FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第243話 絢爛なりし蒸気の果て3

 テュフォンの宝具「汝、宙を裂く雷霆(ネガ・ケラウノス)」は元は主神の武器だっただけあってその名の通り(ソラ)をも引き裂きそうな威力だったが、マシュの宝具も使い手の心が折れない限り仲間を守り通す無双の堅城だ。城全体を呑み込む勢いで落ちて来た巨大な雷撃をがっちりと受け止めた。

 しかし今回ばかりは相手が悪かったようで、城の天蓋がきしんで今にもひび割れそうになっている。当人も厳しさを自覚しているのか、青ざめた顔に脂汗を流していた。

 

「むぐぐぐぐ……せ、先輩は私が守ります!」

 

 マシュはそれでも必死で宝具を維持していたが、どう見ても長くは保たなさそうである。城外で荒れ狂っている電光の嵐は、それほどの神威を城内にいる光己たちにまざまざと感じさせていた。

 先ほどは自信たっぷりだったメリュジーヌとドラコーもこれは予想外だったらしく顔色がさえない。しかし光己はつい先日同じような経験をしていたので、対策をすぐひねり出すことができた。

 

「大丈夫だマシュ、まだ手はある!

 令呪を以て命じる、テュフォンのブレスを防ぎ切れ!」

「せ、先輩!? は、はい、頑張ります!!」

 

 ついさっき午前0時に1画戻った令呪を、ここでさっそく切ったのだ。敬愛するマスター(せんぱい)の絶妙な援護でマシュは気力も魔力も大回復、ついに大怪獣の宝具開帳が終了し電光が消えるまで耐え切った。

 ただしマシュはもう疲労困憊、脚が震えて立っているのがやっとの有り様である。もし次があったらとても防ぎ切れないだろう。

 

「いや十分だ、大手柄だよ。

 それじゃ次、メリュたちお願い!」

「ええ、それではただちに。

 84符印、全機以下略! 『打神鞭』!!」

 

 光己が功労者をねぎらいつつも、もはや後はなくなったので急ぎで次の対策を依頼する。それに応じて、おそらくはすでに準備していたのであろう太公望が詠唱をはしょって速攻で宝具を開帳した。

 テュフォンの頭上に巨大な黒い柱が現れ、そのまま落下して3つ首の真ん中の首の脳天にぶち当たる!

 

「あぐっ!?」

 

 黒い柱はもちろん打神鞭が巨大化したもので、高さはテュフォンの体長の3倍の150メートルほどもあった。その大重量+神性特攻攻撃を宝具使用直後という脱力状態でもろに喰らってしまっては、3つある分1つ1つはやや小ぶりなテュフォンの頭がひしゃげ首が折れるという悲惨な目に遭ったのも残当といえよう……。

 逆に3つあった分、1つが潰れても生きていられるわけだが。

 

「おおおおのれ太公望、またしても……」

 

 エフェメロスが痛みと怒りで身を震わせつつも、怨敵を同じように踏み潰さんと1歩前に足を踏み出す。しかし敵の2人めはそれよりわずかに早かった。

 

「じゃあ次は僕だね。行くよ、『世界で2人の、聖なる鼓動(ホーリーハート・アルビオン)』!!」

 

 メリュジーヌはパルミラで宝具名変更を検討していたが、すでに実行していたようだ。といっても内容は変わらないが、意欲が増したので出力と持続時間が心持ち上昇している。

 メリュジーヌの竜形態は体長20メートルほどでテュフォンには比べるべくもないが、機動力には自信がある。上空からまっすぐ突っ込むと見せかけて、テュフォンが首の後ろから迎撃のビームを2条―――真ん中の頭は潰されたのでビームも撃てない―――撃ってきたのを、まったく速度を変えない直角カーブで回避した。

 

「なんと!?」

 

 そしてテュフォンが驚いている隙に背後に回り、体を回転させながら尻尾を鞭のように振って彼女の背中を強打する!

