FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第224話 アルビオン再生計画1

 アンデルセンが資料を読んで考察を裏づけるにはまだ時間がかかるので、光己はオルガマリーに言った通り竜モードの身体の再生をすることにした。

 ただ竜モードは体長2キロと巨大なので家の中ではできず、広い場所が必要なのでジキルに地図を借りて近場の公園に行くことにする。また例によって留守番も必要なので、同行するのは光己と契約したサーヴァントだけにした。

 シェイクスピアは来たがったが、今回は仲間入り条件の「ジャンヌを褒め称える劇を書く」を申しつけている。

 連絡用にマシュの通信機をジキルに預けてから、光己たちはその公園に向かった。

 

「うん、人間もエネミーもいないな。ここでいいか」

「そうだな、問題なさそうだ」

 

 一応誰もいないことを確かめてから、モルガンが認識阻害と人払いの魔術を使ってさらに安全を保つ。その上で、まずアルクェイドが先に空想具現化(マーブルファンタズム)で「千年城」をつくり出した。

 銀色に輝くいくつかの尖塔や渡り廊下などで形成された、美しくもどこか物寂しい感じがする建物だ。庭園にはこれも銀色の花が咲き乱れている。

 

「おお、これがブリュンスタッドさんの家なのか……それじゃ俺も」

 

 ついで光己も竜モードになったが、図体が大きくなった分変身に時間がかかるようになったのは仕方ないことだろう。慣れれば多少速くなるかも知れない。

 

「それじゃいくわよー」

 

 アルクェイドが千年城の機能と、ついでに自身の「ファニー・ヴァンプ」というスキルも使うと、光己の全身に魔力が流れ込み始めた。アルビオン基準でもはっきり体感できる莫大な量である。

 なのでマシュやモルガンたちはそれを浴びないよう千年城の外にいるから護衛の役には立っていないが、ぶっちゃけその必要はないといえよう……。

 しばらく待っていると、竜の背中にすでに生えている骨の翼の後ろに、もう1対骨が生え始めた。タケノコもびっくりの勢いでぐんぐん伸びていく。

 

「へええー、ホントにできたんだ」

「すごいですね……」

 

 これにはアルクェイドもマシュたちも目が点である。当の光己も驚いて、立香に事情を聞いてみた。

 

(すごいな立香。自然治癒力を1ヶ所に集中するって結構大変なんじゃないか?)

(それほどでもないよ。大ざっぱに方向性を設定したら、あとは身体が勝手にやってくれるから。本能ってすごいねえ)

(なるほどなあ。言われてみれば、食べたご飯が栄養になる過程とかは何も言わなくても自動的にやってくれてるわけだし)

(そうだねえ)

 

 生命の神秘と奥深さに改めて感動と畏怖を覚える光己と立香。世界はまだまだ、分からないことに満ちている!

 

(それにしてもこの回復力、どこから来たんだろうねえ。アルビオンの能力だとしたら、前の光己だって持ってたはずだし)

 

 少なくともロンドンに来る前は、骨が目に見える速さで形成されるほどの治癒力はなかったのだけれど。それとも大元はやはり別格ということだろうか?

 

(もしかしたらブリュンスタッドさんと契約したおかげかもな。創作だと吸血鬼ってすごい治癒力持ってるし)

(あー、そういえば光己って影響受けやすい体質だったよね)

 

 ファヴニールと清姫とタラスクの血で無敵アーマーを手に入れたのはともかく、アルトリアズと契約して竜モードに開眼したり、カーマと契約して天使の翼が生えたりと普通では考えられない現象を起こしている。もし光己に魔術でいう「起源」や「属性」があるとするなら、きっとそういう方面だろう。

 

(なるほど、つまり「勘違いしていた。俺の竜化ってのいうのは、竜になることじゃないんだ。俺は無限に奥さんを内包した世界(じぶん)を作る。それだけが、藤宮光己に許された魔術だった」とか言いながらラスボスと対決するって感じか)

(無限の奥さんかあ。そのうち刺されるんじゃないかな?)

(幼馴染が冷たい……)

 

 そんな雑談をしている内に、ふと光己は気づいたことがあった。

 

(そういえば、今は目も耳も脳みそもないのに見えたり聞こえたりするんだよな。フランスでスケルトン見た時も不思議に思ったけど、どういう仕組みなんだろ)

(スケルトンのことは分からないけど、今の光己は目や耳で見聞きしているんじゃなくて、ええと、心眼とかオーラとかそういうので知覚してる感じかな? だから見ようと思えば後ろも見えるはずだよ)

(ほむ、やはり大元だけのことはあるな……。

 でもこのサイズだと、人間はかなり小さく見えるんだよな。足で踏んだりしないよう気をつけないと)

 

 アルビオンから見た人間は人間から見たアリより小さい。うかつに味方をケガさせないよう、今まで以上に慎重に行動するべきだろう。

 

(そうだね。その辺は私もフォローし切れないし)

 

