ゾンビの大軍は当然に移動は遅い上にカルデア勢が逆に非常に速いので、
しかしその手前にサーヴァントが1騎いるのをルーラーアルトリアが探知する。
路上に佇んだまま動く様子はなく、むしろカルデア勢が来るのを待ち受けていたようだ。ただし敵か味方かは接触してみないと分からない。
「真名、アルトリア・ペンドラゴン。ランサーです。宝具は……って、オケアノスで会ったランサーオルタですね」
ただ今回はランジェリーではなく、黒い金属鎧を着ている。おかげで情緒は安定しており、カルデア一行を見かけると普通に話しかけてきた。
「来たか、思ったより早かったな。
おまえたちも承知のように時間がないから、今は手短に言おう。私はおまえたちの味方だが、この霧をつくった黒幕とは別の第三勢力がいる。気をつけることだ。
今ここに来ている吸血鬼がどの陣営に属しているのか、あるいは一匹狼なのかは知らんが」
「あ、俺たちのこと覚えててくれたんですね。良かった、それなら話が早い」
光己が素直に喜ぶと、ランサーオルタは逆に容赦なくクギを刺してきた。
「ああ。ただし記憶がある者が必ず味方になるとは限らんから、油断はせぬことだ」
「あー、はい。分かりました」
言われてみれば、記憶があるのに敵になったアタランテという実例がある。光己は今度も素直に頷いた。
「うむ、では行くぞ。
連中は西側から来ているが、数が多いからか全員が1列に並ぶのではなくその辺の道路を適当に分かれて進んでいる。スコットランドヤードが最終目的地かどうかは分からんが、迎撃しなければ侵入して中の人間を喰い殺す可能性はあるな」
ランサーオルタはそれで会話を打ち切ると、馬首を返してスコットランドヤードの方に向かった。
光己たちもそれを追ったが、敵が散らばっているならこちらも分けるべきだろうか。それともこちらは一団のまま各個撃破するのが賢明だろうか?
―――しかし相談する暇もなく、一行はヤードの敷地のすぐ北まで到着していた。壁を跳び越えて中に入り、ついで建物の上に跳び乗って状況を窺う。
するとヤードの西側の道路という道路にゾンビが群れをなして移動しているのが見て取れた。家屋には侵入していないようなので、ランサーオルタが言った通りヤードを襲う気なのかどうかは分からない。
「どっちにしても放置はできないけど、どう戦えばいいんだ? こっちは俺とシェイクスピアさん入れても14人しかいないからあんまり分散するわけにはいかないし」
「そうですね、この人数でヤードの四方を守るというのは現実的ではありません。
マシュ殿、宝具かスキル……いや来るのがグールやゾンビだけなら、ブリュンスタッド殿に高い壁をつくってもらえば足りますか」
「そうね、吸血鬼本人が来るのでなければ大丈夫だと思うわ」
リーダーの意見募集に軍師が作戦を提案すると、依頼を受けた姫君はごくあっさりと了承した。
白っぽい石の壁がヤードを囲んでそそり立つ。ゾンビ軍が到着したのはそのほんの10秒ほど後とギリギリのタイミングであった。
光己たちが壁の上の通路から様子を窺っていると、ゾンビたちは突然壁ができたことに当惑して、ヤードの周りを頼りない足取りでうろうろ歩いている。壁に登ろうとか壊そうとかする者はいないようだ。
「危ないところでしたが間に合いましたね!
それでブリュンスタッド殿。もし大元の吸血鬼を先に倒した場合、手下のグールやゾンビはどうなるのですか?」
「残念ながら、いきなり土に還るとかそういうことはないわね。でも統制された行動は取らなくなるから……あー待って、それは縛りがなくなるってことでもあるから民家に押し入るようになる可能性も……いえ、戸締りしてある家に押し入るほどの知能は残らないかな。絶対とは言えないけど」
ドアや窓が閉めてあって人の姿が見えなければ、壁や塀と区別がつかず中に入ろうとは考えないということだ。哀れなものだった。
「ふーむ……万全を期すなら先にゾンビを掃討してから満を持して吸血鬼に当たりたいところですが、それが終わる前に吸血鬼がここまでたどり着く可能性の方が高そうですね」
ただそれに対しては先ほど彼自身が言いかけたように、吸血鬼が壁を越えたらマシュがスキルで建物を守るという手はある。
吸血鬼がサーヴァントならルーラーが探知してこちらが好きなタイミングで対決を挑むことができるから、これが最善の策だと思われた。
ゾンビやグールは非力とはいえ万近いとなると、こちらが消耗しすぎて肝心の対吸血鬼戦が不利になる恐れはあるが、残留組とアルクェイドは問題ないし。
「じゃあそれでいこう。ここに残るのはマシュと……アルトリアとメドゥーサさんとマーリンさんかな」
