FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第235話 竜と獣2

 ドラコーがはっと目を覚ますと、ワイヤーで腕と脚を厳重に縛られていた。当然強力な魔術がかけられており、今の力ではちぎれそうにない。

 しかも先ほど予想したように、「黙示録の獣」の力が奪われている。獣の外身(ガワ)の腕と脚と尾もなくなっていた。「バビロンの大淫婦」の力は残っていて、杯も無事だったが……。

 周りを見回してみるとまず光己の姿が目に入ったが、なくなった外身は彼のものになっていた。力を取り戻すための協力者になってもらうはずだったのに、逆に残っていた力を奪われた上に虜囚にされてしまうとは何という皮肉!

 光己に殴り飛ばされた魔獣赫が壊した壁は直っていた。おそらくマーリンの処置だろう。

 

「……む、サーヴァントが増えているな。こんなにいたのか」

 

 部屋の端の方に、さっきはいなかった者が4人ほど立っている。戦闘の気配を察して駆けつけたか、光己に呼ばれて来たのだろう。

 ―――その内訳はモードレッドとアンデルセンとシェイクスピアと天草である。他の者も来ていたのだが、侵入者は捕縛済みだし、あまり大勢だと窮屈になるので元の部屋に戻ったのだ。

 カルデアに連絡して、尋問の補助要員としてスクリーン越しに清姫とカーマを呼んでおり、相手が相手だけにオルガマリーたち幹部勢もその後ろに控えているし。

 なおモードレッドが残った理由は純粋な使命感だが、作家組は好奇心と野次馬根性であり、天草はキリスト教徒的な関心である。ネロといえば最初にキリスト教を迫害した人物だし、それが「バビロンの大淫婦」「黙示録の獣」として並行世界から襲って来たとなれば無関心でいられるわけがなかった。

 

(……「無辜の怪物」とはいえ大淫婦といわれるだけあって破廉恥な格好をしていますが、しかし何故あんな幼い姿に?)

 

 それを初対面の幼女にいきなり訊ねるほど天草は不躾ではなかったが、口さがない者も2人程いた。

 

「カルデアのマスターが我が英国の冠位竜(アルビオン)と融合したとか、その次は堕天使ルシフェルの疑似サーヴァント的な存在になったとか聞いた時は驚きましたが、そのルシフェルの元にかのネロ帝がバビロンの大淫婦として黙示録の獣に乗って現れるとは!

 次は竜と獣が暴れ回るのか、それとも速攻で鍵と鎖を持った天使が降臨してお二方は封印されてしまうのか!? 吾輩、その場面を想像するだけで興奮が抑え切れません!」

「童話のモチーフとしてはいささか大仰すぎるが、黙示録がどこまで再現されるかは興味があるな! その度合いによってはこの狭い特異点などたちどころに潰れそうだが」

「その時はその時、仮にそこで果てたとしても、見聞きした記憶は余さず座に持ち帰りますとも!」

 

 さすがに光己とドラコーには聞こえないよう小声で話す程度の配慮はしていたが……実は光己は2人の想定より耳が良かったので全部聞こえていたりする。

 しかし光己的には2人の口が悪いのは今更だったし、今のも警告と考えればむしろありがたいものと言える。なので文句はつけなかった。

 それよりドラコーと話をせねばならない。

 

「それじゃ、尋問(インタビュー)の前にこちらの自己紹介しとくかな」

 

 普通の聖杯戦争では、サーヴァントが真名を明かすのは能力や弱点がバレることになるのであまりやらないそうだが、特異点修復では名前を隠す者は少ない。それにこちらはドラコーの生前の名前をすでに知っているので、一応は誠意を示すことにしたのだ。

 そしてマシュから始まって天草まで名乗り終えると、光己はスクリーンを手で示した。

 

「わざわざスクリーンで同席してもらってるのにはそれなりの理由があってね。

 こちらの清姫は嘘を見破るのが得意で、こっちのカーマはあんたと同じ、並行世界から来た『元』人類悪なんだ。

 もちろん『獣の権能』は剥がしてあるし、清姫の前で『人類悪はやめる』って明言してもらってるけど」

「何と!?」

 