 身体が大きくなれば強くなるのは事実だが、いいことばかりではないのだった。

 そして魔力をもらうこと1時間、ようやく悪魔の翼が皮膜も込みでできあがる。これで魔霧を吸収することができるはずだ。

 光己は翼を高く掲げると、それに全力、いや思い直してまずは少しずつ、皆に予告してから試すことにした。

 

「それじゃそろそろ魔霧を吸い込んでみるから、みんな巻き添えくらわないように下がっててね」

「あ、もうやるんだ。りょうかーい」

 

 アルクェイドは大丈夫だろうがそれでも下がって、マシュたちと一緒に「誉れ堅き雪花の壁」の中に引っ込んだ。それを確かめてから、光己がミッションを開始する。

 すると少しずつのはずだったのに、竜巻のような猛烈な勢いで周囲の魔力が翼に吸い込まれていく。どうやらこの身体は光己の想像以上のパワーを持っているようだ。

 

「うわ、すっごい。これなら千年城消してもいいわね」

 

 アルクェイドが感心しつつ、当初の予定通り城を消して自身の出力も通常状態に戻した。光己は吸い込んだ魔力は心臓の再生に使うそうで、それができたら自力だけで再生できるようになるらしい。

 心臓がつくられていく光景はちょっと気味の悪いものではあったが、もう2度とお目にかかれない極レアで奇跡的な光景でもある。目をそらす者はいなかった。

 その最中、モルガンがふとなかば無意識に小さな声でつぶやく。

 

「これでまだ復活直後の、全盛時には程遠い弱体状態だというのか。生前の私にこの力が加われば、妖精國を救うことができるかも知れんな……」

「お母様!?」

 

 隣にいた娘にそう声をかけられて、モルガンは初めて自分が独りごとを言っていたことに気づいた。

 

「……ああ、驚かせたか? 私自身も驚いたが、まあ言葉の通りだ。

 私自身が妖精國に入れずとも、手紙を託することはできるからな。生前の私にいろいろ事情を教えれば、我が夫の力を借りて妖精國を星の内海に引っ越させるという案に同意させることはできるんじゃないかと思ったのだ」

 

 形としては負けのようにも見えるが、この引っ越しにはケルヌンノスや奈落の虫とお別れできるというビッグなメリットがついてくる。逆に引っ越しを拒否すればアルビオンと戦うことになるわけで、そもそも妖精國が呼ばれもしないのに汎人類史に押しかけた(妖精國の意志ではないが)という立場も考えれば、よほどトチ狂っていない限りそちらを選びはしないだろう。

 

「な、なるほど……さすがはお母様!」

 

 バーヴァン・シーはほとんどの妖精が嫌いなので妖精國自体にはさほど愛着はないのだが、お母様が愛しているものであるのは知っているので、ここは素直に喜んでおいた。

 しかし多少の問題はあるようだ。

 

「もっとも今言ったように私たち自身は入れな……いや余った聖杯で受肉すれば入れるか? ……いやそれでも私はダメだな」

「……? どうして?」

「私は手紙を送るだけなら信用されるだろうが、私自身が行ったら妖精國(むこう)の私は王位を奪いに来たと思うだろうからな。うまくいく話もいかなくなってしまう」

「ええっ!? お母様同士仲良くできないの!?」

 

 バーヴァン・シーが悲鳴のような声で訊ねたが、モルガンは悲しげにかぶりを振った。

 

「うむ、無理だ」

「…………」

 

 ここまできっぱり断言されては、バーヴァン・シーは二の句も継げなかった……。

 

「まあ本当に王位を奪う手はあるが、それは我が夫を難色を示すだろうし、私も自分殺しはさすがに気が引ける。

 ……もっとも疑われるのは私だけだから、おまえたちは好きにするが良い。

 いやもちろんこの計画自体が我が夫の意向次第なのだが、我が夫の性格なら真剣に頼めば認めるだろう」

 

 このたびも娘や騎士に自由を許す寛大さを見せたモルガンだったが、3人とも行くつもりはないようだった。

 

「え!? えーと。お母様が行かないのなら、私も行くわけないんだけど……」

 

 生前の母にはすでに生前の自分がいるのだ。サーヴァントの自分はサーヴァントの母と一緒にいるのが順当というもので、バーヴァン・シーに迷いはなかった。

 

「そうですね。陛下がこちらに残られるのなら、僕も当然残ります」

「私も残ります」

 

 メリュジーヌとしては生前のモルガンやオーロラと顔を合わせるのは気まずいし、何よりも向こうにはお兄ちゃんがいない。モルガンの選択は大歓迎なのだった。

 バーゲストにとってはどちらの王に仕えるかという問題だが、妖精國のモルガンと違ってこちらのモルガンには家来がバーゲスト自身を含めても3人しかいないのだ。どちらにすべきかは明白だった。

 

「……そうか、感謝する。

 といってもこの計画は今ぱっと思いついたばかりの具体性のない話だからな。他の者には話さないように」

 

 モルガンは3人が故郷に帰ることより自分と共にいることを選んでくれたことに涙腺がちょっと緩む思いだったが、顔に出すのは抑えてとりあえず口止めをしておいた。

 