 

「痛っ!? この、小物のくせに」

 

 体格の関係でテュフォンにとってはさしたるダメージではないが、痛いことは痛い。こちらも尻尾を振って反撃したが、軽くかわされてしまった。

 

「遅い!」

 

 メリュジーヌがさらに回転を加えた尾撃で、今度はテュフォンの右脛を打ち叩く。そこから速度を落とさないどころか加速して、左首の付け根を蹴り飛ばした。

 体格差でさほどの痛手にはなっていないことはすでに承知しているが、時間稼ぎ=テュフォンのヘイトを自分に集める効果は期待できるのだ。

 

「この、ちょこまかと……!」

「いやあ、君が遅すぎるだけじゃないかな? 英語で言うとスロゥリィ」

「ふざけ……!」

 

 エフェメロスは人(果物)生経験が非常に少ない上に、スペックは超弩級なのでこんな風にコケにされたことはない。しかもそのスペックには自信を持っているので煽りには弱く、すっかり頭に血が上ってメリュジーヌの狙い通り彼女を追いかけ回すハメになっていた。いやメリュジーヌもこと武力に関して自信家なのは人後に落ちないが、実戦経験は比較にならないほど多いのだ。

 ただテュフォンの強みとして竜モードが時間無制限なのに対し、メリュジーヌはせいぜい数十秒である。そろそろタイムリミットが近づいていた。

 

「本当は竜種の必殺技(ブレス)使いたかったんだけど、僕のは爆発型だから敵と味方が接近してるとNGなんだよね」

 

 それで今回は格闘だけしていたわけだが、ここでメリュジーヌは面白い手を考えついた。

 彼女のブレスは口から吐くのではなく、胸部の外殻が裂けてその内側の心臓から直接破壊光線を放出するものなのだが、同時に光を凝集させて作った竜サイズの(テュケイダイト)も射出している。つまり破壊光線を出さずに槍だけ飛ばすなら敵だけを攻撃できるというわけだ。

 テュフォンの炉心があると思われる胸部を穿(うが)いてやれば、即死はしないまでも大ダメージになるだろう。陛下とお兄ちゃんが褒めてくれること間違いなしである。

 

「よし、やるよ」

 

 まずはいったん上空に飛んで間合いを広げてから、おもむろに今考案した手順に沿って攻撃の準備を始めるメリュジーヌ。

 それ自体は滞りなく進んでいたが、実はこの新技には1つだけ問題点があった。光線なしで槍を作ると、胸殻を開いた時点で何をする気なのか敵に丸分かりになってしまうのである。

 

「露出させた心臓から槍を発射しようということか……? おかしなことをする奴だ」

 

 当然エフェメロスはそれを理解して小さく首をかしげた。

 急所を自分からさらけ出すのは愚の極みだし、肝心の槍だって飛ばす瞬間の穂先の向きを見ていれば躱すなり防ぐなりするのは容易だろう。それともそこまで速さに自信があるというのか? 確かに奇怪な機動力を持ってはいるが。

 

(……それでもテュフォンを起こせればどうとでもなるものを)

 

 実はテュフォンは万全の状態ではなく、生物でいえばほとんど眠っているような状態にあり出力が大幅に下がっているのだ。サーヴァントは全盛期の状態で召喚されるもののはずなのに、世界はいつも理不尽で冷たかった。

 

(……ここのマスターと敵対せず、仲間になっていれば起こしてもらえたのだろうか)

 

 エフェメロスは反願望機なので、「テュフォンを起こしたい」という己の願いを叶えることはできない。前回の現界の時試みてできなかった実績もある。

 でも願望機の持ち主ならもしかして―――いや、今更考えても詮ないことだ。

 

(とにかく、あの小賢しい羽虫に好き放題されるのは面白くない)

 

