FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第245話 絢爛なりし蒸気の果て5

 スプライトノッカーは腕を振り上げた勢いを利用して立ち上がると、その刃物じみて()()()()指先でテュフォンの身体をざくざくざくっと切り裂いていく。そしてラッシュの最後には、彼女の腕を引っ張り足を払って地べたに引きずり倒してしまった。

 

「嘘、この体重差であっさり転ばせるなんて……!?」

 

 トネリコがその怪力ぶりに目をぱちくりさせたが光己もロボも返事もしない。いやその行動こそが返事であろうか。

 うつ伏せにしたテュフォンの背中を踏みつけて固定すると翼を左右とも引きちぎり、ついで左上腕を握り潰して前腕を放り捨てた。続けてテュフォンの背中に馬乗りになると、ビームの発射口を殴って壊す。

 凶獣めいた暴戻な雰囲気が漂っているわりに、無力化の手順がやたら的確であった。その圧倒的暴力の前にテュフォンはろくな抵抗もできない。

 そして仕上げとばかりに、ロボがテュフォンの右の頭にかぶりつく!

 

「「ぎゃーーーっ!?」」

 

 エフェメロスとトネリコの、淑女としてはちょっとはしたない悲鳴が綺麗に唱和する。

 まあ生きながら喰われるという苦痛と恐怖に加えて生前と同じ、しかも今は納得していない最期となれば、エフェメロスが恐慌して体裁に構っていられなくなるのも無理はない。

 なおトネリコの方は口の中に鉄(正確にはチタンやアルミのような軽金属の部類だろうが)を咀嚼する感触と味がリアルにフィードバックしてきたからで、彼女の長い妖精生の中でもこんな経験は初めてであった……。

 

「あばばばば……これでまだ起きないマスターは本当に深刻ですが、金属食べて傷つかないなんてどんな構造してるんでしょうねえこのロボの口の中」

 

 それにしても不快すぎる感触だが、これでテュフォンの炉心とゼウスの雷霆が手に入る(かも知れない)のだから耐える価値はあるだろう。いや耐えられなくても止めさせる方法はないのだが。

 そういえばロボ召喚の実験をした時に光己が「ファヴニールの炉心を吸収したらロボの稼働時間を伸ばせるのではないか?」と言っていたが、まさか暴走(?)したロボが実は機械仕掛けだった太祖竜にかじりつく展開になるとは想像もしていなかった。

 

「それで、マスターはどうなってるんでしょう? そろそろ中間報告が欲しいんですが」

 

 ミイラ取りがミイラになっていなければいいのですが、とトネリコが少しだけ心配しつつマーリンの肩を軽く叩いて帰投を促してみると、夢魔娘はふっと顔を上げてこちらを向いた。

 

「いやあ、またとんでもないことになったね。マスターと一緒にいるとホントに面白いよ……って言ったらさすがに不謹慎かな。

 立香にいろいろ聞いてきたけど、ええと、まずこのロボットはマスターの赤い竜の翼……ルチフェロなりしサタンの化身と何かリンクしてるらしくてね。

 で、このロボは生体細胞使ってるから生存本能だか闘争本能だかがあって、それと赤い竜の神への敵意が合体してマスターが気絶しちゃった拍子にこんなことに」

「なるほど。テュフォンはいわゆる造物主ではありませんが、神には違いないですから……って、立香に聞いた!?」

 

 ここにいるのはトネリコ自身とマーリンと気絶した光己だけだから多少の不謹慎や不作法は気にしないが、立香がこんな分析をしてそれを人に教えることまでしている、いや出来るとは有能を通り越してトンチキ……なのは光己の脳内環境か、それともアラヤのちょっかいもとい加護の賜物だろうか?

 

「まあそれはそれとして、赤い竜の翼にはどんな権能があるんですか?」

「宝具を含めた全体的なスペック上昇と再生能力だって。ただし副作用として邪悪化……今回はロボが狂暴化したわけだけど。

 幸い赤い竜の翼は力を使わなければ副作用もないそうだから、魔王の翼よりは危険度が低いみたい」

「ふむ……」

 

 そういうことならロボの現状と符合する。しかしロボや翼をこのまま放っておいて大丈夫なのだろうか?

