒ほど続いた後―――光己たちはジキルの家の前に到着していた。
「おお、これは速い上に器用……封神演義で何度も使われてただけのことはあるな」
「事前の準備もごくわずかで済むみたいですし、確かに優れた術ですね」
「東洋の魔術師もなかなかやるわねえ!」
「なるほど、世界に偏在する元素のエネルギーを借用して高速移動に用いているのか。これも実に興味深いな」
光己やマシュやアルクェイドあたりは素直に感心していたが、モルガンは相変わらず研究熱心であった。単に向学心が強いというのではなく、何らかの思惑があるのかも知れない……。
それはともかく、光己たちがジキル宅に入って彼への報告は元々協力者であるモードレッドに任せて休憩していると、ジキルがまた依頼をしてきた。
何でもソーホーエリアに、屋内にまで入り込んで市民を襲う、人間くらいの大きさの本が現れたらしいのだ。当然退治なり何なりしなければならない。
今までは自動人形その他の敵対存在が屋内まで侵入した例は確認されていないので、新しい局面に入ったといえよう。悪い意味でだが。
具体的な被害は、その家の住人を眠らせてしまうというものだ。魔術なのか薬物の類なのかは分からないが、もしサーヴァントが魔術でやっているのならこちらのサーヴァントにも効く可能性はあるので用心しなければなるまい。
なおジキルはフランケンシュタインの遺品や資料は受け取ったが、聖晶石は要らないそうで光己にくれた。喜ばしい話である。
「僕は仮にこれを『
頼み事ばかりでまことに心苦しいのですが……」
「構いませんよ。貴方は外に出られない分、自身にできることをしているのですから」
なのでアルトリアはジキルを責める気はない。
ただ壁掛け時計を見ると4時50分で、もう日暮れが近いのだが……
「各家庭に置いてある水や食料がなくなったら街が全滅するということは、持ってあと3日くらいでしょうからね。そうなればこの特異点の人理も崩壊になるでしょうし、多少のリスクは覚悟の上で急がねばなりません」
夜になるとただでさえ魔霧のせいで狭い視界がますます狭くなる上にジャック・ザ・リッパーの危険度が増すから、なるべく日没後は外に出たくないのだが、締め切りがこうも厳しいのではやむを得ない。アルトリアとしても苦渋の発言ではあった。
「それはそうですが、それなら元凶である魔霧の発生源を叩くべきでは?
姉上か太公望さんに探査してもらって……いえ太公望さんには輸送要員としての仕事がありますから姉上一択ですか」
これを提案したのはヒロインXXである。なるほどこの調子で目先の問題ばかりに対応している内に3日間が過ぎ去ってしまっては本末転倒にも程があるというものだ。
ご指名されたモルガンもこの意見は軽視できない。
「そうだな。おそらくそこが連中の本拠地で、聖杯もあるのだろうし。
この特異点にはいろいろ興味があるのだが、私がやるしかないか」
カルデア本部に依頼するという手もあるのだが、モルガンはそれは口にしなかった。
ここでは魔霧のせいでマスターの目の前にいる者がサーヴァントかどうかの識別すらおぼつかない様子なので、そんな広域の探査を頼んでも無理だと分かっているので。
「しかしこの魔力の濃さと広さだと多少時間がかかるから、それまでは目の前の状況を追うしかあるまい。
そちらは任せるが、もし時計塔とやらに行くことになったら教えるように」
モルガン陛下はサーヴァントになってもまことに勉強熱心であった……。
もしこの台詞をオルガマリーやエルメロイⅡ世が聞いていたら血相を変えて止めるか、それとも人理修復が最優先と考えて見て見ぬフリするか難しいところである。
サーヴァントたちは時計塔に思い入れなんて無いので、誰も気にしなかった。
「話はまとまったか? じゃあそろそろ行こうぜ」
するとモードレッドが出発を促してきたので、光己はもう少し休憩したかったが重い腰を上げることにした。
モードレッドやジキルの前だと女の子、特にルーラーやXXとはいちゃいちゃしづらいので、APの回復が遅いのだが仕方がない。
「それじゃ留守番はモルガンとバーヴァン・シーになるのかな?」
