クー・フーリンは桜とメドゥーサの2人を相手にしつつ凛のガンド攻撃も受けていたが、その状態でなお背後からの光牙兵の接近を襲われる前に察知した。素早く後ろに下がって正面の2人の間合いから出ると、光牙兵に槍の石突を繰り出す。
光牙兵にとってはクー・フーリンが背中を向けたまま自分から近づいてきたのは予想外で、メディ兵にやったようなカウンターはできず盾で受けるしかなかった。しかも彼の腕力はすさまじく、突っ込んだ光牙兵の方が跳ね返されてよろめく。
またクー・フーリンの槍は光牙兵の盾に当たった反動で元の位置に戻ったので、桜たちがつけ込めるほどの隙はなかった。
「つ、強い!」
光己とマーリンとエフェメロスの驚きの声が唱和する。今までの観戦で分かってはいたが、やはりケルト神話の代表的な戦士だけに実力は並みではなかった。
しかし光牙兵は傷ついてはいないし、挟み撃ちのポジションも維持している。クー・フーリンの背後にいればメディアとハサンは飛び道具での援護はしづらいし、状況的には優勢だ。
「ところでマスター。アストルフォたちはもう宝具を手から離すことはしないだろうし、キミが獣モードでいると彼らと契約する時に魔物か何かだと思われてためらわれそうだから人間モードに戻った方がいいんじゃないかな」
そこにマーリンがこんな提案をしてきたが、ドラコーが異を唱える。
「いや、自分から放り投げることはなくても、何かの拍子に手から離れてしまうことはあり得よう。
見た目の問題なら、貴様が幻術で誤魔化せば済むのではないか?」
「なるほど、それはそうだね。それじゃさっそく」
マーリンが光己に幻術をかけて、普通の人間の姿に偽装させる。これで光己の種族が原因で契約を嫌がられることはなくなったので、気分一新戦闘再開だ。
「よし、今度は俺のカラテ技を披露しよう!
我が一撃必殺の……あれ!?」
光己のヒサツ・ワザの目潰しブレスと魔王掌はたとえクー・フーリン相手でも決まれば特大ダメージ必至の強力な技だが、前者は光牙兵には使えないし、後者は剣と盾を手放し素手になる必要がある。現状では難しかった。
「といって俺は剣術はやってないしな。今は見送りか」
「それは残念。そうそう、さっきは使われなかったけどクー・フーリンは尻尾があるから気をつけてね」
「ほむ」
なるほどあの太い尾を振り回されたら、形状的に体重が軽い光牙兵など簡単に吹っ飛ばされそうである。まあ背後を取っているだけでも牽制の役目は果たしているから、無理をする必要はないといえばないのだが……。
「いや待てよ。メディ兵が持ってた剣や槍を投げつけるという手があるな」
それなら尻尾の間合いの外から安全に攻撃できると光己は思ったが、倒したメディ兵たちはいつの間にか影も形も残さず消え去っていた。
どうやら機能停止すると消滅する仕様のようだ。
「むう、そこまでうまくはいかないか……。
しかし飛び道具なら他にもある」
先ほど回収したハサンの短刀を渡せばいいのだ。運搬役の偽アイリと光牙兵を同時に動かすのはまだ難しそうだが、マーリンとの精神的
―――何、3対1で戦っている者の真後ろから刃物を投げつけるのはさすがに卑怯? それでも正義の味方かだと? フ、悪いが俺は人理と地球の味方であって正義の味方ではないのでな!
