アタランテはジャックの願いがかなったことを大変喜んでいたが、彼女自身にもこの世を「全ての子供たちが愛される世界」にしたいという願いがある。しかし天草と太公望の会話を聞いた限りでは、実現するにはまず人理修復を達成してから、適切な方式をきっちり指定した上で願う必要があるようだ。
つまりこのたびの現界でかなえるのは無理なので、恩返しに専念するのが順当だと思われる。
「それでカルデアのマスター、天草はどうするんだ?」
「うーん。サタン扱いされたのは見た目的に仕方ないとは思うけど、天草って仲間として信用していい人?」
そこでまず天草の扱いを訊ねてみると逆に質問されたので、忌憚のない意見を述べることにした。
「有能かつ善性の人物なのは間違いない。ただし、自分の宿願のためなら他者を裏切ったり踏みにじったりするのをためらわないから、仲間にするなら十分用心すべきだと思う」
この返事だと寝ている内に始末しろと言っているのに等しいような気がしたが、事実だから仕方がない。実際に何人ものマスターを傀儡にして操っていたのだ。
ルーラースキルは便利だが、1人いれば足りるものだし。
「ああ、そういえばそちらにはモードレッドがいたな。知っているはずだから聞いてみるといいんじゃないか?」
「ほむ」
モードレッドといえばモルガンとのお話()をまだしていなかった。翼が完成するまでまだ時間がかかるから、ここに呼べばちょうどいい。
ただ1人で来てもらうのは不用心なので、太公望に土遁タクシーをしてもらえば安全かつ迅速である。
「……ということでどう?」
「なるほど、実に合理的……いや今の状態だと私が有利すぎるな。まあ一時的にでもモードレッドが我が夫と契約すれば対等か」
光己の提案をモルガンはいかにも名案といった風に歓迎した。
モードレッドは何か意地を張って光己と契約せずにいるが、光己が嫌いというわけではなさそうだから、お話の間だけということなら文句はあるまい。
バーヴァン・シーは逆に不本意そうにしているが、反対意見を口に出す気はないようだ。
そしてまず通信機で連絡してから、太公望と念のためアルトリアも同行して迎えに行ってもらうことにする。道中は何事もなかったようで、3人はすぐ戻って来た。
「時間かかってるなと思ってたが、こんなことになってたとはな。いや言われてみれば、魔霧を派手に吸い込んだら連中が様子見に来るのは当たり前といえば当たり前か」
モードレッドは土遁から下りると、まず光己たちにそう一声かけてからアタランテたちに近づいた。
「ジャックがいねえな……ってことは本当にあの願いをかなえたのか。
できるわけねえって思ってたっつーかそれが常識的な判断だと思うが、カルデアのマスターすげえな」
そう言いながら、モードレッドは改めて光己の顔を見上げた。
「うん、マジすげえ。それしか言葉が思いつかん」
口が悪いモードレッドも、アルビオンの遺骨+天使長の翼+魔王の翼という超キテレツ案件にはそんな感想しか出て来ないようだ……。
「ブリテンの人間を殺した奴の願いがタダでかなっちまったのは面白くねえけど、父上が認めたんならしゃあねえ。理屈は分かるし」
そしてジャック(とアタランテ)に危害を加える気はないことを表明してから、まだ気絶したままの天草の方に顔を向けた。
「んでもって、あいつが仲間として信用できるかどうか意見を聞きたいって聞いたんだけど」
「ああ。先ほどまで敵対していた私の言葉だけではカルデアのマスターも信じ切れないかも知れないと思ってな」
「なるほど、そういうことか」
天草はぱっと見の印象と本性がだいぶ異なるが、それを理解してもらうにはより多くの者が語った方がいいというのは分かる。バーサーカーになってる割には知恵が回るな、とモードレッドはさすがに口には出さず内心でそうごちた。
そして今一度光己の方に向き直る。
「よし、じゃあこのオレががっつりとコイツの性根を語ってやるぜ!