 

「マスター自身は気絶してるから邪悪化の影響はないそうだよ。

 ただロボをこのままにしておいたら、テュフォンが退去して目先の敵がいなくなった時に何をしでかすか分からないから、その前に赤い竜の力はオフにした方がいいみたい」

「なるほど、敵がいなくなったら赤い竜の力も消えるとは限らないんですね」

「うん、そこまで都合良くはないんだって」

「まあ魔王の化身ですものね……」

 

 ただロボの元々の稼働時間である5分はとっくに過ぎているので、赤い竜の力を止めたらロボ自体がすぐに消えてしまいそうだが……テュフォンの方もほぼ無力化しているから大丈夫だろうか。

 まあロボが消える前にテュフォンの炉心を喰ってしまえば問題な……いや赤い竜の力なしでそれは無理か?

 

「その辺りは出たとこ勝負でやってみるしかなさそうですね。

 で、赤い竜の力を止めるにはどうすれば?」

「マスターが起きれば止められるって立香は言ってたよ」

「ふむ。自分の身体の一部ですから当然ですね」

「そうだね、それじゃマスターを起こしてくるよ」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 そんなやり取りの後、マーリンがまた光己の額に額をつけて施術に入る。

 具体的に何をしているのかはトネリコには計り知れなかったが、やがて光己がぱちっと目を開けた。

 

「……んん、ってぁあぁぁあ!? おぉおおぉぉお!?」

 

 その直後に何か奇声を上げながらもがき始めたのには驚いたが、そこでマーリンが予告抜きで彼の頬を両手ではさんでキスしたのにはもっと驚いた。

 

「えええええ!?」

 

 それも唇を触れ合わせるだけのプレッシャーキスではなく、口の中に舌をねじ込んで舌と舌を絡ませるディープなやつである。ナンデ!?

 トネリコは理解が追いつかず呆然と2人を見つめるばかりだったが、すぐに光己は騒ぐのをやめておとなしくなったので、どうやら彼を落ち着かせるためだったようだ……多分。

 

「ちゅ……む……んんっ……ふ」

 

 ただマーリンはその後数十秒に渡ってキスを続けていたが、これもきっと念には念を入れて万全を期しただけ……のはず。仮にも強敵と戦っている最中なのだから。

 

「……………………ふう。満足」

 

 マーリンが唇を光己の唇から離した後に呟いた「満足」の4文字は、おそらくは女夢魔(サキュバス)的な意味であろうと推測されるが、当然ながらトネリコには聞こえないごく小さな声量でのものだった。

 ついで、むしろキスのすぐ後には似つかわしくない鋭い声で告げる。

 

「マスター、赤い竜の翼の力が励起してるから停止させて!!」

「へえっ!? ……あ、ああ、そういうことか。

 ―――っと、これでいいかな」

 

 すると先ほどトネリコが「ロンドン全域を圧するほどの巨大な気配」と評したパワーがすうーっと薄れていき、最後には完全に消え去った。立香が言った通り、光己の意志で赤い竜の力をオフにできるようだ。

 それとともにロボの眼も通常の白色に戻り、動きも止まる。テュフォンにとっては反撃の好機だが、もはやその力はないらしく身じろぎすらしなかった。

 

「うん。ごめんね、いきなり変なことしちゃって。

 落ち着かせるにはあれが1番いいかなと思って。分かってるとは思う……いやあの状況じゃ無理か。ただのキスじゃなくて魔術的な干渉もしてたからね」

「や、マーリンさんならいつでも歓迎だよ。それに言葉だけで落ち着けたかどうか疑問だし」

 

 マーリンは殊勝にも光己に詫びているが、光己が謝罪を受け入れるどころか次回を期待している様子なのは思春期男子ならいたって自然なことだろう……。

 それはともかく彼女のここまでの台詞からすると、キスはやはり仕事と私欲を兼ねたものだったようだ。比率や詳細は不明だが。

 

