FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第252話 偽聖杯大戦3

 モードレッドと天草とジャンヌとジャンヌオルタはヴラド&アストルフォと戦うにあたって、ざっくりとまずモードレッドがヴラドを抑えている間に、他の3人がかりでアストルフォを倒すという作戦を立てた。こういう時は弱い方から倒すのがセオリーなのだ。

 アストルフォは集団戦での攪乱に向いた騎士であり、一騎打ちの類はあまり強くないのである。

 その攪乱も、室内ではヒポグリフは使えないし、魔笛もここでは味方にも効いてしまう。「破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)」は今は特に用がなく、「触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)」はその名の通り当たらねば意味がないので、自分より武芸達者な敵には使いづらい。つまり現在は攪乱役としてもあまり役に立たない状態なのだが、何かの拍子に逆転の一手をかませるポテンシャルは持っているので、先に仕留めておこうという意図もある。

 うまくやって彼の宝具を奪えれば使い道はあるし。

 

(ピンクの宝具を使えば、キャスターがかけたというギアスと暗示を破れるかも知れませんね)

 

 何しろジャンヌはフランスの特異点で、アストルフォとブラダマンテが黒ジャンヌがかけた狂化を解除した現場に立ち会っているのだ。当然思い至る発想であった。

 マルタやデオンの例から考えるなら光己が「破却宣言」を奪って真名開帳すれば解除できそうだが、ギアスだけでなく暗示もかかっているとなると本人が協力するどころか抵抗してきそうなので、このたびは気絶させないと難しそうだ。

 なおモードレッドが先ほど「重傷を負わせずに気絶だけさせられるほどの実力差はない」という判断をしていたが、それは7対7ならのことであって、4対2であれば話は別なのだ。

 

(かなり面倒ですが、試みる価値はありますね。

 それで、「破却宣言」はどこに隠しているんでしょうか?)

 

 槍と笛は分かるのだが、本は見当たらない。技能型や召喚型ではなく物品型の宝具だから、服の中かマントの内側にでもしまってあるのだろう。あるいは笛と同じように、普段は小さくして持ち運びしやすく(=隠しやすく)してあるのかも知れない。

 こちらから「出せ」と言うのは意図が見え透いているからギアスで逆に隠す方向に行かれそうなので、彼の方から宝具を使って解除したくなるような魔術を使ってみせる方が良さそうである。

 もっともここにいる4人にそこまでの高等な「魔術」を使える者はいなかったが。

 

(うーん、結局気絶させるしかないみたいですね)

 

 やはりすべてを解決するのは単純な暴力のようである。ジャンヌは旗槍を構えて突進すると、兜割りめいてアストルフォの頭上から思い切り振り下ろした。

 

「うわあっ!?」

 

 そのパワーは槍をかざして受けたアストルフォの両手が痺れるどころか、槍を押し下げられて柄を額にぶつけてしまうほどだった。さらにジャンヌオルタが放った魔力弾と天草が投げた黒鍵が襲いかかる。

 

「わわわっ!?」

 

 この体勢では避けようがない。「破却宣言」による対魔力のおかげで魔力弾は効かなかったが、黒鍵は右脇腹と右太腿に突き刺さった。

 深手というほどではないが結構痛い。

 

「いたたっ……こ、これはピンチかも」

 

 このままでは黒鍵を連投されてゲームオーバーだが、ジャンヌは異様に腕力が強くて旗槍を押し返せない。槍を捨てて後ろに跳ぶしかないかと思われたその時、ヴラドが同僚の危機を救うべくジャンヌの横合いから突きかかった。

 

「おっと、させるかよ!」

 

 そのヴラドをモードレッドが追いかけて、後ろから袈裟懸けに斬りつける。ヴラドはそれを甘受して背中に裂傷を負うのと引き換えに、ジャンヌを退がらせることに成功した。

 

「そう来たか、だがオレのターンはまだ続いてるぜ!?」

 

