FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第247話 絢爛なりし蒸気の果て7

 水晶宮が出現すると勝手知ったるトネリコと小次郎たちが食事を取りに行ったが、その間にフランが光己の正面に現れて万歳のポーズで手を振ってきた。

 

「ア……ウ……ウ……ア!!」

「うん、どう致しまして。バベッジさんも他の皆も無事で良かった」

 

 光己はフランの言葉は理解できないが、彼女が今言いたいことくらいは分かる。こちらも軽く手を振って返答すると、フランは満足げにいったん離れて行った。

 というのも順番待ちをしている者がいるからだ。

 

「星の触覚と星の獣と黙示録の獣と創世神に続けて太祖竜まで仲間に引き入れる無節操なまでの度量と手腕、貴様は見かけによらぬ人……人外誑しよな。その上聖杯に毒されたサーヴァントを救ってこれも味方にしてしまうとは恐れ入った。

 まさに余のマスターに相応しい!」

「うんうん、マスターはとても立派で母も鼻が高い。

 でも次は母が活躍するところを見て欲しい」

 

 光己の一連の勧誘は実際偉業なのでドラコーもティアマトも彼を褒めてはいたが、その内容には性格とスタンスの差がかなり出ていた。言われた側は気にしていなかったが……。

 

「それは難しいかも知れぬな。何しろマスターやバベッジが言った通り次の行き先は地下通路、貴様の宝具が使える場所ではないからな!」

「うぐぐ……でもそれはおまえも同じ。少なくとも抜け駆けはできない」

「それはどうかな。余と貴様はビーストである点は同じだが、踏んだ場数は同じではないぞ?」

「2人ともケンカは程々にね。いや派手な攻撃は控えるようにというのは正しいけど」

 

 そんなことを気にしている暇はなかった、が正解かも知れないが。

 するとドラコーは改めて光己に向き直った。

 

「それで結局、貴様は何者なのだ?

 いや契約する前に聞いたことは覚えているが、あれではよく分からぬ」

 

 ドラコーは光己との「勝負」が長丁場になることも予測しているので、相手のことはちゃんと知っておきたいのだった。

 ティアマトとテュフォンは言わずもがなである。口には出さないが、説明を求める視線を光己に向けた。

 

「ほむ。じゃあおやつも来たことだし、食べながら聞いてもらえばいいかな。

 バベッジさんも良ければ」

 

 その時ちょうどトネリコたちがお菓子を持って戻って来たので、光己はそんな風に答えた。

 バベッジについては、「説明を聞く」のと「(見た目的には食事はできなさそうなので)もしお菓子が食べられるならどうぞ」という2つの意味を兼ねている。

 

「ふむ。では食事はできないが説明は聞かせてもらおうか」

 

 バベッジは自身がすでに人ならぬ鋼鉄の体と化していることもあって、志を同じくする善人であれば種族や出身等は気にしないが、説明など要らないと突っぱねるのは印象が良くない。素直にドラコーたちの方にやって来た。

 

「……ほう、あれがマスターの故国の菓子か。

 しかしマスターよ、貴様自身はその姿では食事はできないと思うがいいのか?」

「うん、俺はまたいつでも食べられるから」

「そうか、貴様がいいのであれば何も言うまい」

 

 そんなわけでドラコーたちはおやつを食べながら光己の話を聞くことになったが、エフェメロスはドラコーやティアマトと違って食事自体が初めてである。それが最上級の和菓子だという、文字通り甘美すぎる刺激にぱああっと顔を明るくしながら目をしばたたかせた。

 

「お、おおぉっ!? な、何だこの舌の上で溶けていく不可思議な感触は!?

