FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第25話 因縁の出会い

 カルデア一行が次の目的地であるティエールの街に近づくと、さっそくマルタの新スキルに反応があった。

 

「この感覚だと5騎というところですね。うーん……3騎は動きがなくて街のそば、2騎が遠くから街に近づきつつあるという感じでしょうか」

 

 ただしこの探知スキルはサーヴァントの存在を感じ取れるだけで、真名は実際に目視しないと、敵味方中立などはコンタクトを取らないと分からない。

 またサーヴァント以外の敵性生物についてはまったくの対象外なので、カルデアの生体反応調査とはうまく住み分けができていた。

 

「するとまた、竜の魔女軍とカウンター勢が戦ってるのかな?

 しかし冬木の時もそうだったけど、こうもうまいこと出くわすと、単なる偶然じゃなくてスタ〇ド、じゃなかったサーヴァント同士は引かれ合うとかそういうのがあるのかな」

「確かに単なる偶然というには出来すぎてるくらい、こういう遭遇は多いですね。

 あるいは、私たちは全人類の運命を背負ってますので、良くも悪くもいわゆる『偶然の一致』的なことが起こりやすいのかも知れません」

 

 光己の独り言に答えたのは、彼を抱っこしているオルトリンデである。

 どちらにしても早く駆けつけねばならない。無論3騎と2騎が敵か味方かはまだ判断できないが。

 やがてティエールの街並みが見えてくる。本格的な城壁の類はないが、急造の柵が立てられているようだ。ワイバーンには無効だが、ウェアウルフやスケルトンなどにはそれなりに役に立つだろう。

 さらに近づくと敵影がはっきりしてきた。上空にワイバーン、地上にスケルトンの混成軍のようだ。

 幸いワイバーンはスケルトンに歩調を合わせているので進軍は遅い。急げばワイバーンが街に侵入する前に接触できるかも知れない。

 

「よし、急ごう!」

 

 ペースを速めて竜の魔女軍の側面を突こうとするカルデア一行。しかしやはり察知されてサーヴァントが外に出て来る。

 今回は1騎だけで、青緑色の服を着て黒い弓を持った若い女性だ。

 

「……殺してやる……殺してやるぞ!

 誰も彼も、この矢の前で散るがいい!」

 

 もともと勇敢な狩人である彼女だが、今は眼の光が異様に兇悍になっている。相当念入りに狂化を仕込まれたようだ。

 会話を試みようともせず弓に矢をつがえた。

 

「あれはアタランテです! 宝具は『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』、大量の矢を上空から降り注がせるものです」

《前方のサーヴァントの魔力反応が活性化してるわ! いきなり宝具を使ってくるつもりよ》

 

 マルタの解説に続いて、カルデアから緊急で通信が入ってオルガマリーが早口で注意をうながしてくる。

 敵は人数差を考えたのか、初手で宝具をブッ放すつもりのようだ。

 

「マシュ!」

「はい!」

 

 このタイミングではアタランテが宝具を使うのを阻止はできない。受け止めるしかなかった。

 マシュが盾を構えて宝具開帳の準備に入る。

 

「二大神に奉る……『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!!」

 

 アタランテがまず上空に向けて矢を放つ。それが雲間に消えて見えなくなった直後、そこから無数の矢がカルデア一行めがけて豪雨のごとく降り注ぐ!

 それをキッと鋭いまなざしで見据えて、マシュが宝具を展開する。

 

「―――顕現せよ、『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』!!」

 

 キャメロット城の幻像がマシュたちを包むようにそそり立つ。アタランテの矢は数は多いが1本1本の速さと威力はそれなりのため、白亜の城壁に傷をつけることはできなかった。

 

「何、防御の宝具だと!?」

「よし、エリザ頼む! ただし牽制だから手加減してな」

 

 アタランテが驚いている間に、光己は反撃を指図した。

 エリザベートの歌は味方でも近くにいるとダメージを喰らうが、彼女だけキャメロットの城壁の外に出てもらえば大丈夫という計算によるものだ。

 無論当人はそんな計算には気づかず、意気揚々と飛び出した。

 アタランテは1人で出て来た彼女を怪しんで、すぐさま射倒そうとしたが、今度こそ出番があると予測して(独断で)準備をすませていたエリザベートの方が早い。

 

「オッケー。それじゃさっそくサーヴァント界最大のヒットナンバーを聞かせてあげるわ! みゅうみゅう無様に鳴きなさい、『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!!」

 

 するとエリザベートの背後に巨大なアンプのようなものが出現し、彼女の歌声をさらに増幅して敵陣に送り届ける!

