FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第226話 セイバーVSアサシン

 パラケルススは学者肌の人物で身体的には頑強な方ではないので、ヘルタースケルターの硬いボディに胸板を思い切り叩きつけられれば即死してもおかしくはなかったが、その直前に体をひねって致命傷を受けるのは免れていた。

 しかし代わりに左腕が潰れたから、戦闘に復帰するのは厳しい。アゾット剣を奪われたのは口惜しいが、ここは退却するしかなさそうだ。

 

(ちょっと肩身が狭くなりそうですが、仕方ありませんね。また会いましょう)

 

 パラケルススの姿がフッとかき消える。太公望から見れば2度も逃げられてしまったわけだが、さほど残念そうにはしていなかった。

 

「想定の範囲内ですし、宝具を奪いましたからね。彼は戦力が半減しますし、マスターも喜ぶでしょう」

 

 逆に今パラケルススが座に退去になっていたら彼の剣も一緒に消えていたわけで、この展開もそう悪いものではないのだった。この剣は西洋魔術の粋を凝らした逸品のようだから、カルデアに持ち帰って解析すれば何かの役に立つだろう。

 ―――それはさておき地上では。モルガンたちの参戦で1度は勝勢になったかに見えたが、ヘルタースケルターは数十体もいるので数的には劣勢だ。モルガンたちは紅葉と小次郎から離れてそちらに向かわざるを得ない。

 しかしアルトリアとメリュジーヌとバーゲストは今のところ問題なさそうである。太公望が見る限り、3人は先刻の戦いの時よりずっと強くなっているのだから。

 何しろマスターが、まだ生き返ったばかりで骨と翼一対だけとはいえアルビオンに変身しているのだ。契約したサーヴァントは100%以上の魔力供給に加えて冠位のドラゴンパワーが乗ったので全員生前より強くなっており、ただし技量は変わらないのでスーパースペックに慣れるまで力をセーブしているくらいである。太公望自身、通常の筋力はDなのに人間ハンマー投げなんて大技ができたのはこの恩恵のおかげなのだ。

 

「……これは不可思議な。セイバー、そなた私が知るそなたをはるかに上回る剛腕ぶりだがどのような手品を?」

「サーヴァントはマスター次第とはよく言ったものということです。いえあの時のマスターに不満は……ありますが、それはそれとして今のマスターはやたら強いので」

「ほほぅ、それはそれは……」

 

 言われてみればセイバーのマスターとやらはこれだけ大勢のサーヴァントを率いているのだから、どんな裏技を使っているかは知らないが膨大な魔力を持っているのだろう。もしかしたら魔霧を吸い込んでいる当人なのかも知れない。

 小次郎はちょっと興味が湧いたが、残念ながらここから見える所にはいないようだ。

 それにしても今回のセイバーは強い。あの時も見た目にそぐわぬパワー派だったが、今回は剣をまともに受けたら一発で刀を折られそうな重さを感じる。

 

「貴方はあの時と変わりませんが、やはり強いですね。一介の剣士としては敬意を抱きますよ」

 

 アルトリアが振っている見えない剣に対応できるだけでも一流といっていいが、それを毎回避けるか受け流すかするというのは並大抵の技量ではない。刀が長い、つまり間合いが広いのを有効利用してアルトリアの間合いに入らないよう巧妙に立ち回っているのだった。

 アルトリアは「燕返し」の存在を知っているから、それを避けられなくなるような強引な突進はしてこないだろうという計算もしているはずだ。

 

「なに、これしか能がない野人でござるよ」

 

 穏やかに会話しつつも、2人の剣閃に躊躇や遠慮はない。そんな不純物を混ぜたら即死しかねない速さの戦いなのだ。

 ―――それはつまり、誰かが横槍を入れれば一瞬で形勢が大きく動くということでもある。当然2人は周囲の戦況にも気を配っていたが、アルトリアはパラケルススが逃亡したのを確認すると1歩間合いを広げて問いかけた。

 

「ところでアサシン、貴方とて好きで人類皆殺し計画に手を貸しているわけではないでしょう。どうにかして彼らからの支配を脱することはできないのですか?」

 

