今度こそお風呂の時間になったはずだ。ただティアマトの件はすぐ報告せねばならないが、光己はもう(精神的に)とても疲れていたのでカルデア本部に対しては太公望に通信機を預けてお願いし、別室のモードレッドたちについてはヒロインXXとルーラーアルトリアに頼んだ。
その間にマーリンが冷めていた湯を追い焚きし、ティアマトの水着も用意した。
ただこの湯舟のサイズでは6人いっぺんには入れない。3人ずつに分かれて、片方が入っている間にもう片方は体を洗うということになる。
「余の生前の頃はオイルと
「俺の時代の日本では石鹸やボディソープをタオルで肌にまぶしながら、擦って汚れを落としてるんだけど……」
しかしここにはそのような文明の利器はない。さすがのマーリンも知らないものは作れな……いや石鹸の役割を果たしていた物品は歴史が古いからブリテンにもあっただろうが、貧しかったそうだからローマ皇帝が喜ぶようなものは無理だろう。
「だがここに例外が存在する……そう、オリーブオイルで作る石鹸なら食べ物と言い張れば如意宝珠で出せるのだ!」
「如意宝珠?」
初めて耳にする、しかも何だかすごそうな名称にドラコーとティアマトが興味を惹かれた顔を見せる。光己はニヤリとカッコつけた笑みでそれに応じつつ、「蔵」から例の赤い宝珠を取り出した。
「ほう、ずいぶんと大きな珠だな」
「うん、何しろ龍の至宝だからね。
いくつか種類があるけど、これの権能は『食べ物や衣服を出す』『病気を治す』『濁った水を清める』の3つなんだ」
「ほう……!?」
そんな夢物語のような、しかも天界や魔界の産物ではなく龍の財宝まで持っているとは。我がマスターはなかなかやるではないか、とドラコーは楽しげに何度も頷いた。
それでどのように石鹸とやらを出すのか? ドラコーが興味津々で見守っていると、待つ必要もなく、その掌の上に片手で持てる程度の大きさの茶色い石のようなものが3つほど現れた。
「おお、まるで手品のようだな! これがその石鹸というやつか?」
「うん、濡らしたタオルを擦ると泡が立つんだ」
「ほほう……」
龍の財宝の権能と未来の風呂用品を目の当たりにしたドラコーは大喜びだ。さっそく試してみるべきか、それともまずは湯に浸かってからにするべきか? ドラコーがわりと真剣に悩んでいると、アタランテが心底感心した様子で感想を述べてきた。
「ううむ、ジャックの時も見たが大したものだな。しかもその権能、孤児院の経営にうってつけじゃないか。
どこに行けば手に入るんだ?」
「東洋龍オンリーのお宝だからヨーロッパにはないよ。日本か中国かインドの山奥とか海中とかかな。
そちらでもかなり珍しいものだし、運よく持ってる龍に出会えても交渉や取引では無理だからお勧めはしないけど」
「まあ、そうだろうなあ……」
竜種の強さと財宝に対する執着はアタランテも知っている。これほどの上物を「奪おう」と思うなら、それこそアルゴノーツを大勢そろえる必要があるだろう……。
「うん、だからその時間と労力で普通にお金稼ぐ方が確実だと思う」
「確かにな……」
光己は特に邪悪でもない竜を退治することにはあまり賛成ではないのでそういう方向に誘導してみると、アタランテもコストとリスクを鑑みたのかやや気落ちした様子で頷いた。
その機に素早く話を変える光己。
「それじゃ、マスターみずから石鹸の使い方を実演するとしようか!
ああ、タオルとイスをまだ出してなかったな。マーリンさん、お願い」
「うん、こんなものかな?」
すると床にバスチェアが3脚と、その上にメッシュタオルが1枚ずつ現れた。むろん今までと同じ投影品だが、出来栄えの方も外見手触りとも実物同然という優れモノである。
「おお、ホントに器用だな。ありがと。
それじゃさっそく」
「あ、お待ち下さい。私がレクチャーする約束をしましたので」
そして光己がイスに座ろうとすると、マシュがそんなことを言って自薦してきた。
「そう? じゃあお願い」
「ふむ、なら私も先に習っておくか」
光己はそこまでこだわっていなかったのであっさり譲ったが、そこでアタランテが先に体を洗う組に入ったのは、恩人とはいえ男性と同じ湯舟に入るのはちょっと気が引けたからである。
それ自体はごく自然なことだったが……。
「そうか、では先に湯に浸かるのは余とマスターとマーリンということになるな。
余を抱っこするか? それとも余が抱っこしてやろうか」
(しまったああ!!)
