FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第222話 スコットランドヤード防衛戦

 光己たちは壁を跳び越えてスコットランドヤードの中庭に入ると、まずはマシュたちと合流して東側に移動しつつ事情を説明した。ついで東壁の上に跳び乗って、地上を観察してみる。

 まだ残っているゾンビたちがヤード周辺の道という道を群れ歩いているが、敵(と思われる)サーヴァント4騎はルーラーアルトリアの探知によると、まだそこまで到達していないからか普通に街路を歩いているようだ。ゾンビたちがいる地域に着いたら、倒す理由はなさそうなので地上を歩かず建物の屋根の上を跳び移って来ると思われる。

 庁舎の中の人たちが騒いでいる声がかすかに聞こえるが、敷地内での戦闘にでもならない限り建物から出て来ることはないだろう。

 

「うーん。屋根の上で戦うのは面倒だから、そうなる前にこっちから出向いた方がいいのかな? それとも空を飛べる人は逆に有利になるからそっちの方がいいとか」

「そうだねえ。キミは弓兵に狙撃されるのを気にしていたけど、私が幻術を使えばその範囲外からは狙いをつけられないことを参考として述べておこうかな」

 

 建物の上で戦う場合、そこと同じかそれ以上高い場所からは狙撃可能になるが、マーリンはそれを防ぐことができるようだ。さすがアーサー王の宮廷魔術師だっただけのことはある。

 なお今いるメンバーで飛べるのは、光己以外ではメリュジーヌと太公望とメドゥーサ、あとマーリンは自分が出した魔力塊の上に乗って飛ぶということができるらしい。これなら囲んでボコれるから、路上で戦うより有利そうだ。

 

「よし、それで行こう。つまりしばらく待機かな」

 

 そういうわけで一同がじっと待っていると、やがて4騎はゾンビの圏内に入ったのか建物の上に乗ったようだ。さっそくカルデア側も出発して、山形ではなく水平の屋根の建物を選んで対峙する。

 同時にマーリンが幻術を使い、ルーラーも真名看破を……するまでもなく、先頭にいたサーヴァントには見覚えがあった。

 

「メフィストフェレス……敵で確定ですね!」

 

 残る3人は白い服を着た学者風の若い男性、黒い網のレオタード風の肌着の上に黒い布を巻きつけているだけの煽情的な服装の少女、そして白い和服を着た若い女性である。3人とも初見だが、あの悪辣な殺人悪魔と同行している時点で悪の手先と断定していいだろう。

 光己は即座に攻撃を指示した。

 

「よし、攻撃だ!」

「はい!」

 

 アルトリアとメリュジーヌとバーゲストが声もかけずに斬りかかり、太公望とメドゥーサはそれぞれの乗騎に乗って空から大回りしてメフィストフェレスたちの背後に回る。マーリンはサーフボードのような形をした魔力塊をつくって真上に浮上した。

 シェイクスピアはいつも通り、光己と一緒にマシュの後ろで待機である。まあ武闘派サーヴァントが狭い場所で入り乱れる混戦の中で、作家に的確な支援をしろという方が無理だから順当ではあるのだが。

 ルーラーは例によって真名看破を始めたが、それより戦闘が始まる方が早い。

 

「ちょ、いきなり一斉攻撃ですか!?」

「おおぅ!? これはこれは、昨日お会いした正義のサーヴァント様がたではありませんか! もしかして私たちをお探しだったということですかな」

 

 名前も用件も言わず誰何もせずに突然攻撃するという蛮行に白衣の男性は当惑して一瞬硬直してしまっていたが、メフィストフェレスは身に覚えがあるので即応していた。メリュジーヌの剣を素早く鋏で受ける。

 黒網の少女も反応が速く、忍者が使うクナイのような黒い刃物を投げてきた。和服の女性は何故か服を変える……と思いきや、体長2メートルを越す恐竜に変身する!