「フランもだな。魔霧は平気だとしても、戦力になるかどうかは別だからな」
「ほむ、まあここで試すわけにもいかないしそうなるか」
「ソーホーエリアに行くのであれば、フランケンシュタイン殿の家の前まで土遁で行って、それから徒歩で行くのが早いでしょう。アルトリア殿が言ったように、時間は貴重ですからね」
「なるほど、それは助かる」
こうしてフランケンシュタイン宅前から、ジキルの協力者がいるという古書店に向かうカルデア一行。ルーラーと太公望のおかげで不意打ちを受ける危険は少ないので、モードレッドはマシュと「魔本」についてとか生前の頃のブリテンのことなどを話していたが、どこかムズムズするものを感じていた。
(ああもう何だか面倒くさいな!? いや問題はオレの性根の方なんだが)
マスターの方はモードレッド自身より頑丈ぽいというだけでも能力的には十分すぎるし、メンタル面も魔術師らしからぬ一般人的のほほんぶりとはいえ、本物の悪魔やアンデッドの大軍に嫌悪は見せても恐怖は見せなかったからケチをつけたいと思うほどの不満はない。
マシュについては別に嫌いではないが、能力を受け継いだだけの別人なのに、性格面にも生前の盾ヤロウと似た所があるのが何とも落ち着かなかった。
(でもそれに非があるってわけじゃねえしな……。
能力はだいたい受け継げてるみたいだし)
なのでその辺りは気にしないようにしていると、そのマスターが新入りと何か聞き捨てならない話をしているのが聞こえた。
「そういえばさ。わたしはマスターがいないはぐれサーヴァントってやつなんだけど、普通はサーヴァントはマスターがいるものなんじゃなかったっけ?」
「そだな。はぐれサーヴァントってのは聖杯か抑止力に召喚されてるらしいんだけど、基本的にはマスターがいないと現界できないんだし。
ただマスターは大抵サーヴァントより弱いから守る必要があるっていう点では、メフィストフェレスが言ってた『マスターがいるのは哀れ』ってのも間違いではないかな」
「なるほどねー。でもサーヴァントの強さってマスター次第っていう話もあるじゃない?
マスターとの絆とか援護とか、それ以前にマスターの能力でサーヴァントの能力も変わってくるんでしょ?」
「ああ、それはあるな。俺が契約してる皆も、付き合いが長くなると少しずつ強くなってるし」
「へえー、やっぱりそうなんだ」
アルクェイドはその話にいたく関心を持ったようだ。
「それならわたしとも契約しない? 魔力には困ってないけど、わたしが強くなれば貴方たちもお得でしょ?」
アルクェイドは星の精霊なので自然の魔力をいくらでも引き出せるから、今言ったように魔力には困らないのだが、サーヴァントとして現界した以上はその性質も持つことになる。つまり「世界卵」ではなく「霊基」の筐体であるがゆえに、「原初の一」という「戦闘相手より少しだけ出力が上になる」という能力がかなり低下しているのだ。
なので強くなれるならなっておきたいという実利的理由と、サーヴァントとしての現界という珍しい機会にマスターとの契約も体験してみたいという好奇心からの発言である。
マスターとなる彼とは性格面の相性は良さそうだし。
「うん、ブリュンスタッドさんなら喜んで」
光己は秒でOKした。彼女の同行を認めた時点で、契約を断る理由もないのだ。
「ありがとー、貴方ってそういう人よね。
それでどうすればいいの?」
「そちらは難しいことは何もないよ。俺が呪文唱えて最後に呼びかけるから、それにOKしてくれればいいだけ」
英霊の座からの召喚だといろいろ面倒だったりリソースが必要だったりするのだが、目の前のはぐれサーヴァントと契約するだけなら本当にこれだけで済むのだ。
「そうなんだ、楽でいいわね!」
「うん、それじゃさっそく。
―――告げる!
汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――。
我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」
「わあ、何かいかにもそれっぽいわね!