 

 

「ボエエエエエ~~~~♪♪」

 

 

「うわーっ! こ、こんなひどい歌声が世の中に存在していたなんて!?」

 

 元から勇猛な上に狂化も付いたアタランテが両耳を押さえてもだえ苦しむ辺り、エリザベートの宝具は相当アレな代物のようだ。聴覚はないはずのスケルトンたちも苦しんでいる様子である。

 これでもエリザベート自身は、光己の依頼通り手加減しているつもりだから恐ろしい。

 

「よし、それじゃジークフリートを先頭にして、ヒルドとオルトリンデが斜め後ろについて突入頼む! できれば峰打ちで」

 

 エリザベートが歌い終えた時にはマシュの城壁も消えていたので、光己は頃はよしと王手をかけた。なるほど、前方からの攻撃には鉄壁の硬さを誇る戦士の脇を、盾を持った戦乙女が固めて乗り込んで来るとか、弓兵にとっては悪夢のような攻撃であろう。もちろん光己たちも後詰として前進しているので隙はない。

 それでもアタランテはワイバーンとスケルトンを盾にして1人ずつ射倒そうと試みたが、自慢の矢が遠間では避けられたのはさっきの歌でダメージを受けたから仕方ないとして、近間では当たったのにまるで効いてないとはこれいかに。

 

「おのれ……!」

 

 そして剣や槍の間合いに入る。アタランテは接近戦もできないわけではないが、消耗した身で専門家3人が相手ではどうにもならない。

 ―――いや、これでいい。文字通り一矢も報いずに倒れるのは情けなくはあるが、ここで逃げずに負ければ子供殺しを辞められるのだから。

 

「……そう、これでいいんだ。まったく、厄介でどうしようもなく損な役回りだった。

 ああ、私ももし次があるなら―――」

 

 囲まれた末に背後から一撃を喰らって、アタランテは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 その頃街の柵の前では両軍のサーヴァントたちが対峙していた。

 竜の魔女軍のサーヴァントは1騎で、20代くらいの黒い服を着た紳士的な雰囲気の人物である。街を背後にした側は3騎で、真ん中にいるのが14~15歳くらいのやたら華やかなオーラを持った美少女、その右側には黒と紫の派手な服を着た20代の男性、左側には赤銅色の鎧の上に白い衣をまとった落ち着いた感じがする剣士が控えている。

 彼らの名前は、竜の魔女軍のサーヴァントが18世紀フランスで死刑執行人をしていたシャルル=アンリ・サンソン、街側のサーヴァントは少女がかの有名なフランス王妃マリー・アントワネット、派手な男性が音楽家のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、そして鎧の男性が竜殺しの逸話も持つ聖人のゲオルギウスである。

 

「……あの矢の雨はアタランテの宝具か。

 どうやら横槍はサーヴァントのようだね。この状況なら引き返すのが普通の判断だと思うけど、目の前にマリーが現れた以上、たとえ100対1でも退けないかな。その後また会える可能性は低そうだからね」

「あらあら、ずいぶん情熱的に迫ってくるのね。

 それにしても何て奇遇なんでしょう。貴方の顔は忘れたことはないわ、けだるい職人さん?」

 

 どうやらサンソンとマリーは顔見知りのようだ。アマデウスがいまいましげにギリッと奥歯を噛む。

 

「野郎……!」

 

 3人の様子を見てゲオルギウスは彼らは恋愛的な三角関係の類なのかと想像したが、残念ながら(?)そんな生易しいものではなかった。

 

「それは嬉しいな。僕も忘れたことなどなかったからね。

 やはり僕と貴女は特別な縁で結ばれているんだ。

 だってそうだろう? 処刑人として1人の人間を2回も殺す運命なんて、この星では僕たちだけだと思うんだ」

 

「!?」

 