これは前衛と遊撃兼逃走と魔術支援の役割を期待したもので、出撃組が戻るまで吸血鬼を抑えておく役割としては順当といえよう。マーリンは「えー、初戦闘がキミと別々だなんて寂しいなぁ」などと挑発的なことを言い出したが、どこから見ても冗談のようだった……。
「それじゃ4人とも、あとお願いね」
「はい、先輩も皆さんもお気をつけて」
実のところ光己はゾンビ軍団との戦闘、というか戦闘自体あんまりしたくないのだが、マスター及びリーダーとして現場に出る義務があるのだった。
―――いよいよ開戦である。敵は前回より数倍も多いが同時にかかって来られるわけではなく、またサーヴァントは魔力さえあれば身体的な疲労というものはないので、展開は前回とそう変わらない。違うのは吸血鬼に備えて宝具を温存している点くらいだろう。
「気分的には最悪だが、新しい父上の前だから気は抜けねえからな!」
「まさかおまえがブリテンを守るために現れるとは意外だったが、マスターと契約していないなら敵将と会う前に魔力切れにならぬよう気をつけるのだな」
「おう、騎士なら体力の把握は当然だぜ!」
ランサーオルタが持っている槍は生前モードレッドを殺したものなのだが、今はいろいろ納得しているからかわだかまりはないようだ。
―――その戦いを、少し離れた高い建物の上から見下ろしている者たちがいた。
「うーん、これだけ霧が濃いとサーヴァントの視力でもあまりはっきり見えませんね。
向こうにもルーラーがいるというなら、これ以上近づくわけにはいきませんし」
そう言ったのは黒い服を着て片手に長剣を持った、温和そうな青年である。名を天草四郎といって、ランサーオルタが言及した「第三勢力」のリーダー格である。
その傍らで同じように戦闘を見ていた若い女性、アタランテが話しかける。
「彼らと合流はしないのか? 目的が衝突するわけではないんだろう?」
「難しい所ですね。貴女とて彼らの事情のすべてを知っているわけではないのでしょう?
それに貴女とナーサリーはともかく、ジャックを彼らが許すとは思えません」
「それは……」
アタランテの顔が苦悩にゆがむ。
光己はオケアノスで「カルデア現地部隊は生前のことはあまり追及しないスタンス」と言っていたが、この特異点で人を殺していたのは許容できないだろう。今は天草のサーヴァント探知スキルのおかげで、魔霧から現界したサーヴァントを見つけて魂喰いをさせることでジャックに「人間は」殺させずに済むようになっていたが、それで既遂の罪が消えるわけではないのだから。
それに彼らのチームにはジャンヌ・ダルクがいた。昨日会った時は姿が見えなかったが、もしここに来ているなら「あの聖杯戦争」の時のようにジャックを浄化しようとするだろうから、やはり諍いは避けられなさそうである。
「しかし貴女の話通りであればカルデアの目的は特異点の修正であって、聖杯を持ち帰るのは絶対条件ではないですからね。横取りしても
どうやら天草は特異点修正を邪魔するつもりはなく、カルデアと黒幕が争っている隙に聖杯だけかすめ取るつもりのようだ。
しかもその聖杯にかける願いを「悪いこと」だとは思っていない模様である。何を望んでいるのであろうか……。
「まあ、そうなのだが……」
アタランテは天草の考えを否定はしなかったが、その表情は冴えないままだった。
光己たちはゾンビやグールを倒しつつ西に向かって進んでいたが、ついにルーラーがサーヴァントの存在を探知した。
「ここからさほど遠くない所に1騎いますね。ゾンビの足に合わせて、ゆっくりこちらに移動しているようです。
どうしますか?」
「ほむ、じゃあ作戦通り、なるべく接触を遅らせる方向で」
「はい」
光己たちは道を曲がって、吸血鬼のサーヴァントとは付かず離れずの距離を保つことにした。吸血鬼はこちらの存在を知ってか知らずか、歩む速度に変化はない。
そしてついに、吸血鬼はヤードを囲む壁が見える距離まで近づいた。
「何だあれは? ただの石の壁のように見えるが……?」
吸血鬼は壮年の背が高い男性で、いかにも高貴そうではあるが、凶悪な、というか憤怒に満ちた雰囲気を漂わせている。着ている黒い服は王侯貴族が着るような上等なもので、手に持った槍も立派な
それもそのはず、男性はフランスの特異点にも現れたヴラド三世、つまり生前は実際に王だったのだから。
「ゾンビどもにヤードに侵入されぬよう、サーヴァントがつくったものと考えるのが順当か……? 余自身が襲うのでなければ、ただの石で十分だからな」
ヴラドはバーサーカーではあるが、カルデア側の思惑を見抜く程度の知性は残っていたようだ。
しかしバーサーカーが何用で警視庁を襲うのであろうか。
「それにしても王に囮をさせるとは、あの不埒な魔術師めが……。
確かに邪魔をする者は現れたが、彼らと余が戦っている間に盗みを働こうなどとはせせこましいにも程がある」
どうやらヴラド自身の目的ではなく、黒幕の目的のために囮をしているだけのようだ。