 アルトリアも引き抜きを考えているようだ。面識があって人格能力とも信用できる相手と分かっているなら、むしろ考えない方が不自然である。

 むろん小次郎もそれができるなら大いに望むところだ。

 

「そうさな。あの女狐の宝具のような、魔術を強力に解除する手段があれば可能だ。

 ただその前に、私が抵抗できないよう縛るなり気絶させるなりする必要があるが」

「ふむ、やはりそうですか」

 

 つまりフランス特異点にいたマルタやデオンと同じということだ。

 今回は「麗しきは美姫の指輪(アンジェリカ・カタイ)」も「魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)」もないが、最高クラスの魔術師と道士が3人もいれば何とかなりそうな気もする。光己がその手のお宝を持っているかも知れないし。

 具体的には、アルビオンと融合したのだから上位の如意宝珠を使えるようになっているはずである。

 

「ほう、その顔つきからするともしかしてやれる見込みがあるのか?」

「ええ、必ずとはいえませんが」

「……ふむ。この状況から考えるに、魔霧を吸い込んでいるのはそちらのマスターで、その魔力をそなたたちに回しているのであろうからな。それほどの大魔術師ならば、私にはめられている枷を外すこともできるか」

「そのあたりはすべてうまくいったらお話しますよ」

 

 小次郎の推測は半分正解半分外れというところだが、アルトリアはまだ種明かしはしなかった。それは味方になってからの話である。

 それでも彼がわざと負けるとまではいかずとも、宝具を使える場面でもそれを控えるくらいの手加減は望めるはずだ。

 そこにマシュとヒロインXXが来たので、とりあえず用件だけ早口で述べる。

 

「2人とも、アサシンは殺さないようにして下さい!

 それと念のため、何か拘束しておける道具を」

 

 これで意図は伝わるはずだ。期待通り、マシュが一瞬戸惑いはしたもののすぐ理解してくれた。

 

「え……あ、は、はい! そういうことでしたら。

 拘束しておけるもの……ワイヤー、いえ『縛鯖索(ばくせいさく)』ですね」

 

 縛鯖索とは太公望に依頼して強化ワイヤーに術式を追加してもらって、ついでに宝貝(パオペエ)っぽい命名をしてもらったものである。これでめでたく光己がお宝認定して「蔵」に入れられるようになったのだが、一応マシュの収納袋にも何本か入れてあるのだった。

 ただし武闘派サーヴァントでも捕縛しておける強靭さを優先しているので、封神演義における宝貝の描写でよくある飛行能力や追尾能力は持っていない。

 

「やれやれ、用意のいいことだな」

「はい、こういうことは何度もありましたので!」

 

 小次郎が感心と呆れがまじった苦笑をもらすと、純朴なマシュは文字通りに受け取って真面目にそう返した。もっとも自分から襲いかかりはせず、モルガンやアルトリアの指示を忠実に守って、あくまで彼と光己の間に立ってマスター防衛が最優先というスタンスである。ただこれはマシュの後ろに彼女が守るべき者がいると示す行為でもあるが、当人は気づいていない。

 小次郎は気づいていたが、彼女の背後を襲う意図もなければ余裕もなかった。彼女の傍らにはもう1人、素性は分からないものの強いのは確かな女性がいるからだ。

 その女性が予告抜きで額から光の弾丸を乱射してきたのをとっさに横に跳んで回避することができたのは、小次郎の卓越した技量と素早さのおかげといえるだろう。しかしその時さっと周りを観察してみると、引率の魔術師はすでに退散しており、同僚の恐竜娘は剣士2人に袋叩きにされて半死半生、手下の絡繰り兵の群れは今まさに黒衣の女魔術師が放った無数の魔術弾で全部鉄くずになったところだった。

 その圧倒的暴力にさすがの小次郎もつーっと冷や汗など流しつつ、追って来たアルトリアに訊ねる。

 