 ただヴラドがモードレッドに背中をさらしている位置関係はそのままであり、当然モードレッドは二太刀目を浴びせようと執拗に追いすがる。しかしそこにハサンが投げた短刀が3本同時に飛んできたので、断念していったん停まった。

 

「チッ、あの仮面野郎マジ鬱陶しいな」

 

 しかも彼は「気配遮断」のレベルがかなり高いようで、攻撃を気配や殺気で感知するのが難しく、警戒リソースを常に多めに割く必要があるのが厄介だった。宝具も危険ぽいし早めに倒した方がいい相手なのだが、彼もその辺分かっているのか前衛に出て来ないので手が出せないのがまたウザい。アルトリアの後ろにいる呪力弾使いが牽制してくれているからまだマシだったが……。

 一方ヴラドはアストルフォをかばうべくその真ん前に立ち、天草とジャンヌオルタが放った黒鍵と魔力弾を喰らいつつも、あえて反撃せずぐっと踏ん張って力を溜めた。

 そんなことをする理由はサーヴァントならただ1つ、宝具の開帳である。

 

「血に塗れた我が人生をここに捧げようぞ。『血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)』!!」

 

 ヴラドの腹が裂け、鮮血と共に何本もの杭が飛び出す。彼の足元の床にも生えてきて、ジャンヌたちの方に広がり始めた。

 やや窮屈ながらも10人以上のサーヴァントが戦える広さがあるとはいえ、室内は室内だから逃げ場はない。しかしジャンヌはこの宝具をすでに見ており、その分反応は早かった。

 

「皆さん、私の後ろに! 『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!!」

 

 ジャンヌが旗を掲げながら宝具の真名を開帳すると、旗から白い光が広がって彼女たちを包む防護幕を形成する。押し寄せてきた杭の群れと激突して、その進攻を食い止めた。

 パルミラでモレーと戦った時は押され気味だったが、今回は危なげなく受け切れている模様だ。

 

「おお、我が宝具をこうもあっさり防ぐとは。

 しかもこの光の神々しいまでの眩さ、聖女の名は伊達ではないということか……」

 

 ヴラドとジャンヌは戦争で名をなしたキリスト教徒という点は同じでも世間での扱いは正反対という因縁的な組み合わせだが、ヴラドの言葉に妬みや羨望の色はなく純粋に感嘆していた。身体は忌むべき吸血鬼となり果てても、王あるいは武人としての高潔さは失っていないようである。

 ところで「我が神はここにありて」は防護幕の中から外を攻撃できる器用な宝具だ。モードレッドと天草はそれを知らないがジャンヌオルタは当然ながら知っており、安全に全力攻撃できるチャンスを見逃さずこちらも宝具を開帳した。

 

「今度はこっちの番よ! 『焼却天理・鏖殺竜(フェルカーモルト・フォイアドラッヘ)』!!」

 

 ジャンヌオルタが飛ばした三つ首の黒竜が杭の群れの上を迂回し、ヴラドとアストルフォをもスルーしてメディアの斜め上から喰らいつこうと宙を翔ける。この戦いの勝利条件はメディアを仕留めることなのをきっちり理解していたのだ。

 

「おっと、そうはさせないよ。『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』!!」

 

 メディアがいかに大魔術師といえども、思わぬ角度から宝具で不意打ちされては防げまい。アストルフォがそれを察していたかどうかは不明だが、ともかく少年騎士は黒炎の竜を追いかけて距離を詰めつつ魔術破りの本を開いた。

 すると本のページが何枚かちぎれて舞い上がり、光の板となって黒竜の突進を阻む。元が紙であるわりに耐熱性も耐衝撃性もやたら高く、黒竜が咬みついても体当たりしても焦げ目1つ付けることができない。

 

「何あれ硬い!?」

「いえお手柄ですよオルタ。さあ皆さん、今こそピンクの意識を害草のごとく刈り取る時です!」

 