その直後にドラコーがニヤリほくそ笑みながら光己に抱きついたのを見て、マシュとティアマトは思わず目を剥いてしまった。大淫婦がマスターを篭絡するのを阻止すると息巻いておきながら、逆にそのチャンスを提供してしまうとは何たる失態!
しかし今更組変えを要求するのは浅ましすぎる。今回は脇から見張っているしかないようだ。
「おお、それは嬉しいな。どっちにしようかな」
当の光己は平然としているように見えた。パンピー面しているが、実は薄着の幼女にくっつかれるのには慣れている特異な男なのだ。
「てかドラコーがこの湯舟の中で俺を抱っこするのは身長的に無理があるだろ。
「そうだね、じゃあマスターを抱っこするのは私がやってあげよう」
「デジマ!?」
するとマーリンが悪戯っぽい口調でとてもタナボタなことを提案してくれたが、これはもう一押しいけるかも知れない。
「ならやっぱドラコーは抱っこする側にして、マーリンさんはされる側というのでもいい?」
「いや、それは色々されちゃいそうだから遠慮しておくよ」
「うぐぅ」
マーリンとは彼女曰く「精神的にはどろっどろに溶け合ってお互いを深く感じ合った」間柄なので、相互理解度と友好度もそれなりに高いからこうしたやり取りもできるのだった。
実際光己はマーリンを抱っこしたら手が勝手に動いてしまいそうだし。
ところでこの流れはドラコーにとっては面白いものではなかった。何しろ自分よりマーリンを抱っこする方がいいと言われたのだから。
「マスターよ、貴様何を腑抜けたことを言っておる。男なら見目麗しい幼女を見たら自分の色に染めてみたいと思うものではないのか?」
「犯罪ィ!!」
1世紀ローマ生まれの人類悪に21世紀日本の法律や道徳を説いても詮ないことではあるが、それでも反射的に叫んでいた光己はむしろ根っから善良なのだと褒めてやるべきだろう……。
といっても清姫が大奥に入っている時点で弁解の余地はないのだが。
「いやサーヴァントに年齢は無意味どころか人間ですらないから、道徳や外聞はともかく法律的には問題ないぞ?」
「うーん、サーヴァントが『人間』かどうかというのは割と難しい問題じゃないかと思うんだけど」
光己自身が「体は竜になったが人間の心を失わなかった
「なるほど、人間とは何かというのは哲学的にも意味のある命題だな。
しかし今それを考えても仕方あるまい。それより早く湯に浸かろうではないか」
「んー」
確かにその通りだ。まずマーリンが湯舟に入って、短辺側の側板にもたれる形で座った。ついで光己が背中から彼女の脚の間に入って上半身にもたれる形で座り、最後にドラコーが光己にもたれて座ることになる。
思春期男子としては背中に当たる立派なおっぱいの感触がもうたまらないのだが、それを口に出すのはデリカシーがなさすぎるので、この場で出すのにふさわしい別の感想を語った。
「おお、この湯の温かさよ。やはり風呂はいいな……」
「うむ、まったくその通りよな!」
ドラコーがいかにも上機嫌そうに相槌を打つ。どうやらお風呂は久しぶりのようだ。
ただ光己の両手を取って自分のお腹に添えさせているのは、おそらくマーリンへの対抗心であろう。単に以前いた世界で敵対したというだけではなく、価値観的にも相容れない相手なのだ。
光己の方はロリコンではないにせよ幼女が嫌いというわけではないので、手を握られて抱っこしてもらいに来られれば悪い気はしない。もしくは単に幼女とはいえ大淫婦の色香に迷っただけかも知れないが素直にドラコーを抱っこ、というか自分から彼女のお腹や太腿を撫でたりしていた。
ドラコーはむろんそれには気づいていたが、気づかぬ
「んっ……ふ」
つまり今ちょっと甘い吐息が漏れてしまったのはお風呂が気持ちいいからであって、他の理由はない。
「……むー」
ところでマーリンはたいていの事は笑顔で受け流せるおおらかさはあるものの、自分をライバル視している「幼女」に女勝負で負けるのはちょっと面白くなかった。少しばかり反撃してやることにして、まず光己の上腕にそっと手を添えて支点にすると、軽く体を揺すってその豊かな乳房を彼の背中でむにむにとたわませる。
……いやマーリンも普段はもう少し慎みがあるのだが、こちらも大淫婦のエロスパワーに毒されているのであろう……。
「……おぉっ!?」