「…………。これはちと強すぎるのではないか?」

「さっきも言いましたが、今のマスターは本当にケタ外れですので。貴方も見れば分かりますよ。

 ところであの恐竜は貴方と同郷で鬼女紅葉という名だそうですが、彼女は異変解決に賛同してくれそうな人物ですか?」

「それは分からぬな。ろくに話もしておらぬし、彼女の真名すら今知ったくらいだ」

「ふむ、それでは致し方ありませんね」

 

 アルトリアは心ならずも従わされているだけの者を袋叩きにして倒すことに良心の呵責があるようだったが、味方にしても大丈夫だと太鼓判を押せない者を、それでも救おうとするほど甘くはなかった。マスターの光己はメンタルが一般人だから大勢のサーヴァントを引率するのは大変なのは分かっているので、過度の負担をかけてはいけないという配慮もある。

 

「―――では、そろそろ決着をつけましょう」

 

 アルトリアがいったん足を止め、気合いを入れて剣を構え直す。その魔力の高まりとともに彼女の剣を包んでいる風の勢いと大きさが増していき、ついには四本指の熊手のような形になった。

 

「私なりに、貴方の奥義を模倣してみました。さあ、見事受けてみせて下さい」

「……。そなた、見た目は可憐なわりに勝気よな」

 

 小次郎には「熊手」のおおよその形状が感じ取れるが、それは長さ4メートル太さ50センチの棍棒が4本アルトリアの剣の先端から伸びているような形だった。「燕返し」の3本より1本多くつくったところに彼女の性格が見て取れる。

 4本の棍棒で四方から同時に打ちかかられては、いかに燕返しでも受け切れないのは明白だ。仮に受けられたとして、相手が風の渦では刃がすり抜けてしまいそうだが。

 

「いきますよ! とああああーーっ!!」

「とはいえ、やらぬわけにはいかぬか。秘剣―――『燕返し』!!」

 

 右・右上・左上・左の四方から迫り来る4本の棍棒を、その必殺剣にて迎え撃つ小次郎。

 しかし自分で予測した通り手数が足りず、そもそも風の渦を刀で斬っても切れはせず―――そしてあえなく、4連打をくらって地に倒れ伏すのだった。

 

 

 

 

 

 

 小次郎がふと気がつくと、得物を奪われた上で上半身を太い縄でぎちぎちに縛られてしまっていた。両足首も40センチくらいしか開けないように括られている。

 ただ体の痛みはないので、ケガは治してくれたようだ。

 

「これはまた念入りな。一介の棒振り相手にここまでせずとも良いと思うが?」

「そうかも知れませんが、貴方の技量に対する敬意の表れと思っていただければ」

「……ふむ」

 

 アルトリアの口調や表情に嫌味や侮蔑の色はないので、小次郎は素直に頷いた。

 戦闘はすでに終わっているらしく、剣戟の音は聞こえない。軽く周りを見渡してみたが、鬼女紅葉の姿もなかった。

 

「鬼女紅葉殿は?」

「メリュジーヌたちが退去させました」

「……そうか」

 

 ごく短時間とはいえ一応は同僚だったので思うところが多少はあるが、性格不明で意志疎通も難しい恐竜人間を仲間にするというのは実際酔狂が過ぎる。小次郎はこれ以上の言及は控えた。

 

「では、そなたご自慢のマスターに御対面させてもらうとしようか」

「ええ、こちらです」

 

 小次郎がアルトリアの先導に従って歩いて行くと、途中で妙な魔力を感じる無色透明な(もや)を通り抜けた。そしてその先にいたのは―――。

 

「おおっ!?」

 

 それは怪しげな幻術でも見せられているかと見まごうような、とぐろを巻いてうずくまっている巨大な竜の骸骨だった。しかも蝙蝠の翼を生やし、肋骨の内側では心臓がどくどくと脈打っている。

 小次郎は驚愕のあまり10秒ほども呆然としていたが、やがて体がこわばっているのかぎぎーっと音を立てながら首を横に回した。

 