「というわけでもう1回お願いしていい?」
「なるほど、確かにいい考えだね」
マーリンは何故かちょっとだけ生暖かい顔をしたが、その理由を語ることもなく光己の案に賛同した。
そして光牙兵の操作権を受け取ると、短刀をもらうまでは牽制に徹するということでクー・フーリンの尻尾が届かないぎりぎりの間合いを維持しつつ剣を向けて威嚇する。
「……チッ、嫌味なマネしやがるぜ」
「さ、さすがにどうかと思いますが助かりました……」
クー・フーリンが思い切り不愉快そうに舌打ちし、桜はちょっと引いた様子ながらもふうっと一息入れてほんの少し気を緩めた。実際とてもキツかったので。
メドゥーサもいったん手を休めたが、凛は逆にここぞとばかりにガンドを撃ちまくっている。クー・フーリンはその対処だけでも忙しいくらいだった。
彼への援護は来なかった。メディアとハサンは手を出しづらいし、エミヤとヘラクレスもうかつに動けば今戦っている敵に背中をさらすことになるので安易には動けない。ヘラクレスは命が12個あるとはいえ、「選定の剣」で1度に7個刈られた記憶があるので「あの時」より強いアルトリアに隙を見せる危険性を知っているのだ。
その膠着状態の間に偽アイリが短刀を持って到着すると、光牙兵は剣を左前腕の2本の骨の間に差し込み、盾も持ち手を剣の柄にはめて両手をフリーにした。右手で投げ、左手は残りの短刀を持つ形である。
「ちょ、おま、まさか……!?」
さすがのクー・フーリンもちょっとばかり青ざめた。この状況で避けられるわけがない。
「カルデアのマスター、こういう正統派英雄はもちろん反英雄でもあんまり考えないような小悪党ぽい策が得意なんですよね」
メドゥーサがいっそ暢気な口調でそう評した直後、クー・フーリンの腰に短刀が突き刺さる。頭や首や心臓といった急所をあえて狙わない、つまり彼の本能的な危機回避力を下げているのがまた小面憎かった。
「ぐっ! テ、テメェ!」
こうなってはクー・フーリンも黙っているわけにいかず、なかば反射的に槍を横薙ぎに振るって光牙兵を排除にかかる。しかしこれは当然読まれており、光牙兵はかがんで回避した。
さらにここで、クー・フーリンの注意が背後に向いたことで余裕ができた桜が槍の本来の用法を披露する。つまり先端から稲妻を放ったのだ。
「がッ!?」
稲妻は光と同じ速さなので、発射した時に照準が合っていれば回避はできない。しかも
もっともクー・フーリンほどの強者なら、宝具開帳ではない通常攻撃ならさしたる痛手にはならない。まして麻痺まではいかないが、想像外の攻撃だったこともあり一瞬わずかに力が抜けてしまう。
光牙兵がすかさず2本目の短刀をクー・フーリンの右脛めがけて投げつけ、避けられはしたがそれで彼の注意を下に向けておいて槍に組みついた。彼の動きを阻害するのはもちろん、あわよくばかの有名な
しかも単に組みつくのではなく、それは左腕だけにしておいて右手は3本目の短刀を握ってクー・フーリンが槍を持っている右手を刺しまくるという、絵面的には正義っぽさのカケラもないやり口だった。
「こ、この骨野郎が……!」
クー・フーリンにとってゲイ・ボルクは命の次に大事な得物だ。こんな見た目もやる事も薄汚い骸骨風情に奪われるなど、とても許せるものではない。光牙兵を殴ったり槍ごと振り回して床に叩きつけたりして引き剥がそうと試みるが、敵はしぶとくてなかなか離れようとしない。
「今よ桜! さっきの稲妻撃ちまくりなさい」
「え、ええと。いくら何でもえげつなさ過ぎとは思いますが、手加減できる状況ではありませんので……!」
そこに凛と桜がガンドと稲妻を連射する。こちらは光牙兵に当たっても問題ないので気楽なものだった。骨からできたゴーレムに呪いや電撃は無効なので。