 

「アイエエエ!? 恐竜!? 恐竜ナンデ!?」

「え、ええと。彼女は鬼女紅葉(きじょこうよう)、宝具は『紅葉狩(もみじがり)』、単に突進して咬みついたり、前腕を大きくして爪で切り裂いたりするだけのようです。しかしあの体格で暴れたら屋根が落ちそうで心配ですが、バーサーカーみたいなので仕方ありませんね……」

 

 あまりにも想像外な変身に光己が驚愕していると、ルーラーは最初に彼女を看破して教えてくれた。

 鬼女紅葉は平安時代の人物で、戸隠山で平維茂に討ち取られた盗賊集団の首魁だったとも、近辺の里人に読み書きを教え、病を治す貴女だったともいわれる。光己はそこまでは知っていたが、恐竜になる理由は分からなかった。

 

「まあいいや、暴れられる前に退治! もしくは道路に蹴り落として」

「うむ、では私が!」

 

 するとカルデア側最重量級のバーゲストが彼女の鼻先を抑えにかかった。紅葉が前情報通り前腕を大きくした上で掴みかかってきたのを、自分も前に出て彼女の手首を剣で受ける。

 

「む、硬い!?」

 

 バーゲストはこれで紅葉の片手を切り落とせると思ったのだが、意外にもわずか数ミリ程度の軽傷しかつけられなかった。しかも紅葉は腕力も強く、バーゲストは危うく押し負けてよろめきそうになったところで、その勢いのまま後ろに跳んでいったん間合いを広げる。

 ―――これはある意味当然の結果かも知れない。年月を重ねたモノほど神秘が濃いというのなら、恐竜の神秘は妖精や人間とは文字通りケタが違うのだから。

 ただし紅葉の場合は本物ではなく、恐竜に変化しているだけだからこの程度で済んでいるともいえるだろう。いずれにしても侮りがたい難敵だ。

 

「なかなかやるな。全く、汎人類史に来て以来強者が多くて退屈する暇もないではないか!」

 

 当のバーゲストはむしろ嬉しそうだったが……。

 一方メフィストフェレスと戦っているメリュジーヌは理想の騎士の名を冠しているだけあって剣の技量は素晴らしく、すでに彼に何ヶ所も深い傷をつけており宝具を使う暇も与えていない。アルトリアも黒網の少女に接近して剣の間合いにまで踏み込んでおり、剣と刀で打ち合っているが優勢のように見える。この2組は放っておいても勝てそうだった。

 

「少女の真名は望月千代女、アサシンです。宝具は『口寄せ・伊吹大明神縁起(くちよせ・いぶきだいみょうじんえんぎ)』、ヤマタノオロチなる邪神の分霊を使役して攻撃対象を呪殺するというものです。

 白衣の男性はパラケルスス、キャスターです。宝具は『元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)』、一時的に神代の真エーテルを擬似構成して周囲を破壊するというものですね」

「ほむ、パラケルスス……もしかしたら『P』かも知れないな」

「そうですね、優先的に狙いましょう」

 

 紅葉と千代女は戦闘力はあっても、魔霧絡みの陰謀のコアな部分には関わっていないだろう。ここはキャスター2騎を先に倒すのが得策と思われた。

 

「よし、それじゃ空にいる3人はパラケルスス狙いでお願い!」

 

 光己とマシュとルーラーとシェイクスピアが控えに回っていても人数的には6対4で有利である。前衛3人が一騎打ちしている間に、パラケルススを3人がかりで倒そうという意図だった。

 

「承知しました。では四不相くん、お願いします!」

 

 それに応えて、まず四不相がパラケルススの背中を狙ってビームを吐く。パラケルススはどう見ても非武闘系だが何らかの感知能力があるのか、ぱっと横に跳んで避けた。

 そこにマーリンがまさにサーフィンのような動きで突撃する。サーフボード型魔力塊の先端をぶつけようという、可憐な容姿にそぐわぬ過激な攻撃方法だ。

 

「ぐはぁ!?」

 

 ボードの先端が腹にずどんと命中して、パラケルススが身体を「く」の字に曲げながら吐くような呻きをもらす。

 マーリンの方は命中した直後にボードから跳び上がると、体操選手めいた身軽さで空中でトンボを切って、戻って来たボードの上にまた着地した。魔術一辺倒ではなく、身のこなしも優れているようだ。

 

「おお、やはりガーターベルト付き、それも黒か。なかなか大人だな……」

「おやおや、戦闘中だというのに私のパンツなんか見ていていいのかい?」

 

 ところでマーリンが宙返りした時に光己は彼女のスカートの内側を鑑賞させてもらうことができたのだが、うかつにもその喜びを口に出したためバレてしまった。しかしマーリンは躍起になって怒ったりせず、婉麗な口調で軽くたしなめるだけで済ませる辺り光己評の通り大人であった。