 ドラコーは仰天して、思わずカーマの顔をまじまじと見つめてしまった。年の頃は自分と変わらない幼女だが、確かに同類ではあるようだ。

 しかしこれで、自分が気絶している間に殺さなかった理由が分かった。まさかすでに前例がいたとは本当に驚きだが……。

 とはいえ獣の権能を剥がして人類悪もやめさせた上でのことだそうだが、光己たちにしてみれば当然のことだろう。つまり自分は権能はすでに奪われた身だから、あとは人類悪をやめれば助命してもらえるわけだが……さて。

 

「それじゃまずは、ここに何をしに来たのかから話してもらおうかな」

「……むぅ」

 

 生前は皇帝、今は人類悪(ビースト)ともあろう者が縛られて尋問を受けるなんてのは大変な屈辱なのだが、意地を張って黙秘しても無駄に痛い目に遭うか殺されるかするだけで得はない。生き残りたいのなら、知られても不都合のないことはおとなしく白状した方が良さそうだ。

 

「……それはだな。

 実は余は当初はビーストⅥとして完全ではなくてな、まずは成体になる必要があった。そこで、貴様たちも知るゲーティアがやった『人理焼却』を模倣した七層の特異点からなる『証明世界』を生み出した。

 そこに無数の並行世界から『カルデア』を引き寄せ、彼らの願い、世界を救わんとする『救世主の願望』を集めて喰らうことで、余は見事成体となることに成功したのだ」

「…………むう。それはまた、ずいぶんとスケールが大きい話だな」

 

 魔術王でさえ並行世界に手を出したという話は聞いてないのに。光己は思わず唸ってしまった。

 しかも今、ドラコーは重要な人名を口にしなかっただろうか。「ゲーティア」とは何者であろうか?

 いやカルデアで勉強したから、ソロモンが書いた本の題名であることは知っているが。彼が使役した72人の悪魔について記されているものだ。

 まあこの辺はオルガマリーたち魔術師勢が後で検証するだろうから、光己は今の話題を続けることにした。

 

「でも結構リスク高くないか? たとえば10個のカルデアが組んで同時に攻めて来たら、幼体のままじゃ厳しいだろ。

 それとも1個ずつ引き寄せてタイマンでやってたのか?」

「ふむ、そこに気づくとはマスターとして最低限の戦略センスはあるようだな。

 1個ずつ引き寄せるのは面倒だから複数が断続的に来る形にしていたが、実際に戦闘する時は1対1か2程度に抑えていたぞ」

「ほむ……」

 

 ドラコーは大スケールをかましつつも、細かい作戦を立てることもできたようだ。

 そうして成体に至れたということは連戦連勝していたはずだが、その成体になった後で不覚を取ったということか?

 光己がそれを訊ねると、ドラコーは今思い出しても悔しいのか唇を噛みつつも答えてくれた。

 

「そうだ。とあるカルデアに破れて魔獣赫を失い、証明世界も崩壊のさなかにある。

 しかしこんな終わり方は納得できぬ! 余は一縷(いちる)の望みをかけて、残った力でまた別の並行世界に脱出したのだ。

 むろんただ逃げたわけではないぞ。そこのマスターと契約して多少は力を取り戻した上で、証明世界に再侵攻するためだ!」

「ほむ、それで俺の所に来ちゃったわけか」

 

 おそらくドラコーはたとえばカーマやモルガンたちが元いた世界のような、マスターが立香1人だけで、しかも当人は大して強くない世界に行くつもりだったのだろう。そして先ほどの魔獣で捕獲して、そのまま自分もろとも証明世界に帰還するという計画だったに違いない。

 それがよりによってアルビオン・ルシフェルなマスターに引き寄せられてしまうとは、これがいわゆる悪運が尽き、いやまだそうと決まったわけでもないか……。

 

「でも再侵攻してどうするんだ? 証明世界を直せるのか?」

「いやそれは無理だ。しかし失った魔獣赫を取り戻す、つまり成体に戻ることはできる。そうすればまた別の並行世界に行けるしな」

「なるほど……」

 

 筋は通っている。ここで光己が清姫にチラッと目をやると、嘘発見少女は小さく頷いた。

 ドラコーは今のところ「嘘をついては」いないようだ。

 光己としては並行世界のことまで責任を取りたくはないが、あえて災いの元を放り込む趣味もない。彼女の希望をかなえるのはNGだろう。

 ―――もっともドラコーも、この希望を光己たちが簡単にかなえてくれると思っているわけではない。

 