「……セイバー、この骸骨がそなたたちのマスターなのか? いや生きているのは分かるが」

「ええ、色々前後の事情がありまして。頭の中身は人間、それも善良な部類ですので安心して下さい」

「安心……していいものなのか?」

 

 どう見ても危険度極大な妖怪変化の類なのだが、小次郎は今はまともに身動きも取れぬ身なのでここは流れに任せることにした。

 すると骸骨の頭部の方から、肉声ではなく空間自体を震わせているような重い声が響いてきたではないか。やはり生きているようだ。

 

「アルトリア、この人も知り合いなの?」

「ええ、少なくとも自分の意志で人類抹殺に参加するような人物ではありません。

 ですのでフランスでのマルタやデオンの時のように、呪縛を解いていただければと」

 

 アルトリアはそう言うと顔を向けて視線で自己紹介を求めてきたので、小次郎はそうすることにした。

 

「名乗っても知らぬと思うが、佐々木小次郎という者だ。このたびは気がついたら霧の中に現界していて、わけも分からぬ間にあの白衣の魔術師に呪縛をかけられて従わされていただけで、彼らの目的に興味はない。

 セイバーとの縁もあるし、呪縛を解いてもらえれば礼代わりに異変解決とやらに協力しよう」

 

 小次郎は自分で言った通り相手は自分のことは知らないと思っていたが、意外にも骸骨は戦国期の日本に詳しかった。

 

「おお、佐々木小次郎といえばあの剣豪の!?」

「知っているのか!?」

「宮本武蔵と巌流島で決闘したんですよね? 俺は貴方より400年くらい後の生まれですけど、日本人なら知ってる人結構多いですよ」

「なんと、そなた未来の日の本の者なのか!?」

 

 小次郎またびっくりである。まさか(小次郎の生前よりは)未来の遠い異国で、さらに未来の故国の者、それも人語を話す竜の骸骨なんて謎存在と出くわすとは。

 雰囲気や話し方を見る限りでは、邪悪な存在ではなさそうだが……。

 

「ええ、藤宮光己といいます。カルデアという団体に所属してるマスターで、今はここの異変の解決のために未来から出張ってきてるというわけです。

 それじゃさっそく呪縛解きますね。モルガンたちに頼んでもいいけど、『破邪の剣』の原典があるからそっち使う方が早いかな? いやこの姿だと小さすぎて指でつまめないな」

 

 といって人間モードに戻って、用が済んだらまた竜モードになるというのは時間がもったいない。今回は別の手にしようか、と光己があれこれ考えていると、なぜかモルガンが口を開いた。

 

「破邪の剣だと……聞いたことがあるな」

「知っているのお母様!?」

 

 するとバーヴァン・シーが漫才の相方のようにタイミングよく訊ねてくれたので、モルガンは得意げに蘊蓄を語り始めた。

 

「うむ、妖精國ではなく汎人類史(こちら)の話になるが……破邪の剣はそれ自体では名前通りの効能しか持たぬが、知勇兼備にして清廉高潔な真の英傑と『融合』することにより、『光の聖剣』なる知性ある剣(インテリジェンスソード)になるという伝説があるのだ」

「光の聖剣!?」

「ああ、何でも人間の身で『混沌の王』と対峙できるようになるほどの逸品だとか……アルトリア、試してみてはどうだ?」

 

 この台詞はアルトリアを真の英傑として絶賛したものでもあるが、言われた当人は当然ながら思い切り眉をしかめた。

 

「……それが言いたかっただけですか。貴女がやればいいでしょう」

「私は清廉でも高潔でもないし、やることもある身なのでな」

「はいはいさようですか」

 

「……じゃれ合うのはほどほどにね」

 

 姉妹のいつもの口ゲンカはさておき、モルガンの話が事実だったとしても光己は美女美少女を剣に捧げるなんて蛮行には同意できない。なので今回は別の道具を使うことにした。

 

「どの道この体じゃ出せないしね。こっちの方が確実だし」

 

 そう言いながら光己が「蔵」から出したのは、直径20メートルほどもある馬鹿でかい宝玉だった。アルトリアが推測した通り、上位の如意宝珠を出せるようになったのである。

 20メートルとなるともはや人間ではまともに扱えないサイズだが、アルビオン視点だと手に持つのではなく指先でつまんで運ぶ小さな玉だった。

 