 何故か相変わらずジャンヌはアストルフォへの悪意が強く、しかもこのたびは表現の仕方が実に農家チックだった……。

 その目的は明らかである。アストルフォが「破却宣言」を出したので、それを奪う計画を実行に移すということだ。

 モードレッドたちは当然にその言外の意図に気づいたが、敵側にもそれを察した者がいた。

 

「メディア、ランサーとライダーが受け持ってる方の連中はライダーが今使った本の宝具を奪うつもりみたいだぞ」

「え、何で……って、ああ、そういうことね」

 

 イアソンの意見にメディアは一瞬不得要領な顔をしたが、「破却宣言」の効用を思い出すと納得して頷いた。

 ちなみにメディアが「破却宣言」の真の効用を知っていたのは天草が看破したのをちゃんと聞いていたからで、声に出さずに任意の対象複数だけに念話を送る魔術があればそういうことは防げるのだが、メディアならともかく天草の技量では無理だった。

 

「確かに敵に奪われたらまずいわね。でもギアスじゃ自害はさせられないみたいだし、貴方と同じように宝具連発させて退去させればいいかしら」

「そこまでせんでも、本だけ取り上げればいいんじゃないか?

 おまえ、もう少し穏便に済ませるということを覚えた方がいいと思うぞ」

 

 メディアの単純かつ非情なアイデアに、イアソンは大いにドン引きしつつもごく常識的な苦言を呈した。

 生前のメディアは事情がどうあれ弟や他国の王を惨殺したり、他にも自分の都合で多くの人々を殺したり殺そうとしたりしたせいで「裏切りの魔女」という烙印を押されて世を去り、サーヴァントとしての宝具までそれにちなんだものになっている。それを考えれば、イアソンの意見は単に配下の意欲低下を恐れただけではなく、元妻への配慮も兼ねたものと思われる。

 心底彼女を恐れていても多少の愛情はあるのか、あるいは捨てたことにまだ負い目があるのだろう。

 

「う、うるさいわね。でもサーヴァント退去から次を呼び終わるまでには多少のタイムラグがあるし、退去させずに済むならそれに越したことはないかしら」

 

 痛い所を突かれてつい反発してしまったメディアだが、その痛い所を突いた人物の意見を採用できる程度には冷静だった。ただ自分で受け取りに行くとモードレッドたちに狙われるし、イアソンだけ行かせると護衛がいなくなる。かといってアストルフォをこちらに呼ぶと前衛が薄くなってモードレッドたちが攻め込んで来そうだから、手渡しは避けて投げて寄こさせる方が良さそうだ。

 

「ライダー、今使った本の宝具をこちらに投げて寄こしなさい!」

「へ? うーん、リーダーのご意向じゃ仕方ないか」

 

 アストルフォは理性が蒸発しているだけに「破却宣言」の危険性が分かっていないようだったが、指示に逆らう理由もないらしくすぐ本を放り投げてきた。

 その本が、空中でいったん停止したと思ったら肉食獣から逃げる脱兎のごとく反対方向に急加速して部屋の外に出て行ってしまうとは。

 

「…………!?

 メ、メディアおまえ心を持たない本にさえ逃げられるってどんなえげつない悪事働いたんだ!?」

「そんなわけないでしょ!

 確かに肉眼で見えない位置にある物品を、しかも準備なしで自在に動かすのは魔術だとすごく難しいけど、今のは多分超能力の類よ」

 

 イアソンは今度こそガチでドン引きしていたが、今回はメディアの意見の方が正解に近かった。

 つまり光己がマーリン製遠見の水晶で室内の光景を見ながら、「誰かの手に持たれていない宝物」に慣性制御を行使する能力で移動させたのである。ジャンヌの発言を聞いて、もしかしたらと思って機竜の翼改め冠竜の翼と波紋と水晶玉を出して待機していたのだ。