「それで不運にも貴様たちの所に来てしまって今に至るわけだが、貴様たちは余を打倒したわけだからな。逸話的に考えて()赤い竜(きさま)はベストパートナーだし、敗者として勝者に従う気がないでもない。

 仮にもカルデアのマスターにして堕天使ルシフェルであるなら、獣の1匹、いや2匹になるのか。乗りこなしてみせよ……!」

 

 などと光己を煽ったドラコーだが、これは彼と契約すれば多少は力を取り戻せるし、性格的に見て今すぐは無理でも時間をかけて誑かせば再侵攻に付き合ってくれる可能性はあると踏んだからである。「敗者として勝者に従う気がないでもない」という台詞も(ビースト成体に戻るまでは)嘘ではないから清姫とやらも怖くないし。

 しかし煽るばかりでは何なので、セーフティがあることも述べておく。

 

「いや不安がる事はない。そこの軽薄そうな男が言ったように、逸話的には余と貴様が組んで悪事を働いたら天使が封印しに来るわけだからな。貴様と契約を結んでいる間は悪さはせぬ」

 

 シェイクスピアの放言はドラコーにも聞こえていたようだ。劇作家は小さく肩をすくめたが、謝罪等はしなかった。

 

「…………ほむ」

 

 一方光己はそんな些事に関わっている暇はなく、ドラコーの言葉をよくよく吟味しないといけない。

 ―――悪事はやめて仲間になってくれると言うが、それは光己と契約している間だけという風にも解釈できる。それはちと、いやかなり問題だ。

 しかし考えてみれば人類悪ともあろう者が、1度負けただけで簡単に改心するというのも都合が良すぎる話なわけで。カーマだって、本当に人類悪をやめるまでには結構時間がかかっていたし。

 逆にいえばドラコーも時間をかければ本心から人類悪をやめてくれる可能性はあるのだが、無論それは確定ではない。

 なお魔術王がつくった特異点では現地サーヴァントをカルデアに連れ帰ることはできないという過去の例があるのだが、ドラコーは(光己が返せば)単独顕現を持っているから、彼女が来る気になれば契約をたどって来られるだろう。来る気にならなければ? 他のサーヴァント同様、座に退去となるはずだ。

 ただ光己と契約してドラコーが強くなったとしても、その契約を解除されたら今のレベルに戻るわけだから、並行世界に逃亡しても大した悪事はできないだろう。その辺彼女はどう考えているのだろうか?

 

(うーん。俺のコミュ力じゃ深く追及したら藪蛇になるかなあ?)

 

 サーヴァントとかかわるようになってから結構経つが、それでも歴史上の著名人(えいれい)、ましてや人類悪と「人理修復をしているマスター」という補正抜きの純粋な人間力だけで対等に渡り合う自信はない。どうするべきか……?

 

(まあ、マスターには「アルビオンにしてルシフェルである」という別次元の補正があるのですが……今言うことじゃないですね)

 

 なお太公望は光己の表情を見てこんなことを考えたが、その思考の通り沈黙していた。

 相手によってはマイナスになる補正なので、いずれ伝えねばならないが。

 

「ま、こういう時はストレートにいくしかないか……。

 ドラコー、今の台詞は『俺との契約を解除したら悪さを再開する』とも聞こえるけど、契約解除したら今と同じ力でしかなくなるから人類悪的な大事業はできなくなると思うけど、その辺どう考えてるんだ?」

「それは現状での話であろう。余が魔獣赫を取り戻せば、契約解除しても問題ない。

 つまり()天使長(きさま)にほだされて芯から人類悪をやめるか、天使長が獣に誑かされて魔獣赫(ちから)を取り戻すのを手伝うことになるか、まさに善と悪の最終決戦というやつだな! はははは」

「…………むう」

 

 ドラコーは愉快そうに高笑いしたが、光己の方はそう暢気していられない。とりあえず、清姫に顔を向けて真偽の判定を求めた。

 

「……そうですわね、今のドラコーさんの言葉に嘘は感じられませんでした。言い方はアレでしたが、真剣に己の在り方を賭けてのことだと思います。

 とはいえ旦那様ほどの徳の高い方が獣とやらに誑かされるわけがありません。ドラコーさんは逸話的には! 逸話的には旦那様とベストパートナーだそうですので戦闘などでは役に立つでしょうから、仲間にすることにあえて反対は致しません」

