FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第230話 竜宮城談議

 天草とナーサリーがカルデアに仲間入りすることになったので、光己は天草と契約した後、モルガンが予告した通りの内容で天草に制約を課した。

 その時天草がちょっと苦しげな顔をしたのは純粋に制約の作用がつらかったのか、それとも裏工作ができなくなったからはさだかではない。

 なおナーサリーとは本人が希望しなかったので契約していない。今の光己の見た目を考えれば残当であろう……。

 

「まあ令呪は1画しかなかったから、どの道ナーサリーに制約は課せないんだけど」

 

 とはいえナーサリーが裏切りや悪事を働くとは考えにくいから、あえて当人が望まぬ契約を強いる必要はあるまい。

 

「で、次はモルガンとモードレッドのお話だったな。契約はする?」

「ああ、頼む」

 

 このたびのお話()は勝ち負けではなく感情の発散と相互理解が目的なので、片方だけが他者の助力で強くなって相手を圧倒するのが好ましくないのはモードレッドにも分かる。しかしモルガンが契約解除したら特異点から退去になってしまうので、モードレッドが一時契約するしかないのだった。

 そして光己と契約すると、途轍もない魔力が流れ込んできて自身のスペックが大幅に上昇したのを感じた。

 

「お、おおぅ……!? なるほど、これなら母上が気にしたのも当然だし、はぐれサーヴァントなんか一捻りになるよなあ」

「そういうことだ。我が夫があの姿でいる間だけの一時的なものだが」

 

 ちなみにマスターが人間である場合、たとえばアルトリアが「半人前の魔術使い」と契約するのと「成熟した魔術師10人分の魔力量を持つ魔術師」と契約するのとでは筋力・耐久・敏捷・魔力すべてが1ランク違うという程度の差である。これを大きいと見るか小さいと見るかは解釈の余地があるだろう。

 

「ではやるか。しかし人前ですることでもないから、隅の方で衝立も立ててやろう」

「あー、そりゃそうだな」

 

 というわけでモルガンとモードレッド、そして立会人としてアルトリアズとバーヴァン・シーが公園の隅の方に移動して親子の語らいを始めた。

 それで彼女たちの姿は見えなくなったが、モルガンは防音処理をし忘れたようでえげつない打撃音が響いてくるではないか。

 

「…………まあ、聞いてないフリするのが気遣いってものかな?」

「そうですね。何度もやるわけじゃありませんし、あえて注進しに行くまでもないでしょう」

 

 相談をもちかけられた太公望も頬をひきつらせていたが、水を差す気はないようだ……。

 

「しかしこの派手な音、()()()()遠慮なくやってそうですね。

 まあそうでなければ、特にモードレッド殿は鬱憤を吐き出すことはできないでしょうが」

「バーヴァン・シーがお労しいけど、家族問題だから口出しはしにくいからなあ」

「……そうですね」

 

 なので皆黙ってお話()が終わるのを待っているとやがて打撃音が聞こえなくなり、衝立も消されてモルガンたちが戻ってきた。モルガンもモードレッドもケガをしていないのは、モルガンが魔術で治療したからだろう。

 

「まいったまいった、まさか母上があんなにステゴロ強いとは思わなかったぜ!」

 

 そう言ったモードレッドは実にすっきりした顔をしているので、モルガンの試みは成功したと思われる。それでも一応、光己はリーダーとして確認しておくことにした。

 

「人は見かけによらないよなあ。それで話し合いはうまくいった?」

「ああ、カルデアの母上にはもう遺恨はねえよ。

 もし他の母上に会ったら……まあ状況次第だな」

「そっか、それなら良かった」

 

 他のモルガンがどんな性格でモードレッドにどう接するかなんて分かるわけがない。光己は素直に、モードレッドの心境が少しでも改善されたことを喜んだ。

 

「モルガンはどう?」

「私は元々モードレッドに隔意は持っていませんので、()が納得してくれたならそれでいいです。

 ところで我が夫、翼の1対めと6対めについて聞きそこねていましたが」

「あー、そういえば」

 