「……自分の國だけ救って他の異聞帯は滅ぼすのかという批判はあるかも知れんが、そこは他の異聞帯の王のスタンス次第だな」

 

 彼らが汎人類史や他の異聞帯との共存を望んでいるのなら対話協調路線もあり得るのだ。ほとんどの王は対決路線だと思うが。

 なお人間は星の内海には行けないから、そこに引っ越すという方法は妖精國だけの特権である。妖精國にも人間はいるが、彼らは妖精國で生まれ育った者たちだから多分大丈夫だろう。

 

「……」

 

 バーヴァン・シーたちは他の異聞帯との共存なんて考えたこともないので、とりあえず沈黙していた。モルガンの方も返事を望んでいたわけではないらしく、すぐに話題を変える。

 

「……この調子で魔霧を全部吸い尽くしてしまえば市民が屋外に出られるようになるから、あと2日、いや1日半という制限がなくなるな。人形やロボットは残っているから、危険がなくなるわけではないが……」

 

 魔霧の発生地、すなわち敵本拠地の割り出しはかなり進んでいるから、魔霧をなくすより異変解決を先にしてしまうという選択肢もある。しかしカルデア本部にはアルビオンの再生作業ができるほど広い場所はないので、ここでできるだけのことはしておく方が後々有利かも知れない。

 

「お兄ちゃんはどうするつもりなのかな?」

 

 決めるのはリーダーの役割なのだが、今はそこまで考えてないような気がする。最低限心臓まではつくるとして、そこまでいったら選択肢を示して判断を求めるべきか?

 しかしそれより先に、ルーラーアルトリアが1歩前に出ていつもの報告をする。

 

「マスター、サーヴァント反応です。3騎ほどこちらに近づいてきています。

 魔霧を奪われているのに気づいた黒幕が様子を見に来たのではないかと」

 

 まだ断定はできないが、そう考えるのが最も自然だ。

 今光己がやっている魔霧大吸収は黒幕にとっては怪しくも危険極まりない現象だが、放置するわけにもいかない。おそらく先ほど逃走したパラケルススと紅葉、そして新たに引き入れたもう1騎が彼らが今偵察に使える最大戦力なのだろう。

 

「ほむ……」

 

 来たのがパラケルススだとしたらまた逃げられる恐れがあるから、できれば竜の姿は見せたくない。しかし人間モードに戻るのは間に合わないが、いかがしたものだろうか。

 

「太公望さん、どうすればいいと思います?」

「そういうことなら、モルガン殿かマーリン殿に隠してもらえばいいのでは? ついでですから僕やマシュ殿たちも隠れておいて、来た者の顔を見てからどうすれば決めればいいと思いますよ」

「ほむ……でもこの姿で声出したらその『来た者』にも聞かれるから、みんなへの指示をお任せしていいですか?」

「承りました」

 

 臨時リーダーを拝命した太公望がさっそく最初の仕事をするべく、モルガンとマーリンに顔を向ける。するとマーリンが手を挙げた。

 

「それなら私が。でもマスターは術式も食べちゃえるみたいだから、私の術まで吸い込まないよう注意してくれたまえよ?」

「あー、そういえば前にそれやった覚えがあるな。分かった、気をつけるよ」

 

 光己はマーリンとはまだ知り合ったばかりだが、性格と雰囲気の問題でもうタメ口な間柄になっていた。

 お願いすればえっちな夢はともかく、膝枕で耳かきしながらとろけそうな甘い声で愛をささやいたりしてくれそうな感じがある。

 ―――それはともかく、サーヴァント3騎は迷う様子もなく近づいてきているので、そろそろ行動に移らねばならない。マーリンが幻術で光己の身体を隠し、それとは別にマシュたちも隠れた。

 やがて3騎が公園に入ってくる。ルーラーの推測通りパラケルススと紅葉と、もう1騎は光己が知らない顔だったがアルトリアだけは知っていた。

 

「あれは……アサシン!?」

 

 青を基調とした昔の日本の服を着たその青年は、真名を佐々木小次郎というサムライだ。アルトリア自身とメドゥーサの縁で現れたのだろうか?

 

「おや、ご存知なのですか?」

「ええ。佐々木小次郎といいまして、剣術の達人ですがそれ以外の技能はありませんので、飛び道具を使うか複数でかかるかすれば有利に立ち回れるでしょう」

「なるほど……」

 

 アルトリアの言葉に太公望はこっくり頷いた。

 パラケルススたちは現場に到着したはいいものの、マーリンの幻術によって誰の姿も見えず、上空で魔霧が渦を巻いているのが分かるだけのはずだ。現にかなり戸惑った様子で、渦の中心を見上げて困惑した顔をしている。

 そこに赴く度胸はまだ無いようだが、いずれはそうするだろう。

 

「さて、どうしますかねェ……?」

 

 前回同様不意打ちするか、それとも会話して少しでも情報を引き出すべきか。太公望は軽く頭をひねるのだった。

 

 

 

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