 そこで対応策を考えるに、今使える兵器のうち「ゼウスの雷霆」は威力が高い分クールタイムも長いので今しばらくは使えないし、「不死殺しの円環」では彼女は捉えられない。有効な手としては「雷霆」のクールタイムを逆に伸ばして、それで浮いたエネルギーをビーム砲に回して連射速度を上げることくらいだろうか。

 

「よし、やってみるか。落ちろ羽虫!」

 

 エフェメロスが怒りを込めたビーム乱射をぶっ放すと、さすがの素早い小竜も慌て出したようだった。

 

「うわわ、ちょっと煽りすぎたかな」

 

 実際心臓を露出して槍を作っている最中に予想以上の攻撃を受けるのはメリュジーヌといえどもつらい。右腕と尻尾に1発ずつ被弾した。

 しかも乱射なのに威力は強く、カルデアに来て初めてケガをしてしまった。重傷というほどではないが、結構痛い。

 

「いたたたた。太祖竜だっけ? 名前だけのことはあるなあ」

 

 しかし槍の生成は完了した。テュフォンは警戒していて頭部と胸部は腕でガードしているが、甘い!

 メリュジーヌは慣性駆動全開で一瞬にしてテュフォンの背後に回り、ついで両手両足で彼女の身体を掴んだ。これなら防御も回避もかなうまい。

 

「お返しだ。時を示せ、テュケイダイト!」

 

 通常の使用法なら最大500匹を捕捉できる破壊エネルギーをただ一点に集約するのだから、その穿貫力は絶大である。光の槍はテュフォンの背中から胸板まで刺し貫き、そのまま虚空に飛び去っていった。

 

「う、ぐ……!」

「よし、作戦成功だね。じゃあもう時間切れだし、引き揚げようかな。

 ……ああ、がんばりすぎてドラコーの出番潰しちゃった。でも陛下とお兄ちゃんに援護がいるかも知れないし、むしろお手柄だよね」

「……何!?」

 

 メリュジーヌの見込み通り、テュフォンは胸の真ん中を槍で貫かれても生きていた。しかも「ドラコーの出番潰しちゃった」という言葉に反応して、顔を向けて説明を求めてくる。

 

「そっち見れば分かるよ。それじゃ!」

 

 教える義理はないが回答拒否するのも何なので、メリュジーヌは竜の情けで尻尾でテュフォンの右前方を指し示してやった。

 その後は妖精の姿に戻りつつ、また撃たれないよう高速で退避する。

 

「なに……何、だと!?」

 

 エフェメロスは恨み重なるメリュジーヌを逃がしたくない気持ちはあったが、説明を求めたくらいだからそちらも気にはなる。幸い頭が2つあるので片方だけ向けて見ると、なんとかつて敵対した機神の1柱に似たデザインの巨大ロボットが佇んでいるではないか。

 エフェメロスは心底驚愕した。

 

「こ、これは……!

 おそらく杖を持った女の宝具だな。アレスの姉妹か何かだったというのか!?」

 

 これでメリュジーヌが自分につきまとったり暴言を吐いたりしていた理由も分かった。このロボットを召喚するための時間を稼いでいたのだ。

 またしてやられたわけだが、機神が現れた以上竜化が解けて逃げて行った小物を追っている暇はない。

 

「しかし……本当にアレスの縁者か?」

 

 ただこの巨人に装甲板をつけた形のロボット、外見的には確かに機神アレスに近しいものがあるが、雰囲気的にはまったくの別物のようにも思えるのだ。

 こういう時は素直に訊ねるのが1番だろう。聞くだけならタダだし、教えてくれなくても元々である。

 

「杖を持った女のサーヴァント。その巨人はおまえの宝具もしくは本来の姿と見たが、ギリシャの機神アレスに形状が似ている。

 もしやおまえはアレスと縁がある者なのではないか?」

「……は!?」

 