ズバリ、今ここで斬っちまうのが後くされなくてお勧めだな! ……って、一言で終わっちまったっていうか、
怪しい毒と聞いてモルガンが一瞬頬をひきつらせたが、モードレッドはそちらは見ていなかったので気づかなかった。
「マジか。そんな風には見えないけど」
「マジだ。だからアタランテもオレを呼ばせたんだよ。
いや私利私欲じゃなくて人類を救済したいとかいう立派な、多分立派な願いのためなんだけどな」
「ほむ……」
人類を救済と聞いて光己がちょっと考え込む。
宗教的信念が暴走してるとかそういうタイプなのだろうか? 彼の生涯を考えればありえないことではない。
とはいえこちらも人類を救おうとしている身だし、毒を盛るのは勘弁してもらいたいが……。
「まあどうしても仲間にしたいんなら、契約して令呪で裏切らんよう命令……いやカルデアの令呪はそういう使い方はできないんだったか」
光己自身が言ったことだが、実は今は状況が違う。天草を連れて来た責任を感じたのか、太公望が口を挟んだ。
「いえ、向かないというだけで不可能ではありません。今のマスターの力ならたやすいことかと」
「ほむ、なら話くらいは聞いてもいいか」
もっとも天草の方が「ルチフェロなりしサタン」との契約を拒むかも知れないが、その時は仕方ない。彼の意向次第で普通にお別れするか、腕力で決着をつけるかということになるだろう。
「そうですね。そもそも天草殿はカルデアの仲間になるというより、異聞帯について聞くために来た身ですから」
「ほえ?」
いや言われてみれば、天草とナーサリーはカルデアの仲間になるとは言っていなかった。
天草が人類の救済を望んでいるなら、地上を聖書的な天国にしたいとかそういう感じだろうが、その具体的な内容によっては異聞帯化の条件を満たしていつかこの世界自体が剪定されてしまうということだろうか。それなら詳しく聞いておきたくなるのは当然だ。
「うーん、地獄への道は善意で舗装されているってのはこういうことか。怖いな……。
モルガン、話してあげてくれる?」
「そうですね、この世界が私たちが知らない内に異聞帯化してしまっては大変ですから」
モルガンにとっても他人事ではないので、当然のように承知した。
そしてアタランテが天草に気つけをすると、天草は悪い夢でも見ていたかのような陰鬱な表情で目を覚ました。
「うーん。仮にも聖職者の端くれである私が、まさかサタンに惑わされる夢を見てしまうとは……」
「現実逃避するな。両目を大きく開いてしっかり見ろ」
天草は光己とのやり取りに相当な衝撃を受けていたようだ。しかしアタランテが無慈悲にも両手で顔をはさんで光己の方に向けたので、また竜の骸骨をまじまじと見つめることになってしまった。
「サ、サタン!? するとさっきのは夢じゃなかった……!?
いや翼が増えてますね。あの白い翼の神々しさ、モルガン殿が『天使長と魔王が半分ずつ』と言ったのは事実でしたか……」
疑似サーヴァントのようなものとも言っていたが、そのような存在が実在して、しかも目の前にいるとは。天草はせっかく少し回復した
すると不意に竜の骸骨が胸の前あたりで両手を合わせた。
「ドーモ、天草四郎=サン。藤宮光己です」
「……!?!? ド、ドーモ。あ、天草四郎です」
天草は「ルチフェロなりしサタン」が、いかに日本に詳しいとはいえ日本式のアイサツをしてきたことに驚いたが、アイサツされたからには返さねばならない。自分も手を合わせてオジギをした。
なお光己はアイサツすることで己が日本人であること、つまり同郷だと言いたかったのだが、天草は返礼するのが精一杯どころか混乱の度合いが増しただけだったりする。
「そ、それで藤宮殿、その翼はいったい……!?」
見れば光己の翼は白い羽翼が増えただけではなく、その下にある4対もどんどん再生が進んでいる。白い羽翼の下の2対めは燃えるように赤い羽翼、3対めは黒い金属の翼、4対めは羽毛の代わりに青っぽい水晶柱が生えており、そして5対めは真っ赤な蝙蝠の翼だ。いずれも並々ならぬ存在感がある。
「3対めと4対めは分かりませんが、2対めと5対めは……」
敬虔なキリスト教徒である天草にはある程度想像がつく。赤い羽翼といえば熾天使に生えているとされるもので、赤い蝙蝠の翼はサタンの化身ともいわれる「黙示録の赤い竜」のものに違いない。おそらく彼らの能力をいくらか再現できるのだろう。
