FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第255話 偽聖杯大戦6

 現れたサーヴァントは、黒い聖職者の平服(カソック)を着た壮年の男性だった。今回も光己たちと同じ現代人、しかも日本人のように見える。

 身長は190センチほどもあり、武術か何かの達人なのか相当鍛えられた体躯と鋭い眼光を持っていた。

 ジャンヌが真名看破しようとすると、このたびも凛が、今度は怒りのこもった声を張り上げる。

 

「綺礼ィィィ! サーヴァントになってまでしてまた私の前に顔を出すとはいい度胸ね!

 OK、今度こそ私の手でアンタが行くべきところに叩き落してあげるわ。永遠の地獄にね!!」

「おおっ!? いきなり罵倒されたかと思えば凛ではないか。しかも衛宮士郎に間桐桜にマクレミッツ、それにキャスターにアーチャーにバーサーカーにセイバーにライダーにアサシンまでいる、だと!?

 冬木の聖杯戦争の再現でもしているのかね」

 

 綺礼と呼ばれた男性は唐突な殺害宣言に戸惑った顔をしたが、やはり武術の達人のようで即座に周囲を見回して状況を推測していた。正解ではなかったが、まあこれだけ関係者が揃ったのだから無理もないといえよう。

 

「さあ? でもセイバーが『私はこの街の異変を解決し、ひいては全人類を守るために派遣されて来ています』って言ってたから多分違うんじゃないかしら。

 ところでアンタ、その口ぶりだとギアスは分からないけど暗示はかかってなさそうね。

 ……いえ、どっちにしても同じだけどね! かかってたら当然倒すし、かかってなくてもアンタみたいな外道仲間になんてできないもの」

「ちょっと待て、全人類!? ギアス!? 暗示!? いったい何の―――」

 

 60億人規模の話と自分1人だけの、それもかなり深刻そうな話を同時に持ち出されて綺礼はますます当惑したが、凛は答えるどころかその隙をついた先制攻撃を試みる。しかしバゼットが慌てた様子で割って入ったので、不承不承ながら手を止めた。

 

「待って下さい凛。あの穏やかで理解力と包容力に満ちた、理想的な神父ともいえる綺礼神父を地獄に落とすとか外道とか、何か勘違いしているのではないですか!?」

「バゼット!? いえ勘違いしてるのは貴女でしょ。自分を騙して腕ごとサーヴァント奪った奴をかばうなんてどういう神経してるの」

「え、ええ、そ、それは事実ですがそれは騙された自分が悪かったと言いますか」

「加害者の論理に被害者が丸め込まれてどうするのよ。もし素で言ってるなら尚更救いがないわよ。

 てかアイツ、『この世全ての悪(アンリマユ)』を顕現させようとしてたのよ。擁護の余地はないわ」

「アンリマユ……ですか。はっきり覚えてはいませんが、彼はそれほど悪党ではなかったと思うのですが」

「……貴女アンリマユに会ったことあるの!? だとしても騙されてるわよ絶対。

 そもそも『この世全ての悪』が悪以外の何だっていうのよ」

 

 ものすごい説得力だ。バゼットは一瞬ひるんだが、なお抗弁を試みた。

 

「いえ、それは本人を知らない部外者による勝手な命名でしょう。貴女の国でも『百聞は一見に如かず』というではないですか」

「聖杯が真っ黒の泥に汚染させられてたのはヤツが中にいたせいだってのは、私も士郎も己の目で見てるんだけどね。

 あの泥がどれだけ危険かは貴女も知っているでしょう」

「ええっ!?」

 

 それは初耳だ。いや凛だけなら嘘をついている可能性もあるが、この場にいる士郎の名前を出した以上それはない。

 するとアンリマユを顕現させようとした綺礼も悪ということになる。バゼットは己がさらに劣勢になったのを感じた。

 一方光己たちも凛の話に驚愕していた。

 

「うーん。あの綺礼っていう人やアンリマユが具体的にどんなヤツかは分からないけど、バゼットさんは人を見る目がかなり曇ってるんじゃないかなあ。まだ会ってすらないけどさすがにちょっと心配になる」

「もしくはダメンズどころか悪人好きか、単なるマゾヒストという線も考えられるがな」

 

 ドラコーのバゼット評は壊滅的であった……。

 

「それにしてもアンリマユとはな。もし遠坂の話が本当なら、綺礼とやらにギアスがかかっていようがいまいが天草とジャンヌは奴を討たざるを得まい」

「あー、同じカトリックの聖職者と聖女だからなあ」

 