「ええと、事情は後で聞くとしてロボがもうすぐ消えそうなんですが!」

 

 一方トネリコのこの台詞は私情より仕事を完全に優先した、本当に殊勝なものだった。

 なお光己がもがいていたのは目が覚めた時いきなり赤い竜の超パワーとそれに伴う破壊衝動を感じたせいでパニックに陥ったからで、マーリンがキスしたのはそれを鎮めるため(という名目)である。その重大情報を(ある程度推測はできるにしても)まだきちんと説明してもらっていないのに現場の仕事を優先できるトネリコは人理修復の実行者たるカルデアサーヴァントの鑑といえよう……。

 

「えええっ!? わか、いやよく分からんから任せる!」

 

 状況を理解していない者が独断専行する危険性を考えれば、理解してそうな者に委ねるのはリーダーとして適切な判断だ。トネリコもそう考えてすぐに意見具申した。

 

「はい、では今すぐカプセルで脱出しましょう」

 

 テュフォンはいまだ動きがないが、用心するに越したことはない。少なくとも、ロボが消えてから脱出するよりは攻撃される確率が低いはずだ。

 ロボは停止した時はテュフォンの右頭を食べ終えて右肩から胸部を食べているところだったが、また動かしても赤い竜パワーなしで炉心までいけるようには見えないからねばっても仕方ないし。

 

「分かった、それならさっそく」

 

 ロボの首の後ろからカプセルが射出され、万が一を警戒しつつ公園の端の方に飛んでいく。テュフォンはそれが見えているのかいないのか、まったく反応しなかった。

 カプセルが着地し光己たちが降機すると、カプセルが消えロボも一緒に消える。やはり時間切れだったようだ。

 

「さて、ここからどうしようか」

 

 マーリンはともかく光己とトネリコはかなり消耗しているから、今すぐテュフォンにとどめを刺しにいくのは難しい。まずはマシュたちと合流しようと周囲をサーチしてみると、逆に先方がこちらを発見して近づいてきた。

 ティアマトを先頭に、バーゲストとバーヴァン・シーとアルクェイドとランサーオルタがマシュたちを介抱している。

 マシュたちはまだ感電が治り切ってはいないが、自分の足で歩くくらいはできるようだ。

 

「あ、来てくれたんですね。こちらはどうにか無事……マシュたちは大丈夫ですか?」

「うん、遅くなってごめんなさい。

 マシュたちは感電してるみたいだけど、命には別条ない」

「それは良かった。じゃあ俺がマシュたちを治療してる間に、ティアマト神たちにテュフォンのとどめをお願いするのが合理的でしょうか」

 

 経緯の説明は事態を収拾させてからにするべきだろう。実際合理的な案だったが、ティアマトは微妙に気が進まないような顔をした。

 

「ティアマト神、何か?」

「……うん。テュフォンがちょっと可哀そうに見えて」

「あー、ティアマト神とは共通点ありますからねえ」

 

 両者とも竜属性持ちの女神で、その竜モード時のサイズも近い。主流派に敗れている点も同じである。それがこんなボロボロになって倒れているのを見れば、同情心を抱いてもおかしくはない。

 しかしテュフォンが敵対をやめないなら、何しろ強大な怪獣だから倒せる時に倒さないとこちらが危険なわけだが……。

 

「うん、だからまず意向を聞いてみたい。話せば分かってくれるかも知れないから。

 嘘は見破れるのだろう?」

「ほむ……」

 

 テュフォンを単に逃がすというわけにはいかないが、和解して仲間にするのであれば今までに何度もやっていることだから構わない。しかしティアマトの希望だけで決めるのはよろしくないので光己は一同の顔を見回してみたが、反対意見は出なかった。

 

「んー、ならいいか……」

 

 といっても人間サイズの者があの巨体に会話できる距離まで近づくのは危険だが、ティアマトの竜モードは清姫やメリュジーヌと同じで短時間しか保たないそうなので不可である。