OK、契約締結よ!」
光己の詠唱にアルクェイドがそう応えると、彼の右手の甲の令呪から膨大な魔力が放出され、アルクェイドとの間に魔力のラインを形成した。
これでサーヴァント契約が結ばれたことになる。
「うっわぁ、何これ!? 何だかあったかくって力強いのが流れてきて……それにホントに出力が上がった!?」
「おお、何度もやってるけど成功するとやっぱり感慨深いな……」
光己は人類を救うための戦いに身を投じてから何ヶ月も経っているが一般人気質はまだ抜けていないので、歴史上の英雄とか、今回は真祖の姫君なんてよくは分からないが凄そうなお方と魔術的な盟約を結ぶというのは大変なビッグイベントなのだった。
「それで、具体的にはどんな風に?」
「まずは標準の出力が上がったのと、性能が落ちてた『原初の一』がだいぶ改善されたってところかしら」
「原初の一?」
何やら凄そうな名前だが初めて聞くスキル名だ。どんな効果なのだろう?
「わたしは戦闘する時は地球からのバックアップで敵より一段上の出力を得られるんだけど、霊基の体だと宝具を出してる間普段よりちょっと強くなるだけのものになっちゃうみたいなのよね。
それが一応、上限はあるけどだいたい戻った……って、よく考えたらとんでもない効果ね。貴方絶対ただの魔術師じゃないでしょ」
「地球からのバックアップ!? ブリュンスタッドさんってやっぱりすごい人、じゃない吸血鬼だったんだなあ」
アルクェイドは契約の効果に驚き、光己もアルクェイドの素性に驚いていたが、「原初の一」についてはもう少し詳しく知りたいところだ。
「……ってことは、今のブリュンスタッドさんは天下無敵ってこと?」
「そうでもないわ。能力的に『少し』上回るだけだから上手に立ち回られたら苦労するし、たとえば敵が
「なるほど、世の中そこまで都合よくはないのか……。
するとたとえば一般人が荷電粒子砲持ってるとか、あるいは今の俺たちみたいに味方が大勢いる場合はどうなるの?」
「そういう場合は普段の状態のままね。さっきの戦いではそうだったわ」
「ほむ、普段であれ、いや今はそれ以上なのか……それなら文句はまったくないな。
それで上限ってどのくらいなの?」
「ええと、普段の数百倍ってとこかな? 古代の上位竜種みたいな存在規模になるわね」
「古代の上位竜種」
それはもしかして、光己自身の竜モードのことなのではないか? いや、よそう、俺の勝手な推測で彼女を混乱させたくない。
とりあえず、今ここで正体を明かすのはやめておくことにした。アルクェイドはともかく、モードレッドは生前に竜種を含むいろんな幻想種と戦ったそうだから竜種に隔意があるかも知れないし。
そこでふと、光己はそのモードレッドがこちらを見ているのに気づいた。
「あ、モードレッドも契約する?」
「え!? あ、オレは……うーん」
はぐれのままでいるよりマスターと契約した方が強くなるのは分かっているが、光己は父上と母上に認められて契約した人間で、だからこそモードレッドとしてはそれに追従するのではなく、みずからの眼でしっかり見極めた上で判断しなければならない。我ながらめんどくさい性分だとは思うが仕方ないのだ。
「いや待て。もしかしておまえと契約したらカルデアってとこに行けるのか?」
「いや、今までの例だと魔術王がつくった特異点では無理だった」
「そっか、ならまだやめとく」
ただ彼のことが嫌いというわけではないので、含みは持たせておくことにした。
それでも光己は断られた形になるが、特に気にしなかったようだ。
「そっか、まあ仕方ないな」
光己にしてみればまだ会ったばかりなので、むしろアルクェイドと契約できたのが僥倖という感じだから、断られたから嫌われてるとか、そこまで思いつめはしないのだった。
アルクェイドと仲がいいのにヤキモチを焼いたメリュジーヌがくっついてきたので、考えこんでいる暇もないし。
「お兄ちゃん、新入りに構うのもいいけど最強で最愛な妹を放置するのは良くないと思うなあ」
「あー、ごめんごめん。そういえばメリュはさっきは留守番だったしな」
「メリュジーヌ、陛下がいらっしゃらないからといって任務中に私情を出すのは感心しないぞ。
第一目的地は目の前だしな」
そしてバーゲストが言った通り、一行はジキルが指定した古書店の前に到着したのであった。
アルクェイドの「原初の一」による地球からのバックアップは、味方がいたらその分減るという話をしていますが、光己が人間モードの時は人間の出力、竜モードの時は竜の出力で計算されます。
あと敵味方とも武器や戦術はカウントしません。この辺は原作通りのはず……。