 こ、これが甘いという味覚なのか。うおぅっ、頬までとろけるようだ……。

 え、この飲み物が甘い菓子に合うだって? ぅお、これは苦いというのか? だが菓子の甘味との対比を味わうものと見た……しかも口の中に残っていた砂糖のくどさが流されていく」

 

 などとなかば無意識に評論家のような感想を並べながら夢中で菓子をほおばるエフェメロス。ドラコーたちは機微を察して何も言わず見守っていたが、一段落ついたあたりで光己が声をかけた。

 

「フッフフ、どうだテュフォン。それが食べることの喜びというものだ。理解できたかな?」

「ああ、知らぬこととはいえ甘く、いや無味に見ていた。与えられた知識で知るのと実際に体験するのとでは大違いだな」

 

 エフェメロスは光己のなぜか妙に大仰な口ぶりを気にせず、素直に彼の主張に同意した。むやみに我を張るタイプではないようだ。

 

「クッククク、正直で結構……だが今回出したものは先ほど言った通り暇潰し用の軽食よ。

 億を数えるそのレパートリー、世界中のあらゆる料理はおろか、料理かわからぬモノまで網羅する我が至高の水晶宮&如意宝珠レシピ。その深奥はまだまだこんなものではないぞ」

「何……だと……」

 

 エフェメロスは驚愕した。億という数字の信憑性はともかく、こんな美味しくて手間かかってそうな料理が「軽い」間食だとはどこまで凝り性なのか。恐ろしさすら感じてしまう。

 

「……で、何が目当てだ?」

「知れたこと、スカウトよ。カルデアに来れば毎日極上の多種多様な食事が供されるというな。

 残念ながら単独顕現スキルがなければこの特異点から直接カルデア本部に行くことはできぬが、気が向いたら我が召喚に応じるが良い」

「……むむ」

 

 光己がレシピの豊富さを自慢してきた目的はエフェメロスの予想の範囲内だった。こちらが喜びそうな報酬を出せる=信頼性が増したので、本格的に味方にしたくなったのだろう。食べ物で釣るというのは子供騙しのような気がするが、文字通り美味しいお誘いなのも事実だ。

 それにサーヴァントたちがお菓子を食べながらなごやかに談笑している様子を見るに、むしろこれ以上ない対価だとさえ思える。

 まだ生きる意味を見つけていない身だから、その場所と機会をもらえるということでもあるし。

 そこに魔女のサーヴァントが近づいてきて、対価の上乗せを提示してきた。

 

「もう1ついいことがありますよ。当分先の話になりますが、カルデアがいずれ対決することになる『ギリシャ異聞帯』を支配しているのは貴女が言う機神たちなんです。

 つまり嫌いな奴を殴れる機会があるということですね。しかもサポート付きで」

「…………!?!?」

 

 エフェメロスはさらなる驚愕で数秒ほど硬直してしまった。

 なるほど確かに素晴らしい対価である。といっても今の状態では機神たちには勝てないだろうが、実はテュフォンは場所と時間さえあれば自力で覚醒できるので、「当分先」であるなら逆にきっちり起きてから対決できるわけだからむしろ望ましい話だ。

 

「いいだろう。我はその単独顕現というスキルは持っていないが、おまえたちの呼び声が届いたならば応じよう」

「ありがとうございます。カルデアに来たがっているサーヴァントは多いので競争率は高いですが、お待ちしていますよ」

 

 魔女はそう言って軽く一礼すると、次は光己の方に体を向けた。

 

「……で、これとは別の話ですがお喜び下さいマスター。テュフォンの首と肩を捕食したおかげで、例の宝具に『対神()究極決戦兵器』という機体が新しくロールアウトされました。

 テュフォンが何のために生み出されたのかを考えれば納得の種別ですね」

「おお、それは大変結構!

 いつもながら見事なワザマエよ。テュフォン説得の功も含めて、後で褒美を取らせよう」

「え……ええ、ありがたき幸せ、です……?」

 

 魔女は光己のこのノリは苦手なのか用事が済むとそそくさと立ち去ろうとしたが、エフェメロスには聞き捨てならない話題である。慌てて呼び止めて詳しい説明を求めた。

 

「待てトネリコ。今の話はどういうことだ?」

 

 すると魔女はまたこちらを向いて親切に教えてくれた。

 

「言葉通りですよ。あの巨人型ロボットは私とマスターのスキルを引き継いでいて、捕食した対象の能力をいくらか取り込むことができるんです」

「なるほど、ただの嫌がらせではなかったのだな」

 