 神父の職にある者が異教の大悪魔を顕現させようと試みるとか、不祥事なんてレベルではない。

 それでも綺礼だけの話なら大きな組織にたまたま1人の不心得者がいただけというどこにでもあるケースだが、同じ組織の役職持ち複数がそれを見過ごしたとあっては組織自体の鼎の軽重が問われてしまう。ドラコーに「余が貴様らを弾圧したのは正しい判断だったな!」なんて煽られても抗弁のしようがない。

 まして天草にとって「この世全ての悪」を助けようとする者は最大の敵であるはずだし。

 

「しかしアンリマユといえばサタンと同格の大物だ。思い通りに動かせるはずもなし、綺礼は何がしたかったのだろうな」

「破滅願望でもあったのかなあ。ところで天草たちには言ったけど、サタン……ルシフェルは全面的に悪で人類の敵ってわけじゃないから」

 

 光己は「同格」という言葉に「同類」の意味が含まれると思ったのか、ルチフェロなりしサタンを擁護するようなことを言い出した。

 当然にドラコーが首をかしげて問いただす。

 

「……? ルシフェルは人類の宿敵なのではないのか?」

「いや。グノーシス主義では善なる存在だし、()()()()()()()()()人類を敵視してはいない感じだしね」

「グノーシス……? ああ、人類に知恵をもたらしたことか」

 

 ドラコーは相変わらず博識かつ頭の回転が速かった。

 

「確かに今の人類が存在するのはルシフェルのおかげとも言えるが……しかしあらゆる不幸の作り主とも言えるのではないか? あれが理由で神の楽園(エデン)から追放され、死や労働や相争う運命を背負ったのだからな」

「うん、でもその理屈なら無垢なままじゃ得られなかった喜びや楽しみや進歩や発展の作り主でもあるわけだから、敵でも味方でもあるということで」

「んん? うーむ、理屈としてはその通りだが……」

 

 どうやらドラコーはベストパートナーが善的存在でもあるという説をすぐには受け入れられないようだったが、そこに何故かトネリコが話に加わってきた。

 

「あの時話していたバナナ型神話のことですね。

 そういえば秦の異聞帯では、人間は知恵を失った上に不死でもなかったそうですが」

「ほえ?」

 

 今の話とは関連があるがここの現場とはまるで無関係、しかもかなりトンデモな話題を突然持ち出されて光己とドラコーはびっくりしてしまった。

 しかし知恵を失ったとはいったい!?

 

「いえ、正確には奪われた、ですかね。

 又聞きの話なのであまり細かいことは言えませんが、何でも世界を統一した始皇帝は、民には秦建国の頃……いえもっと昔の原始的な農耕生活を強いていたと聞きました。

 戦争も飢えもなかった代わりに、文明の発展を完全に停止させていたそうです。文字すら存在せず、食事は始皇帝が開発したと思われる万能麦の他は、たまに彼から下賜される薬物だけであったとか」

「なんと……!?」

 

 情報密度が激烈に高かったので光己は理解するのにちょっと時間がかかったが、これはずいぶんと(いびつ)ではあるまいか。本当に戦争や飢えを根絶したのなら大したものだが、その代償が大き過ぎる。アルトリアズが聞いたらブチ切れそうだ。

 異聞帯全体としての学問(ノウレッジ)技術(テクノロジー)のレベルは相当高そうだが、それを始皇帝とその周辺が完全に独占しているのだろうか?

 

「つまり愚民政策ということか。始皇帝とやらが焚書坑儒とかいう思想統制をやっていたことは余も知っているが、それを徹底的に推し進めたのだな。

 しかしそこまでやったら民というよりペット同然だな」

 

 相変わらずドラコーは口に遠慮がなかったが、その単純化したワードを聞いた光己はピシリと顔を引きつらせた。

 

「ああ、そうなるのか。二重の意味で人をバカにしてるよなあ。

 個人的にも不愉快だが、俺のこの赤い竜の翼と内なるスパさんも『叛逆せよ』と言っている」

「……。赤い竜(ルシフェル)は神の意に背いてまでして人間に知恵を与えた者だから怒るのは分かるが、内なるスパさんとは誰のことだ?」

 

 ドラコーのその疑問にはマシュが答えた。

 

「ええと、おそらくローマの剣闘士で反乱を起こしたスパルタクスさんのことではないかと……。

 ローマの特異点に現界してましたから、ドラコーさんもご存知なのでは?」

「ああ、あの男か。確かにインパクトはあったな。

 あの男なら、組んだにせよ戦ったにせよマスターの印象に強く残ったことだろう。あんまり影響受けてほしくない奴だが」

 