聖書の記述によれば赤い竜は頭部を傷つけられてもすぐ再生する治癒力を持っているので、それが再現されていると考えればこの回復の速さも納得がいくし。
ただ赤い竜は尾の一振りで天の星の3分の1を地上に叩き落すほどの力もあるそうで、話半分どころか100分の1でも再現されていい力ではないと思うのだが。
天草がそれを述べると、骸骨はちょっと困った風な顔をした。
「まあキリスト教徒的にはそうだろうけど、俺もなりたくてなったわけじゃないんで……」
「なったと言いますと、モルガン殿が仰ったように元々は人間だったと?」
「人理修復に関わる前は魔術のまの字も知らない純一般人で、その一般人の未成年が何でカルデアにいるかっていうと、自分の意志じゃなくて拉致されたからなんだ。マジで」
「そ、それは何ともはや」
どう答えていいものか困ってしまう話である。しかもこれが事実ならカルデアという組織の正当性や信頼性にも関わってくるのだが、被害者にそれを言っても仕方ないのでやめておいた。
「ところでジャックはどこに?」
「アタランテのお腹の中だよ。貴方が目を覚ましたらもめるかも知れないからその前にって。
まあ天草視点だと、サタンが処女懐胎させるようにも見えるし」
「……言われなければ気づかなかったんですが」
「あー、それは失礼しました」
天草が本当に恨みがましい目で見つめてきたので、光己はとりあえず謝罪した。確かに言う必要のなかったことかも知れない。
しかしお互い好感を抱く要素があまりないせいか、コミュニケーションが今イチ噛み合わないようにも思える。
「まあたまにはこんなこともあるか……。
ところで天草は異聞帯について聞きに来たんだっけ」
「あ、そう、それです! 話がそれまくってましたが、元々そのために来たんです。
それで、どなたが異聞帯出身なんですか?」
天草がそう言いながら辺りを見回すと、すでにスタンバイしていたモルガンがずいっと1歩進み出た。
「私だ。
ただその前に、我が夫の翼の2対めと5対めについて語ってくれた礼に、3対めと4対めのことを教えてやろう。他にも早く知りたい者はいるだろうしな。
3対めは
そこでモルガンが一瞬口ごもったのは彼女も完全に看破できたわけではないからだったが、100%でなければ言わないというほど頑固ではなくすぐ続きを語った。
「一見は鉱物らしく冷たく無機質だが、その奥に春の花畑のような暖かさとのどかさを感じさせる……あれは
「さすが王妃様慧眼だね。うん、多分私の『宝具』と似たような作用をもたらせるんじゃないかな? つまり理想郷の夢を皆に示すというか」
「示すというか、実際に顕現させられるんじゃないかしら。わたしの千年城に似た雰囲気もあるし」
マーリンの回答に続いて、アルクェイドも星の内海出身だけに感じるところがあったのか私見を述べた。しかし3人とも100%の分析はできなかったらしく、当人による解説を求めて視線を送る。
「……ほむ」
水晶の翼は光己にとっても想像外の事態で、現在鋭意調査中の立香もまだ全貌を把握できてはいないのだが、仕方ないので今分かっている分だけでも語ることにした。
「水晶宮……一般的な言葉でいうと竜宮城を顕現させる権能があるっぽい。絵面としてはマシュやブリュンスタッドさんの宝具みたいな感じかな。
それで何ができるかはまだ判明してないけど、戦闘時にはお姉ちゃんめいて空飛ぶサメの軍団を」
「お姉ちゃんって確かジャンヌ・ダルクのことだっけ? それはいいけど、サーヴァント戦で空飛ぶサメはその絵面がひどいことになるからやめといた方がいいと思うわよ」
「ほむ、それもそうか……」
光己はまた何かしょうもないことを考えたようだが、アルクェイドにツッコミを入れられると素直に引っ込めた。
なお日本では海神の宮殿が竜宮と同一視されている面があり、古事記にはその海神が
さらにはブリテン異聞帯にあった星の内海に続く洞窟には、光己の翼の水晶に酷似した水晶柱がたくさん生えていたのだが、これを語れる者は今ここにはいなかった。
そこに小次郎が声をかけてくる。
「カルデアのマスター殿、竜宮城というのはあれか、乙姫がいて玉手箱をくれるというあの竜宮城のことなのか?」
「はい、その竜宮城ですけどあれは数ある竜宮城の内の1つですので、俺が出すものにはいないですよ。
俺のやつには多分星の内海要素が混じってますし」