「私の見込み通りですね。どんな権能があるのですか?」

「ズバリ、『願いをかなえる』だよ。限界も制限もあるけど。

 具体的には、この特異点を今すぐ修正するとか、死者を生き返らせるとか、俺の身体を一瞬で再生しちゃうとか、そういうのは宝珠の力を超えてるから無理ね。

 あと仏教的に考えて悪いことやエゴを助長しそうな願いもダメで、他人のことを願う場合は当人の承諾が必要なんだ」

 

 なのでコフィンに凍結されているマスターたちを治療して外に出すことはできない。いや立香だけは可能だが、立香は今は光己のサポートをするために自発的に現状に甘んじているのだった。

 

「なるほど、大きな力には相応の自制が求められるというわけですか。しかしアサシンの呪縛を解くのは問題ないのでは?」

「うん、それじゃさっそく」

 

 光己がそう言い終えた直後、小次郎の全身にビリッと小さな痺れが走る。それが収まった時、小次郎にかけられていた呪縛はきれいに取り除かれていた。

 

「おお、これはまた……異国の妖怪変化と思っていたが、実は我が国の龍神であったか。しかもその神恩に(あずか)るとは世の中分からぬものよ」

 

 小次郎の台詞が合っているかどうかは微妙だったがそれはともかく。一応モルガンと太公望とマーリンが身体検査して確かに呪縛が解除されたことを確認すると、アルトリアは小次郎を縛っていた縛鯖索をほどいて刀も返した。

 

「かたじけない。では約束通り、そなたたちに協力することにしよう」

「うん、よろしく」

 

 これで小次郎は無事カルデア一行に仲間入りとなったが、そうと見たメリュジーヌが光己に話しかけてきた。

 

「それでお兄ちゃん、心臓はだいたいできたみたいだけどその後はどうするの?

 ここで全身再生するのはさすがに時間かかり過ぎそうな気がするけど」

 

 先ほどちょっと考えた、今後の方針についてである。言われて光己も首をひねった。

 

「……そうだな、でもせっかくの機会だから翼は3対とも完成させておきたいかな。

 メリュたちには悪いけど、もうしばらく待ってくれる?」

 

 機竜の翼がないと空を飛べないし、天使の翼も役に立つ場面が多かった。多少の時間をかけてでも早い内に再生しておきたいという趣旨である。この図体で飛べないと相当不便そうだし。

 

「うん、お兄ちゃんがそう決めたのなら」

「そうですね、異論はありません」

 

 メリュジーヌもアルトリアたちも反対しなかったので、一同そのまま待機して光己の再生作業を見守ることになる。

 心臓が完成したら予定通り残る2対の翼の再生に入るわけだが、そこで何故か翼の骨格が4対も生えてきたので、特に生前からキリスト教を知っていたアルトリアズは思い切り目を剥いた。

 

「なっ……!? ドラゴンの身体に翼が6対ということは、まさか堕天使ルシフェル、サタンなのですか!?」

 

 考えてみれば光己は「本物の」竜種の冠位になったのだから、天使と悪魔の方も冠位になってもおかしくない。しかも冬木で彼が喰ったヴリトラは別名が「魔族の王(アスーレンドラ)」つまり魔王なのだから、こうなるのはむしろ必然で時間の問題だったのかも知れない。

 その上パルミラで熾天使(ウリエル)を騙っていたとあっては、フラグ回収という観さえある。

 

「いえ、マスターくんは元々天使と悪魔が半分ずつでしたから、天使長と魔王が半分ずつということになるのでは? 本当にルシフェルになったならの話ですが」

 

 もっともこちらは「本物」ではなく、あくまで「世間一般でのルシフェルのイメージ」に過ぎないはずだが、そのパワーの強さやバランスによってはやっぱり大変なことになるかも知れない……。

 