 ただ光己も自分のことながらまだあまり分かっていないので、このたびも脳内幼馴染に講釈を受けてから説明した。

 

「まず1対めは見た目通り、天使長の翼。光属性の御業を使えるけど、今は熟練度(スキルレベル)の関係で、今まで使えてたバフデバフだけみたい。

 6対めはこれの反対の魔王の翼。闇属性の技を使えるけど、こちらも今はドレインだけ。

 それと天草が2対めを熾天使の翼といってたけど、具体的には量子と電脳の属性らしい」

「量子? 電脳?」

 

 さすがのモルガンも、これだけでは意味不明だというように首をかしげた。アルトリアズや天草に至っては完全にちんぷんかんぷんな顔をしている。

 

「いや電脳は量子に含まれるって感じかな? 身体を量子化する、いや物質はみんな量子なんだから元々量子なんだけど、人間サイズでも量子的な振る舞いができるというか」

 

 光己はカルデアに来てから勉強したといっても、それは英霊絡みの神話や伝承についてのことが大部分なので、量子論を語るのがたどたどしくなるのは致し方ないことだろう……。

 

「あー、えーと、要するに結論を言うと。テレポーテーションとか複数の場所に同時に存在できるとか、応用で電脳世界に入れるとかそんな感じ……かな?

 そういえばカーマは元の世界では単独顕現とか万欲応体なんてのができたそうだけど、現象としてはそれと似たようなもの……だと思う。

 ただこれは俺自身に行使するものだから、先に理論を勉強しておかないと実践練習はできないみたい」

「ふうむ。ちと要領を得ん説明だが、会得できれば有用なものであるのは分かった」

 

 考えてみるに愛の神が悩める者たちの求めに応じて出向くとするなら、身体が1つで移動手段が徒歩や飛行というのではとても追いつかない。瞬間移動や分身といったことができるのはむしろ当然といえよう。

 同様に最上位の天使ともなれば担当する業務が多いから、そうした能力を持っていてもおかしくない。といっても非常に高度な技能だけに、元一般人が簡単に会得できるものではないようだが。

 なお電脳云々のくだりはさすがのモルガンにも理解が及ばなかった。

 

「うん。何しろ分身の術ってことだから、これをマスターすれば奥さんが何人増えても寂しい思いはさせずに済むってわけだからな! これもアラヤの加護、いやご褒美に違いない」

(何か急にやる気が萎えてきたよ。あとは光己1人でがんばってね)

「ちょ、神様仏様立香様!?」

 

 また思春期なことを考えて気炎を上げた光己だが、それを口に出して協力者のご機嫌を損ねてしまうとはまだまだ未熟であった……。

 

「……やれやれ。

 ただこの手の技能は衣服や所持品に行使できるかどうかという問題があるのだが、我が夫なら『蔵』に入れておけば何とかなるか……」

 

 光己が何やら脳内夫婦漫才しているのを見て、モルガンは生前出会った異邦の魔術師(リツカ)の顔を思い出しながら苦笑したのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後しばらくしてようやく翼がすべて完成したので、光己は小次郎のリクエストに応じて竜宮城を披露することにした。

 

「それじゃいくか。『水底より招き蕩う常世の城(パレスオブドラゴン)』!!」

 

 なおスキルのネーミングは言うまでもなく中二的独創である。宝具ではないから真名開帳とかそういう手続きは必要ないのだが、ヒサツ・ワザを使う時にその名前を高らかに唱えるのは当然行うべき重要な儀式なのだ。

 そして予兆もなく、薄青い透明な水晶だけでつくられた小さな宮殿が出現する。魔霧のため重く淀んでいた空気がたちまち浄化され、春の日の真昼のように明るく暖かく澄み渡った。

 地面にも色とりどりの美しい花が咲き乱れている。

 

「おお、この景色と雰囲気はまさしく星の内海(アヴァロン)……!」

「そうだねえ。まさか地上で見ることになるとは思わなかったよ」

 