「ほほう、それはそれで興味が湧く。もし暇があれば、英霊の座への土産話に見せてもらえると嬉しいのだが」
「いいですよ、翼が完成してからになりますが」
小次郎は天草とほぼ同じ時代の日本人なのだが、こちらのコミュニケーションはいたって円滑であった……。
その辺の話が一段落したところで、モルガンがまた天草に顔を向ける。
「―――どうやら1対めと6対め、2対めと5対め、3対めと4対めが形状や性質の面で対になっているようだな。神性と魔性が等量なのは変わっていないから、むやみに危険視する必要はないと思うが?」
「…………むむむ。確かに人格が一般人の未成年のままなのであれば、あまり攻撃や非難をするのは不当であるばかりか、攻撃者への怒りを募らせて本当に人類の敵に追いやってしまう恐れすらありますね。それは得策ではありません」
天草はそこまで教条主義ではなく、人情や損得勘定も分かる人物であるようだ。まあそうでなければ一揆の指導者など務まらなかっただろう。
モルガンたちの話はどれもこれもサタンの計略という見方もできるが、証拠もなしに疑い続けてもキリがない。今は棚に上げておくことにしたのだった。
「では、話を戻して異聞帯のことを教えて欲しいのですが」
「ふむ。簡単に言うなら、無数にある並行世界の中でも、文明的に行き止まりになり変化が見込めなくなったため『剪定事象』として消滅する運命にある世界のことだ。
その世界の住人にその自覚はないし、まして剪定の詳細な基準など知りようがないがな」
「確かに、そんなことが分かるのは『神』か、でなければ剪定をしている当人?くらいのものでしょうね……」
剪定の詳細な基準が分かれば「人類が第三魔法で救済された世界」がその対象になるかどうか判断できると天草は考えていたのだが、さすがに難しいようだ。いや「変化が見込めなくなったため」と分かっているだけでも御の字というべきか。
「おまえが気絶している間に聞いたが、おまえは第三魔法で人類を救済するのが望みだそうだな。
確かに死や老衰や病気や飢えがなくなれば、それを原因とする不幸や闘争や暴虐もなくなるだろう。
しかし当然、それ以外の原因で起こる不幸はなくならないな。いやいつかは克服してなくなるかも知れないというか、おまえはそれを期待しているのだろうが」
6千年の長きに渡って妖精たちと関わってきたモルガンには、これがうまくいくとはあまり思えなかったが、種族の違いもあることなので言わずにおいた。
「そうですね。一朝一夕とはいかなくても、現在の状態がこのまま続くよりは期待を持てると思っています」
「そうか。しかし死がないとなると、その救済の日が来るまでは『死んで楽になる』ことすらできない哀れな弱者が多数出るのは承知の上だろうな? おまえが信じる教えでも言っている『地獄』そのものなわけだが」
「…………ええ、それでもです」
地獄と聞いて天草はさすがに一瞬青ざめたが、それでも決意は揺るがなかった。
生前の経験だけではなく、サーヴァントになってからの出来事も信念をより深めているのだろう。
「そうか。まあ第三魔法に加えて善性も同時に与えれば、この問題は最初から発生しないのだが」
モルガンは天草の返事に感想を述べなかったが、代わりに解決策を示したところを見るに彼の反応を見ること自体が目的だったようだ。
天草がかくっと脱力したのをスルーして話を続ける。
「さて、こうしてめでたく地上が天国になったとして。
おまえと太公望は、その世界に子供が生まれるかどうかを話していたそうだな」
「ええ、そうですが貴女には予想がつくのですか?」
「ああ、おそらくは生まれないだろう。
というのも、自然界では多産多死か少産少死が普通だからだ。危険が多く次世代を産める年齢まで生存できる可能性が低い種ほど子を多く産み、逆に安全で成年に至れる可能性が高い種は子が少ない。
人間だけを見ても、各時代や地域における出生率の違いはおおむねこの法則に合致している」
「なるほど。私は生物学には詳しくありませんが、確かにその通りですね。
少産多死では絶滅してしまいますし、多産少死ではその種だけ数が増えすぎて生態系のバランスを崩してしまいます。自然とは実によくできていますね」
つまり第三魔法が与えられた世界では人口爆発になる可能性は低いと分かったわけだが、では剪定の方はどうなのだろうか?