 雷霆で痛い目に遭った仕返しとしてエフェメロスの生前の死に方で殺すとか、そういう悪意ではなかったようだ。果実少女はちょっと気分が緩むのを感じたが、今回は彼女の方が言葉足らずだったらしく魔女が訝しげな顔をした。

 

「……嫌がらせ?」

「ああ、そういえばまだ話していなかった、というか自己紹介もまだだったな」

 

 テュフォン・エフェメロスの事情を知らなければ、何が嫌がらせなのか分からないのは当然だ。この際だから自己紹介も済ませておくのが順当だろう。

 エフェメロスは皆に声をかけてこちらを向いてもらってから、テュフォンには意識がなく、身体を動かしているのは「無常の果実に自我が宿った存在」であることを説明した。

 

「まあテュフォンでもエフェメロスでも、好きな方で呼ぶがいい」

「なるほど、では今後はエフェメロスさんとお呼びしますね」

 

 これで今度こそ用が済んだトネリコが去って行くと、次はドラコーが話しかけて来た。

 

「エフェメロス、それにバベッジよ。真面目な話になったからこの機に説明しておきたいことがあるのだが、今良いか?」

「構わないが、そんなに重大な話なのか?」

「重大だぞ。何しろこの特異点には人理焼却の実行犯が現れるという話だからな」

「……何だと!?」

 

 エフェメロスはまた硬直してしまった。

 まだ光己の正体の件が残っているのに、どれだけ人(果実だが)を驚かせれば気が済むのかこの連中は!

 いや今回はこのマスターやサーヴァントたちのせいではないが。

 

「本当なのか?」

「絶対とまでは言えぬが、余が知る限りではほぼ確実だ。

 いきなり遭遇するより心の準備をしておく方がいいし、余の提案で対応方針も決まっているから早い内に教えておかねばならんのでな」

「対応方針?」

 

 かつてテュフォンがされたように、毒でも盛るつもりなのだろうか。

 ……という生前の体験に基づいた想像はまったくの的外れだったが、実行犯の目的を聞くとエフェメロスは思わず口元が笑みの形に緩んでしまった。

 

「む、何か可笑しな点でもあったか?」

「ああ、大アリだ。何せ我がこの特異点に現界した理由が分かったのだからな」

「ほう?」

「えー、何々!? 面白そうなお話?」

 

 するとアルクェイドやティアマトも興味を持ったのか近寄ってきたので、エフェメロスは(見当違いの考えだったらどうしようか!?)なんて後ろ向きなことを考えつつも、もう後には引けないので語ることにした。

 

「何、簡単な話だ。地球の抑止力も人類の抑止力も、ゲーティアに目的を達成されたら困るどころか滅びるのだろう? それを少しでも邪魔する権能を持つのが我ということだ。

 そういえば現界した時に与えられた知識によれば、地球の抑止力は『ガイア』と呼ばれているそうだな。ガイアといえば我の創造者、縁もあるというものだ」

「なるほどー! 最初にわたしを派遣して真偽を確認した上で、これは本当に危険だって分かったから貴女を送ったというわけね。

 抑止力も本気出してきたってことかしら」

 

 するとアルクェイドがぽんと手を打って賛同してくれたので、エフェメロスはメンツを守れて一安心した。

 

「しかしエフェメロスよ、ゲーティアはネガサモンを持っている。いかに貴様が女神に創造された存在とはいえ、サーヴァントの身では通用しないのではないか?」

「ならばサーヴァントでなくなればいい。ちょうどよく、それができそうな者がいることだしな。

 抑止力というのはなかなか知恵が回る存在のようだ」

 

 エフェメロスがそう言いながら光己の顔を見上げると、今懸念を表明したドラコーも大きく頷いて感心した様子を見せた。

 

「おお、確かに! 受肉すればサーヴァントではなくなるから、ネガサモンは無効になるな。

 地球と人類、いや全生物を守るためとあらば如意宝珠も否とは言うまい」

「そういうことだな。

 ……ゲーティアとやらめ。神々すら考えなかったその傲慢きわまる願い、我が全力で以て台なしにしてやるぞ。クッククク」

 