ターゲットの少年がびくっと体を震わせたので、効果は確かにあったようだ。しかしマーリンが期待したほどのものではなかったのは、おそらくすでに似た経験をしているからであろう。
ならば二の矢、三の矢とたたみかけるしかない。ドラコーたちに気づかれないよう、最初に会った時もやった
なお類似のスキルに、ある程度魔術を使えるマスターとそのサーヴァントなら誰でも使える「念話」というものがあるが、光己は魔力は山ほどあっても技量がないので使えない。
(フフッ、
耳かき音声作品を作ればサーヴァントでさえ知らない内にQPを払ってしまうほどの
(うん、これはマジヤバじゃないかな……)
当然メンタルパンピー少年など一撃でヘロヘロだったが、彼は(元)ビースト3人と契約しているだけあってリビドーが高まり過ぎると(性的な意味で)ビースト化する危険性があることは当人もマーリンも気づいていなかったりする……というかその兆候はもう現れていた。
(でもあの時もそうだったけど、これ私の方も気持ちいいね。私がやる精神感応や夢介入とは明らかに違う全精神的な交流というか、そんな感じになってる。
景虎やワルキューレズたちも体験した精神的交歓だが、マーリンほどの術者になるとだいぶ余裕があるようだ。ごく落ち着いた様子で話を続ける。
(しかもこれ、キミが持ってる他のいろんな権能とも関係してると見たよ。もしかしてこの辺りがキミの魔術起源なのかな? やっぱり面白いねマスターは。
……でもすごいね。人間は森羅万象から切り離された―――と思い込んでる―――孤独な魂だけれど、今この瞬間、私とキミはひとつなんだ。幸せだよ)
ここで「と思い込んでる」と述べたのは、「
隠し事をしない程度には誠実だったが、彼の魔術起源についての推測を披露して知性をアピールしつつ、「あなたとひとつになれて幸せ」などとさらなるラヴワードで攻める手際はまさに「宮廷」魔術師であった。ただしここまでしておいて光己と恋仲になろうなんて思惑はまったく無いという、無邪気なのか悪女なのか分からないグランドろくでなしぶりも発揮していたが……。
(うんうん、俺も超幸せ。このままずっと2人で幸せに生きよう!)
(うーん、それはどうしようかなあ)
なので急にドライな返事になったりもするのだが、この時ようやくドラコーは後ろで何か妖しい異変が起こっていることに気がついた。
「む。マーリンめ、マスターに何か良からぬことをしているな」
有害な魔術とかではなさそうだが、やめさせた方が良さそうに思える。
そこで掌にちょっと魔力をこめて光己の額を軽く叩くと、光己とマーリンの精神感応はあっさり途切れた。さすがは黙示録の獣というところか。
光己はまだぼーっとしているが、ただそれだけで変な術を植え込まれたりはしていないようだ。
「まったく、マーリンなどに気を許すからそうなるのだ。
とりあえず、助けた礼にもっと余を
この台詞には恣意的解釈と我欲がだいぶ混じっていたが、それこそ獣なのだからむしろ当然といえよう……。
続いてマーリンに対抗するべく、大胆にも可愛いお尻を光己の股間に擦りつけつつ、彼の手を取って自分の胸に押し当てるドラコー。光己の方はまだ正気に返っていないようで、促されるままに幼女のまだ薄い胸をやさしく撫で始めた。
「ちょ、2人とも何やってるんですか!!」
「お母さん許しませんよ!?」
……もっともすぐ自称保護者にバレて引き剥がされたが。
その頃立香はノートパソコンの画面を見ながら、腕組みして考え込んでいた。
「これ絶対ティアマトさんと契約した影響だよねえ。早い内に教えた方がいいのかなあ? なぜか天草さんに知られたらつきまとわれそうな気がするけど」
その画面に表示されている文章は―――。
〇ネガ・ディヴィジョン:E-
獣形態限定。
光己の魔術起源がビーストスケールまで成長・拡張する余地を持ったもの。
現時点では精神交流現象が多少発生しやすくなる程度。
ネガ・ディヴィジョンでなぜ天草につきまとわれるかというと、うまく使えば人類みんな仲良くなって暴力も搾取も抑圧もない平和な社会になるからですね。
ただし仮にもネガスキルですから、ランクが上がりすぎると月姫のネロ・カオスの「獣王の巣」とかヘルシングのアーカードの「死の河」とかエヴァの人類補完計画みたいになったり、最後には完全に融合して自我が消滅したりする罠ですので、天草は出禁にしておく方が無難ですw
なお本文にある通り獣形態限定ですので、人間モードでいる時は無効です。