 黙示録の獣とかバビロンの大淫婦とか呼ばれる大物であっても、スパルタクスは警戒の対象のようだった……。

 

「……よし、決めたぞ。戦争と飢えをなくしたのは偉大だと思うが、それはそれとして空想樹切除の前に始皇帝のツラに反逆のドラゴンブリットを叩き込むとな!」

「あー、いえその……秦異聞帯の担当クリプターは芥ヒナコでしたので、この世界では出現しないと思われます……。

 ちょっと興味がわいたものですから。現実的な意味がない話題を出してしまって済みません」

 

 光己が拳を握り締めて叛逆の気焔を上げるのを見て、トネリコはそう言って謝りつつも内心では(愚民政策はしてなくて良かった)と、ほーーーっと深く安堵の息をついていた。

 彼の反応がギルガメッシュやイスカンダルの時より攻撃的なのは、始皇帝が思惑はどうであれ民の知性や創造性を直接スポイルしていたからだろう。彼が嫌いそうな話だ。

 モルガンの場合は、自然状態では文明や文化を創らない妖精たちに創るよう仕向けていたので、逆方向の圧制だと言われればその通りだが、内なるスパさんはともかく光己とルシフェルはそこまで怒らないだろう……。

 

「え、そうだったんだ。

 いや謝るほどのことじゃないよ。ちょっと残念ではあるけど、見てみたいとも思わないしね」

「うむ、別に気にすることはない。

 ただ余としてはそちらの話よりマスターの『俺が受けた感覚では』という台詞が気になるが、今はそろそろ目の前の現実に戻ろうではないか」

「んー、そうだな」

 

 バゼットと綺礼の動向や能力によってはまた援護する必要があるので、ドラコーの意見は妥当である。しかし幸い、凛とバゼットの論戦は今なお凛優勢だった。

 

「じゃあ決定的なネタを教えてあげるわ。綺礼は教会の地下室に、無関係の子供を何人も閉じ込めていたのよ。ギルガメッシュへの生贄、魔力源としてね。

 魔術師ならともかく、聖職者がやっていいことじゃないわよね」

「なあっ!?」

 

 バゼットは激しく衝撃を受けてよろめいた。生贄、人身御供という風習は古来より世界各地にあったが、現代の聖職者がやったとしたら狂気の沙汰だ。

 

「い、今の話は本当なのですか綺礼神父」

「……ふむ。ここにいるのが凛だけなら嘘だと言い張ることもできるが、衛宮士郎やセイバーやアーチャーまでいるのでは無駄骨だな。

 凛が言っているのは事実だよ。『この世全ての悪』の件も、今の子供たちの件もね」

「何ですって……!?」

 

 バゼットはまたも衝撃を受けたが、本人が認めてしまったのでは是非もない。このたびは己の見る目が間違っていたことを素直に認めた。

 「穏やかで理解力と包容力に満ちた」と思っていた彼の姿は、上っ面の仮面に過ぎなかったのだ。

 だがそうとなれば、腕とサーヴァントを奪われたお返しをせねばなるまい。正義の味方を気取るつもりはないが、この悪徳神父は右ストレートでぶっ飛ばす!

 そう決めたバゼットがボクシング風の構えを取ると、後ろから何やら切羽詰まったような声が聞こえた。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを。その男と戦うのなら私も! 私も戦いたいので誰か代わって下さい」

 

 天草である。ドラコーが推測した通りの理由で、綺礼は己の手で倒さねばならぬと考えたのだ。

 なお天草は綺礼の義兄に当たるのだが、お互いその認識はないように見える。

 ちなみにアタランテも「子供を閉じ込めて生贄にしていた」と聞いた直後に飛び出しかけたが、こちらはフランとナーサリーが取り押さえていた。

 

「……あー」

 

 凛とバゼットは天草が綺礼と同様にカソックを着ていることで彼の動機を察したが、初対面の者に譲ってやる義理はない。誰か他の者はいないだろうか?