 エフェメロスは抑止力に選任されたからではなく、私情でやる気になっているようだ。まあやる事やってくれるなら、抑止力も動機なんて気にはしないだろう……。

 ただこの行為が心配になった者はいた。

 

「でも大丈夫か? それをやったら、ゲーティアは怒り狂っておまえに集中攻撃をしてくるかも知れないぞ」

 

 ティアマトはテュフォンの身体を動かしているのが「無常の果実」と聞いてなお、彼女(たち)を気に掛ける姿勢は変わらないようだが、当人はわりとさばさばしていた。

 

「確かに今の状態では人類悪には勝てないかも知れないが、特異点が修正されれば退去になるのだから大差はない。

 それに我が集中攻撃を受けるのなら、その隙におまえたちは安全にカルデア本部に帰れるではないか。

 我がやりたくてやる事だから、恩に着せる気はないが」

「…………むう」

 

 人理焼却の邪魔をするのに加えて光己たちが帰還する助けにもなると言われれば、ティアマトも強く反対はできない。小さく唸りつつも、この場は引き下がるしかなかった。

 これで反対意見はなくなったと見たエフェメロスが光己の方に向き直る。

 

「というわけだ。さっそく……いや今受肉したら胃袋の容量に制限ができるかも知れんな。食べ終わってからにしておこう」

「アッハ……いや待った。受肉したら特異点が修正されてもここに居残ることになったりしない?」

 

 光己は冬木でイスカンダルが聖杯に受肉を望むという話を聞いていたからエフェメロスたちの話を理解するのは容易だったが、その分気になることもあった。

 イスカンダルが受肉と特異点修正の関係をどこまで承知していたかは分からない、というかあの冬木が特異点だったことを知っていたかどうかさえ不明だが、とにかく受肉によって聖杯戦争終了後も現世に居残ろうとしたのは確かなのだから。

 ……そんな難しい考察をしたせいか中二モードは終わったようだが、エフェメロスはそれには触れなかった。

 

「それはない。純粋な人間のサーヴァントでも考えづらいのに、まして我のような高レベルの幻想種がこの時代の表世界に居残るのは不可能だ。

 裏世界に飛ばされるというのも考えられるが、単に無かったことになる可能性の方がずっと高いな」

「ほむ……」

 

 オケアノスで会ったフリージアは「特異点が修正されたら家に帰れる」と言っていたが、彼女は元々裏世界の住人だった。英霊の座から来たのなら退去先もそちらになるのが自然と思われるから、エフェメロスの考察に間違いはなさそうである。

 

「でも一応、有識者にも聞いておこうかな。

 トネリコに太公望さんにマーリンさん、どう思う?」

「……そうですね。無かったことになって英霊の座に還る、で合ってると思います。

 不安でしたら、如意宝珠に願う時にそうなるよう言葉を足しておけばいいかと」

「さすがはトネリコ殿、その方法なら確実ですね」

「それでいいんじゃないかな?」

「ほむ、じゃあそれでいくか……」

 

 頭脳派3人の意見が一致したので、光己はそれを採用することにした。

 エフェメロスも自分の見解通りになるだけのことなので異存はない。

 

「じゃ、次は俺の事情の話かな?」

「いやちょっと待ってもらいたい。

 自分から説明を求めておいてこんなことを言うのはさすがの余も心苦しいが、今の貴様と向かい合って長話するのはつらいものがある」

 

 というのも光己は現在鋭意胴体の再生中で、全身で肉や臓器がうねうね増殖しまくっているグロ映像状態なのだ。これを正視しながら会話するのは相当なスプラッタ耐性が必要で、さすがのドラコーも勘弁願ったというわけである。

 

「うーん、それは仕方ないか……」

 

 光己自身も自覚はあってなるべく自分の体を見ないようにしているくらいなので、むしろ「今の貴様はグロいから見たくない」とはっきり言わずオブラートに包んでくれたのを感謝する余裕があった。特に不快感を示すこともなく、ドラコーの希望を容れて再生が終わるまで待つことにしたのだった。

 

 

 

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