このヴラドという人物、生前はキリスト教世界を守るために戦ったにも関わらず、サーヴァントとして現界してみたら何故かキリスト教では忌まれている吸血鬼になっていたことに深い憤りを抱いている。なのにそれをいいことに手下としてグールやゾンビを作らされ、しかもその役目は王たる者には不似合いな囮ということで怒りは高ぶる一方であった。
できることなら今すぐマスターとその取り巻きどもを八つ裂きにしたいのだが、彼らは聖杯を持っているのでその強制力は強く、ヴラドは叛逆するどころかせめてもの抗議として自害することもできない有り様なのである。
「願わくば彼らが余を、そして邪悪の輩を討ち果たす心正しき強者であらんことを……」
ゆえにヴラドはこんなことを考えているのだった。残念ながら手加減の類は、受けている強制力的にも王としての意地的にもしてやることはできないが……。
……そして壁のすぐ手前まで来て、ようやくヴラドは「邪魔をする」いや「してくれる」者たちの姿を発見した。壁を背にして、さらにご丁寧にも近くのグールとゾンビは掃討して万全の態勢で待ち受けていたようだ。
人数は10人ほどとかなり多い。個々には……強者らしき者もいれば、そうではなさそうな者もいる。
「ふむ……今の余の前に立つ度胸は褒めてつかわすが、覚悟はできておるのだろうな?」
その低く重い声は怒れる王の威圧感と迫力に満ちていたが、恐れ入る者はいなかった。
それどころか、1歩前に出てタンカを切ってくる者までいた。
「何言ってやがる。テメエこそオレの国でこんなふざけたマネしやがって、生きては帰さねえからな。
このモードレッドが直々に、1対1で細切れにしてやる」
モードレッドは最初にゾンビを見た時も不快感をあらわにしていたが、1人でやると言い出すあたり元凶を前にして少々冷静さを失っているようだ。
確実に勝つことを優先するなら当然皆で囲んで叩くのがいいのだが、モードレッドの性格だとそれを言ったら「オレじゃ奴に勝てねえって言うのか!?」とか言って怒り出しそうである。
しかし平気な顔で割り込む者もいた。
「えー、それじゃわたしの立つ瀬ないんだけど」
「何!? って、ああ、おまえは吸血鬼を倒すためにここにいるんだったな……しょうがねえ、2人でやるか。
父上たちは邪魔が入らないよう警戒しててくれ」
しかしアルクェイドに対しては彼女の仲間入り理由的に考えて拒否しにくいらしく、素直に参戦を受け入れた。
警戒を依頼されたランサーオルタがやれやれと軽くため息をつく。
「まあ、モードレッドにしては上出来というべきか……」
「うーん、それはまあ」
確かに叛逆の騎士がブリテンを守るために騎士王と共闘してくれるというだけでも御の字なのだから、多少血気に逸る程度はやむなしだろう。
ヴラド三世がフランスで遭った時と同じであれば、モードレッドとアルクェイドの2人がかりなら遅れは取るまい。とりあえず任せておいて、何かあったら割り込むという形で良さそうである。
……と光己が考えた時、ルーラーがまたサーヴァント出現を報告してきた。
「マスター、東側からサーヴァントが4騎接近しつつあります。中立のままなのか、すでに敵になっていて挟み撃ちをもくろんでいるのかは分かりませんが」
「ほえ!?」
分からないといっても、このタイミングだと挟み撃ち狙いの可能性が高い。ヤードの中に、黒幕にとって重要な物品でもあるのだろうか?
そこにアルクェイドが方針を提案してくれた。
「マスターさんたち、あっちに行ってもいいわよ。こちらは2対1だしね」
「そっか、じゃあXXとランサーオルタに抑えをお願いするかな。俺たちはマシュたちと合流していくから」
これはヴラドがモードレッドとアルクェイドを振り切ってヤードに入ろうとしたら妨害しろということであり、XXとランサーオルタを指名したのはモードレッドは父上に見ていてほしいはずだからということでもある。敵4騎と戦うのにマシュたちを遊ばせておくのはもったいないという意味もあった。
そのあたりの思惑は、4人にすぐに通じた。
「なるほど、そういうことですか。了解しました!」
「おう、なかなか気が利くじゃねえか。父上の前でブザマなとこ見せたりしねえから、安心して行ってきな」
「うん、4人ともよろしく」
というわけで、光己たちは新たなサーヴァントに対処するため東側に向かったのだった。
ロンドン編は原作でもAPO勢が多いシナリオですが、その比率がさらに高くなりました(ぉ
とりま天草の「双腕・零次収束」はオミットです。マシュとジャンヌとキャストリアの宝具をまるごと打ち消した上でダメージが全部届くとか理不尽なので!
バニ王VSセミラミスの空中戦艦対決とか書いてみたいですが、ロンドンがひどい事になる悪寒。