「実は地上が天国になった異聞帯は存在するのだ。私の所ではなく、その様子を人に聞いただけだが」
「何ですって!?」
思わず身を乗り出した天草に、モルガンは淡々とした口調のまま説明を続けた。
「そこはギリシャの神々の庇護、あるいは支配を受けていた所でな。人々は何千年もの間変わらぬ姿のまま平和と繁栄を享受し、幸福な満ち足りた日々を送っていたらしい。
異聞帯だから滅びはしたが」
「そう、ですか……」
ギリシャの神々を「主」に置き換えればまさに天草にとって理想ともいえる世界なのに、それでも消えてしまうのか。世界とは、宇宙とはいったい何なのだろうか。
「まあそう落ち込むな。幸福だったから消されたというわけではあるまいし。
おまえにとって第三魔法とは手段であって目的ではないのだろう? ならば別の手段、あるいは世界と人類のあり方を模索すればいいだけのことではないか」
モルガンにも生前似たような経験があっただけに、その言葉には重みがあった。うなだれていた天草がふっと顔を起こす。
「…………そう、ですね。少なくとも検討は必要なようです」
自分が求めていた理想世界が破滅に続く落とし穴だったと知らされてなお、すぐこう言える天草もまた大変な精神力の持ち主であった。といってもすぐ次の手段を思いつけるわけもなく、かなり落胆気味だったけれど。
一方モルガンはこれで天草の宿願についての話は終わったと解釈して、別の話題を切り出した。
「それでおまえはこれからどうするのだ?」
「どうする、とは?」
「身の振り方だ。私たちと同行するなら、おまえはマスターに毒を盛ったりするそうだから令呪で縛る必要があるが、『ルチフェロなりしサタン』と契約するのが嫌ならここでお別れということだな。もちろん同行しても鉄砲玉扱いはしないから安心するがいい。
もしくはキリスト教徒としてサタンを倒したいというのなら真正面から相手になる……というのが我が夫の方針だ。魔王とは思えぬ実に寛容な沙汰だな」
「……そうですね」
ここで別れたら何らかの理由で敵対したり聖杯を横取りしようとしたりする可能性だってあるのだから、契約を拒否しても見逃してくれるというのは本当に寛容というしかない。人格が一般人のままというのは信じて良さそうである。
「しかし私がマスターに毒を盛るという話はどこから?」
「モードレッドとアタランテに聞いた」
「そ、そうですか」
そこで天草は2人にチラッと視線を送ってみたが、2人は悪びれる様子もなく見返してきた。我ながら残当だと思ったが、口には出さずモルガンの方に注意を戻す。
「……それで、契約するとしたら具体的にはどんな縛りを?」
「我が夫を含むカルデア関係者及びその協力者に危害を加えたり裏切ったりすることを禁じる、というところだな。当然ながら手段にかかわらず精神干渉や欺瞞も含まれるぞ」
「なるほど、きっちり詰めてきますね……」
これでは「聖杯大戦」の時のような黒幕ムーブはできない。いやあの時天草自身がしたことに比べれば有情というべきか。
「しかし独断では決められませんね。ナーサリー、彼らと同行したいですか? それともここで別れたいですか?」
ただ即決はしかねたので被保護者の希望を聞いてみたところ、童話の少女はちょっとだけ考え込んだあと同行の方を選んだ。
「ええと、ええと。この人たちはまだちょっと怖いけど、こんな危険な街で2人ぼっちはもっと怖いから大勢の方がいいわ」
「なるほど、それはもっともですね。では同行ということで」
こうして、天草とナーサリーもカルデア側に仲間入りしたのだった。