 するとクー・フーリンが退去して手が空いた桜とメドゥーサが立候補した。

 

「あ、それなら私が……」

「では私も」

 

 2人とも綺礼には執着していないので、強く望む者がいるなら譲ってもいいのだった。

 さっそく聖杯大戦組のエリアに赴いて選手交代する。

 

「ありがとうございます。ではまた後で」

 

 天草はお礼に続けてさりげなく互いの無事を祈る言葉を述べると、すぐさま凛のそばに走った。

 その直後にジャンヌも来たので、疑問に思っていたことを訊ねてみる。

 

「ところで今までどこにいたのですか? まったく見かけなかったのですが」

「ええ、マスターの好意で先ほどまで短刀の中に戻っていたのです」

「短刀の中?」

「いわゆる憑依ですね。サーヴァントも幽霊ですから、それ用に造られた物になら宿れるということです。いえ私は正確にはサーヴァントではありませんが」

「……!? よく分かりませんが、詳しいことはまた後で教えて下さい」

 

 何しろこれから巨悪を討つ戦いが始まるのだから。ジャンヌも表情を引き締めた。

 なおオルタは「5対1は過剰でしょ」と言って元の場所に戻っているが、この判断は別の理由で正解だったかも知れない。桜&メドゥーサと対峙しているアストルフォに、唐突に強化イベントが発生したので。

 

「わ、今度は2対1かあ。でもまだ負けないよ。だってボクはキミたちの竜牙兵のおかげで、新しい戦闘スタイルが閃いたんだからね!」

 

 言うなりアストルフォの雰囲気が変わり、ただでさえ理性が無いのがさらに亢進して全く何も考えていないかのような印象になった。今までの戦闘で何ヶ所か傷を負っていたが、それに耐えられなくなったのかフラリとよろめく―――ように見えた直後、鋭い突きがメドゥーサを襲う。

 

「!?」

 

 その刺突には殺気とか予備動作とかそういったものがまるでなかったため、メドゥーサは一瞬反応が遅れた。釘剣で何とか打ち払いはしたが、肩を少し切り裂かれてしまう。

 

()ぅっ……!?」

「ライダー!?」

 

 何だか妙な展開に泡喰った桜が慌ててアストルフォの横から槍を繰り出す。しかしこれも、風に舞う木の葉めいた流れるような動きで躱されると同時に横薙ぎの一閃が飛んできた。

 

「きゃっ!?」

 

 反射的に上体を後ろにそらせたおかげで、ブレザーの胸元を裂かれたものの傷は負わずに済んだ。しかしアストルフォは動きを止めず、勢いのまま槍を回して石突でメドゥーサの腹部を狙う。

 

「!!」

 

 先ほど以上に予兆が感じられない攻撃にメドゥーサは反応できず、腹を打たれてたたらを踏んだ。当然追撃を受ける場面だが、今度も桜が割り込んでくれたので何とか体勢を立て直す。

 

「な、何だか強い……!?」

 

 彼がジャンヌや天草と戦っているのをチラチラ見ていたが、その時はこんなに厄介じゃなかった。これが「新しい戦闘スタイル」なのか……?

 

「も、もしかして無我の境地とか無想剣とかそういうアレなんでしょうか……!?」

 

 弓道を嗜んでいて日本の武道に詳しい桜が、1つの可能性に気づいて驚愕の声を上げる。

 さっきのアストルフォの台詞と今の彼の雰囲気を合わせると、そんな答えになりそうに思えたのだ。理性が無いという特質をこんな方向に活かしてくるとは……。

 もしこの想像が当たっていたならとんでもない強敵だ。アストルフォは12勇士の中では弱い方、つまり素のスピードやパワーやテクニックは低めだから今の攻撃を凌げたが、これがクー・フーリンだったらとっくにこの世とおさらばしていたことだろう……。

 

「で、でもこっちは2人、いえ贋作さんも来てくれたから何とか……!」

「そうですね、それでもかなわなければカルデアのマスターがまた竜牙兵を寄越してくれるでしょうし」

 

「…………過度に頼られるのは困るんだけど……」

「しかしまさか戦いの中で武道の極意の1つに開眼するとはね。こうなると桜とメドゥーサが対抗するには彼と同じように無我の、菩薩の領域に達するか……さもなくば修羅、つまりドゥルガーかカーリーになるしかないかも知れないよ」

「菩薩はいいけど、ドゥルガーやカーリーはまずいんじゃないかなあ」

 

 光己が困り顔しているのと、マーリンはやっぱり楽しそうにしているのがとても対照的であった。

 

 

 




 バゼットの綺礼に対する認識ですが、原作だとバゼットのマイルームでは好意的なのに綺礼のマイルームでは敵対的ですので、ここではこんな流れにしてみました。
 原作ではバゼット実装から綺礼実装までに11ヶ月経ってますので、その間に認識が変わったということなのでしょうか。


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