 モルガンとマーリンが驚愕と感嘆の声を上げる。

 そういえば汎人類史(ここ)のアルビオンは星の内海に行く途中で力尽きて息絶えたという話だが、これで半分くらいは願いがかなったということになるのだろうか。もしかしたらこうなることを見越した上で光己を呼び寄せたのかも知れない。

 ここでモルガンは(我が夫に星の内海との縁ができたのなら、妖精國引っ越し計画はよりやりやすくなるな)と思ったが、計画自体がまだ素案の段階なので口にはしなかった。

 

「ええ、これは確かに私が最期に行った……行った? アヴァロンによく似た雰囲気ですね。

 聖剣の鞘を真名開帳した時の感覚にも似ています。おそらく同じような効果があるでしょう」

 

 アルトリアも同様の見解を示したが、生前の自分が本当にアヴァロンに行ったのかどうかは確信を持てないようである。冬木で会った別の自分が行ってないからでもあるだろう。

 もう1人の星の内海関係者であるアルクェイドも素直に感心していた。

 

「マスターさんすっごいわねえ。空想具現化(わたしとおなじちから)じゃなくて、固有結界(〇〇・〇〇〇のげい)に近い感じかしら?

 この心安らいで癒される感じはわたしともあいつとも〇〇〇〇とも違うけど」

「ほう、ブリュンスタッド殿はこの術の仕組みに見当がつきますか。

 まあ()()()()()()()()()感覚がすごいですからねえ」

 

 すると太公望が近づいて話しかけてきた

 なお地面の花園には碁盤の目のように通路があり、花を踏まずに歩けるようになっている気の配りようである。

 

「貴方には分かるの?」

「ええ。これはマスターが言った竜宮城、水界にある理想郷が固有結界として展開されたものだと思います。

 そういえばアーサー王伝説に出てくる『アヴァロン』も湖の中、つまり水界の理想郷でしたね。しかも王はいつかは現世に還ってくることになっているあたり、マスターの生国の山幸彦や浦島太郎と同じ類型の物語なのが興味深いです。

 もちろん他の国にも似た話はいくつもあります」

「へええー。人間考えることは同じってやつかしら?」

「そうですね。ですからこの景色は固有結界といってもマスター個人の心象風景ではなく、アルビオンが行こうとしていた実在する『星の内海』と、『水界の理想郷』という元型(アーキタイプ)的イメージが混ざったものというところでしょうか」

 

 なおアルクェイドは別名を「アーキタイプ:アース」というのだが、これと今太公望が言った「元型」は別物である。

 

「なるほどねー。冠位の竜と合体したからドラゴンの城ってだけの話じゃないんだ。

 そういえばさっきマスターさんアラヤの加護がどうとか言ってたけど、人理を救おうとしてるのなら、人類の集合的無意識との関わりが深くなるのは当然よね。

 でもここまでいろんな属性ついて、マスターさん頭大丈夫かしら?」

「見た感じでは平気そうですが……その辺も込みでアラヤの加護なんでしょうね」

 

 関係者と有識者はこのような小難しい話をしていたが、言い出しっぺの小次郎はそちら方面に造詣がないので別方向の感想を述べていた。

 

「これは何とも雅……実に良いものを見せてもらった。私にもう少し文才があったら俳句のひとつでも詠んで礼代わりにしていたところだが、無学者で相済まぬ」

 

 そう言い終えて、ふと小次郎は首をかしげた。

 

「……相済まぬと言っておいてあつかましいとは思うが、ここには食事はあるのかな?