 アルクェイドなら「原初の一」があるから1人で行ってもらう分には大丈夫だろうが、新入りのお姫様にこんなこと頼めないし、それ以前に種族と生い立ちと性格がかけ離れているから降伏勧告の使者というセンシティブな役目は向かなさそうだ。

 

「うーん、難しいな。

 あ、そうだ。俺が竜モードになればいけるか?」

 

 これなら万が一を恐れずに長話できる。真偽判定役の清姫は安全かつテュフォンの声が聞こえる位置でマシュに呼んでもらえばいい。

 どのみちバベッジを助けるために変身するのだから、今やっても手間は同じだし。

 

「テュフォンが女の子の姿に戻ってくれるならこんなこと考えなくて済むんだけど、それこそ降伏を承知させた後の話だからなあ。

 そういえばテュフォンの竜モードって時間制限ないんかな? だとしたらすごい強スキルだ」

 

 もっともこれから行くのは地下通路だから意味はないのだけれど。

 まあそれはそれとして光己がティアマトに自分がやるのがベターという旨を話してみると、ティアマトはまた悩んだ顔をした。

 

「むむ、それは確かに。

 しかしわたしの希望なのにマスターに手間をかけさせるのも……でも子が心配してくれるのは嬉しい。母はどうすれば!?」

 

 ティアマトが人類悪になったのは「人類に『おまえはいらない』と言われて追放された」からなので、心機一転して守ることにした人類に心配してもらえる、つまり必要とされるのは大変喜ばしいことなのだった。

 とはいえそれに甘えっ放しでは母として失格であろう。光己とはまだ知り合ったばかりなのだから頼もしい所を見せる時期だとも思うし、やはり自分の発言には責任を持つべきだろうか?

 ティアマトは10秒ほど考えた末、前の世界での仲間に意見を求めることにした。

 

「マーリン、どう思う?」

「え、私に聞くのかい? ……そうだねえ、まずはマスターに任せてみて、失敗しそうになったらフォローに入るというのはどうかな?」

「なるほど、やはりおまえは知恵者だな」

 

 それでティアマトはいったん納得したが、おかしな点が1つ残っているのに気がついた。

 

「……って、あれ? わたしがこの姿で行くのが危ないというのなら、マスターはもっと危ないのでは? それともまたロボットを出すの? それには賛成できない」

 

 いくらカルデア本部から魔力を供給してもらっているとはいえ、あんな大規模な宝具を連続使用するのは体に良くないだろう。ティアマトは母として子の健康が気になったのだが、それは情報不足による杞憂である。

 

「ああ、その辺はまだ説明してなかったですね。うーん、見てもらった方が早いかな」

「……?」

 

 光己はそう言うと何故か一同から離れて広い場所に走っていったので、ティアマトと、もう1人事情を詳しく知らないドラコーは不思議そうに首をかしげた。彼は何を考えているのだろうか?

 待つほどのこともなく、その答えはすぐ明らかになった。なんと光己は変身型宝具を持つサーヴァントのように姿を変え、ぐんぐん巨大化し始めたのだ!

 しかもその大きさたるや、ティアマトの竜モードやドラコーの竜ですら比較にならない超々巨大サイズである。

 

「え、何これ……!?」

「なんと、マスターは竜に変身することもできるというのか!?

 しかしあの異様な姿はいったい」

 

 おまけに竜は翼と心臓以外は骸骨というあまりにもおどろおどろしい姿で、さすがのティアマトとドラコーも思わず生唾を飲んだまましばらく硬直してしまった。

 そんな2人が落ち着いた頃を見計らって光己が声をかける。

 

「……とまあ、こういうわけでして。

 詳しい事情はまた後で……うまくいけばテュフォンとバベッジ氏が加わるわけですから」

「…………あー、うん」

 

 もっとも当のティアマトはまだあんまり落ち着いておらず、反射的にこくこく頷くのが精一杯だったが。

 

 

 

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