 ゲオルギウスは噴き出しそうになってしまった。

 どうやらサンソンはマリーの死刑を執行した人物のようだが、執着の仕方が斜め上すぎる。職務とはいえ年端もいかぬ少女を殺したことを悔いているとかなら分かるが、もう1度殺すことを心底楽しみにしているように見えるのは気のせいではないと思う。

 しかし当のマリーはなぜか笑顔で彼と話している。本当に何か特別な出来事でもあったのだろうか。

 

「生前のみならず、今回もマリアを“処刑”するつもり満々ときたか。シャルル=アンリ・サンソン。

 どうやら本気でいかれてたってワケかい?」

 

 見かねた、いや聞きかねたのかアマデウスが話に割り込むと、サンソンは露骨に不快そうな顔を見せた。

 

「……人間として最低品位の男に、僕と彼女の関係を語られるのは不愉快だな。

 アマデウス。君は生き物、人間を汚物だと断言した。僕は違う。人間は聖なるものだ。尊いものだ。

 だからこそ、処刑人はその命に敬意を払う。おまえと僕は相容れない」

 

 生前のサンソンは代々の死刑執行人だったのだが、人間とその生命を聖なるものとして敬意を払っている立派な人物のようだ。

 その割には知り合いの少女を殺すことに喜びを感じているようだが。

 

「……さて。僕はサーヴァントになったとはいえあくまで一介の処刑人。マリーとおまえはともかく、そちらの彼はちゃんとした戦士のようだからまともにやったらかなわなさそうだ。

 しばらく外しててもらおうか」

 

 サンソンが片手を振ると、今まで待機していたワイバーンとスケルトンが左右に分かれて街に侵入しようと動き出した。街の住人の命が惜しければ、ここから離れて彼らを倒しにいけ、つまりマリーを殺す邪魔をするなという意味だ。

 

「我が処刑の刃は清らかなるもの。本来は死を受け入れない者や無実の者に使うものではないが……いや、竜の魔女の持論によれば、この国の人間は皆罪人か。

 どちらにせよ、その首、一撃で斬り落としてやろう!」

「……野郎、好き放題ほざきやがって。とはいえどうするべきか……」

 

 アマデウスはちょっと迷った。真っ先にサンソンをブチのめしたいのが本音だが、その間に住人たちが殺されてしまうのは寝覚めが悪い。

 一方ゲオルギウスの行動は早かった。

 

「やむを得ません。私は怪物たちと戦います!」

「お願いしますわ、ゲオルギウスさま」

 

 マリーは目の前にいる処刑人に自分の首を狙っていると言われてなお、守ってくれそうな武人が自分のそばから離れることを平然と是認した。見た目にそぐわぬたいした胆力といえよう。

 

「アマデウス、貴方は反対側を!」

「本気か!? それだと君はあのイカレ野郎とタイマンすることになるんだぞ」

「大丈夫よ。だって今、私は愛する民を守るためにここに立っているんですもの!」

 

 マリーの提言にアマデウスは危惧を表明したが、王妃の意志は固かった。口論している時間はなく、アマデウスはやむを得ず、マリーの言う通りワイバーンとスケルトンの迎撃に向かう。

 しかしこれで、いまやマリーはサンソンと1対1となったが、相変わらず笑顔で余裕たっぷりに見えた。生前は実戦経験どころか訓練すらしたことはないと思われるが、現界の時に知識でももらったのであろうか。

 

「おお、自分を断頭台に送った民を守るためにみずから戦おうとはやはり貴女は尊い!

 ご安心を、今回はあの時以上に素晴らしき死出の旅路にしてみせます」

 

 サンソンが歓喜に震えながら剣を構える。発言内容がだいぶいかれた感じになってきたが、本人は意識していないようだ。

 マリーが片手を頭上にかざすと、彼女の傍らにガラスの馬が現れる。これが彼女の宝具で、王権の敵を攻撃すると同時に味方を癒す力を持っているのだ。

 マリーが横座りで馬の背中に飛び乗る。

 

「さあ、行きますわよサンソン!」

「おおおおぉぉ、マリィィィッ!」

 

 こうして王妃と死刑執行人の因縁の一騎打ちが始まった。

 




 これで現地鯖が出そろいましたが、果たして活躍の場はあるのだろうか(ぉ

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