 浦島太郎は魚の踊りを見ながらご馳走を食べたというが」

 

 小次郎は元敵だし大した手柄もないので実際あつかましいといえばあつかましいが、日本人なら竜宮城のもてなしに興味を抱くのはいたって自然である。光己は気にせず快諾した。

 

「ご馳走ならありますよ。魚はサメとイルカなら……いやイルカは魚類じゃなくて哺乳類だっけ」

「サメ? イルカ?」

 

 はて、竜宮城で踊りを披露するのは鯛やヒラメではなかったか。もしかしてこの辺りが星の内海要素なのだろうか? 小次郎と天草がそんなことを考えると、表情で察したのかマーリンが駆け寄ってきた。

 

「いや星の内海にサメやイルカは……探せばいるかも知れないけど、陸の上にはいないからね!?」

「む、やはりそうなのか……!?」

 

 ではどこ由来なのか2人はちょっと気になったが、触れない方が良い案件だとも思ったので距離を取ることにした。

 

「……怖いものを見てみたい気持ちはあるが、今回はやめておくことにしよう。

 それでそのご馳走はどこに?」

「建物の中です。食べ物だけなら外に出せますので、ジキルさん……といっても分かりませんね。俺たちが居候させてもらってる家に持って帰って皆で食べましょう。

 俺の熟練度の関係でお土産はまだ出せませんけど」

「……いや、お気遣いなく」

 

 竜宮城のお土産といえば玉手箱である。当然に小次郎と天草が丁重に辞退すると、竜の骸骨はちょっと不本意そうな顔をした。

 

「いや玉手箱は例外で、普通はいい物もらえるんですよ」

 

 たとえば山幸彦や俵藤太や安倍晴明、中国の柳毅、インドのナーガルジュナあたりは本当に良い宝物をもらっているのだ。むしろもらった物が地雷だった上に、現世と水界で時間の流れの速さが違っていたという隙を生じぬ二段構えの罠だった浦島のケースの方がレアなのだが、乙姫が地雷を渡した理由は不明である。

 

「まあここのお土産は要するにガチャで、実際ハズレもあるんですが」

 

 その時光己は誰かが「ガチャァァァッ!!」と叫んだのが聞こえたような気がしたが、幻聴ということにしてスルーした。

 

「え、ハズレがあるのか!?」

「ええ、ハズレの逸話がある以上は……」

「さ、さようか」

 

 ガチャという言葉は初耳だが、多分クジのようなものであろう。普通のクジは外れても何ももらえないだけだが、そうではなく老化ガスを浴びせられるとは何と恐ろしい……。

 2人は話題を変えることにした。

 

「で、では食事の方をいただくとしようか。建物の中と聞いたが、取りに行けばよいのか?」

「そうですね。俺は行けませんので、お2人にお願いします」

「承知した」

 

 光己が建物の中に入れないのは見ての通りなので、小次郎と天草が建物に向かうとモルガンたちも興味を持ったのかついてきた。

 中は壁も床もすべて水晶製で美しかったが、家具の類はほとんどなく殺風景でもあった。光己が言った熟練度とやらのせいだろう。

 生物の姿は見当たらない。今は必要ないからか、それとも別の理由があるのだろうか。

 やがて厨房らしき部屋にたどり着くと、テーブルの上に酒肴が用意されていた。一目で王侯の宴会で出されるような豪華なものと分かるレベルだ。

 

「これはこれは……しかもよく見ると魚や貝の類はないな。昔話を初めて聞いた時に少し気になったのだが、これで安心した」

「ふむ。言われてみれば穀物や肉といった陸上でとれるものばかりで、海産物はないようですね……まあ乙姫にとって海藻類はともかく、魚類は家来でしょうから当然ですか。

 しかしそうなると、肉や野菜をどうやって調達していたのでしょうか」

「かの俵藤太公は百足退治の礼として、龍神から無限に米が出る俵を授かったとか。

 乙姫が同様のものを持っていたのなら不思議はあるまい」

「なるほど」

 

 こうして乙姫は客人に家来を食わせるマッドな人物ではなかったことが判明した。日本人として大変喜ばしいことである。

 ところで酒肴は2人で普通に運ぶにはあまりに多すぎる量だったが、魔術師が複数いれば搬出も保温その他の処置もたやすい。すみやかに建物の外に持ち帰ったのだった。

 

 

 




 Fateで熾天使(セラフ)といえばEXTRAですので、熾天使の翼の属性は電脳となりました。
 しかしこれだけではニッチすぎますのでもう1つ追加しましたが、瞬間移動はともかく分身は強すぎますので習得しなさそうです。


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