 

「先輩!?」

「待て、あわてるなマシュ。これは孔明の罠なんだ」

「なぜここでⅡ世さんの名前が出るのですか!?」

「じゃあマー、いや夢魔の罠ってことで。うん、これなら精気目当ての誘惑ってことで筋が通るな」

「それは通してはいけない筋では!? とにかく後でお説教です」

 

 まあその分、後でマシュにお説教されるのだけれど。

 そしてメドゥーサがペガサスの背中から屋根の上に跳び下りて、パラケルススの背後から釘剣を投げつける。パラケルススは腹の痛みをこらえつつも横に跳んで何とか避けたが、その避けた先に飛んできた打神鞭を肩に喰らって転倒した。

 

「ぐぅぅっ……頭に受けるのだけは避けましたが、これはもう戦えませんね。

 私はここで斃れるべきなのでしょうが……まずは、役を果たさねばなりません」

 

 そう言うなり、パラケルススの姿がふっと消え去る。霊核を破壊されて英霊の座に退去したのではなく、どこか別の場所に瞬間移動したのだ。

 

「消えた!? これは一体……」

 

 メドゥーサは驚いたが、光己やマシュはこの現象に見覚えがある。ローマでのカリギュラやオケアノスでのエイリークと同じように、マスターあるいは聖杯の所持者が帰還させたのだろう。

 

「これはパラケルススが『P』で確定かな? とにかくあと3人、まずは性格悪い悪魔から落とそう!」

「いいでしょう」

 

 1人を逃走させて人数的にはさらに有利になったが、ここで慢心せず1人ずつ集中攻撃して確実に倒すというのは間違いではない。メドゥーサは軽く頷いて、防戦でいっぱいいっぱいになっているメフィストフェレスの背後に回った。

 

「えい」

 

 そしてむしろアサシンのようなムーブで、音もなく心臓の真裏に釘剣を突き刺す。これにはさすがの悪魔も悲鳴を上げた。

 

「ごふぅっ!? ……いくら敵が悪魔(わたくし)とはいえ、ここまでえげつない不意打ちをするとは、正義の英雄様がたもなかなかやるものですなァ!?」

「あ、そういうのはいいですので。私、怪物ですから」

 

 それでもメフィストフェレスは何かの矜持があるのか、最後まで道化師めいて笑いながら皮肉な物言いをしてきたが、メドゥーサは軽くあしらって、空いている片手で彼の腕をがっしと掴んだ。

 とどめは今まで正面から戦っていた少女騎士に任せるという意味だろう。

 

「ふむ、ならご厚意に甘えて」

 

 メリュジーヌは両手の剣を振るって、メフィストフェレスの首と彼が鋏を持っている腕を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 

 今度は確かに倒せたようでメフィストフェレスが光の粒子となって座に還ったので、残るは紅葉と千代女の2騎である。

 当然のことながらもはや勝ち目はないと判断した千代女は撤退を決意したが、目の前の騎士っぽい少女は得物が見えないという点を抜きにしても相当な強者で、簡単に逃がしてくれるとは思えない。まずは1歩だけ引いてクナイで牽制しつつ、どうにか紅葉の後ろに回り込んだ。

 しかし蒼い剣士もこっちに来たからここも安全ではないが、千代女には秘策が残っていた。紅葉の体にしがみついて、彼女の耳元に何事がささやく。

 すると紅葉が突然猛気を発して一声大きく咆哮した!

 

「ぐるるるぐがぁっ!!!」

 

 人語ではないので光己たちには意味が分からないが、紅葉は宝具を使用したのだ。しかも今まで戦っていたバーゲストをほっぽってマシュ、いやその後ろの光己めがけて突進する。

 

「……! 先輩狙いですか」

 

 昨日メフィストフェレスが「そちらには哀れにもマスターがいる模様。ようくお守りなさい」と言っていたから、彼らがマスター狙いを戦術の1つにしているのは想定済みだ。

 しかし不意のことで宝具開帳は間に合わず、マシュはスキルで受けることにした。

 

「守ります! 『奮い断つ決意の盾』……!!」

 

 雪花の壁より守備範囲が狭い代わりにより強固な壁をつくって、恐竜の体当たりを真正面から受け止める。自動車がビルに衝突したような耳ざわりな音が響き、紅葉の足ががくんと止まった。