 

 清姫が「逸話的には」と2度も言って強調したのは、言うまでもなく愛的にベストパートナーなのは自分だと主張したいからである。しかし初対面の者を含む大勢の前で露骨に言うのはさすがに恥ずかしかったのでこういう形にしたのだった。

 

「ほむ……」

 

 なるほど確かに、ドラコーと契約した場合のパワーアップ効果は逸話的に考えて他のサーヴァントの場合よりはるかに大きくなるだろう。戦力としては大いに期待できる。

 清姫の前で悪さはしないと言って真偽判定が通ったのだから、そちらの心配も(光己が誑かされない限りは)要らないし。

 

「……よし、話はだいたい分かった。

 それじゃそろそろ決めるかな。ドラコーを仲間にするのに反対の人っている?」

 

 光己がそう言って皆の顔とスクリーンを見回したが、口を開く者はいなかった。ビーストを仲間入りさせるのは心理的な抵抗もあるはずだが、やはり前例があるというのは大きいようだ。

 

「なさそうだな。それじゃドラコー、希望通り、仲間に入れて契約もしよう」

 

 光己はそう言いながら、彼女の後ろに回って自ら縄を解いた。

 ちなみに光己は三国志に張飛が厳顔を縛った縄を自ら解いて賓客にした逸話があるのを知っているが、意識してやったわけではない。実際ドラコーには特に感激した様子はなかったし。

 そして2人で向かい合って立って、サーヴァント契約の儀式を始める。

 

「それじゃさっそく。

 ―――告げる!

 汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」

 

 光己が令呪をドラコーに向けて契約の文言を唱えると、ドラコーも表情を引き締めてそれに応えた。

 

「うむ、ビーストの名にかけて誓いを受けよう。

 貴様が、()のマスターだ!」

 

 すると令呪がひときわ強く輝き、大量の魔力がドラコーに流れ込む。それにつれて、ドラコーはすさまじい力が体の奥底から湧き上がってくるのを感じた。

 さすがにビースト真体には及ばないものの、凡百のサーヴァント程度なら何人群れようが一捻りにできそうなパワーだ。

 先ほど失った竜腕と竜脚と竜尾、それに権能も戻ってきた。

 

「おお、これが逸話再現というものか……たいしたものだ」

 

 ドラコーはほっと安心しつつも予想以上のパワーアップぶりに感嘆していたが、ふと光己の姿を見直して、彼は自分に力を与えた(返した)はずなのに腕と脚と尻尾が竜のままでいることに気がついた。しかもドラコーと違い、右腕も竜腕になっている。

 

「……? なぜ貴様はその姿のままなのだ?」

 

 不思議に思って率直に訊ねてみると、その回答も単純なものだった。

 

「ん? それはまあ、俺がそういう起源だか属性だからじゃないかな。単なる魔力やエネルギーだったら、返した分減ってそれで終わりなんだけど」

 

 なので権能も一部残っている。今は服を着ているので見えないが胸から腹にかけて「666」という数字を含む怪しい紋様が浮かんでおり、これはドラコーが持っていた「獣の数字」「七つの獣冠」というスキルの顕れで攻撃力・防御力・抵抗力・回復力を増す作用があるのだ。さらに「単独顕現」が「量子テレポーテーション」に統合されて、レベルは低いものの一応使用可能になっていた。

 ただ本来ならこういうことは光己自身が試行錯誤して解明せねばならないことなのだが、今は立香が解析してくれるので非常に早い段階で正確に知ることができる。これもアラヤの加護というものであろうか……。

 

「そ、そうか。まあ余は返してもらえればそれでいいのだが」

「ん。それにしてもこの腕や脚なかなかカッコいいよな。これは悪魔として『悪魔の力で、死ぬ迄ブッ飛ばす!』って感じにダークヒーローっぽくいくか、それとも『これが、これだけが、俺の自慢の拳だあーっ!』とか叫んで熱血的に決めるか、なかなか悩ましいところだな」

「……?? よく分からぬが、好きにすればいいのではないか?」

 

 なおドラコーには、光己の中二的なノリは理解できなかった。

 

 

 

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