クー・フーリンは光牙兵を盾にして防ごうとするが、当然抵抗されるのでうまくいかない。ダメージがどんどん重なっていく。
「ちょ、ちょっとさすがにアレはまずいんじゃない!?」
「ううむ、しかしどうしたもんか……」
自陣営の武力
しかしエミヤはともかくヘラクレスは何故動かないのか? せめてその理由が分かれば打つ手もあるかも知れないのだが、あいにく彼は言葉を話せなかった。
「じゃあ竜牙兵をヘラクレスの援護に送ってみるか? 無駄にはならんし、それで何か分かるかも知れん」
「そうね、やってみましょうか」
メディアがまた竜牙兵を10体ほど創り出して、ヘラクレスの左右からアルトリアと小次郎を襲う形で進ませる。
この10体がもし光牙兵と同じ作戦を採るなら、速さや技量は劣っていても十分2人の脅威になるだろう。今度はアルトリアが危機感で眉根を寄せる番だったが、戦場経験豊かな身だけに一瞬で部屋全体を見渡すと即座に対策を考えついて依頼した。
「ジャンヌ、ジャンヌオルタ! あの竜牙兵を止めて下さい」
アルトリアが見たところジャンヌたちはかなり優勢で余裕があるので、メディ兵10体を倒すくらいの時間なら2人抜けても大丈夫だろうという判断である。ジャンヌ2人も断る理由はなく、すぐ承知した。
「……! はい、分かりました!」
「もう少しで勝てそうなんだけど、仕方ないわね」
ジャンヌはアストルフォと戦っていたが、天草がフォローに入れば追撃を受ける恐れはない。オルタは元々後衛なので問題はなく、2人は急いでメディ兵のインターセプトに入った。
「なぎ払います!」
ジャンヌがその言葉の通り、旗槍を大きく振るってメディ兵を出来損ないの人形のように片っ端から吹っ飛ばしていく。オルタを呼ぶ必要はなかったかと思われるような無双ぶりったが、今の2人の位置ならメディアはフレンドリーファイアの恐れなく魔術攻撃ができた。
「そこならいけるわ。絶望なさい!」
マントを蝙蝠の翼めいて広げて、そこから大きな魔力弾を雨霰と撃ちまくるメディア。神代の魔女の名に恥じない威力と連射速度だったが、すかさず妹の盾となって立ちはだかったジャンヌの対魔力はアルトリアを上回るEXを誇っており、通常攻撃はまるで用をなさなかった。
「ちょ、何貴女!? 裁定役とか言ってたけど、ルーラーってみんなそんなに硬いの!?」
「他のルーラーのことを詳しくは知りませんが、私はそれなりに硬い方だと自負しています」
「貴女が『それなり』!?」
ルーラーは総じて高い対魔力を持つが、その中でもジャンヌはピカ一である……が、慎み深い聖女がそんな自慢たらしいことを言うはずがない。とはいえ謙遜しすぎるのも嫌味なのでこんな表現になったが、驚愕と畏怖でメディアの声が1オクターブ高くなったのも残当といえよう……。
そしてその間に、ジャンヌの後ろに隠れていたオルタが宝具を開帳する。
「じゃあ聖女の贋作らしく、いい所だけもらっていきましょうか。『
メディアやアストルフォではなく、現在4人がかりで攻められているクー・フーリンへのダメ押しだ。避けられるはずもなく、三つ首の炎竜がクー・フーリンの頭と両肩に喰らいつく。
「ぐううううっ……!」
灼熱の痛みに、勇猛無比なクー・フーリンもさすがに苦悶の呻きを漏らす。もはやこれまでと覚悟を決めたが、敵を1人も斃さぬままに退去するのはプライドが許さなかった。
「おおおっ……『
まずは宝具で海獣の外骨格をまとってから、おもむろに光牙兵をベアハッグで絞め上げる。槍から手を放すわけにはいかないので左腕1本だけだが、それでもテュフォンの牙製で神話級の硬さを誇るはずの光牙兵がメキメキと軋みを上げヒビが入り始めた。
「おおああっ……道連れだ!!」
とどめに身の守りを捨てて全魔力を籠めた死の抱擁で、光牙兵は砕け散った。
しかしその間もガンドと稲妻と竜火を浴び続けていたため、クー・フーリン自身も力尽きて霊基が崩壊を始める。