 あとは飛んできた宝物を光己が手に取れば、所有権も奪取してミッションコンプリートである。

 

「よっしゃー、魔術破りの本ゲットだぜ!」

「さすが先輩、今回も見事なお手並みでした!」

 

 作戦成功を見届けたマシュが心底感心した顔でマスターのワザマエを称賛した。

 彼の機転はたいていはマシュ自身でも時間を取って考えれば思いつけそうな内容だが、それを急場ですぐに考えつくのがすごい。

 

「それで、先輩がそれを持って部屋に入るんですか?」

「うーん。それが順当なんだけど、そうすると絶対集中攻撃されるからなあ。

 誰だってそーする。メディアもきっとそーする」

「そ、それは確かに……」

 

 敵の大将が味方を寝返らせるアイテムを持って近づいて来たなら、罠を疑ったとしても放置はするまい。光己が言う通り、全力で攻撃する可能性は高いと思われる。

 それなら彼の(ここ重要)盾兵としては彼が出向くのには反対せざるを得ないが、ではどうすればいいのか……?

 

「仕方ない、発案者のお姉ちゃんにお願いするか……いや魔術書だから魔術スキルがないと使えないか? いやアストルフォが使えるんだから大丈夫か……」

 

 魔術スキルゼロの上理性が蒸発していても真名開帳できるのだから、使用難易度は低いはずだ。ジャンヌでも使えるだろう。

 自分がやりたくないものを姉に押しつけるのは心苦しいが、マスターという立場上やむを得ない。

 そういえばアストルフォがデフォで「破却宣言」を持っているなら魔導書属性があるということだから、仲間にできれば巨大ロボの相方にもなってもらえそうである。理性が蒸発してるのがちょっと不安だが。

 まあそれはそれとして、ジャンヌに本を渡す前に他にアイデアがないか皆に確認しておくべきだろう。

 

「―――というわけで、他に何かいい考えあったりしない?」

「前衛やってる人に本持たせたらそっちがおろそかになるんじゃないかな。後衛の人に頼んだ方がいいと思うよ」

 

 するとメリュジーヌがそんな意見を出してきた。言われてみればその通りだ。

 

「つまりジャンヌオルタか……お姉ちゃんより読書家だし、そうするかな」

「遠坂って子の方がいいんじゃないかな? フリーに動ける立ち位置だから狙われても逃げやすいし、依代自身の魔術スキルも高いと見たよ」

 

 これはマーリンの意見である。そういうことなら凛の方が良さそうだが、光己は念話を使えないので今の話を彼女に伝える手段がない。

 

「いや、現代日本人なら日本語読めるから、本にメモでも貼って一緒に渡せば済むじゃないか。

 あー、そうだ。渡すのも慣性制御よりトネリコの分身使う方が確実だな」

 

 分身はそのままでは部屋に入れないかも知れないが、所有権を光己に移せば行けるはずだ。本を渡し終わったら、聖杯問答の時と同様自爆突撃……はメディアほどの達人なら真似してくるかも知れないからやめておく方が無難か。現にメディアは本を奪われて危機感を覚えたのか、骸骨の兵士を出してヴラドとアストルフォを援護し始めたし。

 

「なるほど、そういうことでしたらすぐに」

 

 トネリコとしても偽アイリスフィールなら1度つくったし、自爆もトランシーバーも要らないなら製作に時間はかからない。

 そして偽アイリができあがると、光己は所有権をもらい「破却宣言」と手書きのメモを手渡した。当然ながらそれがメディアたちに見えないよう、服の内側にしまい込ませる。

 ついでに骸骨兵対策として聖なる手榴弾も持たせた。

 

「おお、ちゃんと俺の思い通りに動くんだな。よし、それじゃ部屋にGO!」

「―――」

 

 偽アイリは喋れないので返事はしなかったが、光己の指示通りに歩き出す。部屋の扉も無事通過して、室内に乗り込んだのだった。

 

 

 

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