「つまりアルビオンがルシフェルの疑似サーヴァントになったようなもの、ということになりますね。

 あの、ええと、大丈夫なのですかマスター……!?」

 

 ルーラーアルトリアは経緯よりマスターの心身の方が気になるようだ。本当に心配そうな顔で安否を尋ねる。

 当の光己は割と余裕があるようだった。

 

「うん。元々天使的パワーと悪魔的パワーが同じで中和されてたおかげで精神面は影響なかったし、今んとこは大丈夫だよ。俺は体は悪魔になった……だが人間の心を失わなかった!って感じで」

「そうですか、ならいいのですが」

 

 ルーラーがほーっと大きな息をつく。また大変な事態になったが、光己の頭の中は無事のようで何よりだった。

 なお小次郎は天使とか悪魔とかいう異国ワードで光己の正体がまた分からなくなってきて頭を悩ませていたが、まあささいなことだろう……。

 

「それにほら、ルシフェルといっても全面的に悪の権化ってわけじゃないしね。イブに知恵の実を食べさせた逸話もグノーシス主義的には善だし、バナナ型神話的にはよくある事例だから」

 

 グノーシス主義とはキリスト教で異端とされている宗派で、ルシフェルは人類に知恵を与えてくれた善なる存在ということになっている。バナナ型神話とは神話の類型の1つで、人間は石のように堅固で長久な存在になることはできず、バナナつまり植物のように、次代を残すことはできるが自身は柔らかく短命な存在にしかなれないというものだ。ギルガメッシュが不老不死を求めて失敗したケースや、ニニギノミコトがコノハナサクヤヒメとだけ結婚しイワナガヒメを親元に帰してしまったため短命になったケースなどがある。

 なおこの辺の知識は光己が元々知っていたものではなく、カルデアに来てから勉強して得たものである。人格パンピーが古今東西の英雄たちを引率するにあたっては、体力だけでなく知力も必要で大変なのだ。

 アルトリアが(あまり口には出さないが)気づかっているのも妥当といえよう。

 

「……? よく分かりませんが、マスターが苦にしていないのなら良かったです」

 

 今回は空振り気味だったけれど。

 まあ差し迫った問題はないようなので光己は再生作業を再開したが、10分ほど経ったところでルーラーがまたサーヴァントの存在を知らせてきた。

 

「マスター、サーヴァントです。数は4騎……今までより少し遠くから探知できました」

 

 ここの近辺は魔霧が吸われて薄くなっているからか、それともルーラーがアルビオンパワーで一時的に強くなっているからか、今までの1キロより遠い位置にいる者を探知できたらしい。

 

「むう、またか……いやこんな派手なことしてるんだから当然か。

 パラケルスス一党とは別だろうなあ。するとランサーオルタが言ってた第三勢力かな?」

 

 アタランテとジャックとナーサリーにリーダーポジを加えれば4騎になる。遠くから様子見していると考えるのが1番順当そうだ。

 

「そうですね。今の私たちが追えばナーサリーの時のように逃げられずに済むと思いますが、どうしますか?」

「うん、それじゃお願いしようかな。といっても俺は動けないから全員でってわけにはいかないか。ルーラーは確定で……アタランテがいる可能性が高いならマシュも行った方がいいな。引率は太公望さんにお願いするとして、他に立候補する人いる?」

 

 光己がそう言って有志を募ると、何人かが手を挙げてくれた。

 

「ふむ、では恩返しに一働きするとしようか」

「わたしも行こうかな。見てるだけで退屈になってきたところだし」

「私も行きましょう。空飛べる人が多い方が有利でしょうし」

 

 小次郎とアルクェイドとヒロインXXである。それぞれの動機が何であれ、人数的には問題なさそうだ。

 

「ありがと、それじゃ6人でお願いね。無理はしなくていいから」

「ええ、では行ってきます」

 

 というわけで、太公望たち6人は第三勢力と思われる4騎のもとに向かったのだった。

 

 

 




 ここのアルトリアさんは本当に騎士道ガン無視だなぁ……まあいざとなれば普通に不意打ちとかかます方ですし!(目そらし)


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