「それでも戦果は骸骨野郎1体だけか……だが槍は守り抜いたことだし良しとしとくか」
そして
「うーむ、さすがはクー・フーリン……あの状況で最後まで槍を守った上で光牙兵まで壊すとは」
その様子を水晶玉で観察していた光己は、魔槍を入手できなかったことを残念がりつつも敵の天晴れぶりに感心していた。
しかしクー・フーリンは倒せた。メディアが穴埋めに追加召喚するとしても、彼ほどの猛者を引き当てられる可能性は低いから有利になるはずだ。
そして光己の、というか大方の予想通り、メディアはクー・フーリンの退去が確実と思われた時点で追加召喚の準備に入っていた。そして退去の次の瞬間、大急ぎで呪文を唱える。
「―――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
その呼び声に応じて、部屋の隅に1騎のサーヴァントが現れた。
身長170センチくらいの若い女性である。濃灰色のコートと黒いスーツを着て、黒っぽい筒らしき物を背負っている。
服装や雰囲気からすると、光己や士郎たちと同じく20世紀末から21世紀初頭の人物のようだ。
ジャンヌがさっそく真名看破しようとしたが、それより早く凛が驚き、いや勧誘の声を上げる。
「バゼットじゃない! ギアスと暗示がかかってないならこっちに付きなさい。
今のキャスターは人類の敵だそうだし、もしこっちの敵になったら速攻で家宝ブン捕られるわよ」
「な、何ですと!? というか貴女は冬木のセカンドオーナーじゃないですか」
どうやら凛と
バゼットは「海神マナナン・マク・リール」の疑似サーヴァントなのだが、「第3再臨」以外は依代の人格が表に出るスタイルだ。そのおかげでギアスと暗示を受けずに済んでおり、凛の言葉を素直に受け取ることができていた。
といっても鵜呑みにするほどバカ正直でも彼女と親しくもなく、まずは自分の目で状況を観察してみる。10人以上のサーヴァントが乱戦しているのには驚いたが、「あの聖杯戦争」の
そして「裏切りの魔女」と「伝説の騎士王」が敵対しており、しかも騎士王側の方が人数が多く優勢らしいとなれば、そちらに付くのが順当というものだろう。バゼットは凛の言葉に乗ることにして、1番近くにいたジャンヌ2人に合流した。
「家宝ブン捕られるわよ」という台詞も無視できないし。
ちなみにバゼットのクラスはアルターエゴである。クー・フーリンの後釜ならバーサーカーが来るはずなのだが、今はヘラクレスがいて7クラスとも埋まっているからかエクストラクラスから選ばれたようだ。あるいはバゼットは「あの聖杯戦争」でクー・フーリンのマスターだったことがあるのでその縁かも知れない。
「事情はよく分かりませんが、そちらの味方に付くことにします。よろしく」
「ギアスと暗示を受けずに済んだのですね。こちらこそよろしく」
ジャンヌも当然にバゼットの合流を歓迎したが、召喚直後に寝返られたメディアの方はたまったものではない。7騎制限のカウントから外すため速攻でバゼットとの契約を解除すると、正直魔力と精神力がキツかったが超特急で再度追加召喚を行う。
「まったく、どうしてこうなるの……前略、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
さて、今度はどこの誰が現れるのであろうか……!?
ねんがんのバゼットさんをマイカルデアにお招きできたので、さっそくSSにも登場してもらいました。
それにしてもこの方、2臨が「それにしても臀部が(ry」で、3臨が「はいてないつけてない」とは素晴らしい服装センスですな。さすがケルト!(ぇ
そういえばどこぞの神父もアルターエゴかつ疑似鯖だったような……いえ何のことかは分かりませんが。