 

「うぐぐ……!」

 

 しかしいくらマシュに力を与えたギャラハッドが強力なサーヴァントだとはいえ、宝具をスキルで止めるのは厳しい。踏ん張った後足に無理な力がかかって足首を挫いてしまった。

 

「痛っ……でもこのくらいで!」

「ごおぉっ! ごぎゃあっ!!」

 

 その程度で怯むマシュではなかったが、紅葉の方も突進を止められても退かず、前腕で「決意の盾」をがんがんとぶっ叩いてくる。アルトリアとバーゲストとメリュジーヌに斬りつけられている上にマーリンの魔術弾まで喰らっているのだが、そちらはスルーしてマスターに一点集中のようだ。

 

「むう、これはやむを得ませんか」

 

 その猛烈な勢いに、ルーラーもマシュの後ろから出て傘からビームを撃って援護する。さすがの紅葉も満身創痍になっていたが、それでも方針を変えないのは狂化がひどいのか、それとも強制されているのか?

 そこに少し高い所から声がかかった。

 

「皆さん、離れて下さい! 吹き飛ばします」

 

 見ればメドゥーサがまたペガサスに乗って、しかも明らかに魔力が高まっている。宝具を発動する態勢と見たアルトリアたちが慌てて下がると、ペガサスが猛スピードで飛んで来た!

 

騎英の手綱(ベルレフォーン)!!」

 

 そして恐竜の横から派手に体当たりをかます。これにはたまらず、紅葉は吹っ飛ばされてそのまま屋根から転落した。

 わずかに遅れて、彼女が地面に衝突した物凄い音が響く。

 

「うわ、すごい音……死んではなさそうな気がするけど」

「と、とにかく助かりました。ありがとうございます」

「ええ、どう致しまして」

 

 マシュのお礼にメドゥーサは小さく微笑むと、次は光己に顔を向けた。紅葉を追うのかという意味だ。

 

「そうだな。とどめを刺せる時に刺したいけど、マシュが捻挫したみたいだからどうするか……って、千代女に逃げられた!?」

 

 ふと見ると千代女がいつの間にかいなくなっていた。紅葉に気を取られている内に逃走されたようだ。

 

「仲間を躊躇なく囮にするとはな! いや幹部3人以外は使い捨ての駒ということか?」

「あの吸血鬼もそうなんだろうね。お兄ちゃん、どうする?」

「うーん。とりあえず、紅葉がどうなってるか、メドゥーサと2人で見るだけ見て来てくれる?」

「分かった」

「分かりました」

 

 メリュジーヌとメドゥーサは短く頷くとさっそく建物の下に飛んでいったが、そこにはもう紅葉の姿はなかった。どこかに隠れている様子はなく、逃走済みのようだ。

 本当に大した耐久力である。2人がいったん戻ってその旨を報告すると、マスターは仕方ないという風に息をついた。

 

「そっか、2人ともありがと。まあ1騎だけでも倒せたんだから良しとしとくか……いや太公望さんとマーリンさんは?」

「あの2人なら、チヨメを追いかけて行きましたが」

 

 光己は2人の動きを把握できていなかったが、アルトリアはトップサーヴァントの一角だけあって戦場全体を見渡せていたらしい。光己はスペックでは負けていないのだが、経験の差は大きかった。

 

「ほむ、じゃあ飛べる人……とルーラーで追いかける方がいいのかな?」

「いえ、その必要はありませんよ」

 

 光己の問いかけにアルトリアやルーラーが答えるより先に、上の方から太公望の声が聞こえた。たった今戻って来たようだ。

 マーリンもそばにいてまたパンツが見えたが、光己は今回は同じ轍を踏まず冷静さを保った。

 

「2人ともお疲れさま。どうだった?」

「はい、千代女を退去させてきました。我々は無事なのでご安心下さい」

「そっか、良かった。しかしあれだな、千代女は紅葉を囮にして自分だけ逃げようとしたのか、それとも単に二手に分かれただけだったのかな?

 まあいいや、マシュを治療したら戻ろうか」

「分かりました」

 

 敵の半数を倒し半数を撃退したのだからここでは勝ったといえるが、戦いはまだ終わっていないのだ。光己は礼装の「応急手当」でマシュの足首を治すと、皆を促して早々にスコットランドヤードに戻ったのだった。

 

 

 

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