 トネリコはテュフォンの問いかけが自分に向けたものであることには気づいたが、その内容があまりにも的外れ過ぎてぽかんと口を開けて数瞬ほど放心してしまった。

 やがてハッと気を取り直すと、ここは宝具の開帳者に返事してもらおうと光己の方を顧みる。

 

「んー」

 

 応答を任された光己だが、彼は敵があまりにも強大もしくは性悪な場合は卑怯な手を使うこともあるが、今回は巨大ロボの初陣という記念すべき戦いなので正々堂々とやるつもりでいる。時間制限があるから長話はできないが、これくらいの質問なら答えてもいいと判断した。

 ―――なお光己は今「獣の機神(デウス・エクス・マキナ)」を使うため獣形態になっているが、立香が言ったように機竜の翼と赤い竜の翼がデフォルトで生えている。しかし()()()()()心身に異変や不調はなく、当人も戦闘中ということもあってそれを意識していなかった。

 

「いや、これは俺の宝具的サムシングだけどギリシャの機神とはまったく関係ないよ。

 形状が似てるというなら偶然じゃないかな」

「……そうか」

 

 どうやら「雰囲気」の方が正しかったようだ。エフェメロスはちょっと拍子抜けしたが、現状で機神と戦うのはきついので、ほっとしたのも事実である。

 

「しかし加減はしてやらないぞ。ケガもさせられたしな」

 

 何しろ(テュフォン基準では)細身の槍とはいえ心臓(炉心)を刺されたのだ。別に恨むとかではないが傷は深いし、そもそも手加減などする義理はない。

 

「まー、そうだろなあ」

 

 光己も今更手加減など期待していない。戦闘開始の合図も兼ねてジュー・ジツの構えを取ると、トネリコが横から格闘するのを制止してきた。

 トネリコは巨大ロボにロマンなど感じていないので、光己とテュフォンが会話している間に彼女の機体の解析をしていたのである。

 

「マスター、殴り合いはやめておいた方がいいですよ。

 このロボット(スプライトノッカー)の重量は1千トンほどですが、テュフォンはロボの解析によると推定2万5千トン前後ですから」

「ほえっ!?」

 

 光己は大いに驚かされた。上背はこちらの方が高いのに、そんなに重量に違いがあるのか!?

 

「まあ、横幅は向こうの方が大きいですからね。あと材質も違うみたいです」

 

 スプライトノッカーは装甲板と一部のパーツ以外は生体細胞でできているので、総金属造りのロボより比重が軽いのだ。

 いずれにせよボクシングやレスリングの体重による階級分けの細かさ的に考えて、自分の25倍重い相手に格闘戦を挑むのは無謀にも程がある。

 

「ならしょうがないな。トネリコ、さっき話してた銃を頼む!」

「はい、ではまず扱いやすそうなのを」

 

 トネリコがそう言った直後、ロボの手にアサルトライフル風の銃が出現した。

 口径は21センチほどで、これを光己とスプライトノッカーの身長比の23で割ると拳銃の口径と同じ9ミリになる。つまり小口径・遠距離用のライフル弾ではなく大口径・近距離用の拳銃弾を撃つ仕様ということになるが、今回は接近戦なので適切な選択といえよう。

 ……といっても口径21センチとなると戦車砲のそれより大きいのだが。

 それはさておき、問題は光己もトネリコも銃の練習をしたことはないことである。

 

「そんなことは先刻承知よ!

 今こそ燃え上がれ俺の妄想力(コスモ)、杉谷善住坊の位まで高まれ!!」

「久しぶりですねその台詞。それで銃の腕前も上がればいいのですが」

「杉谷善住坊、だと!?」

 

 知っている名前なのかテュフォンがわずかに眉をしかめたが、光己はもはや斟酌せず銃の引き金を引く。その直後、電磁加速された重金属製の弾丸が全自動(フルオート)で連射されてテュフォンの全身に襲いかかったのだった。

 

 

 

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